ニューイヤー珠玉のデュオ・コンサート:坂本朱&河野克典 三井ホームスーパー・クラシックコンサート 02/1/6金沢市アートホール 1)中田章/早春賦 2)山田耕筰/かぞえうた 3)團伊玖磨/花の街 4)瀧廉太郎/荒城の月 5)シューベルト/ます 6)シューベルト/愛のことづて 7)シューベルト/菩提樹 8)シューベルト/魔王 9)ロッシーニ/二匹の猫の二重唱 10)ロッシーニ/歌劇「セヴィリアの理髪師」〜今の歌声は 11)サティ/君がほしい 12)ショパン/恋人よ,戻ってきて(原曲:別れの曲(イタリア語)) 13)フランソワ/マイ・ウェイ(日本語) 14)ビゼー/歌劇「カルメン」〜ハバネラ 15)ロッシーニ/歌劇「セヴィリアの理髪師」〜俺は町の何でも屋 (アンコール) 16)ビゼー/歌劇「カルメン」〜セギディーリア 17)モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」〜セレナード 18)レハール/喜歌劇「メリーウィドウ」〜ワルツ ●演奏 坂本朱(Ms*1,9-14,16,18),河野克典(Br*1-9,15,17-18),服部容子(Pf*1-3,5-18)
今年最初に出かけた演奏会は,三井ホームのお得意様ご招待の演奏会でした。この演奏会のチケットは,職場の知人からもらったのだったのですが,タダというのがもったいないほど,実力のある2人の歌手の声を堪能することができました。坂本さんも河野さんもまだ一般的な知名度はそれほど高くはないのですが,これだけの実力のある歌手というのは,それほど多くないのではないか,と思いました。まさしくプロ,今が旬という感じの声でしたので,これからどんどん活躍の場を広げて行くことと思います(坂本さんの方は,3月に上演される錦織健プロデュースの「コシ・ファン・トゥッテ」のドラベッラ役で再度金沢に来られるはずです。)。 プログラムは多彩で,日本の歌曲,ドイツ歌曲,イタリア・オペラのアリア,フランス・オペラのアリア,と歌による世界一周という構成になっていました。小さなホールだったこともあり,ビリビリと響いてくるような豊かな声量と瑞々しい美声を最初から最後まで浴び続けているような感じでした。この日の聴衆は,大部分がクラシックのコンサートにあまりなじみのないような感じでしたが(拍手の量が少なかったです),きっとプロの歌の素晴らしさを体で実感できたのではないかと思います。 いちばん最初にお2人で「早春賦」を歌った後,かなり長いトークを交えて演奏会は進められました。まず,メゾ・ソプラノの坂本さんの歌で,日本歌曲が2曲歌われました。流れるように滑らかな歌いっぷりが見事でしたが,素朴な歌にしては,少々色っぽ過ぎる(?)かなと贅沢なことを思ったりしました。坂本さんは,やはりイタリア・オペラの方があっているような気がしました。 続いて,バリトンの河野さんのステージになりました。まず,ア・カペラで「荒城の月」が歌われました。河野さんの声は,非常に張りのある声で,高音はテノールに近い輝きがあります。「荒城の月」のような曲では,純粋に西洋的な曲とは違い,拍節感をなくした方が相応しいのではないかと考え,伴奏無しで歌ってみた,とおっしゃられていましたが,とても研究熱心で知的な歌手のような印象を受けました。続くシューベルトでは,それぞれの曲の歌い分けが見事でした。どの曲も明晰で,ドラマティックだけれども抑制が効いていました。実は,シューベルトの歌曲を生で聞いたのは,初めてのようなものだったのですが(ヘルマン・プライさんによる「冬の旅」を聞いたことはありますが,これはオーケストラによる伴奏でした。),こういった小ホールで歌曲を聴くのは良いものだなあ,とつくづく思いました。「魔王」のピアノ伴奏の面白さや,声色の使い分けなども,生だと本当に楽しめます。「魔王」のピアノ伴奏は,音量がちょっと大き過ぎたような気はしましたが,トークで出てきたように,3連符の連続する部分は,まさにピアニスト泣かせという感じで,大変そうでした。 後半は,前半よりかなりくだけた感じのステージとなりました。まず,ロッシーニの「猫の二重唱」という変わった曲が歌われました。お二人が猫になったような感じで「ミャーオ」「ミャーオ」と掛け合いをし,喧嘩をしたり,仲直りしたりするような芝居気たっぷりの曲でした。ステージ上を動き回ったり,ちょっとした小道具を使ったりとサービス精神いっぱいの演奏でした。 その後は坂本さんのステージになりました。ロッシーニの「今の歌声は」は,昨年9月にバーデン歌劇場の「セヴィリアの理髪師」の全曲を見たのですが,この日の坂本さんの方が断然素晴らしいと思いました。曲の流れが良くて,とても気持ちの良い演奏でした。ソプラノにはない豊かな低音から余裕のある高音まで,声質にムラがなく,とても魅力的でした。坂本さんのキャラクターがとても明るいのも曲にピッタリでした。サティ,ショパンの曲もとても立派で聞き応えのある演奏でした。「マイ・ウェイ」は,日本語で歌われたのですが,言葉がとてもよく聞こえ,心に迫るものがありました。ビゼーの「ハバネラ」も,坂本さんの得意としている役らしく,瑞々しさと貫禄が同居したような見事な歌でした。 演奏会の最後は,河野さんの歌によるロッシーニの「俺は町の何でも屋」でした。「フィーガロ,フィガロ...」の部分ではとても高い声を使ったりして,シューベルトの時とは違った自由闊達な演奏でした。河野さんの雰囲気には,どちらかというとシューベルトの歌曲の方が合っているような気はしたのですが,やはり,こういう楽しい曲を聞くと元気が出るし,会場も盛り上がります。 アンコールは,オペラのアリアが3曲歌われました。最後のメリーウィドウ・ワルツは,本来はソプラノが歌う曲ですが,坂本さんの最高音も,ちょっと苦しそうでしたが,見事でした。 お二人のトークは,少し長過ぎたような気はしたのですが,いろいろと楽しい話題を取り混ぜての進行は,日頃,コンサートに出かけることがないような人にとっては,大変親しみやすかったのではないかと思います。河野さんの方は,是非,ドイツ歌曲の夕べのような演奏会を金沢でも開いて欲しいと思いました。坂本さんの方は,3月の「コシ・ファン・トゥッテ」での活躍が益々楽しみになりました。(2002/1/7) |