オーケストラ・アンサンブル金沢第112回定期公演M
02/1/15 石川県立音楽堂コンサートホール

1)モーツァルト/協奏交響曲変ホ長調,K.364
2)シュトラウス.J./喜歌劇「こうもり」序曲
3)シュトラウス.J./ワルツ「ウィーン気質」op.354
4)シュトラウス.J./アンネン・ポルカ,op.117
5)シュトラウス.J/新ピツィカート・ポルカ,op.449
6)シュトラウス.J/ワルツ「ウィーンの森の物語」op.325
7)シュトラウス.J/ポルカ「狩にて」,op.373
8)シュトラウス.J/皇帝円舞曲
(アンコール)
9)シュトラウス.J/ワルツ「美しく青きドナウ」
10)シュトラウス.J.I/ラデツキー行進曲
●演奏
マイケル・ダウス(Vn)/Oens金沢,ロジャー・ベネディクト(Vla*1)
トロイ・グーキンズ(トーク)

Review by管理人hs
新ホール完成後初のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤー・コンサートは,補助席が出るほどの満席となりました。それだけ,楽しい雰囲気を期待しているお客さんが多い,ということです。数年前から,このニューイヤー・コンサートは,マイケル・ダウスさんの弾き振りによる協奏曲+シュトラウス・ファミリーの音楽というプログラムなのですが,今回はその総決算のような演奏会となりました。この日のプログラムの後半は,ライブ録音され,春頃CDが発売されるとのことでした。そのせいもあるのか,いつも以上に聞き応えのある演奏が続きました。ビラを見た時,これだけ名曲が並ぶのも珍しいな,と思ったのですが,やはりこれはCD化を意識しての選曲だったようです。

前半は,イギリスのヴィオラ奏者(OEKの客演ヴィオラ奏者でもあります),ロジャー・ベネディクトさんとダウスさんのソロによるモーツァルトの協奏交響曲でした。この曲は,昨年11月にピヒラーさんの指揮で聴いたばかりだったのですが,その時よりも自然な雰囲気がありました。指揮者がいなかったせいか,音がズレそうなところがあったような気がしましたが,2人の独奏者は,ともにイギリス人で,ともにオーケストラ・プレイヤーであるせいか,音のバランスがとても良かったと思います。そういう点では,室内楽的演奏といえるのですが,OEKの演奏自体は非常に堂々としていました。OEKについては,「室内オーケストラなのに充実した響きがする」ということがよく言われますが,その本領が発揮されていました。特に第1楽章の冒頭の雰囲気が立派でした。第3楽章の最初の方の「抑えているのに,どうしてもウキウキとしてしまう」といった感じも楽しめました。ホルンにちょっとしたミスがあったりして,パーフェクトな演奏ではなかったと思うのですが,指揮者に抑えつけられることなく,自発的に演奏しているような雰囲気があったのが気持ち良く感じられました。ソリストについては,前回のアルバン・ベルク四重奏団のお二人よりも今回のお二人の方が年齢的に若い分,爽やかな雰囲気があったと思います。好みの問題ですが,私は,今回の演奏の方が良かったかなと思いました。

後半は,お待ちかねのシュトラウス・ファミリーの音楽です(ファミリーといっても,アンコールのラデツキー行進曲を除くとすべてヨハン・シュトラウス2世の曲だったのですが)。拍手も含めて(もしかしたらトロイ・グーキンズさんのトークも含めて)レコーディングされるということで,聞く方にも少々緊張感がありました。が,それは快い緊張感でした。後半は,「CD1枚分=1時間以上」かかったのですが,演奏する方も聞く方も本当に熱心だったと思います。

演奏の傾向としては,ワルツをじっくり聞かせ,ポルカで気分転換という感じでした。プログラムの中心は,やはり4つのワルツ(アンコールの「美しく青きドナウ」も含めて)にあったと思います。今回演奏されたワルツは,どれも有名な曲だったのですが,繰り返しをキチンと行っていたので,毎年,聞いているワルツよりは,スケールが大きく感じられました。OEKの編成は,それほど大きくないのですが(コントラバスは3本になっていましたが),上述のとおり,非常に充実した響きを出していました。そこに,室内オーケストラならではの軽やかさが加わり,聞いていてとても気持ちの良い,理想的なワルツになっていました。これまでのニューイヤーコンサートで聞いたワルツは,どちらかというと流れの良い,軽い感じの演奏だったような気がするのですが,今回のワルツは,その魅力を失わないままに,味の濃さが出ていました。これは,元ウィーン・フィルの首席コントラバス奏者のブルクハルト・クロイトラーさんが参加していたことと関係があるのかもしれません。もちろん,新ホールの豊かな響きによるところも大きいと思います。

後半最初の「こうもり」序曲は,まず出だしのピシっと揃った感じが見事でした。ワルツの部分はゆっくり目でしたが,終結部に向かって,急速に(しかし,やり過ぎない程度に)テンポを上げており,見事な対比がついていました。指揮者なしにも関わらず,非常によく揃っており,自然な勢いがあるのは,ダウス&OEKコンビの年季の積み重ねの成果だと思います。加納さんのオーボエの音が,とても瑞々しく響いていたのも印象的でした。

「アンネン・ポルカ」は,とてもゆっくりした演奏で,とても上品でした。終結部でさらにテンポを落としたのですが,それでも重苦しくならないのが小編成の良さです。

「新ピチカート・ポルカ」では,最後の最後に仕掛けがありました。これまで,ずっとピチカートで演奏していたのですが,最後の1音だけ,弓で弾いていました。弓を持つために,ちょっと間があいたのですが,この辺がCDにどのように収録されているのかが楽しみです。

「狩にて」は,ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでも鳴り物入りで出てきて,お客さんを喜ばせるのですが,この日の演奏でも銃の音が入っていました。この日の他の曲は,遅いテンポの曲が多かっただけに,疾走感のあるこの曲は,とりわけ生き生きと聞こえました。OEKのキレの良い演奏は,「速いポルカ」にはうってつけです。ジェフリー・ペインさんを加えた3人のトランペット奏者の演奏も爽快でした。

「ウィーン気質」「ウィーンの森の物語」は,全体にかなりテンポを落として,じっくり聞かせてくれました。どちらもウィーン風を目指した演奏だったと思います。特に,「ウィーンの森」の方は,全体で15分ぐらいあったかもしれません。この「聞きごたえ」は,交響詩を1曲聞いた後のような感じでした。チター・ソロの部分は,ダウスさんのヴァイオリン・ソロなどで演奏していましたが,チターとはまた違った良い味が出ていました。皇帝円舞曲は,OEKのニューイヤーコンサートでも過去数回演奏されている曲です。最後の方に出てくる,カンタさんのチェロ・ソロの懐かしい雰囲気は,何度聞いても心に染みます。

そして,アンコールは,予定どおりの「美しく青きドナウ」でした。OEKの「ドナウ」は,演奏時間を短くするためなのか,毎回,コーダの部分が省略された版で演奏されていたのですが,今回は,ついに全曲が演奏されました。この日の演奏会の終演時間もかなり遅くなったのですが,そうなったとしてもコーダ付きの方が「ドナウ」らしくて良いと思います。例年どおり,ワルツの部分は快適なテンポで流れて行くような感じでしたが,立派なコーダがあると,演奏会が終わったという満足感が大きくなります。ホルンのソロも見事に決まっていました。

最後のラデツキー行進曲は,例年どおり,手拍子のしやすい,遅目のテンポでした。ティンパニのトム・オケーリーさんの手拍子にあわせて,お客さんは手拍子をしていたので,強弱のつけかたもテンポ感もピッタリでした。CD史上最も手拍子の揃ったラデツキー行進曲になってくれると良いのですが...これもCDで聞いて確かめてみたいものです。

演奏後は,団員の中からクラッカーがパン,パンと鳴り出し,緊張感から解放されたような雰囲気がありました。レコーディングということもあり,団員の方々は,聴衆以上に緊張していたと思います。ダウスさんは,団員からも祝福されていましたが,この日の演奏会のまとまりの良さは,ダウスさんの存在によるところが大きいと思います。後半は,「自分の拍手がCD化される」ということで,いつもにも増して聴衆の拍手が盛大でしたが,この拍手はお客さんの正直な気持ちの表われた自然な拍手でした。この日の演奏会は,まさにオーケストラと聴衆が一体になった演奏会になりました。レコーディングのマイクは,いろいろなノイズや細かいミスなども拾っていると思うのですが,それと同時に,この日の会場の良い雰囲気を伝えてくれているはずです。そういう意味で,OEKにとっても聴衆にとっても,とても大切なCD録音になったのではないかと思います。(2002/1/16)