オーケストラ・アンサンブル金沢第114回定期公演F
02/2/14 金沢市観光会館

1)渡辺俊幸/NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜メインテーマ
2)レイ(内堀勝編曲)/ミュージカル「ラ・マンチャの男」〜見果てぬ夢
3)内堀勝編曲/ミュージカル・メドレー〜すべては薔薇と花開く(「ジプシー」)〜エニシング・ゴーズ(「エニシング・ゴーズ」)〜セ・マニフィーク(「カン・カン」)〜ダイヤモンドは女の子の最高の友達(「紳士は金髪がお好き」)〜シャル・ウィ・ダンス(「王様と私」)〜アメリカ(「ウェストサイド物語」)〜ワンダフル・ガイ(「南太平洋」)〜パレードに雨を降らせないで(「ファニー・ガール」)
4)マンシーニ(榊原栄編曲)/映画「ティファニーで朝食を」〜ムーン・リヴァー
5)マンシーニ(榊原栄編曲)/映画「シャレード」〜シャレード
6)カンダー(内堀勝編曲)/ミュージカル「ニューヨーク・ニューヨーク」〜ニューヨーク・ニューヨーク
7)ビゼー/歌劇「カルメン」第1幕への前奏曲
8)ビゼー/歌劇「カルメン」〜恋は野の鳥
9)デーレ(城所潔編曲)/すみれの花咲く頃
10)アダモ(城所潔編曲)/サン・トワ・マミー
11)アズナブール(城所潔編曲)/ラ・ボエーム
12)アダモ(内堀勝編曲)/ろくでなし
13)前田憲男編曲/シャンソン・メドレー〜幸せを売る男〜ラ・メール〜詩人の魂〜バラ色の人生
14)ムスタキ&モノ(内堀勝編曲)/ミ・ロール
15)ピアフ(内堀勝編曲)/愛の讃歌
(アンコール)
16)ヴェルサイユのバラ〜愛あればこそ
17)川の流れのように
●演奏
鳳蘭(Vo*2,3,8-17),水木ひろし/Oens金沢(1-8,12-17),城所潔(Pf*9-11)
松井直(コンサートマスター)

Review by管理人hs かきもとさんの感想  広太家さんの感想
今回の定期公演ファンタジー・シリーズのゲストは,元宝塚のトップスター・鳳蘭さんでした。プログラムはミュージカルとシャンソンの名曲を集めたものです。多分,宝塚の大先輩歌手,越路吹雪さんのレパートリーを意識しての選曲だと思います。今回の演奏会のもう一つのポイントは,指揮の「水木ひろし」さんです。これは岩城さんが若い頃,放送局でポップスなどを演奏していた時に使っていた芸名の一つなのですが,実際の演奏会でこの名前で指揮するのは初めてのことだそうです。つまり,「水木ひろしデビューコンサート」ということになります。ボストン交響楽団がポップスを演奏する時は,ボストン・ポップス管弦楽団に名前を変えますが,指揮者の方が名前を変えるというのは他に例がないと思います。

今回の私の座席は,当日引き換え券だったのですが,入口でチケットを受け取ると,1階の前から4列目という席で,歌手の顔を見るには最高の場所でした。その分,音のバランスがいつもと全然違っていました。鳳さんは,当然,マイクを使っていますので,鳳さんの立っている場所と違う方角にあるスピーカーから声が聞えて来る形になりました。いつもマイクなしの演奏会にばかり行っているので,その点が少々気味悪く感じました。恐らく,もっと後の座席だと自然に聞えたのだと思います。

その分,鳳さんの豊かな表情を間近で見ることができました。鳳さんは遠くからでも目立つはっきりとした顔立ちの方ですが,近くで見ると本当に華やかな雰囲気がありました。前半は,黒い燕尾服(ラメが付いているのがオーケストラ団員との違い),後半もやはり黒いドレス(越路吹雪さんを意識していたのかもしれません)でしたが,とてもゴージャスに見えました。背は思ったほど高くなかったのですが,ステージに登場した瞬間,大きな宝石がキラっと光るような華やかさが感じられました。宝塚のトップスターの輝きでしょう。

歌は,すべて日本語で歌われていましたが,それでいて本物を聞いたという充実感が残りました。どの曲にも起伏の大きなドラマが組み込まれているのが素晴らしい点です。それでいてくどくならないのは,やはりこの方の持つ天性の明るさとさっぱりとした気質によるのではないかと思います。

前半はミュージカル・ナンバー,後半はシャンソンだったのですが,やはり,後半のシャンソンの方が印象に残りました。ミュージカル・ナンバーの方は,大きなドラマの中の1曲なのですが,シャンソンの方はその1曲だけでドラマを作っていますから,必然的に聞き応えが出てくるのかもしれません。「ろくでなし」などのパワフルな曲も良かったですが,「ラ・ボエーム」という曲での情感溢れる「語り歌い」のような雰囲気も見事でした(「神田川」とかの四畳半的フォークソングと設定が似ているような気がしましたが)。ミュージカルの方では,テロの被害を受けたニューヨークを応援するために歌った「ニューヨーク・ニューヨーク」での気合いの入れ方が見事でした。カルメンのハバネラは,「あたいは...」というあまり聞いたことのない歌詞で歌っており,宝塚的カルメンといった感じでした。

「すみれの花咲く頃」は,「皆さんご一緒に」の世界でした。私のまわりのお客さんは,「すてきな奥様(よく見ずに書いているのですが...)」という感じの人が多く,皆さん口ずさんでいました。アンコール曲の方もお客さんの好みを考えた選曲で,ファン・サービスも忘れていませんでした。

少々意外だったのは,ステージ上での拍手の受け方が下手で初々しかった点です。これはクラシック音楽とミュージカルの違いによるものです。クラシック音楽のソリストの場合,お客さんの拍手を少しでも沢山受けようと,演奏終了後は,両手を広げて四方八方に挨拶を繰り返すのに対し,ミュージカルの場合は,すぐに引っ込んでしまうのが普通のようです。水木さんが鳳さんの手を持って,早々と袖に引っ込まないように抑えている,という面白い光景が見られました。というわけで,ステージ上で拍手を受ける姿はとても初々しかったです。

さて,もう一人の主役の水木さんの方ですが,こちらも楽しんで指揮をされていたようでした。水木さんの衣装の方は,前半は紺の上着,白いズボン,赤いシャツ,後半は上下が白,水色のシャツというお洒落なものでした。ポップスを指揮するなら,やはりこういう服装がふさわしいでしょう。今回は,当然鳳さんとのトークも多かったのですが,これもなかなかとぼけた味があって楽しめました。

今回演奏された曲は,いわゆるクラシックの曲以外ばかりだったのですが,世の中に出てから50年ぐらい経っているような曲もかなりあったので,「残っている曲=クラシック」と定義するならば,これらの曲もクラシックと呼んでも悪くないと思いました。

中ではシャンソン・メドレーが印象に残りました。水木さんは,シャンソン(「歌」という意味ですね)を歌なしでやるのは本当はよくない,とおっしゃっていましたが,これがどうして中々良かったです。「バラ色の人生」のトランペットソロをはじめとして,それぞれの楽器が”プレイ”しているようなとても良いムードが漂っていました。「ミロール」という曲に出てきた,クラリネットの甲高い響きにもいかにもフランスという洒落た雰囲気がありました。

今回のような曲目だと,どうしても打楽器と金管楽器が目立つのですが,この前のダークダックスの公演の時同様,客演のデヴィッド・ジョーンズさんのドラムスも冴えていました。ビシッ,バシッという感じで曲にメリハリを付けていました。「シャレード」でのシャカ,シャカというリズムも格好良かったですね。

それと,今回のもう一つの大きな目玉は,冒頭で演奏された「利家とまつ」のメインテーマでした。この曲は,毎週聞いているので,もうすでに馴染んでいるのですが,生で聞くのはまた格別です。今回は,とても前の方で聴いたので音のバランスがちょっと不自然だったのですが,「いかにも大河ドラマ」という雰囲気のある良い曲だと思います。水木さんの話によると,このドラマのサントラはOEKが大部分を演奏しているのだそうです。というわけで,OEKファンとしてはこのドラマは,毎回見なければ(聞かなければ)ならないということになります。

その他,ピアニストの城所さんという人もいい雰囲気がありました。後半のシャンソンでは,ピアノ伴奏だけで歌うようなコーナーがありましたが,とても嬉しそうに弾いているのが印象に残りました。本当にシャンソンが好きなんだな,という感じが伝わってきました。その他,石川県音楽登竜門コンサートに出演したことのある太田真佐代さんもギターで参加していました。

今回は,鳳さんと水木さんの天然ボケ的なトークの掛け合いが楽しかったせいか,とても和やかな雰囲気のある演奏会になりました。これからも岩城さんは,ポップスの時はこの芸名で指揮をされるようなので(次回は,加山雄三さんとの共演のようです),ファンとしても,この「冗談か本気かわからないようなジョーク」に付合って一緒になって楽しんでやろうかなと思っています。皆さんもいかがですか?

(余談)演奏会前日,NHKのローカルニュースで,この演奏会の指揮者を「水木しげる」(「ゲゲゲの鬼太郎」だ!)と間違ってアナウンスする,というミスがあったのですが,早速,このネタを水木さんは取り上げていました。会場も大ウケでした。というわけで,このトチリは,岩城さんのエッセーあたりで取り上げられるような気がします。確かに,紛らわしい名前です。(2002/2/15)

Review byかきもとさん
私も聞きました『水木しげる』

ご無沙汰しました。1月26日の安永さんの弾き振りによるすばらしいコンサートは私も感銘を受けました。安永さんのボウイングに楽員の視線が集中して、緊張感が高まっているのがよく分かりました。仕事が超多忙のため、今回はレポートはパスさせていただきました。

NHKのローカルニュースで、女性のアナウンサーが確かに水木しげると言ったのを私も聞き逃しませんでしたよ!私は思わず吹き出してしまいました。若いアナウンサーだったので、直接は『ゲゲゲの鬼太郎』を知らない世代だと思うのですが、特に違和感のないしゃべり方だったので、もしかすると原稿の記載ミスだったりして!?なんてことも考えてしまいました。(2002/2/14)

Review by広太家さん
今回の定演は、音楽性云々よりも華のあるエンターテイメントを堪能したくて、鳳さん水木さんの豪華ツーショットを最前列で楽しんできました。開演前に近くでワインをあおってね。hsさんも近くの席にいらしたのですね。

私の席の周囲のご婦人方は、当時の宝塚ファン?なのか、アンコールでベルバラを歌うと聞いて歓声をあげてらっしゃいました。15年前に宝塚でレビューを観た時は、劇場やロビーに漂う化粧のにおいが鼻につきましたが、宝塚とは観客も目いっぱいのおしゃれをして臨む、晴れの場なのでしょうね。

日本のエンターテイメントのメッカ、聖地に来たという感じがしました。
わくわくする場所へおしゃれして出かけるという意味ではオペラも同じ。
観光会館は数年前に大改修したものの、それ以上にファンの目が肥えてきたのか(体重が?)オーバードホールなどと比べると、少し窮屈な椅子では、オペラの楽しい気分はさめてしまうかも。(2002/2/16)