石川県アマチュア・オーケストラ・フェスティヴァル
02/03/03石川県立音楽堂コンサートホール

【第1部】
1)ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
2)ブリテン/シンプル・シンフォニー〜第3,4楽章
3)ブリチャルディ/五重奏曲,op.124〜第1楽章(木管五重奏)
4)フラッケンポール/ポップ組曲第3番(トロンボーン四重奏)
5)斉藤丈晴/交響曲第2番「もばいる」〜第1楽章
【第2部】
6)ムソルグスキー/交響詩「はげ山の一夜」
7)ヴィヴァルディ/協奏曲ニ短調「マドリガル風」F.X.I no,10-PV86
8)モーツァルト/ディヴェルティメントニ長調,K.136
9)ビゼー/「アルルの女」第2組曲〜牧歌,間奏曲,ファランドール
【第3部】
10)サン=サーンス/交響曲第3番ハ短調,op.78「オルガン付き」
●演奏
金沢CO(1);松中久儀/金沢弦楽Ens(2);金沢大学PO団員(3,4);朝倉崇/Ensエスパンシーヴァ(5);本多敏良/石川PSO(6);金丸保典/金沢工業大学CO(7);金沢青少年SO(8);大能正紀/金沢SO(9)
増井信貴/合同O(Ensエスパンシーヴァ,石川PSO,金沢弦楽Ens,金沢SO,金沢工業大学CO,金沢CO,金沢青少年SO,金沢大学PO,小松シティPO,北陸大学CO団員からなる合同オーケストラ)(10)
黒瀬恵(Org*10),坂本久仁雄(コンサート・マスター*10)

Review by管理人hs
昨年9月の石川県立音楽堂の柿落公演の2日目に,石川県内のアマチュア・オーケストラが集結した県民オーケストラによる演奏会が行われたのですが,その続編のような演奏会が行われました。今回は,合同演奏に加え,各団体の個別の演奏もありました。10団体が合同演奏に参加し,8団体が個別演奏を行う,ということで非常に長い演奏会でしたが,予想以上に楽しめる内容でした。こういう「勢ぞろい」企画は初めてだと思います。聴衆が少なかったのが少々残念でしたが,文字通り「フェスティヴァル」という感じでした。

以下,演奏順に感想を書いてみたいと思います。
●金沢室内管弦楽団
まず感じたのは,トロンボーンやチューバまで入っており,「室内」という割に編成が大きいな,ということです。特に管楽器が充実しており,冒頭のブラスの輝きのある響きを聞いた瞬間,この演奏会全体に対する期待が一気に高まりました。弦楽器だけの部分では音程が甘い気がしましたが,最後に向けての盛り上がりも立派で,ケレン味のない,さっぱりとした感触の演奏になっていました。

●金沢弦楽合奏団
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の弦よりも少ないぐらいの人数でしたが,とても立派な演奏だったと思いました。最初の歌うような旋律からして透明感があり,しかも情感もこもっていました。実は,この団体の演奏は,約25年前に聞いたことがあります(私がまだ中学生でした)。その時は,偶然聞いたのですが,その時のプログラムにもこの日演奏されたシンプル・シンフォニーが入っていました。きっとこの団体の重要なレパートリーなのだと思います。後半の速い楽章では,ちょっとほころびがあったような気はしましたが,素晴らしい演奏だったと思います。

●金沢大学フィルハーモニー管弦楽団
2月から3月といえば,大学では期末試験の時期ですが,そのせいか,オーケストラ全員は登場せず,管楽器のアンサンブルが2つ登場しました。最初のアンサンブルは,フルート,オーボエ,ホルン,ファゴット,クラリネットという編成で(アンサンブル・ウィーン=ベルリンなどと同じ?)非常に爽やかな感じの曲が演奏されました。自由闊達に演奏しており,とてもよく練習したのではないかと思いました。後半はトロンボーン四重奏でした。こちらは,通常のトロンボーン2本にバストロンボーン(?)2本という編成でした。ジャズのテイストの感じられる曲で,リラックスして聞けました。両方とも何かのコンクールに出るために練習した曲のような感じでしたが,こういう気のあった仲間との演奏というのはなかなか良いものです。小人数でしたが音量的にも全然不満はありませんでした。

●アンサンブル・エスパンシーヴァ
この団体は,名前からして他の団体と違った活動をしているなという雰囲気があります。「エスパンシーヴァ」というのは,ニールセンの交響曲第3番のタイトルから取ったものだと思うのですが,「広がり」という意味があります。各パートが1〜2名,けれどもほとんどのパートが揃っているという不思議な編成です(この曲の編成なのかフル編成なのかよくわかりませんが)。演奏された曲には「もばいる」というタイトルがついていましたが,この団体自体,「モバイル・オーケストラ」というのが持ち味なのだと思います。この「もばいる」という曲も非常に気がきいた感じの曲で,音楽を楽しもうという雰囲気が伝わってきました。指揮者の雰囲気からも,他の団体より若い感覚が感じられました。新曲を演奏するなど,非常に柔軟性に富んだ団体のようなので,これからの活動にも注目したいと思います。

●石川フィルハーモニー交響楽団
県内のアマチュアの中では金沢交響楽団と並んで歴史がある団体です。年季が入っており通算のステージ数も多いと思いますが,そのせいか,とてもまとまりのある演奏になっていました。特に前半の華やかで起伏のある部分のが素晴らしかったと思います。金管・打楽器の壮絶な雰囲気も見事でした。後半の静かな部分は,「静か」というよりは「ふやけた」感じに聞こえたのが残念でしたが,フルートとかクラリネットなど管楽器のソロは見事だと思いました。「はげ山の一夜」を生で聞いたのは初めてだったので,その点でも記憶に残る演奏になりました。

●金沢工業大学室内管弦楽団
●金沢青少年交響楽団

残念ながら,この2つの団体は,他の団体に比べると,「まだ練習中」という感じでした。両者とも弦楽器だけの演奏だったのですが,この辺も少々不利な点でした。管楽器や打楽器が入ると,かなりごまかしがきく(?)ような気がしました。そう考えると,第1部の金沢弦楽合奏団はかなり実力があるのではないかと思いました。金沢青少年交響楽団の方は,指揮者なしの中高生10人ぐらいで演奏していており,とても初々しい雰囲気がありました。

●金沢交響楽団
個別演奏の最後に演奏しただけあって,編成がいちばん大きく,聞き応えもありました。特に弦楽器の人数が多く,充実した演奏を聞かせてくれました。テンポも全般に遅目で,濃い味わいがありました。最初の方は,木管楽器が何となく危うい感じに聞えたのですが,打楽器が入って来ると演奏全体も締ってきました。テンポを煽り過ぎない重量感のあるファランドールには「トリ」に相応しい立派な雰囲気がありました。

●合同演奏
この日の最大の聴きものは,何といっても,この合同演奏です。昨年9月まで県内のホールにパイプ・オルガンはなかったので,サン=サーンスの交響曲第3番が県内で演奏されるのはこれが初めてのことだと思います注)。ステージ上は,100人を越えると思われるアマチュア音楽家で溢れていました。それにしても,バスクラリネットとかイングリッシュホルンとかいろいろな楽器がいました。

(注)後で金沢交響楽団の方から,金沢交響楽団で2回演奏している,というお知らせを受けました。パイプオルガンのあるホールが今回初めてできたので,てっきり初演だと思い込んでいました。大変失礼いたしました。

第1楽章の最初の方は,弦楽器の音がとても美しく響いていました。もともと「揃っているのか揃っていないのかわからない」ような曲ですが,大人数で演奏するさざ波のような雰囲気には独特の魅力がありました。金管楽器(かなり沢山いました)のスカッとした演奏にも聞きほれました。増井さんのテンポは,「大編成」「アマチュア」といったことにこだわらない妥協のないものだったと思います。1楽章後半の静かな雰囲気の部分は,オルガンの祈るような歌も入ってきてじっくりと聞かせてくれました。

第2楽章の最初は,弦楽器の厳しい音が強く印象に残りました。この辺は,OEKの坂本さんがうまくひっぱっていたのだと思います。2楽章後半のクライマックスは,非常に起伏に富んでおり,大オーケストラを聞く楽しみが凝縮されていました。パイプオルガンが派手に入って来る辺りは,「待ってました」という掛け声をかけたくなるようなゴージャスさでした。わかっていても,こういう見得を切るような雰囲気はいいですね。その後,ピアノ連弾が出てくる辺りは,何となく「動物の謝肉祭」の「水族館」を思い出してしまいます。最後の方は,大人数の金管の強烈な響きを中心に大音量で盛り上がります。最後の最後のティンパニの強烈な連打も非常に印象的でした。

この曲は,非常に大規模な曲ですが,この日の演奏には,重苦しいところは感じられませんでした。むしろ古典的といっても良いような引き締まった雰囲気がありました。これだけの大編成で,そういう雰囲気を感じさせたというのは,指揮の増井さんの曲の捉えかたが的確だからだと思います。それと,曲全体が非常にクリアな感じに聞えました。この曲のCDは,オーディオ・チェック用に使われることがありますが,やはり生には勝てないですね。

この日の演奏会は,非常に長かったので,アンコールは1曲もありませんでしたが,大変充実した演奏会だったと思います。昨年の音楽堂完成以来,「惑星」,「ツァラトゥストラ」(OEKと大阪フィルの合同演奏),「オルガン付き」と派手なオーケストラ曲をあれこれ聞いてきましたが,この路線には,今後も期待したいところです。

(追記)今回少々不満に思ったのは,演奏会パンフレットに各団体の紹介文がなかったことです。各団体のプロフィールや団員からの「ひとこと」みたいなものがあると,より楽しめたと思います。

(追記2)各オーケストラのメンバーはかなりダブッているようでした(打楽器とか)。オーケストラごとに,何か目印でもあれば,見ていてもっと面白くなるような気がしました。(2002/2/28)