フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団演奏会 02/3/10 石川厚生年金会館 1)ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番ト長調,op.58 2)(アンコール)ブラームス/間奏曲op.117から 3)ブルックナー/交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(1880年の第1決定稿による版) 4)(アンコール)ブラームス/交響曲第3番〜第3楽章 ●演奏 チョン・ミョンフン/フランス国立放送PO(1,3,4) エレーヌ・グリモー(Pf*1,2)
チョン・ミュンフンさんは数年前,フランス国立管弦楽団と来日しており,その時も金沢に来ています。今回のオーケストラは,フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団ということで,大変似た名前ですが別のオーケストラです。今回のいちばんの注目は,何といってもブルックナーの交響曲だと思います。金沢でブルックナーの交響曲が演奏されることは滅多にありません。金沢大学フィルが第4番と第8番を演奏したのを聴いたことがありますが,プロのオーケストラによる演奏を金沢で聴くのは私自身初めてのことです(大阪まで出掛けて,今は亡き朝比奈さん指揮の大阪フィルによる第8番を聴いたことならあるのですが)。 このフランス国立放送フィルは,以前はフランス国立放送新フィルと”新”が付いていました。その後,マレク・ヤノフスキが音楽監督に就任して以来,”新”をはずし,今シーズン,チョン・ミョンフンが音楽監督に就任してからは,さらに注目を集めるようになっています。女性奏者や若い奏者が多いようで,ステージ上からは,どことなく華やかな雰囲気が感じられました。 前半は,フランスの若手ピアニスト,エレーヌ・グリモーさんのソロを加えてのベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番でした。この方は,とてもスマートな方で,見るからにセンスの良さそうな女性でした。演奏の印象もそのとおりでした。この曲は,ピアノソロで始まるのですが,それが分散和音だったのが意表を突きました。その崩し具合がとても洒落ていました。グリモーさんの音は,とても軽くて美しく,独特の透明感があります。テンポの微妙な動きにもセンスの良さがありました。顔を上にあげたり,下を向いたりとかなり動きのある演奏でしたが,その動きがとても自然でした。演奏の方にも自然な流動性があり,堅苦しい感じは全くありませんでした。第1楽章最後のカデンツァは,よく聞くベートーヴェン自身のものでしたが,この部分が終わり,オーケストラに移っていくまでの長い長いトリルが絶妙でした(音を付け加えていたような気もします)。オーケストラの繊細な雰囲気もぴったりと合っていました。第2楽章は遅目でしたが,重くなり過ぎません。それでいて情感も十分こもっていました。第3楽章は非常に生気のある演奏でした。粒の揃ったタッチで非常に軽やかに演奏されていました。コーダの非常に速いテンポも見事に決まっていました。この辺の音楽の勢いの良さはチョン・ミョンフンさんならではかもしれません。 グリモーさんは,かなり若い時から活躍していますが,有名なコンクールで優勝して注目されるようになった人ではありません。テクニックも素晴らしいのですが,機械的な正確さや強烈なタッチで圧倒するようなタイプとは正反対の個性を持った人だと思います。演奏全体から漂う,自然体の美しさには,非常に魅力があります。アンコールには,ブラームスの間奏曲が演奏されました。これも見事でした。全く重くない透明感のあるブラームスなのですが,それでいて充実した聴き応えがありました。これからも注目したいピアニストです。 後半のブルックナーの方は,少々違和感を感じました。何といってもホールの残響の無さが問題でした。ブルックナーの交響曲は,いわゆる「ブルックナー休止」でブツブツと切れるのが特徴なのですが,それが本当にブツブツと切れてしまい,教会でパイプオルガンを聴くような陶酔的な感覚を味わうことはできませんでした。それとオーケストラの響きがやや軽くて明るいのが少々気になりました。3楽章などでは,ためらいなく思い切り金管楽器群が演奏しており,非常に気持ちが良かったのですが,もう少しズシリとくるような響きを聴いてみたい気がしました。弦楽器も人数の割にはあまり重い感じがしませんでした。 この日の演奏は,ビラによると「1880年の第1決定稿による版」ということだったのですが,特に変わったところは感じませんでした(私自身,ブルックナーをあまり聴かないのでわからなかっただけかもしれません。)。第1楽章の最初は,何となく集中力がなく,テンポにも安定感がないような気がしました。フルートやオーボエの音もさらさらと流れていく感じでした。楽章の後半では,響きがまとまってきて,オルガン・トーンになってきたような気がしたので,このホールで初めて演奏するのは難しいのかなとも思いました。第2楽章はチェロの少し甘さを含んだようなカンタービレが印象に残りました。3楽章は,上述のとおりかなり派手な演奏でした。金管の華やかなファンファーレにティンパニのキレの良いクレッシェンドが重なりあうような感じは爽快でしたが,素朴な狩の雰囲気はあまり感じられませんでした。第4楽章は,最後の盛り上がりのスケールの大きさにこの指揮者の良さが表れていると思いました。 このオーケストラは,明るい響きで非常に気持ちの良い演奏する団体だと思いました。例えば,もっと豊かな響きのする石川県立音楽堂の方でこの曲を聴いていたらもっと良い印象を受けたような気がします。ホルンなどは,所々ミスをしていたようですが(この曲にはホルン奏者にとっては演奏するのが大変だろうな,と見ていて思いました),どういうわけか,あまり気にはなりませんでした。全体に金管楽器が,とても伸び伸びと演奏しているなと思いました。 ブルックナーの後にアンコールはないだろう,とも思ったのですが,フランスのオーケストラらしく,やはりアンコールが演奏されました。それも,ブラームスの交響曲第3番の第3楽章というちょっと珍しい選曲でした。チェロの甘い雰囲気がこの曲の雰囲気によくあっていました。個人的には,同じドイツものでもブラームスの方が合うかなという気がしました。(2002/3/13) |