オーケストラ・アンサンブル金沢第118回定期公演F
02/03/31 石川県立音楽堂コンサートホール

1)ジマー/映画「バック・ドラフト」の音楽から
2)ウィリアムズ/映画「スター・ウォーズ」〜メイン・タイトル,レイア姫のテーマ,エンド・タイトル
3)マンシーニ(ボブ佐久間編曲)/映画「ピンク・パンサー」のテーマ(J.ウィリアムズ風)
4)ウィリアムズ(ボブ佐久間編曲)/映画「スター・ウォーズ」メイン・タイトル(H.マンシーニ風)
5)ウィリアムズ/映画「スター・ウォーズ:エピソードI:ファントム・メナス」組曲から3曲
6)ボブ佐久間編曲/スクリーン・メドレー(エデンの東,ひまわり,タイタニック)
7)ウィリアムズ/映画「シンドラーのリスト」のテーマ
8)ボブ佐久間編曲/ミュージカル・メドレー(雨に唄えば,シャル・ウィ・ダンス,踊り明かそう)
9)ロジャース(ボブ佐久間編曲)/ミュージカル「南太平洋」メドレー(魅惑の宵,ハッピー・トーク,バリ・ハイ)
10)(アンコール)ボブ佐久間編曲/ディズニー・メドレー(星に願いを,アラジン)
11)(アンコール)スーザ/星条旗よ永遠なれ
●演奏
ボブ佐久間/Oens金沢,名古屋PO,アビゲール・ヤング(Vn*7)
スコット・ハーズ(司会,プレトーク)
アビゲール・ヤング(前半のコンサート・ミストレス)

Review by管理人hs
名古屋フィルハーモニー交響楽団とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との合同演奏会に行ってきました。合同演奏会は,昨年10月の大阪フィル以来ということになります。これまでの合同演奏会と違うのは,純粋に最初から最後まで合同だったということと,ファンタジーシリーズだったということです。大編成の豪快さとエンターテインメントに徹底してこだわっている点が今回の演奏会のポイントです。ポップス・オーケストラで総勢102名という大人数はかなり珍しいとのことでした。

今回のプログラムは,アメリカの映画・ミュージカルの音楽でまとめられていました。指揮・編曲のボブ佐久間さんは,名古屋フィルのポップスオーケストラ・ミュージック・ディレクターという肩書きをお持ちですが,演奏会の構成もすべてボブさんが考えられたのだと思います。プロフィールによるとハリウッドに数年お住みになっていたとのことです。アメリカ映画の語法が身体に染み込んでいる方だと思いました。

前半は,壮大なスケール感を持つ,ジョン・ウィリアムズの映画音楽が中心でした。

最初は,映画「バック・ドラフト」の音楽でした。これは,日本では映画そのものよりも映画音楽の方がずっと有名です。数年前までフジテレビで放送されていた「料理の鉄人」の音楽として,あまりにも強い印象があります。生で聞くと妙にヒロイックな気分になって気分が高揚します。それにしても,この番組の担当者の選曲は見事だったと思います。

続いて,映画「スター・ウォーズ」から3曲演奏されました。メイン・タイトルは,ジョン・ウィリアムズの代名詞にもなっています。作曲者自身が指揮した演奏より,やや速目のテンポで爽快にまとめられていました。続く「レイア姫のテーマ」は,対照的に静かな曲です。OEKの上石さんのフルートのクールな雰囲気がとても印象的でした。エンド・タイトルが終わると,司会のスコット・ハーズさんが登場しました。この方は,民放の朝の番組のコメンテーター(私は見たことはないのですが)や経済評論家などとして知られているようです。見事な司会進行ぶりでした。

名古屋フィルとOEKの団員の紹介をした後(名古屋フィルの方は普通のネクタイ,OEKの男性は黒い蝶ネクタイ,OEKの女性は時々着用しているお揃いのドレスという感じで衣装の方も分けられていました),ボブさんの仕事である「編曲とは?」という話題に話が移っていきました。編曲家の仕事は,生魚を美味しく食べていただくために調理して味付をして盛付をして...というようなものだとおっしゃっていました。その裏には,「編曲次第で元の曲は何とでもなる」というような自信があるのでしょう。

続いて,このことを裏付けるために,2人の映画音楽の大家の作品をそれぞれ別の作風でアレンジしたらどうなるか,という試みをやってくれました。つまり,ヘンリー・マンシーニの曲をジョン・ウィリアムズ風に,ウィリアムズの曲をマンシーニ風にという試みでした。「題名のない音楽会」あたりで取り上げてくれそうなテーマですが,とても面白かったです。「○○風」といいつつ実はボブさんが編曲しているわけですが(「もしかしたら訴えられるかも」と冗談で言っていましたが,意外に本音かもしれません),本当に巧くアレンジされていました。ウィリアムズ風「ピンク・パンサー」は,ウィリアムズ風というよりは,スター・ウォーズ風という感じでしたが,何だかダース・ヴェイダーが出てきそうな「ピンク・パンサー」でした。マンシーニ風「スター・ウォーズ」の方は,ジャズのテイストがあり,結構気が利いた感じでしたが,「スター・ウォーズ」ファンを自認する司会のハーズさんによると「これは違う!許せない!という感じですね」ということでした。オリジナルを愛するファンの気持ちもわかりますね。

前半最後は,「スター・ウォーズ」の新シリーズ第1作「ファントム・メナス」の音楽でした。この映画はまだ見ていないのですが,非常に強烈な音楽でした。特に最後に演奏されたクライマックスの音楽は,3人のトランペット奏者がパイプ・オルガンの位置に移動して派手に演奏してくれました。同じ動機を速く執拗に繰り返すような扇情的な曲で(原曲では合唱も加わっているようです),映画の中で聞いたらさぞかし効果があがるだろうと思いました。いずれにしてもスター・ウォーズの音楽は管楽器と打楽器が大活躍でした。

後半はメドレーが中心でした。こういうアレンジものは一歩間違うとBGM風になってしまうのですが,ボブさんのアレンジにはオリジナルの雰囲気を生かしながら,ところどころスパイスが効いており見事でした。

最初のスクリーン・メドレーでは,「タイタニック」でのフルートの不思議な音が耳をひきました。どういう仕組みになっているのかよくわかりませんでしたが,何となく民族楽器のような音が出ていました。

続く,「シンドラーのリスト」ではアビゲール・ヤングさんがソロ・ヴァイオリンを務めました。実は,この日はゲネプロも聞いており,大編成の音にちょっと食傷気味だったので,このヴァイオリンの響きを聞いて,ほっとする所がありました。大編成ばかりが良いわけではない,ということはOEKファンならば分かっているところですが,この辺が音楽の面白いところです。なお,この演奏は,演奏会前日に亡くなられた英国のエリザベス皇太后(101歳で亡くなられたそうです)に捧げて演奏されました。英国出身のヤングさんらしいコメントでした。

続く,ミュージカル・メドレーは,先にも書いたとおり,原曲の味をとても良く出していました。「踊りあかそう」は,今ではクラシックの大指揮者であるアンドレ・プレヴィンが若い頃アレンジしていたはずですが(ヘップバーンの出ている映画の音楽の方です),やっぱり良い曲です。「シャル・ウィ・ダンス」では,「ダン・ダン・ダン」と団員が足踏みを入れたり,最後に掛け声を入れたりと「見せる演出」もありました。

最後は,リチャード・ロジャース作曲のミュージカル「南太平洋」からのメドレーでした。このメドレーでは「魅惑の宵」でのソロ・トランペットや「バリ・ハイ」でのトロンボーン奏者たちが立ち上がって演奏してくれました。「ハッピー・トーク」の軽やかな雰囲気も,こういう大規模な編成で聞くと沸き立つような感じになって楽しさがぐっとアップします。演奏会を締めるのに相応しい演奏でした。

アンコールとして,ディズニー・メドレーと「星条旗よ永遠なれ」が演奏されました。「星条旗よ永遠なれ」の方は,もとは弦楽器が入らない曲だと思うのですが,もちろん全楽器で演奏されていました。快適なテンポで豪快に演奏されており,バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの演奏を思い出しました(どちらも歩いて行進できないぐらいの速さです)。中間部のピッコロはもちろん,最後の部分では,金管楽器が総立ちになり,華やかにまとめてくれました。もちろんお客さんの手拍子入りで,会場の雰囲気もぐっと盛り上がりました。

(余談)
この日の午前中,音楽堂では「子ども音楽セミナー」というのをやっており,子どもに付いていったところ,ゲネプロも見学することができました。結局,午前と午後にジョン・ウィリアムズの音楽を2回聞くことになったのですが,これは少々疲れました(演奏する方はもっと?)。ジョン・ウィリアムズの音楽は1日1回で良いかなというのが正直なところです。とはいえ,帰り道,全日空ホテル横のBook Offでジョンウィリアムズベストという2枚組中古CD(950円)を見付けてしまったので,「これも何かのご縁」と思い,買ってしまいました。というわけで,ファントム・メナスのクライマックスが頭の中でグルグル回っている感じです。

「子ども音楽セミナー」の方ですが,今回の「ゲネプロ見学」については,子どもは少々退屈していました。やはり,見せるなら,本物のコンサートを見せる方が良いのではないかと思いました。やっぱり,解説なしで1時間続けて子どもに音楽を聞かせるというのは,ちょっと苦しいですね。(2002/04/01)