オーケストラ・アンサンブル金沢第122回定期公演F
02/6/10 石川県立音楽堂コンサートホール

1)シフリン/映画「ミッション・インポッシブル(スパイ大作戦)」テーマ
2)西部劇メドレー(モロス/映画「大いなる西部」,ヤング/映画「シェーン」〜遥かなる山の呼び声,ニューマン/映画「帰らざる河」,バーンスタイン,E./映画「荒野の七人」)
3)ロウ/ミュージカル「マイ・フェア・レディ」〜踊り明かそう*,運がよけりゃ**,君住む街で**
4)ロジャース/ミュージカル「南太平洋」〜バリハイ*,魅惑の宵**
5)ホーナー/映画「タイタニック」〜マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン*
6)ニューマン/映画「慕情」のテーマ**
7)バーンスタイン,L./ミュージカル「ウェストサイド物語」〜マリア**,トウナイト*,**
8)スタイナー/映画「風と共に去りぬ」〜タラのテーマ
9)バーバー/弦楽のためのアダージョ
10)ガーシュイン/歌劇「ポーギーとベス」〜サマータイム
11)(アンコール)山下洋輔/インタールード
12)ガーシュイン/サム・ワン・トゥ・ワッチ・オーバー・ミー
13)ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー
14)(アンコール)ガーシュイン(前田憲男編曲)/アイ・ガット・リズム
●演奏
大山平一郎/Oens金沢(1-9,12-14),山下洋輔(Pf*10-14)
杉田真理子(Vo,司会*),安崎求(Vo,司会**)
前田憲男(音楽監督・編曲),アビゲール・ヤング(コンサートミストレス)

Review by管理人hs
今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演ファンタジー・シリーズのゲストはジャズ・ピアニストの山下洋輔さんでした。山下さんはラプソディ・イン・ブルーを国内のいろいろなオーケストラと共演しており,私もその型破りな演奏をテレビで見たことはあるのですが,実際生で見てみると,そのあまりの迫力に驚きました。聞くだけで疲れてしまいました。まさに「体を張って演奏している」という演奏でした(結構,年輩のはずですが,本当に若々しかったです)。正直なところ,私の好みには合わなかったのですが,OEKの演奏史(?)に残る出来事だったことは確かでしょう。

というわけで,山下さんの登場しなかった,前半は完全に前座になってしまいました。前半は映画音楽とミュージカル音楽ということで,後から考えるとかなり中途半端な印象でした。司会と歌を担当されていた杉田真理子さんと安崎求さんですが,歌のおにいさん,おねえさんという感じでした。

最初は,序曲のような感じで「ミッション・イン・ポッシブル」のテーマがオーケストラのみで演奏されました。落ち着いたテンポで明確に演奏されており,気持ちのよい演奏でした。続く西部劇メドレー(実は映画名と曲名がはっきりしないのですが)も快適でしたが,歌入りの曲は残念ながらどれも中途半端でした。マイ・フェア・レディ,南太平洋,ウェストサイド物語については,あまりにも定番になっている曲ですので,定期公演で聞くならば,オペラ歌手のような歌声で聞いてみたかったところです。日頃,マイクなしの歌を聞き慣れているので,マイクを使った歌を聞くと何となく落ち着きません。鳳蘭さんのような,強い個性のある歌手の場合は不満はなかったのですが...。

それと曲が多過ぎて(しかもメドレーが多い),まとまりがなかったと思いました。もう少し,ストーリー性を持たせるなどの工夫が欲しかったところです(前半全部「ウェストサイド物語」にするとか)。前半最後にOEKのみで,「風と共に去りぬ」の「タラのテーマ」が演奏されたのですが(やっぱり「利家とまつ」のテーマに似ている?),この映画の最初の「GONE WITH THE WIND」という大きな大きなタイトルクレジットが横に流れて出てくる前の部分から演奏されていたのが嬉しかったですね。というわけで,OEKの演奏中心にまとめてもらった方が良かったかなという気がした前半でした。

後半最初は,バーバーの弦楽のためのアダージョでした。この日唯一のクラシック音楽ということで,この曲だけちょっと異質だった気がしないでもなかったのですが,演奏の方はOEKの弦楽セクションの素晴らしさを堪能できる見事なものでした。Fシリーズは,OEKを聞いたことの無い人にアピールする,というのが一つの目的だと思います。曲の中間部の盛り上がりの後の緊張感のある響きを聞けば,誰もがすごいと思ったことでしょう。

オーケストラが引っ込んだ後,いきなり軽快な足取りで山下さんが登場しました。まず,山下さんのピアノ・ソロでサマータイムが演奏されました。この曲は大変有名な曲ですが,完全に山下さんの音楽になっており(つまり,全然サマータイムっぽくない),ぐっと山下さんの世界に引き込んでくれました。時々,サマータイムのメロディの片鱗が見えて来たりしたのですが,ほとんどアドリブで弾いているようでした。激しい(というか滅茶苦茶?)な打鍵もあったのですが,完全に吹っ切れているせいか,不思議とうるさく聞えません。印象派風に響いたり,前衛的な音楽に聞えたりと,ジャズとクラシックとの接点を感じました。続いて,山下さんの新しいアルバムに収録されている曲が「せっかくですから」ということで演奏されました。

最後のコーナーは,お目当てのOEKと山下さんとの共演でした。「サム・ワン・トゥ・ワッチ・オーバー・ミー」の方は,実は,ラプソディ・イン・ブルーの印象が強すぎて印象が飛んでしまったのですが,比較的まともな(?)演奏だったと思います。

最後に問題のラプソディ・イン・ブルーが演奏されました。この曲はサックスが入ったり,トロンボーンが入ったりとOEKが演奏するには編成的に難しい曲なのですが,是非一度生で聞いてみたかった曲でした。まず,冒頭のクラリネットのグリッサンドです。一度,これを生で聞いてみたかったのですが,遠藤さんは表情たっぷりに演奏しており大満足でした。その後の雰囲気もリラックスしたムードに溢れ最高でした。トランペットやトロンボーン(いつものお馴染みの人)のミュートも軽妙に決まっていたし,コントラバスのリズム感も見事でした。中間部の甘いメロディのところではサックスの旋律が浮かび上がってくるのですが,この辺も良いムードでした(サックスは,数年前,石川県音楽登竜門コンサートに出ていた筒井さんが演奏されていました。)。大山さんという指揮者についてはよく知らなかったのですが,演奏の雰囲気を作るのが,とても上手な方だと思いました。OEKの演奏は,山下さんのテンポにあわせるためか,かなりゆっくり目のテンポでしたが,それでも重苦しくなることはなく,カラっとした解放感を見事に出していました。

そこに山下さんのソロが絡んで来ます。初めは普通かなと思ったのですが,だんだん,いつも聞いているのとは全然違うメロディになり,最後には,なんじゃこりゃーという雰囲気になります。それが,延々と続き,いつまで続くのか〜と心配になった頃に,聞いたことのあるメロディが出てきて,オーケストラに繋がる,という感じでした。こういうカデンツァというか即興演奏が2,3回間に入っていたと思います。大山さんとOEKは,さぞかしスリルを味わいつつ演奏していたことでしょう。この曲は,最近ではクラシック音楽として聞かれることがほとんどですが,ジャズ演奏家がまじめに(?)この曲を弾くとこうなるのか,ということを思い知らせてくれるような演奏でした。エンディングでは,ますますスピードが遅くなり,「芸術は爆発だ」(ちょっと古かったか?)という感じで,OEKと山下さんががっぷり四つに組んだまま終わります。

お客さんは大喜びで,当然,アンコールが演奏されました。この演奏がまた見事でした。前田憲男さん編曲によるアイ・ガット・リズムが演奏されたのですが,こちらの方は一貫して推進力のあるノリの良い演奏でした。前田憲男さんは,来年2月のF公演に原信夫とシャープス&フラッツと共に登場しますが,大いに期待できそうです。

というわけで,今回の演奏会は,何といっても山下さんの演奏に尽きるのですが,あまりにも個性的な演奏だったので,私などは「普通のラプソディ・イン・ブルーも聞いてみたいな」と思ってしまいました。それほど,OEKの軽くて明るい響きはガーシュインにふさわしいものでした。(2002/06/11)