オーケストラ・アンサンブル金沢第123回定期公演PH
02/6/28 石川県立音楽堂コンサートホール

1)ルーセル/小管弦楽のための協奏曲
2)ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
3)レスピーギ/組曲「鳥」
4)ビゼー/交響曲第1番ハ長調
5)(アンコール)シャブリエ/田園組曲〜第1曲牧歌
●演奏
ジャン=ピエール・ヴァレーズ/Oens金沢,児玉桃(Pf*2)
アビゲイル・ヤング(コンサート・マスター)
三善晃(プレトーク)
Review by管理人hs 六兼屋さんの感想七尾の住人さんの感想かきもとさんの感想
1年ちょっとぶりにヴァレーズさん指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏を聞きました。ヴァレーズさんは,前のプリンシパル・ゲスト・コンダクターでしたが,音楽堂に登場するのは今回が初めてです。今回はフランス,イタリアの作曲家の作品ばかりでまとめたヴァレーズさんらしいプログラムとなりました。プレトークは,やはりフランス音楽につながりのあるOEKの現コンポーザー・イン・レジデンスの三善晃さんが担当されました(話の半分ぐらいは,秋にOEKが初演する新作についてだったのですが...)。

最初は,ルーセルの小管弦楽のための協奏曲でした。この曲は三善さんの話によると演奏されるのが非常に珍しい曲とのことでしたが,OEKはロジェ・ブトリーさんの指揮で一度演奏しています(そんなに昔ではありません)。ちょっととっつきにくい感じの曲なのですが,タイトルどおり,いろいろな楽器がソロで出てきます。演奏会場が違ったせいか,以前聞いたときよりも響きがまとまった感じに聞こえました。テンポも落ち着いた感じでした。

次の曲は,OEKが過去に何度も取り上げている,ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調でした。今回のソロは児玉桃さんでした。この曲は,生で聴くと非常に映える曲ですが(ラヴェルの曲はみんなそうかもしれませんが),今回も色彩的な響きを堪能できました。冒頭のムチの音は,非常に大きく,びっくりするくらいでした。続いて出てくるピッコロの音も非常に明確で最初からとても華やかな雰囲気でした。テンポはややゆっくり目だったと思うのですが,そのせいか,各楽器の響きが非常にしっかりと聞こえ,ルーセルに続いて(それ以上に?)「管弦楽のための協奏曲」といった趣きになっていました。楽章後半のハープ,ホルン(すごい高音)なども味のある見事な演奏でした。弦楽器の響きが薄い分,管楽器がより色彩的に響いており,ラテン系というかスペイン風の熱いけれども爽やか,といった雰囲気がよく出ていました。楽章最後の盛り上がりも大太鼓がビシっと決まり,非常に華やかでした。

児玉さんのピアノはそれほど目立つ感じではなく,オーケストラとのバランスがとても良かったと思います。それでいて,児玉さんの個性も感じました。淡々と軽く弾いているのですが,メカニカルな冷たさはなく,速いパッセージの弾き方などには聞く人を引き付けるような個性的な表情がありました。第2楽章の最初の部分は,そういった児玉さんの魅力が出ていたと思います。ベタベタとした感じはないけれども,微妙なニュアンスがついており,この曲の雰囲気にぴったりでした。楽章後半のイングリッシュ・ホルンはエキストラの方が演奏していましたが(今回は水谷さんはお休みでした),とても素直な感じの演奏だったと思います。

第3楽章の冒頭は,ちょっと混乱した感じになりました。どうなったのかよくわからなかったのですが,指揮者のテンポ感が遅かったのか,トランペットの出るタイミングが合わなかった感じで,音の方もちょっと抜けていたようでした。ドキリとしたのですが,演奏者の方はもっと緊張したことでしょう。この日のヴァレーズさんのテンポは,遅めだったのですが,そのせいか,合わせにくそうな部分が他にもあったような気がしました。ただし,このラヴェルについては,児玉さんの雰囲気の感じからして,遅めのテンポ感が合っていたので,この部分だけが惜しかった気がしました(だけど,こういうトラブルも含めて私は,ライブが好きですね)。

後半最初はレスピーギの「鳥」でした。この曲は,編成的にはOEKにぴったりで(ハープとチェレスタが入りますが),レスピーギのオーケストレーションの面白さを味わうことができました。組曲ということで,曲全体としての聞きごたえ感は少ないのですが,どの曲もとても面白い響きがしていました。物理的に離れた場所にある楽器間の音のやりとりなどを聞いていると,ステージ上を鳥が飛び交っているようでした。「ピーターと狼」では,「鳥=フルート」ですが,それだけではなく,ホルンが長い旋律を演奏したり,弦楽器の微妙な音で鳩の鳴き声風の響きを出したりと多彩な響きを楽しめました。後半の曲に出てくるチェレスタの音も非常に効果的でした。この辺のアレンジは,現代の映画音楽などに影響を与えているのではないか,と思いました。いずれにしても,各楽器の技が冴えているほど楽しめる曲です。その点,OEKの各奏者の演奏は申し分なかったと思いました。

最後は,OEKが何回も演奏している,ビゼーの交響曲でした(調べてみると,ヴァレーズさんは2000年10月の定期公演でもこの曲を演奏しています)。ただし,この日の演奏は,OEKにしては,ちょっと面白みが欠けるような気がしました。第1楽章は,がっちりとまとまってはいましたが,こじんまりと型にはまっているような印象で,意外性がありませんでした。第4楽章も余裕のある無理のない演奏でした。ヴァレーズさんはヴァイオリニストですので,弦楽器の無窮動風のテーマなどについては美しく演奏できないようなテンポ設定はしなかったのだと思いますが,少々安全運転かな,という気がしました(遅いテンポというわけでもないのですが...)。その一方,第2楽章は非常に聞きごたえがありました。加納さんのオーボエのソロには常に余裕があり,透明感のある非常に美しさと哀愁の漂う演奏となっていました。それに続く,弦楽器のカンタービレにも,ラテン的な血を感じさせるような熱がこもっていました。この日の演奏は,レコーディングをしていたようですが,その辺が少々硬い演奏になっていたのかもしれません。

アンコールは,初めて聞く曲でした。いきなり,トライアングルのソロが始まり,思わず聞き耳を立ててしまいました。とても雰囲気のある曲で,何という曲だろうと思いながら帰りに出口の張り紙を見ると,シャブリエの田園組曲の中の1曲ということでした。実は,前回ヴァレーズさんがビゼーを取り上げたときのアンコール曲もこの同じ組曲の中の曲でした。その時も,面白い曲だな,と思った記憶があります。そのうち,この組曲全曲を取り上げてもらいたいものだ,と思いました。(2002/06/28)

Review by六兼屋さん
ヴァレーズさんは、OEKに来る指揮者の中で一番好きになれない人でしたが、今回は意図をオケに汲んでもらえて、真価発揮という感じでした。「ワタシ的には」評価一転という感じです。

管理人様おっしゃいますように、メインのビゼーは響きが堅い(硬いというよりは堅い)部分も多かった。しかし、これが指揮者の意図ではないかと思うわけで、弦はかっちりと、管は対照的にしっとりと。私個人の好みとしては、弦にももっと柔らかく弾むような弓の動きを期待したいところでしたが、響きがしっかりしていることに、好感を持ちました。

レスピーギでも弦と管を同じ様に鳴らし分け、弦には古楽器がやるような奏法も少々。それにしても後半2曲での管楽器は魅力的でした。

プログラム前半の2曲に対するヴァレーズ氏のアプローチには私が従来より好きになれなかった一面も見えるように思いました。ルーセルは未消化だったんじゃないかと、、、。ラベルはそんなことはなかったのですが、ソリストはあのテンポで良かったのかなあ、と思いました。

私は今回の成功について、コンマスのヤングさんの貢献が大きいのではないかと、推測します。まだ何度も聞いているとは言えませんが、彼女が登板するときは、満足度が高いのです。

管理人様、七尾の住人様、また音楽堂でお会いしましょう。休憩時間に、「今のどうでした?」と互いに聞き合う(そしてネットで語り合う)仲間が増えると良いですね。(2002/06/29)

Review by七尾の住人さん
私は昨日のコンサートは、なんと言ってもラヴェルのピアノ協奏曲でした。

クラシックは中学生の時から聴き始めたんですが、何せ小遣いは限られています。ですから、聴いた曲というのもそんなに多くなく、おまけに孝行になると他の音楽に興味を持つようになり、そちらの方をよく聴くようになったので、クラシックはあまり聴かなくなってしまいました。

ですから大学生で東京にいた時に、サントリーホールなどもうちょっとクラシックのコンサートへ行けばよかったなぁと今更ながら後悔しております。まぁどちらにしろあまりお金がなく行けなかったかもしれませんが・・・

ということで、そんなにたくさんの曲を聴き込んできているわけではありませんので、OEKの定期演奏会などで初めて聴く曲も多かったりします。

昨日の曲も全部そうでした。児玉さんのオケに溶け込むようなピアノ。特に第2楽章は、こんな優しい(ちょっと表現しづらい)音楽があったのかとの驚きを隠せませんでした。とにかく私はこの第2楽章に圧倒されてしまい、あとはもう何を聴いても上の空みたいな状態に陥ってしまいました。

ライブですから色々な事が起きるわけですが、編集に編集を重ねたCDよりも、ライブでしか起こりえないマジックを求めて、これからもせっせとコンサート通いをします。(2002/06/29)

Review byかきもとさん
フランスものでいつも華やかな演奏を聴かせてくれた前首席客演指揮者ジャン・ピエール・ヴァレース氏の退任をとても残念に思っていただけに、今回の演奏会は大いに期待して出かけました。

結果から言うと、既に管理人さんも述べておられるように、やや消化不良というか、いつものヴァレース氏ならばOEKからもっときらきらとした輝かしい音色を引き出していたのに、ちょっとあてが外れたなというのが正直な感想です。

このところPHシリーズのコンサートは聴く者のハートを揺さぶるような、OEK史上に長く残りそうな名演(キタエンコ氏のショスタコヴィッチやアッカルド氏のベートーヴェンなど)が続いていたのですが、今回は聴いていて終始体温は上がらないままでした。

それでも、児玉さんの奏でるラヴェルのピアノ協奏曲の第2楽章では、エキストラ奏者のイングリッシュホルンとのかけ合いが不思議な美しさを醸し出していましたし、レスピーギの『鳥』もCDなどで聴くよりは、実際に鳥の鳴き声を模したメロディをやりとりしている楽器の様子がよく分かるし、いつもながら見事なOEKの管楽器群の音色に酔うこともできました。

プログラム最後のビゼーの交響曲第1番も小気味よい演奏で、OEKのサイズとフレキシビリティ豊かな機動性にベストマッチの曲であることを再認識しました。今回はオーボエの水谷さんはお休みで、第2楽章の実に息の長いオーボエソロを加納さんが担当していましたが、すっきりと美しい音色で魅了してくれました。演奏終了後のカーテンコールの際も(緞帳はありませんが)、ヴァレース氏が真っ先に指名して起立をうながし、会場からも団員の皆さんからもひときわ大きな拍手を受けておられました。第3、第4楽章も小回りの利くOEKの機動性が遺憾なく発揮された一気呵成の演奏でした。

このように、1曲ごとの感想を書き出すと素晴らしい演奏であることには間違いはないのですが、ヴァレース氏ならもうひとつ上を行く味付けが欲しかったな、というのが全体を通じての感想です。最後にアンコールで演奏されたシャブリエは初めて聴く曲でしたが、実にしゃれた曲で、こんな曲を知ることができたことは、なかなかの儲けものだと思いました。クラシックはまだまだ奥が深いですね。(2002/06/29)