朝日親子サマーコンサート
2002/08/04 石川県立音楽堂

1)三善晃(倉知竜也編曲)/風のとおりみち
2)サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン
3)(アンコール)パガニーニ/カプリース〜24番
4)グリーグ/組曲「ホルベアの時代より」op.40〜前奏曲,ガボット,リゴドン
5)プロコフィエフ/音楽物語「ピーターとおおかみ」op.67
6)(アンコール)ガーシュイン(天沼裕子編曲)/サマー・タイム
●演奏
関谷弘志/OEns金沢(1-2,4-6)
木嶋真優(Vn*2,3),OEKエンジェルコーラス(合唱指揮:篠原陽子,清水史津)(1)
江戸家小猫(語り*5),塚本くみ子(司会)

Review by管理人hs
私の子供が描いたこの日の様子です。我が子ながら,とてもよく描けています。
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)では,8月に子供向けの(そして子供が参加する)演奏会をいくつか行なうのが恒例になっています。毎年8月の第1週には「朝日親子サマーコンサート」が行なわれています。石川県立音楽堂が完成してからは初めての演奏会ということになりますが,今年からこのコンサートに毎年出演していた児童合唱団の名前が少し変更になりました。昨年までは,「朝日エンジェルコーラス」という名前だったのが,今年からは「OEKエンジェルコーラス」となりました。従来は,「サマーコンサートのためのコーラス」という位置づけだったのですが,OEK専属児童合唱団に名称変更することにより,活動の場を広げていくようです。事実,8月後半のジョイント・コンサート,9月の定期公演,10月の「トスカ」,11月のロイヤルコンセルトヘボウのマーラーの交響曲第3番への出演と,OEK合唱団なみのハードなスケジュールになります。

実は,この児童合唱団に私の子供も今年から参加しています。今年度から学校が週休2日になったので,週末の1日ぐらい合唱の練習に行くのも良いだろうと思い,参加させることにしました(今年の冬にエンジェルコーラスの演奏を聞いて,子供自身「楽しそうだ」と思ったことが本当のきっかけです。親としては楽器代がかからないのが良いですね)。

今回,OEKエンジェルコーラスが歌ったのは,三善晃作曲の「風のとおりみち」という合唱組曲でした。本来,この曲はピアノ伴奏の曲なのですが,今回は,倉知竜也さんがオーケストラ伴奏用に編曲したもので演奏されました。オーケストラ伴奏版での演奏は今回が初演ということになります。まず,オーケストラが入ってくる前に,児童合唱団がゾロゾロとステージ奥の段の上に入ってきました。客席には,我が子の姿を見ようという親・友人の姿が多く,手を振ったりしている姿が見られました。ステージ衣装は,白いシャツにバンダナということで,なかなか爽やかにきまっていました。人数は約70名ということで,ステージ奥はかなり窮屈そうでしたが,子供ばかりなので,圧迫感はありませんでした。

三善さんのこの合唱組曲は,谷川俊太郎さんの詩と三善さん自身の詩に曲をつけたものです。言葉遊び的な歌詞にわらべ歌を意識したような,素朴な音楽が付いており,とても親しみやすい曲です。今回,倉知竜也さんのオーケストレーションによって,おとぎ話的な世界からファンタジーの世界へと雰囲気が広がり,さらに親しみやすくなっていたような気がしました(これを機会に原曲の方も聞いてみたいものです)。児童合唱とオーケストラのための曲というのがどれだけあるのか知らないのですが,これからも,OEKエンジェルコーラスのレパートリーとして再演していって欲しい曲だと思いました。

我が子が参加している児童合唱については,あまり冷静に聴けなかったのですが,子供らしい無邪気さは良く出ていたと思いました。低学年が中心となっていた高音部の声質については,合唱団の声というよりは,ただの子供の声という感じでしたが,こういう曲には相応しいと思いました。最後の「かぞえうた」は,歌っているうちに,段々と子供が,袖に引っ込んでいき,最後は数人だけになって,フェードアウトしていく,という趣向でした(この前のOEKの定期で聴いたばかりのハイドンの「告別」を思い出してしまいました)。子供たちは,かなり高い台の上に乗っていたので,引っ込むときにかなりバタバタした感じになったのが残念でしたが,子供の遊びの終わりを巧く表現した面白い終わり方だなと思いました。

続いて,若手ヴァイオリニストの木嶋真優さんの独奏でツィゴイネルワイゼンが演奏されました。木嶋さんの演奏は,昨年のいしかわミュージックアカデミーのフェローシップコンサートで聞いたことがあります。その時の演奏が大変見事だったので,今回の演奏にも期待していたのですが,ちょっと調子が悪かったようでした。ツィゴイネルワイゼンについては,先週,五嶋みどりさんの物凄い演奏を聞いたばかりだったので,不利だったかもしれません。最初の音はとても滑らかだったのですが,全体にテンポが落ち着かず,オーケストラとの息の合い方が今ひとつでした。中間の弱音器をつけて演奏する辺りは,はかなげな感じがあり,独特の味があったのですが,最後のテンポが上がる部分は,かなり雑でした。元々合わせるのが難しい曲だと思うのですが,間近で見たせいか,結構ひやひやしました。アンコールとして,パガニーニのカプリース第24番が演奏されましたが,こちらもまだ練習中のような感じでした。木嶋さんは,現在ドイツ留学中(ザハール・ブロン氏に師事しているようです)ということですが,今から演奏活動を派手に行なうよりは,慌てることなく,若いうちにじっくりと勉強しておいた方が良いのではないかという気がしました。

後半は,今回のメインプログラムである,「ピーターとおおかみ」が演奏されました。その前に,弦楽合奏のみでグリーグの「ホルベアの時代より」の中の3曲が演奏されました。この曲は,とても爽やかな印象を残す曲で,まさにOEK向けの曲でした。新古典派風の響きは,暑苦しい夏を乗り切るのに最適でした。そのうち,全曲を定期公演で聴くことができるのではないかと思います。

最後に江戸家小猫さんが登場し,「ピーターとおおかみ」が演奏されました。「ピーターとおおかみ」を生で聴くのは初めてのことだったのですが,これほど楽しめるとは思いませんでした。何と言っても江戸家小猫さんの芸の素晴らしさに引き付けられました。子供を意識した語りでしたが,「おかあさんといっしょ」風ではなかったので,大人でも十分楽しめる内容でした。

「ピーターとおおかみ」が演奏される前に,小猫さんによる「動物鳴き真似リクエストコーナー」があったのですが,これでまず盛り上げてくれました。子供たちが「スズメ」「トラ」...などと何でもかんでも鳴き真似のリクエストをし,小猫さんがこれに次々と解説付きで答えていくというものです。あまりに巧く真似をするので,子供たちの「ハイ,ハイ」と挙手をする数がドンドン増えていき,最後の方には3階席(ここには出番が終わったエンジェルコーラスがいたはず)からも「イルカ」などと訳のわからないリクエストが出てきたりしていました。この日は,その他にも「メジロ」「オオルリ」など結構渋いリクエストが多く,私が聞いても似ているのかよくわからないものがあったのですが,そういう難題にもちゃんと答えていたのもさすがでした。相当研究を積んでいるのだと思います。

というわけで,ここまでで,会場と小猫さんとの一体感は完全にできていました。この辺の雰囲気の作り方は,まさに「プロの芸人」という感じですね。小猫さんは,この曲を何回も取り上げているのか,台本など全く見ず,アドリブでしゃべっているような自在な語りでした。気取ったところはなく,ソフトで明るい雰囲気が会場に広がりました。

「ピーターとおおかみ」は,お決まりの楽器紹介から始まりました。小猫さんの声帯模写による小鳥,猫,あひると各楽器による演奏とがうまく対比されていました。小猫さんの物真似と楽器演奏とが,絶対にダブラないようになっていたのでもさすがでした。この曲は,登場人物のモチーフを演奏するのは,ホルン三重奏を除くと各楽器1人なので,意外に小さい編成のオーケストラでも対応可能だということがわかりました。

曲が始まると,小猫さんはナレーションだけではなく,ちょっとした動作も付けていました。この動作が,音にぴったりとあっているのが見事でした。「縄をスルスル下ろしました」「狼がもがいています」という動作にあわせてちゃんとそういう音楽が付いていることが大変よく分かりました。プロコフィエフの音による描写力は大したものです。時折,「蛙も鳴いています」とか「おじいさんの真似をするときは,しゃべりながら顔を振ると良い」とか脱線をしていたのも面白かったですね。

関谷さんの指揮は,大変まじめで,プロコフィエフの新鮮な音楽を鮮やかに再現していました。小猫さんとの息もぴったりでした。「ピーターとおおかみ」は,CDなどではあまり聴く気のしない曲ですが,見事な語りと見事な演奏を生で聴くととても楽しめることがわかりました。近年,「絵本の読み聞かせは子供の想像力形成に良い影響を与える」というようなことをよく聞きますが,この日の演奏を聴いていると,「そのとおりかも」と感じました。プロのオーケストラとプロの芸人による大掛かりで贅沢な「絵本読み聞かせ」を堪能できました。

最後に天沼裕子さん編曲のガーシュイン作曲サマータイムがアンコールとして演奏されました。少々意外な選曲でしたが,ジャズのテイストを十分に取り込んだ,トランペットとトロンボーンのソロを聴くことができ,聞き応えがありました。

この日は,北陸朝日放送の女性アナウンサーが司会をしていましたが,あまりクラシック音楽の演奏会の雰囲気に慣れていない方らしく,進行がスムーズではありませんでした(最後の曲の後にお話をする必要はなかったと思います)。エンジェルコーラス同様,初々しい感じの方でしたが,あまり無理して仕切り過ぎない方が良かったかなという気がしました。

演奏会の後,エンジェルコーラスの子供たちは,ロビーで”ごほうび”を貰っていました。プロのオーケストラと共演するという貴重な体験ができたことは,とてもよい夏休みの思い出になったと思います。子供の頃に歌った曲は,一生忘れないと思います。子供の心の中には,「くーりのーみ,なーった」という旋律がしっかり刻み込まれたことでしょう。(2002/08/05)