Ensemble Archi第3回演奏会 2002/08/21 旧東京音楽大学奏楽堂 1)ヴィヴァルディ/合奏曲集「四季」〜「春」 2)ヴィヴァルディ/合奏曲集「四季」〜「夏」 3)ヴィヴァルディ/合奏曲集「四季」〜「秋」 4)ヴィヴァルディ/合奏曲集「四季」〜「冬」 5)グリーグ/2つの悲しい旋律,op.34 6)レスピーギ/リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲 7)(アンコール)ヴェルディ(編曲者不明)/歌劇「アイーダ」〜凱旋行進曲 8)(アンコール)モンティ/チャールダッシュ 9)(アンコール)マスカーニ(編曲者不明)/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」〜間奏曲 ●演奏 西田博(Vn*8,9)/Ensemble Archi 芝田祥子(Vn*1),鈴木麻美(Vn*2),坂井理恵(Vn*3),三谷恵理(Vn*4)
奏楽堂は,明治23年に建てられた木造建築で,国の重要文化財に指定されています。東京芸術大学の前身の東京音楽学校の施設で,滝廉太郎,山田耕筰なども演奏を行なったという由緒あるステージです。昭和末期に今の場所に移され,内装なども改修されたようですが,レトロな雰囲気はちゃんと残っています。金沢の建物で言うと旧制四高(現在は石川近代文学館)のような雰囲気の廊下を歩き,階段を上ったところにホールはあります。天井にはシャンデリアがあり,小さいパイプオルガンも付いています。外で鳴く虫の音がかすかに聞こえてきたりするのも味があります(ということは,外からも聞こえる?)。 このホールが完全に満席になりました(500人は入らないと思いますが)。立見の人もかなりいました。客席にはちょうど良い感じの勾配がついており,ステージは,見下ろす形になります。大変見やすいホールだと思いました。ただし,音響は,最近の音楽専用ホールに比べるとかなりデッドでした。 団員はステージ奥の小さな扉から登場してきました。この団体は,武蔵野音楽大学の卒業生が集まった弦楽オーケストラで,人数的にはオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の弦楽セクションとほぼ同じぐらいです。卒業生といっても,卒業3年目の人たちが集まっており,学生オーケストラのような若々しい雰囲気がありました。90%以上が女性で,男性は低音楽器に数人いた程度でした。 まず,最初はヴィヴァルディの「四季」でした。この曲は,4つの協奏曲からなる協奏曲集なのですが,各曲のソロを別々の女性が担当していたのが,面白い点でした。全員がこの団体の奏者だという点が,この団体のレベルの高さを示しています。「春,夏,秋...」と1曲終わるたびに拍手が入り,別のソリストと交代していましたが,何となく「イス取りゲーム」を見るような感じでした。 オーケストラのアンサンブルはとても整っており,まさに「合奏」という感じでした。ただし,全般に「合わせるのが目的」という雰囲気があり,スリルのようなものはあまり感じませんでした。演奏の解釈も強弱のメリハリはついているのですが,何となく慎重な感じで重く感じました。やはり,団員の自発性のようなものが,もっともっと必要なのだと思います。バロック音楽にしては,ヴィヴラートが多かったのも,重く感じた理由かもしれません。ソリストの方は,それぞれに綺麗に弾いていたのですが,ホールがデッドだったので,細かい粗が目立ちやすかったかもしれません。ただし,「冬」のソロの三谷さんは,トリを務めただけあって,大変こなれた演奏になっていました(この方は,後半ではコンサートミストレスを務めていました)。バックの方も冒頭の「ザッ,ザッ,ザッ,ザッ...」というクレッシェンドからしてピッタリで,聴いていてゾクゾクしました。冬の2楽章の有名な旋律も非常に美しく演奏されていました。3楽章の切れ味鋭い終わり方も見事でした。 後半の最初はグリーグの2つの小品でした。このうち「過ぎた春」の方は,アンコールなどでもよく聞く曲なのですが,もう一つの「胸の痛手」という曲は初めて聴く曲でした。あまり印象に残らなかったのですが,タイトルの割り(?)には穏やかな感じの曲だったからかもしれません。「過ぎた春」の方は,最後の方に出てくる,高音で弾いた後,スパッと切れる部分が強い印象を残してくれましたが,反面,この部分だけちょっと唐突に出てきたような印象も受けました。 最後のレスピーギは,いちばん聴き応えがありました。第1曲は,とても美しく新鮮な響きで始まりましたが,組曲が進むにつれて,段々とシリアスな雰囲気になってきました。有名なシチリアーナは,もう少し軽い感じの演奏が多いのですが,この日の演奏は,かなり重い表現でした。ちょっとしつこいかなという気もしましたが,念を押すような情感の込め方には迫力がありました。最後のパッサカリアは,この重い表現がピッタリでした。全曲を締めるだけの充実感がありました。この団体は,指揮者の西田さんの解釈のせいか,全体に重い感じがあると思いました。テンポも所々,ぐっと念を押すような感じになるのが特徴です。レスピーギには,その良い面が出ていたと思いました。 アンコールは3曲演奏されました。1曲目は意表を突いて,ワールドカップサッカーでおなじみになった「アイーダの凱旋行進曲」でした。弦楽器だけの演奏はとても爽やかで,「こういうのもいいな」と感じました。ただし,終わり方が「チャン,チャン」と取って付けたような感じだったのが残念でした(オペラの一部の曲なので,切り取るのが難しいのだと思います。)。 続いて,指揮の西田さんがヴァイオリンを持って登場しました。この方は,東京交響楽団のコンサートマスターを務められていた方で,現在は武蔵野音楽大学の講師など多彩な音楽活動をされています。この曲の演奏は,技巧を見せつけつつ,足を踏み鳴らしたり,最後にはちょっとジャンプしたり,とサービス満点の演奏でした。音もちょっと渋めで,ジプシー音楽に相応しいものがありました。自在なテンポ感は,若い人には中々真似のできないものだと思います。 3曲目は,西田さんがコンサートマスター役になって演奏しました。こちらの方は,先生だけちょっと先走っているように聞こえました。「若い者に負けるわけにはいかん」という感じがあって,何となく微笑ましく感じました。 演奏会が終わって外に出てみると,空気は,すっかり秋のような肌触りになっていました。かすかに聞こえる虫の音も涼しげでした。建物も雰囲気があったし,その中で聴いた演奏も充実したものだったので,帰りの足取りは,疲れていたにも関わらず軽いものになりました。(2002/08/23) 【付録】JR上野駅〜上野公園〜本郷付近の写真集 JR上野駅から本郷まで歩きながら撮影した写真です。
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