2002いしかわミュージックアカデミー:オーケストラコンサート 2002/08/26 石川県立音楽堂コンサートホール 1)ヴィヴァルディ/4つのヴァイオリンのための協奏曲ロ短調,op.3-10 2)モーツァルト/ピアノ協奏曲第9番変ホ長調,K.271「ジュノム」 3)シューベルト/交響曲第8番ト短調,D.759「未完成」 4)モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調,K.216 ●演奏 原田幸一郎/Oens金沢 木嶋真優,ファン・モンラ,高橋紘子,ミン=ジュン・ス(Vn*1),チョン=モ・カン(Pf*2),チョーリャン・リン(Vn*4) 松井直(コンサートマスター)
このオーケストラコンサートに出かけてきました。このアカデミーは,ボランティアの人が運営のお手伝いをしているのも特徴です。演奏会場入口のチケットのモギリなどもTシャツを着たボランティアの人たちが担当していました。受講生らしき若い人も多かったのですが,夏休みということもあって子供の姿も非常に目立ちました。会場に入っただけで「夏休み気分」に浸れました。 最初に演奏されたのはヴィヴァルディの4つのヴァイオリンのための協奏曲でした。先に「講師がソリストとして登場する演奏会」と書いたのですが,この曲のソリストは,受講生の方でした。ただし,受講生といっても,全員マスタークラスの受講生で,すでに世界各地のコンクールでの入賞歴がある方ばかりでした。ファン・モンラさんは,仙台国際音楽コンクールで1位を受賞しています。木嶋さんは先日のOEKの演奏会にもソリストとして登場しています。高橋さんはヴィエニャフスキ国際コンクールで第3位になっています。というわけで,限りなくプロに近い受講生ばかりということになります。 この曲はもっとこじんまりとした編成で演奏するのかな,と思ったのですが意外に大きめの編成でした。伴奏は弦楽器だけなのですが,OEKの方はちょっと編成を少なくしているだけでした。そのせいか,とても華やかな雰囲気のある演奏になっていました。全体のバランスが悪くなることはなかったのですが,各ソリストが競い合うようにソロを取り,静かな熱気を含んだような演奏になっていました。ソロの違いはよくわからなかったのですが,遠くから見た感じでは,黒一点(黒い服を着ていました)のファン・モンラさんがいちばんバリバリ弾いているようで,力強さを感じました。 続いては,講師のチョン=モ・カンさんがソリストとして登場しました。この方の名前を聞くのは初めてです。この曲は,モーツァルトの初期のピアノ協奏曲ですが,ギャラントで可愛らしい雰囲気というよりは,もっとアダルトな雰囲気のある演奏でした。堅固な技巧,余裕のある粒立ちの良い音が見事で,冷たく光るような美しさがありました。最初の楽章などは,何となく愛想のない演奏かなという気がしたのですが,楽章を追うごとに,堅固な雰囲気が迫力になってきました。特に技巧的にも華やかな感じのある第3楽章は冴えに冴えていました。会場では,この方の演奏する平均率クラヴィーア曲集のCDを売っていましたが,バッハを弾いても良いだろうな,と感じました(このCDは買っていませんが)。OEKもとても念の入った伴奏でした。我が家にあるこの曲のCDでは「タタタタ」とひと続きで演奏するようなところを,「タラ,タラ」といった感じで短く区切る感じで演奏しており,とても丁寧な演奏に聞こえました(楽譜のことはよくわからずに書いているのですが)。 後半の最初は,シューベルトの未完成交響曲でした。この曲は,OEKが取り上げる機会が意外に少ない曲です(トロンボーンが3本必要になるからだと思います)。私自身,とても好きな曲なので,あまり聞き過ぎて飽きないように気をつけている曲です(ちょっと屈折した心理です)。その効果(?)があったのか,とても新鮮味のある演奏になっていました。 まず,楽器のバランスがとても良いと思いました。第1主題の管楽器の響きが,一つの楽器で演奏しているかのように自然に感じました。チェロによる第2主題のとてもさっぱりした響きや,続く第1ヴァイオリンの微妙なニュアンスのついた美しさはさすがOEKという感じでした。原田さんは,毎年このアカデミーの時にOEKを指揮しているのですが,その結びつきの強さの結果が現れているのだと思います。テンポも妥当で,所々力感のある響きが効果的に決まっていました。第1楽章最後は,クレッシェンドではなく,アクセントで終わる感じで,ぴしっと引き締まった印象を残してくれました。 第2楽章も同様の素晴らしさがありました。オーボエはこのところエキストラの方が演奏しているのですが(今回はお二人ともエキストラでした。ちなみに他のパートもエキストラがかなり多かったようです),とてもはかなげな感じでいつもとはちょっと違った味があると思いました。第1ヴァイオリンは第1楽章以上に天国的な響きを作っていました。そんなに変わったことをしているわけではないのですが,じっくり聞かせてくれました。シューベルトの特質とOEKの特質とがとてもよく合っているのだろうと思いました。 最後にモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番が演奏されました。少々不思議なプログラミングですが,独奏者のチョーリャン・リンさんに敬意を表してのことだと思います。この曲は,実は24日に生を聴いたばかりだったのですが(その時は第1,3楽章のみ),その時の音大生の演奏に比べると,演奏に自在さがあり,聴き応えがありました。ただし,個人的にはあまりピンとこない演奏でした。リンさんの音は,とてもしっかりとした強い音なのですが,私には聴いているうち疲れてくるような音に聞こえました。決して慌てているわけではないのですが,前へ前へという積極性が常に感じられるのも,少々しつこく思えました。音も意外に通らない気がしました。とはいえ,第2楽章のカデンツァなど,じっくりと聞かせてくれる部分はさすがです。ぐいぐいと引っ張るような積極的な演奏は,また別の曲で聞いてみたいかなという気がしました。 いしかわミュージックアカデミーは講習会であると同時に,豪華なゲスト演奏家を集中的に聴くことのできる機会ともいえます。金沢市民にも「夏の恒例行事」として徐々に浸透しつつあるようです。(2002/08/27) |