2002いしかわミュージックアカデミー:5周年ガラコンサート
2002/08/28 石川県立音楽堂コンサートホール

1)メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第1番ニ短調,op.49
2)チャイコフスキー/弦楽六重奏曲ニ短調,op.70「フィレンツェの思い出」
3)ブラームス/ピアノ四重奏曲第3番ハ短調,op.60
●演奏
竹澤恭子(Vn*1),ザハール・ブロン,ナムユン・キム(Vn*2),,チョーリャン・リン(Vn*3),松実健太(Vla*2),原田幸一郎(Vla*2,3),ルドヴィート・カンタ(Vc*1*2),毛利伯郎(Vc*2),ジャン・ワン(Vc*3),植田克己(Pf*1),パスカル・ロジェ(Pf*3)
Review by管理人hs
この日は仕事が長引き,前半の途中からしか聞けなかったのですが,豪華な演奏者による室内楽ということで,頑張って出かけてきました(チケットは無料でもらったものだったのですが)。慌てて会場に入ってみると,7時30分ぐらいでした。当然,1曲目が終わるまでドアの外で待たされることになりましたが,お陰で演奏中ホールの外はどうなっているかということを知ることができました。これまで音楽堂での演奏会で,遅刻したことはなかったので,貴重な経験をすることができました。

演奏中は,クローク横とカフェコンチェルト横のモニターにステージの様子が映し出されています。音声の方は,ホール中に(トイレにも)鳴り響いていました。生演奏の空気までは伝わりませんが,遅刻しても演奏の概要はかなり分かると思います。今回は,1曲目のメンデルスゾーンの三重奏曲の3〜4楽章が映っていました。竹澤恭子さんが協奏曲を演奏するのは以前聞いたことはあるのですが,室内楽を演奏するのは聞いたことがなかったので,この演奏は是非聞いてみたかったのですが,演奏後のカーテンコールを見られただけで良しとしなければならないでしょう。

2曲目は,チャイコフスキーの「フィレンツェの思い出」でした。この曲は弦楽六重奏なのですが,曲の作りは「第1ヴァイオリン対その他5人」という感じでした。この日の第1ヴァイオリンはザハール・ブロンさんだったのですが,この方が弾くと本当に「1対5」という感じになっていました。非常にアグレッシブな演奏でした。ブロンさんと他の5人が対決しているようでもあるし,ブロンさんに触発されて皆燃えているようでもありました。第1楽章や第4楽章の最後などは,非常にスリリングでした。この曲は「どこがフィレンツェ?」「「モスクワの思い出」の方が良いのでは?」という曲なのですが(2楽章の最初の方は「何となくイタリアかな」という気はしますが),ブロンさんの演奏だとその辺のスラブっぽさがより強く出ていました。洗練されているというよりは泥臭い感じの演奏で,好みが分かれたかもしれませんが,こういう熱いヴァイオリンは中々聞けるものではないと思います。

後半は,ブラームスのピアノ四重奏曲第3番でした。初めて聴く曲だったのですが,前の曲とは正反対の雰囲気のある曲でした。こちらの方は,全員が主役のような曲であり演奏でした。ソリスト集団によるプロの室内楽を堪能できましたが,中でも,ヴァイオリンとヴィオラの息の合わせ方が見事でした。リンさんと原田さんは,ものすごく近い距離で,ぴたりと音の動きを合わせていました。日常的に一緒に室内楽をされている人たちではないと思うのですが,本当によく息があっていました。リンさんは,この前のモーツァルトよりも,シリアスな雰囲気のあるブラームスの方がよく合っていたような気がしました。

第3楽章の始めの部分でのチェロの美しさも印象的でした。昨年のこの時期にジャン・ワンさんの演奏で,ブラームスのチェロ・ソナタを聴いて感激した記憶があるのですが,その時の演奏を思い出しました。ワンさんの,強く引き締まり,内容がぎっしり詰まったような音色は,ブラームスの室内楽にはとても相応しいものがありました。ロジェさんのピアノは,とても美しい音色でしたが,目立ちすぎることなく,曲全体を控え目ながらもしっかりと支えていました。

この演奏は,ドイツ人が一人もいないブラームスでした。それにも関わらず「本物を聞いた!」という充実感が残りました。各楽器の響き自体は重苦しくはないのですが,真剣勝負をしているような緊張感が漂い,内面に向かって思索を深めていくような趣きがありました。ヴィオラの原田さんが丁度真ん中におり,アンサンブルの面でも核になっていたような気がしましたが,この辺に素晴らしさの秘密があったような気がしました。原田さんがヴィオラを弾いているのは初めて見ましたが,室内楽の極意を知り尽くした方なのだな,という気がしました。

この日の演奏会で,今年のいしかわミュージックアカデミーはおしまいです。子供たちの夏休みもほとんど終わりです。演奏後は,盛大な拍手が長く長く続いていました。何か夏の終わりを名残惜しんでいるようでもありました。

(余談)この日は,座席をきちんと選ぶ時間がなかったので,1階の前の方に座ってみたのですが,この辺りは結構ステージが見難いことがわかりました。1階前方は平べったくなっているので,前の座席の人の座高が高いとかなりストレスがたまると思います。ただし,大ホールでの室内楽は,広い空間にたっぷりと音が響いてなかなか良い味がありました。(2002/08/29)