オーケストラ・アンサンブル金沢第126回定期公演PH
2002/9/8 石川県立音楽堂コンサートホール

1)チャイコフスキー/弦楽のためのセレナード,op.48
2)松村禎三/ゲッセマネの夜に(2001年度委嘱作品・世界初演)
3)三善晃/3つのイメージ:童声・混声合唱とオーケストラのための(詩:谷川俊太郎)(2002年度委嘱作品・世界初演)
4)プロコフィエフ/古典交響曲ニ長調,op.25
5)(アンコール)グルック/ミュゼット
●演奏
岩城宏之/Oens金沢
木村かをり(Pf*3),Oens金沢Cho(合唱指揮:佐々木正利)(3),Oens金沢エンジェルCho
マイケル・ダウス(コンサート・マスター)
三善晃,松村禎三,岩城宏之(トーク)

Review by管理人hs 七尾の住人さんの感想かきもとさんの感想
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2002年秋のシーズンの最初の定期公演は,音楽監督の岩城宏之さんの指揮による新作2曲とOEK十八番の2曲からなるプログラムでした。新作の方は,2001年のコンポーザー・イン・レジデンスの松村禎三と2002年のコンポーザー・イン・レジデンスの三善晃さんの曲が演奏されました。岩城さんは9月6日に古希の誕生日を迎えられたばかりですが,新作に対する意欲は相変わらずです。金沢の定期公演の聴衆は新作の演奏に対する抵抗感は全然なく(と思うのですが),どちらの作品に対しても大きな拍手が贈られていました。

この日の演奏会は,2曲の新曲をOEKお得意の作品2曲で挟む形になっていました。最初に演奏されたのはチャイコフスキーの弦楽セレナードでした。荘重な出だしからして非常に迫力があり,最初から最後まで安心して聴けるような立派な演奏になっていました。OEKの弦楽セクションの音は,音楽堂で演奏するようになってますます磨きが掛かってきていますが,このチャイコフスキーの音色からは,超一流の輝きのようなものを感じました。ダウスさんの率いる第1ヴァイオリンも素晴らしかったのですが,対抗するように出てくるカンタさんの率いるチェロ・パートも素晴らしい音を出していました。

第1楽章は豪華な響きがする一方で,何ともいえない哀愁も漂っていました。これ見よがしではないエネルギーが全曲に漲っているのも素晴らしい点です。第2楽章は,滑らかな面の上を氷が滑っていくような自然な流れがありました。何も余計な力が加わっていない,とても気持ちの良い演奏でした。第3楽章は,いつくしむような暖かさが溢れていました。室内オーケストラならではのインティメートな雰囲気がよく出ていました。第4楽章の最初の部分は非常に繊細な感じでしたが,主部に入ると確固としたリズム感で演奏されており,岩城さんらしいなと思いました。全体に楽章間のインターバルを短めに取り,一気に聞かせてくれる演奏になっていました。そのせいで曲全体が大きな塊となり,聴きごたえたっぷりの音楽になっていました。

続いて,松村禎三さんの新曲が演奏されました。松村さんは,2001年のコンポーザー・イン・レジデンスだったので,この曲はもっと早く初演されるはずだったと思うのですが,いろいろな事情があり,今回演奏されることになったようです。岩城さんと松村さんによるトークによると(今回は新曲が演奏される前に2人の作曲家がステージに登場し,岩城さんと対談をしました),この曲のタイトルは,ほんの数日前に「深い夜のために」というものから,今のタイトルに変更になったようです。松村さんは,楽譜をよく改訂される方だという話を聞いたことがあるのですが,今回も初演のギリギリまで粘った(?)ようです。

この作品は,ジオットの宗教画のイメージを音楽にしたものです。イエスとイエスを裏切ることになるユダが向かい合っている有名な作品にインスパイアされて作られた曲ということで,常にドラマをはらんだような暗めの響きが印象的でした。最初は静かな雰囲気で始まり,次第に金管楽器が強い響きを聞かせたりして,重厚に盛り上がってきます。再び,室内楽的な雰囲気になって終わるのですが,要所要所で出てくる,ヴァイオリン,チェロ,クラリネットなどのソリスティックな音の動きが,この絵の登場人物の心の動きを反映しているようでした。そういう意味で演劇的な雰囲気のある曲だと思いました。松村さんは,大編成の曲を得意としており,2管編成の曲を作るのは大変苦労されたそうです。2管編成でありながら,非常にスケールの大きな響きを作っていたのは流石だなと思いました。

後半最初の三善晃さんの曲は,児童合唱と混声合唱とオーケストラのための曲でした。こういう組み合わせの新作をOEKが演奏するのは初めてのことかもしれません。この三善さんの作品ですが,非常にインパクトの強い作品でした。「3つのイメージ」というタイトルは抽象的なのですが,これは谷川俊太郎さんのがつけた詩のタイトルをそのまま使ったものです。この「3つのイメージ」を具体的にいうと,「火」「水」「人間」のイメージということになります。戦争・自然災害・環境破壊などいろいろな矛盾に溢れた世界。その中で生きて行かざるを得ない人間というものに対するメッセージが音として伝わってくるような作品となっていました。歌詞の最後は「問いかけを贈る」となっているとおり,聴く人それぞれが矛盾に対する答を考えないといけないのですが,その根底には,人間に対する信頼と愛と希望があると感じました。

この曲では,「火」「水」「人間」といった単語が掛け声のように連呼されます。「ヒ,ヒ,ヒ...」「ミズ,ミズ,ミズ...」という感じです。この連呼が児童合唱から出てきたり,大人の合唱から出てきたりと,複雑に音が飛び回ります。変拍子が多く,合唱団は非常に長い練習をこの曲のために行なってきました(特に直前1週間は連日特訓をしたようです)。その成果がとてもよく表れていたと思います。エンジェルコーラスの低学年は,この複雑な曲を丸ごと暗譜しており,岩城さんからも誉められていました(岩城さんは,この曲を東京でも演奏したいとおっしゃっていましたが,「その時はエンジェルコーラスを連れて行かないと演奏できない」と言っていました。それほど,練習に時間のかかる曲だということだと思います)。

最初の「火」の部分は,野性的な雰囲気がありました。エンジェルコーラスの声は時々,オーケストラの音に消されてしまいそうな感じでしたが,そのはかなさが,かえって「頑張れ」と,応援したくなるような感じになっていました(自分の子が参加していたせいかもしれませんが)。三善さんがこの曲に児童合唱を加えたのは,この頼りなげだけれども根源的な強さを持つ純粋な響きを求めていたからだと思います。曲の最後の方でアドリブ風に大人の合唱がごちゃごちゃ歌った後,「あなたにそのようなイメージを贈る」という歌がスッと児童合唱で出てくると,未来への希望のようなものをそこはかとなく感じてしまいました。いずれにしても,この曲は児童合唱を加えた点が大きな特徴となっていました。大人の合唱の方は,特に女声の豊かな響きが印象に残りました。子供の声に対して,その親の世代のイメージを持って聞いてしまいました。各イメージの間は,木村かをりさんのピアノがソリスティックに活躍していました。硬質な響きが合唱と好対照を作っていました。オーケストラの演奏では,打楽器の強奏がドラマティックな雰囲気を盛り上げていました。

現代音楽については難解なイメージがあり,なかなかとっつきにくいのですが,今回のような現代的な歌詞が付いていると,文字通り「イメージ」を膨らませてくれます。この曲は,歌詞と音の効果とがとてもうまく結びついた傑作だったのではないかと思いました。

三善さんの曲には,かわいらしいエンジェルコーラスが登場したこともあり,曲の後には,盛大な拍手が続きました。この演奏会のクライマックスは,この辺にあったような感じでしたが,その後,この曲のイメージを壊さないような感じで,OEKお得意の古典交響曲が演奏されました。普通に考えると,最後の曲にしては軽すぎるのですが,この配列は,絶妙だったと思います。三善さんの曲の余韻と古典交響曲の爽快さがうまく共存していたと思います。

古典交響曲の演奏は,弦楽セレナード同様,非常に安定感のあるものでした。ここでも冒頭の第1音からして大変よく鳴っていました。全体にゆっくり目のテンポで非常に明確に演奏されていました。遅くなってももたれることがないのは,秘めたエネルギーが溢れていることと,室内オーケストラの小編成のメリットによるものでしょう。手慣れているけれども充実した演奏になっていました。第4楽章は,一転して軽やかなテンポになっていました。自由自在な浮遊感と余裕の感じられる演奏で,この曲に相応しいエンディングになっていました。

アンコールは,岩城さんがよく取り上げるグルックのミュゼットでした。これもさらりとした感触の演奏で,すっきりと演奏会全体を締めてくれました。

この日は演奏会の後,ロビーで作曲家のお二人,岩城さん,合唱団関係者,OEK団員などが集まって,簡単な打ち上げをしていました。合唱曲の場合,地元の人が沢山関わりますので,三善さんの曲については「金沢で生まれた曲だ」という実感をいつもよりも強く持つことができました。私の子供も,ジュースで乾杯に参加してきました。後で尋ねてみると「岩城さんと乾杯した」などと言っていました。三善先生からサインをもらっている子供たちもいたりして,3人のおじいさん(?)と沢山の孫の集まりみたいななごやかな会になったようです。

この演奏会ですが,そのうち北陸朝日放送で放送されそうです。どの曲かはわかりませんが,NHK-FMでも放送され,CD録音もされたそうです。まさにマルチメディアで収録された演奏会でした。(2002/09/09)

Review by七尾の住人さん
私も「三つのイメージ」の印象が強かったです。

エンジェルコーラスの方は入って来るなりかわいらしいという印象で、お辞儀をするのも子どもらしくてよかったですよね。合唱も子どもらしい所も合ったんですが、それよりもドキッとするような合唱を聴かせてくれた印象が強いです。

アンコールの前か後か忘れましたが、演奏が終わった時、岩城さんが「どうだ!!!」というようなポーズを見せたのが印象的でした。個人的には今回も大変楽しめた演奏会でした。

さて、この定演が終わってすぐに、私は地下の交流ホールで行われるレクチャーコンサートの方に駆け込みました。ちょうど定演が終わるのを見計らっていたのか駆けつけてしばらくしてからの開演でした。

去年亡くなった元ビートルズのジョージ・ハリソンの影響でこのコンサートを聴きに行ったのですが、シタールとタンブラーの独特の響きに改めて驚きました。これについてはまた後ほどでも書き込みします。ます。(2002/09/08)

Review byかきもとさん
9月になりアンサンブル金沢も新しいシーズンに入りましたね。邦人作曲家による新作2曲とお得意のチャイコフスキー、プロコフィエフをひっさげての岩城さんによる演奏会。アンサンブル金沢の最も基本的なプログラム構成だったように思います。

『三つのイメージ』にエンジェルコーラスは見事でした。曲の最初がアカペラで始まるのに、途中から入ってきたオケとぴたりと音程が合っていましたね。小さい子は小学校1年生くらいではないでしょうか?チャイコフスキーの弦楽セレナードも小編成ならではの透明度の高い、それでいて水際だったアンサンブルの光った相変わらずの名演でした。プロコフィエフも曲が短くてもうおしまいか?と残念に思うほど堂に入った演奏でした。

アンコールを含めてカーテンコールがずいぶん短くて少々驚きました。もっと惜しみなく拍手を送りたい観客が多かったと思うのですが。終演後ロビーや百番街近辺でエンジェルコーラスとして出演したらしい子どもをつれた親子の姿を何組かお見かけしました。あの中に管理人さんもいたのかななんて思いました。(2002/09/08)