ザ・サンライズ・クヮルテット室内楽の夕べ
オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽アートホールシリーズ
2002/09/18 金沢市アートホール

ハイドン/弦楽四重奏曲第76番ニ短調,op.76-2「五度」
ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第8番ハ短調,op.110
ハイドン/弦楽四重奏曲第77番ハ長調,op.76-3「皇帝」
●演奏
サンライズQ(マイケル・ダウス,坂本久仁雄(Vn),石黒靖典(Vla),大澤明(Vc))

Review by管理人hs
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の男性弦楽器奏者4人からなるザ・サンライズ・クワルテットの活動もすっかり定着してきました。毎年9月の中旬に金沢市アートホールで行なわれている演奏会も定期公演のような感じで5年以上続いています。

会場は金沢市アートホールでした。このホールで聞く室内楽は音がダイレクトに伝わって来るのでいつも満足できるのですが,この日の演奏会も聞き応えのあるものとなっていました。ただし,プログラムに変更があったのは残念でした。実はこの日は当初ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲も演奏される予定だったのですが,ハイドンの曲に変更になりました。9月12〜16日のOEKの演奏旅行では,キャンセルになったクレーメルさんに代わりマイケル・ダウスさんがソロを務めたのですが,そのことによってサンライズ・クワルテットの練習時間が足りなくなってしまったとのことでした(演奏直前にチェロの大澤さんから”お詫び”のアナウンスがありました。それだけベートーヴェンの曲は大変な曲と言えそうです。)。私自身,このベートーヴェンの曲を目当てに出かけたようなところもあったので非常に残念だったのですが,これは十分に練習をされた上でのお楽しみにしたいと思います。それにしてもクレーメルさんのキャンセルはいろんなところに影響があったようですね。

前半の1曲目は,ベートーヴェンから変更されて演奏されたハイドンの弦楽四重奏曲「五度」でした。この曲は,完全にサンライズ・クワルテットのレパートリーになっている曲でCD録音もされています。モーツァルトの交響曲第40番あたりを思わせるように,短調でハッとさせるような感じで曲が始まるのが印象的です。こういう所を聞くと「室内楽はいいな」と感じます。主旋律は第1ヴァイオリンのダウスさんが演奏することが多く,その美音が目立ちました。所々,見得を切るようにテンポを遅くするところがあったり,軽くポルタメントを掛けたりしていましたが,全体としては爽快にまとまっていました。

2曲目のショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は,この日のプログラムの中ではいちばんインパクトがありました。弦楽四重奏の醍醐味を味あわせてくれるような曲だと思います。演奏の方もハイドン以上によく練られた演奏でした。作曲された時代の違いにもよると思うのですが,こちらは全員が主役のような演奏で,4人が一丸となった迫力は生演奏ならではのものがありました。曲は5楽章からなっており,アーチを形作るようにシンメトリカルな構成になっています。自由に演奏しているようで,しっかりとした形式があるのも曲のまとまりのよさの理由だと思います。曲は,とても静かな雰囲気で始まります。不気味な感じなのですが,それでも情の温かみのようなものを感じさせてくれるのが良いと思いました。続く第2楽章は曲全体のヤマ場の一つです。素晴らしいスピード感,唸るような強靭な音,4人が一体となった若々しい迫力など非常に魅力的な演奏でした。

その後に続く楽章でも,チャプリンの白黒映画などを思い出させるようなとぼけた味があったり,弱音器を付けたくすんだ音が出てきたり多彩な世界が広がりました。最後の方では,警鐘を鳴らすような不気味な音型を何回も鳴らしつつ,徐々に穏やかな世界に入って行きます。この曲の暗く悲しみに満ちた部分や激しい表現は,ショスタコーヴィチが生きたソ連という国と密接なつながりがあると思うのですが,ふと昨日来ニュースになっている北朝鮮という国のことなどを連想してしまいました。二律背反する内容を含んだ音楽なので一筋縄では行かない音楽なのかもしれませんが,サンライズ・クワルテットの演奏からは,根底に人間の情の暖かさのようなものを感じました。確かに暗いけれども聴いていて絶望的な気分にならない点が,昨日,今日あたりの日本人の心境には相応しいと感じました。

後半は,ハイドンの皇帝でした。この曲もCDに録音済で,これも彼らの手のうちに入ったレパートリーです。ショスタコーヴィチと並べると,曲の押し出しが弱く感じてしまうのですが,古典派の音楽のきっちりと形が整った感じも別の魅力があります。この曲は,第2楽章の変奏が有名ですが,とてものんびりした感じで何となく和んでしまいました。

演奏後はかなり長く拍手が続いたのですが,結局アンコールはありませんでした。今年の冬に行われた彼らの演奏会のときもアンコールなしだったので,これはサンライズ・クワルテットの方針のようです。アンコールを演奏することには功罪の両面があり,私もどちらかというと「定期公演でなし」というのが良いと思うのですが,ちょっと物足りなく感じた人もいたかもしれません。この団体の固定ファンも出てきていると思うので,「アンコールなし」というのもこれからは定着して来るのではないかと思います。

(余談)OEKを「モーニング娘。」に例えれば,サンライズは,4人組ということもあり「ミニモニ」ということになりそうです。つんくプロデューサは,グループ内の小さなユニットを競わせてファミリー全体の活性化を図っていますが,この発想はOEKにも当てはめることができそうです。サンライズの他にもいろいろ,ユニットを作り,「OEKファミリー大集合」みたいな演奏会があっても面白いかな,と思ったりしました。(2002/09/19)