オーケストラ・アンサンブル金沢第127回定期公演F
2002/09/21 石川県立音楽堂コンサートホール
1)パート.L.(前田憲男編曲)/007メドレー
2)レノン,J.,マッカトニー,P.(服部克久編曲)/イエスタディ
3)マクレーン,D作詞作曲(前田憲男編曲)/アンド・アイ・ラヴ・ユー・ソー
4)アンカ,P,カーン,S作詞,カラヴェリ,ジョルダン,J./レット・ミー・トライ・アゲイン
5)川口真編曲/懐かしのカーペンターズメドレー(スーパースター,トップ・オブ・ザ・ワールド,イエスタデイ・ワンスモア)
6)ラプス,J./シング
7)アンカ,P.作詞,レヴォー,J.,フランソワ/マイ・ウェイ
8)岩谷時子作詞,弾厚作(榊原栄編曲)/君といつまでも
9)弾厚作作詞・作曲(榊原栄編曲)/ある日渚に
10)岩谷時子作詞,弾厚作(榊原栄編曲)/旅人よ
11)ルグラン(前田憲男編曲)/シェルブールの雨傘
12)岩谷時子作詞,弾厚作(前田憲男編曲)/蒼い星くず
13)岩谷時子作詞,弾厚作(前田憲男編曲)/夜空の星
14)マンシーニ(前田憲男編曲)/ムーン・リヴァー,シャレード(メドレー)
15)谷村新司代表作詞,弾厚作(榊原栄編曲)/サライ
16)岩谷時子作詞,弾厚作(前田憲男編曲)/僕の妹に
17)岩谷時子作詞,弾厚作(前田憲男編曲)/海 その愛
18)(アンコール)岩谷時子作詞,弾厚作(編曲者不明)/お嫁においで
●演奏
加山雄三(Vo*3,4,6-10,12-13,15-18,エレキギター*12,13,Pf*17)
水木ひろし/Oens金沢,マイケル・ダウス(Vn*11)
マイケル・ダウス(コンサートマスター)

Review by管理人hs
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演ファンタジーシリーズの今回のゲストは加山雄三さんでした。実はこの演奏会にはそれほど期待していなかったのですが,期待をはるかに上回るとても良いコンサートになりました。これまでのファンタジー・シリーズの中でいちばんだったかもしれません。加山さんのおなじみの歌唱スタイルを聞いて「生の若大将だ!」というミーハーな感動がまずあったのですが,ステージマナーやトークも本当に素晴らしく,あっという間に時間が過ぎました。加山さんのトークは「今晩は加山雄三です。」という最初の挨拶からして非常に爽やかなのですが,それに貫禄が加わり,安心感の漂うステージでした。後半では,エレキギター演奏,ピアノ演奏も登場し,「若大将のすべて」を堪能したという満足感がありました。

この日の指揮は,2回目の登場となる「水木ひろし」さんでした。まず,挨拶がわりに非常にパワフルに「007メドレー」が演奏されました。この日のOEKのメンバーは,クレーメルが登場するはずだった演奏会とほぼ同じメンバーにトロンボーンやチューバが増強された豪華編成でした。ドラムには,デイヴィッド・ジョーンズさんが参加していたのもパワフルだった一因だったと思います(PAも使っていました)。この「007」は,メドレーということだったのですが,このシリーズ自体あまり見たことがないので,私には1曲のように聞こえました。有名な冒頭のテーマは知っているのですが,このシリーズの他の作品のテーマもこのテーマのヴァリエーションのような感じの曲が多いのかもしれません。

曲の後,「水木ひろし」さんから,「水木ひろし」を知らない人のための自己紹介がありました。続いて,OEKのみでイエスタディが演奏された後(何となくリチャード・クレーダーマン風「イエスタデイ」という感じでした),いよいよ加山さんの登場です。曲の前奏が始まり,スポット・ライトが下手入口に当たると,黒いタキシードを着た加山さんが入ってきました。今回の演奏会では,前奏が流れた後,加山さんが袖から登場するという形が多かったのですが,こういうスタイルは加山さんにぴったりです。ここで歌われた「アンド・アイ・ラヴ・ユー・ソー」と「レット・ミー・トライ・アゲイン」はそれぞれペリー・コモとフランク・シナトラの曲です。どちらも,本家そのままにおおらかに貫禄たっぷりに歌われました。加山さんは,特にペリー・コモと親交が厚く,とても尊敬されているようでした。

OEKのみでカーペンターズ・メドレーが演奏された後,そのつながりで「シング」が歌われました。この曲もペリー・コモとの思い出の曲のようです。前半最後は,おなじみの「マイ・ウェイ」でした。この曲を歌ったときのシナトラは,55歳だったそうですが,現在の加山さんは,実はそのシナトラよりも10歳も年上とのことでした(自ら,「もう「ジジ大将」です」とおっしゃってましたが,外見はまだまだ「若大将」です)。そういうつもりで,この曲を聴くと非常に味わい深いものがあります。

前半は,英語の歌詞のスタンダード・ナンバーが続いたのですが,後半は,弾厚作(=加山雄三)の作品が続きました。まず,加山さんの代表曲中の代表曲といえる「君といつまでも」が演奏されました。実は,この曲は私自身の結婚式で歌わされた思い出があります(「時間調整(!)のため,新郎に1曲歌っていただきましょう」と勝手に司会者から指名されたのです。新郎がカラオケを歌う披露宴というのはかなり珍しいと思います。)。というわけで,「しあわせだなぁ」のセリフ部分に注目したのですが,以前の語りからマイナー・チェンジされた語り口になっていました。私の記憶では,「ぼかぁ」と言っているのかと思っていたのですが,ちゃんと「僕は」と言っていました。もったいぶり方はそのままですが,照れて言う語りというよりは,何となく可愛らしい感じのする語りだと思いました。最後の「いいだろ?」はとても小声でソフトでした。その後,トークなしで「ある日渚に」(これもセリフ入り),「旅人よ」と続けて歌われました。「旅人よ」は,テンポをゆっくり目に取って,曲をいとおしむような感じでした。水木さん指揮OEKの伴奏の方もそういう感じをうまく盛り上げていました。

続いて,マイケル・ダウスさんのヴァイオリン・ソロをフィーチャーした「シェルブールの雨傘」がOEKだけで演奏されました。PAを使っていたので,ソロが非常にクローズアップされて聞こえました。

次のステージでは,加山さんはエレキギターを持って登場しました。服装も海をイメージさせるような紺色のジャケットでした。加山さんが「さきほどは「ジジ大将」などと言いましたが...やはり,まだまだ「若大将」もやりたいので...」と言って水色のエレキギターを持ってノリノリの2曲が演奏されました。とても60歳を越えた方には思えない雰囲気がありました。曲の後にギターを横にずらす仕草はエルヴィス・プレスリーの真似だと思うのですが,何となく楽しそうで見ているだけで嬉しくなりました。加山さんは全部で474曲も作曲しているそうですが,その作品1にあたるのが51年も前に作られた「夜空の星」だそうです。加山さんの曲は覚えやすい曲が多いのですが,この最初の作品のスタイルがずっと一貫しているのだな,と思いました。

OEKの演奏でムーン・リヴァーとシャレードのメドレーが演奏された後,最後のステージになりました。加山さんは白いタキシードに着替えてきました。「サライ」は谷村新司代表作詞ということですが,曲の方も谷村新司の「昴」と似た感じの曲でした。「僕の妹に」に続いて,最後に歌われた「海 その愛」では,加山さんのピアノ演奏も聞くことができました。いきなりピアノの方に向かい,弾き語りで歌い始め,2番の歌詞からだんだんオーケストラ加わってくる構成になっていました。恐らく,加山さんのコンサートの最後で歌われることが多い曲なのだと思います。曲の最後の方では,再度マイクを持って立ち上がりました。歌が終わったところで,加山さんが両手を広げると,会場が拍手が沸き起こり,見事に演奏会全体が締まりました。加山さんは,拍手の受け方が非常に上手な歌手だと思いました。

当然,盛大なカーテンコールがあり,アンコールが演奏されました。曲目は「お嫁においで」でした。この曲はまさにアンコール向けの曲で,会場からは自然と手拍子が起きました。水木さんも途中で指揮台を降り,舞台袖で一緒に手拍子をしていました。オーケストラのパーカッションの人が楽しげにマラカスを振っているのを見ていると,何となくカラオケボックスに置いてあるマラカスを思い出してしまいました。その隣にいた,チューバの人もとても楽しそうに手拍子をしていました。加山さんは,ステージ上をあちこち動き,目の会ったお客さんに軽く手を振って回っていたのですが,次第に手を振るお客さんも増えてきて,最後の方は大変な盛り上がりになりました。

拍手は盛大で,アンコールはどれだけでも続けられそうなくらいだったのですが,この1曲で終わったのも,さっぱりしていて良かったと思います。OEKのみの演奏と加山さんの曲とのバランスも良かったし,トークも長すぎず短すぎずで丁度良いものでした。いわゆるクラシック音楽が1曲も入らない定期公演というのも大胆なのですが,徹底して加山さんの盛り上げ役に徹したのが今回の成功のいちばんの理由だと思います。加山さんも水木さんもお客さんもOEKも大満足の演奏会だったのではないかと思いました。(2002/09/21)