オーケストラ・アンサンブル金沢第129回定期公演M
2002/10/13 石川県立音楽堂コンサートホール

外山雄三/管弦楽のためのディヴェルティメント
徳山美奈子/交響的素描:加賀と能登の歌による(委嘱作品・世界初演)
西村朗/鳥のヘテロフォニー(1993年委嘱作品)
ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調,op.93
(アンコール)シューベルト/劇音楽「ロザムンデ」〜間奏曲第3番
●演奏
岩城宏之/Oens金沢
アビゲール・ヤング(コンサート・マスター)
岩城宏之(トーク)

Review by管理人hs 七尾の住人さんの感想六兼屋さんの感想

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は10月下旬に日中国交正常化30周年記念行事として中国公演を行ないます。この日の演奏会は,その壮行会的な内容となりました。前半3曲は中国公演で演奏する曲,後半はベートーヴェンの交響曲第8番(中国公演では第3番「英雄」と第7番を演奏します。)ということで,この日はソリストなしの演奏会になりました。プログラムには音楽監督の岩城さんの名前だけしか書いてありませんでしたが,意外に珍しいケースかもしれません。その分,岩城さんのトークが曲中に沢山挟まれました。

最初のディヴェルティメントは,1962年に岩城さんが外山雄三さんに作曲を委嘱した作品です。岩城さんは,外山さんにお金を払った覚えはないそうですが,「これだけ何度も演奏していれば,十分でしょう」とのことです。この曲は,岩城さんがはじめて海外のオーケストラを指揮したときに取り上げた曲だそうです。海外では特に人気のある曲で,それ以来,40年も演奏し続けていることになります。岩城さんには特に愛着のある曲のようです。

曲は,おなじみの「管弦楽のためのラプソディ」と似た発想・構成の曲です。「ラプソディ第2番」と言っても良いかもしれません。ノリの良い民謡やしっとりと聞かせる民謡などをかなり生に近い形で曲の中に散りばめ,「日本人なら血が騒ぐ」という感じの曲です。ホルンやフルートなど楽器の使用法もラプソディと似たところがあります。違うのは3つの楽章に分かれている点です。ただし,ラプソディの方も楽章には分かれてはいないものの3つの部分に分かれますので,構成も同じということになります。

曲は,力強いホルンの音で「ドンドンパンパン,ドンパンパン」と始まります。その他にもいくつか民謡が出てきますので,初めて聞いた人でも顔がほころんだことでしょう。管楽器のソロも多く,楽章の最後は,フルートがまるで日本の笛のような感じで「ピュー」と吹いて終わります。2楽章は,優しい繊細な弱音にこだわった演奏で,じっくりと聞かせてくれました。最後は,やはりフルートの「ピュー」という音で終わります。3楽章は,お祭り騒ぎのような楽章です。ラプソディの八木節と似ているのですが,何の民謡なのかはわかりません。岩城さんの話によると,「この曲には,外山自身が民謡風に作ったメロディも含まれている」ということだったので,この八木節風メロディは外山さん自身の作曲なのかもしれません。コーダの追い込みでは,アッチェレランドをかけ,低音のビートも良く効いていたので,見事な盛り上がりを築いていました。

続く徳山さんの曲は,この日が世界初演でした。徳山さんの書いたなみはや国体記念作品の「大阪素描」という曲を聞いた岩城さんが,OEKのアンコール・ピースになる曲を書いてほしいと依頼して出来たのが今回の「交響的素描」です。3楽章から成っていますが,どの楽章もアンコールとして使えます。というわけで,外山さんの曲と発想も構成も同じ曲ということになります。ただし,徳山さんの曲の方が,より洗練された雰囲気がありました。外山さんの曲は生に近い素材を食べているような感じがありましたが,徳山さんの方はもう少し,凝った味付けのされた料理のような感じでした。いずれにしても,石川県住民としては「よくぞ作ってくれた」という感じの良くできた作品でした。

特に印象に残ったのは,2楽章と3楽章です。2楽章は山中節が出てくるのですが,オーボエ〜チェロと続くメロディには何ともいえない色気が漂っています。カンタさんの演奏するチェロのソロには,コダーイの無伴奏チェロ・ソナタ(最近,カンタさんがCDを発売しています)を思い出させるような東洋的な味わいがありました。最後の楽章は,打楽器が大活躍します。御陣乗太鼓のノリで書かれており,ティンパニともう一つの小太鼓(?)が掛け合うような感じで進んでいきます。この曲の最後もビートがよく効いており,大いに盛り上がりました。この2つの楽章などは,OEKの国内の演奏旅行などでも使えるのではないかと思いました(石川県民としては,CD録音も欲しいところです。この日もマイクがぶら下がっていたので録音していた可能性もあります)。

前半最後は,西村朗さんの「鳥のヘテロフォニー」でした。この曲も,OEKの委嘱で書かれた曲です。こちらは1993年にOEKによって初演されており,その後も繰り返し演奏されています。岩城さんのお話によるとガムランなどの影響を受けて作られた曲だけあって,この作品はインドネシアで演奏した時に,大ウケだったとのことです。私が前回聞いたときも,「すごい曲だ」と思った記憶があるので,国内でも評価の高い曲なのではないかと思います。

曲は,不思議な響きに溢れています。鳥の鳴き声を表わすような弦楽器のかすれたような響きが点描風にあちこちから出てくる辺りは,生で聞くと非常に効果が上がります。その繰り返しを聞いているうちに段々盛り上がって来て,陶酔的な気分にさせてくれます。中間の静かな部分で出てくるノコギリ(?)で出しているような異次元から聞こえてくるような音も印象的でした。室内オーケストラで演奏しているので,精密な感じはするのですが,スケールの大きさも感じさせてくれる見事な曲です。演奏するのは相当難しそうな曲ですが,OEKのレパートリーとして定着しつつある曲だと思います。

前半の3曲はいずれも現代曲だったのですが,どの曲も分かりやすい曲で,聞く人の耳にグッと迫ってきました(西村さんの曲は分かりやすいというよりは”すごい”という感じの曲でしたが)。いずれも,エネルギーのポテンシャルの高い曲でした。

後半は,ベートーヴェンの交響曲第8番だけでやや短めのプログラムだったのですが,その分,岩城さんの面白いトークが入りました。この曲の2楽章は,メトロノームの音のパロディだということは有名ですが,それに絡めて「ベートーヴェンの速度表示はあてにならない」というお話がありました。今回,面白かったのはベートーヴェンの速度指示どおり弾いたらどれくらいの速さになるかを(ほんの少しづつでしたが)実際にOEKに演奏してもらった点です。第1楽章〜第3楽章は少し早目かなという感じで何とかなるのですが,第4楽章を楽譜の指示どおり演奏するととんでもない速さになる,というのを親切にも聞かせていただきました。何となく,かつて黛敏郎さんが司会をしていた時代の「題名のない音楽会」で取り上げそうなテーマでしたが,この手のネタを集めて,一度,OEK版「題名のない音楽会」でもやってもらいたいものです。

こういうトークが入ったのも,ベートーヴェンの8番がリラックスできる曲だからでしょう。岩城さん自身も「...というわけで,今までの(メトロノームの)話は忘れて,演奏しましょう」という感じですぐに指揮を始めました。

演奏の方も力んだところのない演奏でした。ベートーヴェンの交響曲を演奏する時はいつもコントラバスは3人に増強されるのですが,今回もそのとおりでした。オーケストラを押さえつけるよりは,自発性に任せている感じで,どの楽器も十分に音を鳴らしていました。それでいて要所要所を締めて,流れるだけではなくゴツゴツとした感じも漂わせているあたりは,この組み合わせならではの熟成した味わいです。1楽章はメトロノームの(正確な?)テンポよりはやや遅い感じでしたが,2楽章は指示どおりの快適なテンポでした。リズムを刻む木管の音とその上で歌う弦の音が見事なバランスを作っていました。第3楽章はホルンやクラリネットのソロが夢のような味をうまく出していました。第4楽章は当然メトロノーム表示よりかなり遅いテンポでした。演奏会全体の「締め」の意味もあるので,堂々とした感じの演奏でした。最後の部分でティンパニが少しボリュームを上げ,トランペットが華やかに加わってびしっと締める辺りは本当に手慣れた感じがあり,安心して聞ける演奏となっていました。

最後にシューベルトのロザムンデ間奏曲がアンコールとして演奏されました。これも力の抜けた弱音が美しく,非常に節度のある演奏でした。中間部での木管の響きも相変わらず見事でした。特に加納さんのオーボエの音が鮮やかで印象的でした。

このところ,岩城さんは早目にアンコール曲を演奏してくれるのですが,この日のプログラムのような場合は,その方がさっぱりとした後味が残り良いと思います。中国公演では,恐らく日本の曲がアンコールで演奏されるのだと思いますが,中国でも大きな拍手を受けることでしょう。演奏旅行が成功することを期待しています。

(追記)岩城さんが西村朗さんの作品についてのトークの中で,音楽堂の開演前のベルの話をされていました。「音楽であって音楽でないようなもの」という注文をつけて西村さんに依頼をし,30通りぐらい作ってもらったものの中から現在のものが選ばれたとのことです。あの「不思議な」ベルもすっかり耳になじんできましたが,なじんでしまうと本当に邪魔になりません。難しい注文に応じて作った西村さんの腕はさすがだと思いました。(2002/10/13)

Review by七尾の住人さん
3連休の中日、しかも金沢の街の中では何かいろいろとイベントをしてたみたいですね。金沢駅でも何かしてたみたいで、帰りに百万石博のマスコット(中に人が入ってます)を見かけました。時計台駐車場も屋上まで行かないと空いていないとの表示。今まで休みの日に何度か止めてますが、こんなに混んでいたのは初めてです。まぁ、表示は当てにならないこともありますから満車と出てても途中の階に止めれましたが、それでも混んでいたことには間違いありません。

駐車場がこれだけ混んでるなら今回の定期公演は結構人が入ってるだろうと思って音楽堂へ向かいましたが、いざ始まってみると結構空席があり少々がっかりしました。自分は3階席だったのであまり2階や1階席の様子は見えませんでしたが、おそらく他の方へ人が流れてしまったような感じですね。

さて、話を本題の演奏の方に移しますが、今日は岩城さんのトークも絶好調じゃなかったでしょうか?所々に冗談をまじえながら話をされてました。1曲目の外山雄三さんの「管弦楽のためのディヴェルティメント」を全曲聴くのは初めてだったうえ、解説を前もって読んでなかったので3楽章形式であることも知りませんでした。ですから、今解説を読んでおそらく第2楽章だと思うのですが、チェロが静かにメロディを奏でる所がありましたよね。はっとするような美しさがあり、まさしく絶品でした。

続いての2曲目は、初演の徳山美奈子さんの「交響的素描(加賀と能登のうたによる)」が演奏されました。曲が仕上がっていてから演奏する機会がなく、今まで眠っていたそうですが、確かに1曲目のディヴェルティメントから聴くと全然違和感なくすんなりと入っていくことができました。自分の住んでいる場所でありながら、恥ずかしくもあまり何がどの歌かわからない所もあったのですが、石川の素材を使い立派な曲に仕上げてくれたことは、大変ありがたいです。外国へ行かずとも他の地方であれば、石川を紹介するためのとてもいい楽曲ができたと誇りに思います。

次の3曲目に入る前に、岩城さんの指示でオケが一度引っ込み、その間岩城さんのトークが行われました。管楽器を酷使するので少しの休憩にとおっしゃってましたが、確かにそれもあるでしょうが、どちらも民謡を素材とした曲が続いたので、その流れをいったん断ち切る効果も狙っていたような気がします。西村朗さんの「鳥のヘテロフォニー」はまさに現代音楽そのもので、先の2曲とは大きく性格が異なっていました。しかし、なんと凄い曲だったこと!!!トークにもありましたが、ずっと緊張の連続で頭の中が真っ白になるような、あるいはどこか異次元の世界に連れていかれたような感じになる曲でした。1960年代後半にサイケデリックというものが流行りましたが、まさしくトリップする、そんな感じもあり、曲の随所にいろいろな色が散りばめられていて、かといって滅茶苦茶なものではなく、万華鏡を見るかのように刻々と変化をし続けるような感じです。とにかく凄い!!!画家に喩えるとピカソでしょうか、そんな印象すら抱きました。演奏する方は大変かもしれませんが、ぜひぜひこれからも演奏して欲しい曲です。あまりに感動して気に入りましたので、休憩の時に下のチケットボックスに行き、この曲が入ったCDを買いました。もう興奮のあまりに、です。

そして、休憩の後はベートーヴェンの第8番。演奏の前にベートーヴェンのメトロノームの指示について、岩城さんが話して実際に指示通り演奏したらどうなるかもやってくださり、これもまたとても楽しめました。岩城さんが話の時に使っていた電子メトロノームは見えなかったのではっきりと分かりませんが、おそらく3000円程度のものじゃないでしょうか?今回は話をするために小さなものを使ったのでしょうけど、練習の時もそのメトロノームを使うんでしょうかね?楽器をしていると、昔ながらのカチコチと振り子式のメトロノームよりも電子メトロノームの方が正しいテンポを刻めるような気がするんですが、見やすさでは振り子式ですからね。ところが、振り子式はゼンマイ仕掛けのため、扱いが悪かったりするとリズムがおかしくなりますから困ったものです。

ともあれ、中国公演のため暫く金沢でのOEKの公演はなし。11月のブーニンとの競演まで待たなければいけません。それが寂しく、またとても待ち遠しいです。(2002/10/14)

Review by六兼屋さん
久しぶりにoekを聴くことが出来ました。フィルハーモニーシリーズの9、10月定期とも都合が悪く、聴けませんでした。岩城さんにしては、というのも失礼ですが、アンサンブルが整っていました。いつもは、細かいところはともかく、勢いのある演奏家、という印象を持っています。それでも、プログラムの前半は、今までの岩城さん、後半のベートーヴェンがなかなか整った、しかもそれだけに止まらない名演だったと思いました。リラックスした演奏というのは、私もそう思います。ただ、軽く流した、という感じではありませんでした(この曲には、第5や第7とは違ったベートーヴェンの情熱を感じています)。団員みんなで、一二の三で、充実したふくらみのある音を出すことに成功していたという印象です。

後半でコントラバスが3本になったことを喜んでいます。その代わり、チェロは確か4本でした。ヴィオラ、チェロ5本ずつにコントラバス3本が標準になると良いかと思いますが、そうなるとヴァイオリンも、という事になってしまうのでしょうか。

やっぱり反響板はあそこが良いようですね。ホールの音響も一年経って、随分落ち着いてきました。来年、再来年が楽しみです。(2002/10/14)