3才からのプチコンサート
2002/11/09 石川県立音楽堂交流ホール
バッハ,J.S./「アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帖」〜メヌエットト長調
ドヴォルザーク/ユモレスク
ゴセック/ガヴォット
ジョプリン/ジ・エンターテイナー
バルトーク/ルーマニア民俗舞曲
エルガー/愛のあいさつ
プロコフィエフ/「3つのオレンジへの恋」〜行進曲
グラナドス/スペイン舞曲
モンティ/チャールダッシュ
(アンコール)久石譲/映画「魔女の宅急便」〜海の見える町
●演奏
江原千絵(Vn),木下由香(Pf)
Review by管理人hs
土曜日の昼前の11:00から約1時間,石川県立音楽堂交流ホールで「3才からのプチコンサート」と題する演奏会が行われたので家族で出掛けてきました。この演奏会は,通常の演奏会では入場できない幼児も参加しても良い,という試験的な企画でした。ターゲットは親子連れということですが,「3才からのプチコンサート」というネーミングが消費者心理をくすぐるようなところがあり,その狙いどおり,親子連れのお客さんが大勢入っていました。時間設定にも戦略的なものがあり,丁度お昼前に終わらせて,お隣の全日空ホテル(今回の協賛者です)で食事をしてもらおう,というのが狙いだったようです。

交流ホールは,床の形をいろいろ変えることができるのですが,この日は平面上に椅子を並べる形になっていました。その椅子席の前には,大相撲で言うところの「砂かぶり」があり(江原さん自身「砂かぶりにいる子供たち」と呼び掛けていました),床に敷いてあるマットの上に子供たちが座れるようになっていました。親子並んで床に座るのも良いかなとも思ったのですが,大人と子供が混在する演奏会の場合,座席の問題というのは結構難しい問題だと思います。

今回の演奏会は,子供が飽きないように世界各国の短い曲を並べ,江原さんのお話を交えて進行する形になっていました。プログラムは,カラーで印刷されており,曲名の前に作曲者の生まれた国の旗が書いてあったは良いアイデアでした(子供は国旗が大好きなので,それだけで関心を示します)。それと,江原さんのトークがとてもカジュアルで,演奏会のコンセプトにぴったりでした。江原さん自身,4歳の男の子のお母さんということもあり,子どものあしらいも大変上手でした。

ヴァイオリンの江原さんとピアノの木下さんが,それぞれ赤とクリーム色の鮮やかなドレスで登場すると,会場の雰囲気がちょっと締りました。説明なしでまずバッハのメヌエットが演奏されました。ヴィブラートを抑制したとてもさっぱりとしたセンスの良い演奏でした。他の曲もさらりと演奏されており,聞く方もリラックスして楽しむことができました。

前半は,子供を引きつけるために「この曲知っている?」と子供の好奇心を駆り立てる形で進められました。最初の4曲は,タイトルは知らなくても,どこかで聞いた事があるという曲ばかりで,子供たちも「ハイ,ハイ」と手をあげて,江原さんからの質問に反応していました。

続いて,楽器の説明になりました。この日は,ステージ奥のモニターには曲のイメージに合わせ各国の映像が映し出されていたのですが(宮殿などの画像が多くちょっと区別が付きにくかったのですが),このコーナーでは,ステージ上のカメラで映した画像をそのまま,モニターに映し出していました。これは非常に効果的でした。ヴァイオリンやピアノの構造を大きなモニターで映し,奏者が説明を加える,というのは,大人にとっても興味深いものでした。今後,交流ホールでレクチャーコンサートを行う時は,この機能はとても役立ちそうです。「ヴァイオリンの弦や弓は何でできている?」という質問に対して,「割り箸」「ソーメン」「ゴム」といった子供らしい回答が出て,「子供はそうでなくっちゃ」と江原さんも喜んでいました。

次に演奏されたルーマニア民俗舞曲は,ヴァイオリンの技法を見せるために演奏されました。子供にとってはちょっと歯ごたえのある曲だったようですが,短い中にさまざまな技巧が凝縮されており,大変楽しめました。

最後の4曲は説明なしで,演奏されました。最初から最後まで説明するのではなく,後半は実際の演奏会に近い形にしていたのも良い工夫だと思いました。この辺になると,落ち着きのない子供たちが結構うろうろし始めていましたが,一種の「聴くときのマナー教育」的な意味合いもあったのかもしれません。

今回共演したピアノの木下さんは,以前は若杉さんというお名前だったので,最近結婚されたのだと思います。お二人ともハンガリーに留学をしたことがあるという共通点を持っているのですが,演奏会の最後は,それにちなんでか,ハンガリーのチャールダッシュで結ばれました。華やかな曲なので,演奏会の最後にはふさわしい曲でした。

アンコールには,日本の曲として映画「魔女の宅急便」の中の「海の見える町」という曲が演奏されました。この選曲も良いと思いました。この映画は,女性が自立していく様子を描いていますが,この日の演奏会を聞いたお母さん方も,颯爽とした江原さんを見て「かっこう良いな」と憧れを持ったのではないかと思います。

演奏会の後は,せっかくなので全日空ホテルの1階のレストランで食事をしてきました。ホテルで食事をする場合は,消費税の他に1割のサービス料がかかるので,「コンサートのチケットがあれば1割引」という特典があっても,結局は通常のお店で食べるのと同じことです。それでも,「コンサート→ホテルでお食事」という流れは,リッチな気分が味わえて時には良いものです。まわりを見渡すと,子連れ親子が目立ちました。演奏会の最後に,江原さんが言った「おいしいもの食べさせてもらってね」という一言が,とても効いていたようです(かつて「8時だよ全員集合」で加藤茶が最後に「歯みがいたか?」と言っていたのと同じような効果です。古い話題で失礼しました。)

というわけで,今回の試験的な企画はとてもうまく行ったのではないかと感じました。演奏会のプログラムの間に「アンケート用紙」が挟まっていましたので,いろいろな意見が出てくると思いますが,新たな演奏会の形として今後注目したい演奏会だと思いました。(2002/11/09)