ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団演奏会
2002/11/12 石川県立音楽堂コンサートホール
マーラー/交響曲第3番ニ短調
●演奏
リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウO
ナタリー・シュトゥツマン(A)
Oens金沢Cho,Oens金沢エンジェルCho(合唱指揮:佐々木正利)
Review by管理人hs Pf.さんの感想七尾の住人さんの感想広太家さんの感想
tatsuyatさんの感想さとみさんの感想みなみさんの感想
石川県立音楽堂開館1周年記念シリーズは,今回も素晴らしい演奏会になりました。シリーズ第3弾はリッカルド・シャイー指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏会でした。演奏されたのは,長い曲揃いのマーラーの交響曲の中でもいちばん長い第3番です。恐らく,金沢初演だと思います。今日は夕食抜きで聞きに行ったので,休憩なしで最後まで耐えられるだろうか?とちょっと不安だったのですが,演奏が終わるとすっかり満腹した気分になりました。マーラーの第3交響曲は滅多なことでは聴けない曲ですが,金沢の聴衆にもとても強いインパクトを残してくれたと思います。まさに一つの大きな世界を作っているような凄い曲でした。

音楽堂コンサートホールのステージはそれほど大きくありませんので,大編成のオーケストラが入るとほとんど隙間がなくなります。児童合唱は打楽器の後ろ,大人の女声合唱の方はパイプオルガンの前に並び,上から下まで,右から左までぎっしりという感じでした。それがまた,会場内の熱気を盛り上げていたようでした。

第1楽章は,全曲の中でも特に長い楽章です。シャイーさんは,非常に落ち着いたテンポで振り始めました。いきなりホルン9本のユニゾンというのもインパクトが強いのですが,荒々しい感じはせず,大変よくまとまっていました。その後もしっかりとした足取りで進みます。所々入る”間”も落ち着きを感じさせてくれました。それでいて重苦しい感じはしません。どちらかというと明るく鮮やかな印象を持ちました。すべての楽器の音が積極的に前に出てきて,クリアに響いていました。特に木管楽器群の鮮やかさが印象に残りました。また,チェロとコントラバスの素早く強い音の動きも見事でした。長いトロンボーン・ソロもじっくりと聞かせてくれました。鮮やかだけれども,デジタルな感じにならないのは,このオーケストラの特質だと思います。

呈示部の終わりの方や楽章のコーダなどでは,テンポをぐっと速め,きりっと締める辺りも非常に爽やかでした。楽章の最後では,ホルンがベルアップをしていましたが,こういうのを見るのは演奏会ならではの楽しみです。再現部の直前に「お呼び出ない?」という感じで舞台裏から小太鼓の音が聞こえてくる唐突さにも不思議な味がありました。マーラーの交響曲には,唐突に楽器が出てくる部分が多いのですが,この曲には,特にそういった意外性を味わえる箇所が多いと思いました。その一方,中間部での精密な音の動きには,古典的な感じもありました。本当に変化に富んだ曲です。ティンパニなど打楽器の音は重みのあるもので,オーケストラ全体の響きをとても陰影のあるものにしていました。

第2楽章は,全曲の中では間奏曲のような位置付けだと思います。マーラーの交響曲の中ではメヌエット楽章というのは珍しいと思います。さらりとしているけれども,ここでも鮮やかな色彩感を味わうことができました。

第2楽章が終わったところでアルト歌手が入ってきました。当初は,ミシェル・デ・ヤングという人が歌うはずだったのですが,驚いたことにナタリー・シュトゥツマンさんに変更になっていました。シュトゥツマンさんといえば,現在世界で1,2を争う実力のあるアルト歌手です(実は,よく聞いたことはないのですが...CDの発売点数などから推測しています。)。会場に入ったとき,入口にクレーメルさんの時に見たような張り紙があったので「指揮者が急病?」と一瞬ドキリとしたのですが,こんなビッグな歌手に出会えるとは予想外のことでした。

第3楽章も非常に鮮やかな演奏でした。第2楽章同様,可愛らしい雰囲気で始まるのですが,景色がどんどん変わるような楽しさを感じました。トロンボーンなどが下行音型を弾くところなどは目が覚めるようでした。中間部に出てくるポストホルンの演奏は,本当に見事でした。はじめは音がどこから聞こえてくるのかわからなかったのですが,よく見ると上手の入口が開いており,その向こうに奏者がいたようでした。音色はトランペットのようでしたが,演奏後出てきた奏者を見てみるとちゃんとポストホルンを持っていました。会場全体を陶酔させるような素晴らしさだったのですが,それを打ち破るようにステージ上のトランペットが鳴る遠近感も見事でした。夢から醒めて,パッと現実に戻されたようでした。コーダの盛り上げ方は,ここでも大変鮮やかでした。

第4楽章はシュトゥツマンさんのアルトの独唱が入ります。抑制した感じで歌っていましたが,非常に深い声で,心にしみました。それにしても今回のような,よりビッグな歌手への変更というのは珍しいケースだと思います。やはり,シャイー指揮ロイヤル・コンセルトヘボウだからこそ,急遽登場してくれたのでしょう。伴奏のオーケストラの透明感のある響きもとても良い雰囲気を出していました。

第5楽章。いよいよ,というか,やっと合唱の出番です。ここまでで既に1時間ぐらいは経っていますので,最初からステージに乗っていた合唱団の方々にとっては大変厳しい条件でしたが,見事に歌っていました。OEK合唱団及びエンジェル・コーラスにとっては記念すべき立派な勲章になったと思います。特に小さな子供たちは,打楽器のすぐ後ろという物凄い場所で待ち続け,プレッシャーもあったと思うのですが,よく頑張ったと思います。

神秘的な第4楽章に続いて,鐘の音に乗って「ビム,バム」という声が聞こえてくると,またまた気分が変わり,メルヘンの世界に入った気分になります。この曲は長いけれども,それぞれの楽章に変化があり,退屈することはありません。最初の方は,控え目に歌っている感じでしたが,次第に明るい感じになっていきました。この歌入りの2つの楽章は,独立した曲として突出して聞こえる可能性があるのですが,この日の演奏では,曲全体のバランスからみても,きちんと交響曲の中の楽章として納まっているように聞こえました。シャイーさんのコントロールが見事なのだと思います。

最後の6楽章は,癒しの音楽でした。特に出番の終わった合唱団にとっては夢のように聞こえたのではないかと思います。ここまで,弦楽器は比較的目立たなかったのですが,ここは弦楽器の見せ場でした。ウルウルと来そうな,とても感動的な音楽でした。この楽章も20分以上はかかるのですが,この大曲を締めるにはやはり,これぐらいの長さがないといけない,と聞く方も時間感覚がすっかり麻痺してしまった感じでした。第1楽章を思い出させるようなホルンの響きや,終わりそうで終わらないエンディングを聞いていると,ここまで来たのだから,まだまだ続いて欲しいという気さえしました。ゆっくりと盛り上がっていくスケール感たっぷりの演奏で,非常に聞き応えがありました。シャイーさんは,このエンディングの最後の方でも微妙なニュアンスを付けており,スケールの大きさと精妙さの両面を持った指揮者だと感じました。それにしてもこのオーケストラの特に金管のスタミナはすごいと思いました。第6楽章までで相当エネルギーを使っているはずなのに,最後まで力が衰えることがありませんでした。エンディングで,パワーよりも音のまとまりの美しさを感じさせてくれるあたりもさすがだと思いました。

演奏後は,大変な盛り上がりでした。金沢であれだけブラボーが飛び交うのも珍しいと思います。この曲については,1楽章がやけに長いので,バランスの悪い曲かと思っていたのですが,生で聞くとそんなことは全然感じませんでした。これはシャイーさんの冷静な全体設計によるところもあると思います。シャイーさんの指揮には,濃厚さよりも,爽やかさがあります。とても洗練されているのですが,冷たいところがなく,自然体の伸びやかさを感じさせてくれます。ところどころデフォルメはあっても,全体として健康的で正統的な感じがするのも素晴らしいと思いました。

石川県立音楽堂開館1周年公演シリーズは,お値段も高いのですが,素晴らしい公演が続いています。金沢の音楽ファンは,音楽堂という場が出来て,本当に良かったと実感しているのではないかと思います。(2002/11/13)

Review byPf.さん
●ブラボーの大合唱!!!!!!!!
生の交響曲を始めて聞きました。6楽章まであるので、ずっと緊張して聞き続けるかと不安でしたが、あっという間の演奏でした。6楽章のそれぞれが変化にとんでいて、特に3楽章のホルンの綺麗なパート部分(舞台の右の扉が開いていて、その奥のほうから美しいホルンの音色がきこえてきました。)と独唱と合唱の入るのが私はすばらしいとおもいました。合唱団はオーケストラとピッタリあっていて、気持ちのよい響きでした。休憩のなしのあっという間の演奏会でした。大満足でした。本当に音楽堂ができて、次々と素晴らしい演奏会に出会えてしあわせです。 (2002/11/12)

Review by七尾の住人さん
おそらく自分がマーラーの曲をしっかりと聴いたのが今回が初めてだと思います。どんな音楽がとても楽しみで、コンセルトヘボウの響きもとても楽しみにしていました。唯一の不安はエンジェル・コーラスとアンサンブル金沢合唱団で、世界的名門のオーケストラの前には見劣り(聴き劣り?)してしまうのじゃないかという事でした。

が、結果は管理人さんと同じく、時間がなく夕食抜きで聴きましたが立派な演奏でお腹の方も満足してしまいました。というより、演奏に浸りきってすぐには何も食べる気にならなかったのです。終演後も演奏の興奮がしばらく続いていて、こんな時は何もする気にはなれないのですが、車で七尾まで帰らなければいけません。別世界に連れて行かれたような興奮状態がおさまりきらないままの車の運転には少々の不安が会ったのですが、無事帰りました。到着する頃にはだいぶ落ち着いてきたので、何か食べたくなりコンビニで弁当を買って食べたわけですが、ここで今回の教訓をひとつ・・・

コンサートの前に軽く食事を済ませておく事。

素晴らしい演奏の時は、終演後しばらくはお腹は落ち着いているが、時間がたつと猛烈な空腹に襲われる。軽い食事なら時間が余りない時でも大丈夫だし、何よりもコンサートの前に食べ過ぎると、眠気を誘ったり食べ過ぎでお腹が苦しくなりコンサートどころではなくなる。

と、話が少しそれましたが、ロイヤル・コンセルトヘボウの演奏は、オランダの宝石です。地元の合唱団もその宝石を光り輝かすのに大きな威力を発揮していました。あれだけ素晴らしい合唱になるとは想像していませんでした。また、私は日曜日から音楽堂に連続して出入りしていましたので代役が立つ事は知っていたのですが、そのアルトの人の歌も素晴らしかった。歌っている言葉の意味は分かりませんでしたが、歌声は体や心の芯まで伝わるようで、とても聴き応えのあるものでした。

さて、どの楽章も聴き応えがあり2時間近くの演奏が、全く時間を感じさせずにあっという間に終わったような気がします。個人的には、最終楽章が非常に印象深いです。あの楽章では、まるで異なる世界に連れて行かれたよな、肉体はそこにあるが精神は違う所にあるような感じすら受けました。美しい音楽の中に自分の魂が戯れている、と言ったらいいのでしょうか?こういう時ほど表現し辛く感じる事はありません。演奏が終わって言葉を失ってしまうぐらい自分にとっては凄いものとなりました。

それにしても前回のピヒラーさんのOEKのジュピター、そして今回のコンセルトヘボウの演奏・・・世の中は音楽を色々なジャンルで分けますが、それはただ演奏形態が違うだけで、本質はどんなジャンルであろうとも変わらないという事をつくづく思い知らされました。 (2002/11/13)

Review by広太家さん
●素敵な声のエンジェルコーラス!
張りのある美しい声のエンジェルコーラスが好演でした。安心して見ていられました。勿論、女声もすばらしかったです。

5楽章のビンバンのコーラス以降は、オケの集中力も途切れることなく、聴くほうもどんどん引き込まれてゆき、圧倒的なエンディングを迎えることが出来ました。hsさんがおっしゃられたように、私も腹一杯に満足できたマーラーでした

コンサートが多いと金が続かないので、3階席に座らざるを得ないのですが、上層階のお客さんには、双眼鏡片手に一人で来て楽しんでいる方(私も含む)が見受けられ、1階前列のお客さんには各楽章ごとに拍手される方が結構いました。拍手が大きいとオケの緊張が途切れる?高額席と客層に相関でもあるのでしょうか?(くだらない話でゴメンナサイ) (2002/11/13)

Review by tatsuyatさん
昨年金沢に来たウィーンpoに劣らないほど私の大好きなオーケストラであるアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の公演。コンセルトヘボウを生で聴くのは自分としては今回で3回目の体験となりますが、プログラムがマーラーの3番ということで上京しても聴きたかった演目なので、期待に胸を膨らませて音楽堂に臨みました。

16型のフル編成がステージに並ぶと壮観ですね。ティンパニが3セットも入るような大編成は、石川県立音楽堂では初めてでしょうか?おそらくシャイーと一緒に来日するのは今回で最後になるのではないかと思います。

細かく言うときりが無いので特に印象に残った点を二、三挙げると、第1楽章展開部に入るところの、ウェーベルン以降の音楽を先取りするような非常に斬新な響きの箇所。ここは今回の演奏で初めて意識させられましたが、やはり実演ならではの体験と現代音楽も得意とするシャイーならではの解釈でしょうか。また第1楽章は展開部の終わりあたりやコーダの急激な加速も凄い迫力でしたし、総じてコンセルトヘボウの金管の実力には舌を巻きました。チェロとコントラバスの低音も緊迫感があり、音色も魅力的でした。

第3楽章の舞台裏からのポストホルンも本当にうっとりとしましたが、伴奏のピアニッシモのヴァイオリンが息を飲むぐらい美しく素晴らしかった。

第4楽章はシュトゥッツマンの情感のこもった深々としたアルトもよかったです(歌の内容や雰囲気を考慮してか、声量は抑え気味だったような気がしました)が、合いの手に入るようなオーボエの鳴らし方が独特でちょっと吃驚。

終楽章は、もう涙なしでは語れないくらいの感動的な演奏でしたが、まるで光の泉が溢れて空間に満たされ包まれるような、あの浄化された弦の音色は一生深く心に残ることでしょう。

どのパートも、ソロも含めてとても魅力的で際立ったミスもなく、改めてコンセルトヘボウの底力をまざまざと知らされたような演奏でしたが、殊に今回の公演ではトロンボーンのソロ(プログラムに載っているイヴァン・マイレマンスでしょうか)がブラヴォー!の一言。エンジェル・コーラスとOEK合唱団も、曲の魅力を充分に味わせてくれる出来でした。

全体として、極限までメロディーラインを引き伸ばすようなバーンスタインの晩年のマーラーとは違い、シャイーの旋律の歌わせ方は概ね普通でさほど粘らず適度なものなのですが、思いのほかフレーズとフレーズの間をじっくり取って聴かせる感じで、感情のこもった弱音の美しさや緊張感、トウッティの迫力などのメリハリも申し分なく、他のCD等のマーラーの3番の名演と比べても充分満足できる解釈・演奏だったのではないでしょうか。

人生のこの日に、ここ金沢の地でこのマーラーの3番を聴けたことを心から感謝したくなるような体験。

この公演を実現させてくれた関係者、そしてシャイー/アムステルダム・コンセルトヘボウをはじめとする演奏者にこの場を借りて感謝申し上げます。(2002/11/13)

Review by さとみさ
●本当に幸せな一日
皆様初めまして。OEK合唱団の一員です(アルト広報担当…らしいです)。
しばらくはこの幸福感から抜け出せそうにありません。詳しく書きたいのですが、何からかけば良いやら…。今は、この公演を聞きに来て下さった方、この公演に関わったすべての方に感謝です。(2002/11/14)

Review by みなみさん
hsさん、こんにちわ。みなみです。

> 楽しみを共有すると,さらに楽しみは増す」というのを実感しています。

私が数少ないコンサートホール聴衆だとしても、今回のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、まさしくそうでしたね。

> 特に昨日のような大編成の場合,全体を見渡せる3階の方が良かったかもしれませんね。

1階中央席で聞いた第5楽章だけの直前リハ2回と、3階2列席の本番印象は違っていました。通しを聞いていないため詳細は割愛しますが、フル編成で鳴り響く管楽器には、3階の方が動きも見れてよかったかもしれません。

> 昨年,ウィーン・フィルの時は,ラトルさんのサインをもらってきたのですが,昨日は楽屋口でサイン会はあったのでしょうか?あれだけの演奏だったので,きっと人が集まっていたのではないかと思います。

関係者にシャイーさんはサインはしないと言われながら、幸運にも数人の方はサインをもらっていました。
また、東京公演のソロはナタリー・シュッツツマン(コントラルト)に変更になったことは聞いていましたが、リハでは黒のハイネックと上下黒っぽいスーツ姿の大柄の方を見て、(女性と思えず)本番前知人に男声のカウンターテナーだったと話したら、後で大恥をかきました。
CDジャケットの彼女は可憐な表情写真だけなので、190cmのシャイーに手を引かれても負けないくらい大柄(180cmくらい)とは知らなかったのです。(2002/11/14)