オーケストラ・アンサンブル金沢第131回定期公演PH 2002/12/05 石川県立音楽堂コンサートホール 1)シュトラウス,J.II/喜歌劇「ジプシー男爵」序曲 2)カールマン/喜歌劇「チャールダーシュ侯爵夫人」〜シルヴァの歌 3)シュトラウス,ヨゼフ/ポルカ・マズルカ「とんぼ」 4)レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」〜ヴィリアの歌 5)シュトラウス,J.II/無窮動 6)シュトラウス,J.II/ワルツ「南国のバラ」 7)シュトラウス,ヨゼフ/ポルカ「憂いもなく」 8)シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」序曲 9)シュトラウス,ヨゼフ/ポルカ「おしゃべりなかわいい口」 10)レハール/パガニーニ・メロディ 11)レハール/喜歌劇「ジュディッタ」〜私の唇に熱き口づけを 12)シュトラウス,J.II/皇帝円舞曲 13)(アンコール)ジーツィンスキー(南安雄編曲)/ウィーン,我が夢の街 14)(アンコール)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲 ●演奏 エーリッヒ・ビンダー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢 ヘルガ・グラクソッリ(ソプラノ*2,4,11) エーリヒ・ビンダー(ヴァイオリン*10) サイモン・ブランディス(コンサート・マスター) 響敏也(進行)
今回のプログラミングは,とてもバランスの良いものでした。前半,後半ともにシュトラウスの序曲で始め,終盤にワルツを持ってきていました。その間をオペレッタのアリアやポルカなどで繋いでいました。今回は,ビンダーさんの奥様でもあるソプラノ歌手のヘルガ・グラクソッリさんも登場していましたが,きっとお2人でこういったプログラムで演奏する機会も多いのでしょう。 今回は,演奏会全体の進行役として曲間に音楽評論家・作家の響敏也さんもステージに登場されていました。これまで行なわれてきたプレトークをさらに拡大したような試みということになります。響さんの解説はソツなく親しみやすいものでしたが,定期会員向けには特に必要ないかなという気もしました。この辺は好みの分かれる点でしょう。 シュトラウスのコンサートの時はいつもそうなのですが,今回も管楽器・打楽器の編成が増強されていました。その他のパートにもエキストラが入っていました。チューバやトロンボーンの方々はすっかり常連という感じです。以前,団員だった方も数人入っていたようです。 前半最初は「ジプシー男爵」序曲です。ビンダーさんは小柄で,とても親しみやすい雰囲気の方です。演奏の方にもダイナミックさよりは小粋な感じが出ていたと思います。暗い雰囲気で始まる曲ですが,それほど激しくなりすぎず,開幕に相応しい楽しい雰囲気が出ていました。途中に出てくるオーボエ・ソロも見事でした。いつものことながら,加納さんのオーボエはソリストのようで聞き映えがします。 続いて,グラクソッリさんが登場しました。あざやかな青のドレスで登場すると,ステージ上はオペレッタ的なムードに変わりました。親しみやすく,華やかな雰囲気を持った方で,見ているだけで気持ちが和むようなキャラクターを持った方でした。「シルヴァの歌」は,このオペレッタのタイトルどおり,ジプシー風の激しさを持った曲でした。冒頭の金管楽器の充実した響からしてゾクっとさせてくれるような魅力を持っていました。グラクソッリさんの声は,オーケストラ演奏に消されてしまうようなところはありましたが,ちょっとした動作も入れ,楽しい雰囲気を伝えてくれました。曲の最後には,OEK団員の力強い掛け声も入り,ビシっと締めてくれました。 ヨゼフ・シュトラウスの「とんぼ」は一転して静かな雰囲気になります。ポルカ・マズルカということで,曲全体に渡り穏やかな気分が漂います。そんなに大きく盛り上がることなく,静かなまま終わるというのも良いものです。 再度,グラクソッリさんが登場し,「メリー・ウィドウ」の中から「ヴィリアの歌」が歌われました。恐らく,彼女の十八番の曲だと思います。親しみやすい雰囲気とともに,最後の方では,美しい高音を堪能させてくれました。 常動曲は「エンドレス」の曲で,「どう終わるか?」が聞き所となります。やけに入りの部分のコントラバスの音を強調し,テンポが速いな,と思って聞いていると,最初に戻り繰り返してくれました。この曲は生で数回聞いたことはありますが,繰り返すのを聞いたのは初めてのことです。最初のコントラバスの音を強調することで,「繰り返しのしつこさ」がユーモアとなって伝わってきました。最後は,ビンダーさんが「いつまでも,いつまでも続きます」と日本語で断りを入れておしまいとなりました。 「南国のばら」の演奏も,とても気に入りました。さらりと始まり,ワルツが進むにつれて,表情が段々と付いてくるような感じでした。大げさではないけれども,次第に情感が盛り上がってきました。「いいワルツを聞いたなぁ」と幸福感を味わうことができました。 前半最後は,「速いポルカ」の「憂いもなく」です。この曲は途中で「ハッハッハッ」と団員の笑い声が入る曲なのですが,この演奏では,口の空いている人が少なかったのか,ほとんど声は入っていないようでした。小編成のメリットの生きたキビキビした演奏で,前半をさっぱりとまとめてくれました。 後半は,おなじみの「こうもり」序曲で始まりました。ダイナミックな感じはしませんでしたが,滑らかで小粋な雰囲気のある演奏でした。 続く「おしゃべりなかわいい口」は,2002年の小澤征爾指揮ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートにも登場した曲です。「速いポルカ」は,特にOEKにあっているようで,ビート感とスピード感が楽しめます。前半の「憂いもなく」でもそうでしたが,こういう曲を生で聞くと低音のリズムが心地よく響き,気持ち良くなります。この曲では,ラトルという「ギギギ」という音のでるおもちゃのような楽器が大活躍します。2種類の「ギギギ」を使い分けていましたが,この音で「うるさいおしゃべり」の雰囲気を出していたのでしょうか。速いテンポの曲なので,曲に乗って「ギギギ」を出すのも難しいのではないかと思いました。曲の最後は,オーボエが一人だけ残されて,立ち上がります。小澤さんの時もウィーン・フィルの人が同じ動作をしていました。何か意味があるのだと思うのですが,実は,どういう意味なのかわかりませんでした。おわかりの方がありましたら教えて下さい。 パガニーニ・メロディは,ビンダーさんの弾き振りでした。とても技巧的な曲なのですが,古い映画音楽を見るような懐かしさの漂う曲で,いわば「下町のパガニーニ」といった感じでした。ビンダーさんの音はとても美しく,この曲の甘い雰囲気にぴったりでした。まさに十八番だと思います。ビンダーさんは,この後も,指揮台の前にヴァイオリンを置いたままだったのですが,結局,ヴァイオリンを演奏したのはこの曲1曲だけでした(ヴァイオリンを身体から離したくないような感じでした)。この手の曲をもっともっと聞いてみたいような気がしました。 再度,グラクソッリさんが登場し,オペレッタ「ジュディッタ」の中の曲が歌われました。この曲は1934年に作られた曲ということで,この辺りになるとミュージカルとの区別が付きにくくなって来ているようです。グラクソッリさんは,ここでもオペレッタのステージを彷彿とさせてくれるような歌を聞かせてくれました。 演奏会の最後は皇帝円舞曲でした。それに相応しい充実した演奏でした。ビンダーさんのワルツは,ダウスさんの弾き振りよりは,表情の付け方やテンポの動かし方が細かいのが特徴です。ダウスさんの弾き振りの場合,ダウスさんの身体の動きに沿ったスポーツ的なダイナミックさが感じられるのですが,ビンダーさんの方はちょっと立ち止まって考えるような趣きがあると思います。この演奏では,最後のクライマックスの作り方が見事だと思いました。カンタさんのチェロと金星さんのホルンの重奏に続いて,上石さんのフルートが出てきます。この辺の音の受け渡しの雰囲気がOEKならではの素晴らしさです。特に上石さんのフルートのクールに伸びる美しい音が素晴らしいと思いました。いちばん最後の部分も,ティンパニの強打が決まっており,大変充実したエンディングになっていました。 シュトラウスの演奏会に,アンコールがないわけはありません。まず,グラクソッリさんの歌を交えて,「ウィーン,我が夢の街」が演奏されました。「ウィーン,ウィーン...」とこの街を称える歌なのですが...いつのまにか「カーナザーワ...ユメノマチ」と歌詞が変わっており,金沢を称える日本語の歌に変身していました。この「隠し味的なサービス」には,お客さんも大喜びで,演奏後は大喝采でした。 最後に,ウィーン・フィルの時と同様の小太鼓の前奏に続き,お決まりのラデツキー行進曲が,聴衆参加で演奏されました。ダウスさんの弾き振り同様,手拍子のしやすい遅めのテンポ設定でした。今回は,お客さんに向ってのビンダーさんの丁寧な指揮もあり手拍子の音量の変化もきちんと付いていました。 ダウスさんのニューイヤー・コンサートには「今年も無事新年を迎えられたか」という「おなじみ」の楽しさがあるのですが,今回のビンダーさんとグラクソッリさんの作る温かみのある雰囲気も大変楽しめるものでした。1月のダウスさんの弾き振りの演奏会との聞き比べが楽しみになってきました。(2002/12/06) |