メサイア公演
2002/12/14 石川県立音楽堂

1)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(11,19,30,34-38,41,43,51曲をのぞく)
2)(アンコール)清しこの夜
3)(アンコール)神共にいまして(讃美歌集405番)
●演奏
ゲアノート・シュマルフス指揮金沢弦楽合奏団,北陸聖歌合唱団(合唱指揮:朝倉喜裕)
朝倉あづさ(ソプラノ),串田淑子(メゾ・ソプラノ),関根宣義(テノール),森野信生(バリトン)
前沢均(コンサートマスター)

Review by管理人hs
昨年に続き,北陸聖歌合唱団の「メサイア」公演に出かけてきました。日本では,「年末=第9」というイメージがあるのですが,私自身,岩城宏之さん同様,そろそろこの習慣にも飽きてきた(?)ので,この5年ほどは年末第9公演には行っていません。その代わりに昨年から「メサイア」を聞きに行っています。「メサイア」の第1部はキリスト生誕のお話を含みますので,こちらの方が季節的には合っているといえます。

今回の演奏は,指揮者と合唱団は昨年と同じだったのですが,オーケストラとソリストは別でした。今年,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,第9公演にも荘厳ミサ公演にも参加しませんでしたので,メサイア公演にも不参加ということのようです。こういう年も珍しいかもしれません。今回のオーケストラは,地元の金沢弦楽合奏団でした。1980年から1990年までの10年間はこの団体がメサイア公演の伴奏を担当していた,とのことですので従来の形に戻ったことになります。OEKと比較すると,技術的に不安定なところはありましたが,デリケートで繊細な表情はよく出ていたと思います。

まず,とてもひっそりとして優しい雰囲気で第1曲が始まりました。この曲には荘重な印象を持っていたので新鮮に聞こえました。シュマルフスさんは昨年に続いての登場でした。昨年は,指揮台を踏み鳴らしたり,伸びたり縮んだりと,なかなか激しい指揮ぶりでしたが,今年は(アクション的にも)少し抑え気味の指揮のよう感じました。オーケストラがさらに小編成になったことが関係しているのかもしれません。

ソリストでは,地元のソプラノの朝倉さんの声が大変印象に残りました。清潔感と可愛らしさが絶品でした。第1部後半のクリスマスの場面などは雰囲気にぴったりでした。この日のソリストの中で,いちばんメサイアに合っていると思いました。

メゾ・ソプラノの串田さんも地元ではおなじみの方です。串田さんの方は,声自体は大変迫力があるのですが,ちょっと違和感を感じました(やはり,「カルメン」あたりのイメージが強いので)。だけど,これだけよく響く低音を持った女声歌手は少ないと思います。第2部の長いアリアなどでは,非常に充実した歌を堪能できました。小柄の朝倉さんと並ぶと大人と子供のような感じでしたが,お二人が続けて歌う第1部後半のアリアでも全然違和感を感じませんでした。

女性ソリストに比べると,男性の方は少々印象が薄いように感じました。テノールの関根さんは,非常に晴れ晴れとした声で,メサイアの雰囲気には合っていましたが,ちょっと高音が苦しそうな感じに思えました。そのせいか,串田さんとの二重唱は,どこかバランスが悪いような気がしました。もう一人のソリストのバリトンの森川さんもちょっと地味な感じでした。串田さんのインパクト(?)が強すぎたのかもしれません。

合唱団は,とても充実していたと思います。メサイアには,第2部と第3部のクライマックスをはじめ,いろいろな合唱曲が沢山出てきます。人数的には100人ぐらいの合唱団ですので(女性:男性=7:3ぐらい?),全体としてがっちりとした重みがあります。その上にとてもしっかりとしたまとまりもありました。曲が進むにつれて,段々とノリも良くなっていくような気もしました。

第2部前半の合唱が連続する辺りもとても変化に飛んでいました。26曲の「われわれはみな羊のように迷って」などでは,前半の軽さ,歯切れの良さと後半の暗さが非常に対照的でした。全体にフォルテで歌うところの開放感が大変気持ちよく響いていました。スタッカートで歌うところのキレの良さなど要所要所のメリハリが効いていて,飽きることがありませんでした。ハレルヤ・コーラスも大変勢いがあり,力強いものでした。

最後のアーメン・コーラスは,休符を長めに取り,とてもたっぷりと歌っていました。人数的には男声がちょっと薄い気はしましたが,全曲を締める聞き応えは十分ありました。弱音から段々と盛り上がっていく辺り,シュマルフスさんは,とても大柄な音楽を作る方だと感じました(カーテン・コールの時,合唱指導をされたLa Musicaのエヴァさんが登場されていましたが,この方の指導の力も大きかったのだと思います。)。

オーケストラの方は,OEKよりも少人数でしたので,曲の入りの部分など,ちょっと乱れるところがあったようでしたが,全体としては,浮ついた感じにならず,よくまとまっていました。特に,第3部の聞かせどころでのトランペットは見事でした。整っていながらも美しく,鋭く響いていました。

全体の構成としては,昨年と同様,第33曲の「城門よ頭を上げよ」の後で,前半と後半を分けていました。第2部の途中で拍手が入る形になるので,昨年はなかなか拍手が出てこず,シュマルフスさんも戸惑っていましたが,今年は,私自身最初に(多分)拍手をしたら,他の人も拍手をしてくれました。

その他,省略した曲も昨年と同様でした。後半の曲の省略が多かったので,この分け方だと,前半が非常に長く,後半が短くなります。個人的には,全体の時間が伸びても2回休憩が入る方が良いかなという気もします。

恒例の「ハレルヤ・コーラスでの起立」ですが,私の回りの人は誰も立っていなかったので,今回は座っていました。やっぱり,意志薄弱の人間には,起立するには,ちょっと勇気が要りますね。

お客さんの方は,OEKの定期公演のお客さんに比べるとちょっとノリが悪いような気がしましたが,毎年この演奏会に来ていらっしゃるような常連さんも多いようでした(50年間もやっている演奏会ですから)。それと,メサイアや賛美歌を歌ったことのあるお客さんも多そうでした。私の席の隣にいた3人組の奥様たちなどは「やっぱ,客席より歌う方がいいわねぇ」などと話をしていました。アンコールでは,「清しこの夜」ともう一つ賛美歌が歌われたのですが,一緒に口ずさんでいる人もいました。

というわけで,大曲を堪能した充実感と「一緒に歌いたそう」な会場の暖かい雰囲気に包まれた良いムードの演奏会になりました。

(追記)シュマルフスさんは,気合が入りすぎたのか,後半のバリトンの曲の時,何か小さなものを床に落としていました。普通なら拾わずにそのまま指揮を続けそうなものですが,シュマルフスさんは,指揮しながら,その小さなものを拾い上げていました(よほど大切なもの?)。テンポが乱れそうな感じになりましたが,指揮しながら物を拾う指揮者というのは初めてみました。何となく微笑ましいシーンでした。

(追記2)この演奏会は石川県音楽文化振興事業団主催ではなかったので,会場内に接客係の人がいませんでした。いつもはそれほど気にしていなかったのですが,やはりこういう方々がいないと不便だということがわかりました(これは,今回の演奏会に限らず企業主催のコンサートの時などにも感じることです)。ホールに入るのにいちいち重いドアを押さないといけなかったり,クロークでコートを受け取る時に列がぐちゃぐちゃになったり,いつもと「ちょっとした所」が違うのです。やはり,定期公演ではきちんとした接客業をしているのだなと改めて感じました。2002/12/15)