オーケストラ・アンサンブル金沢第132回定期公演F
2002/12/22 石川県立音楽堂コンサートホール
第1部ポール・マッカートニー・ヒット曲集
1)レノン&マッカートニー(すぎやまこういち編曲)/イエスタディ
2)レノン&マッカートニー(すぎやまこういち編曲)/ミッシェル
3)レノン&マッカートニー(すぎやまこういち編曲)/エリナー・リグビー
4)レノン&マッカートニー(すぎやまこういち編曲)/デイ・トリッパー
5)レノン&マッカートニー(すぎやまこういち編曲)/フール・オン・ザ・ヒル
6)レノン&マッカートニー(すぎやまこういち編曲)/ロング・アンド・ワインディング・ロード
7)レノン&マッカートニー(すぎやまこういち編曲)/オブラディ・オブラダ

第2部すぎやまこういち・ヒット曲集
8)すぎやまこういち(すぎやまこういち編曲)/亜麻色の髪の乙女
9)すぎやまこういち(すぎやまこういち編曲)/恋のフーガ
10)すぎやまこういち(すぎやまこういち編曲)/学生街の喫茶店
11)すぎやまこういち(すぎやまこういち編曲)/花の首飾り
12)すぎやまこういち(すぎやまこういち編曲)/君だけに愛を
13)すぎやまこういち(すぎやまこういち編曲)/交響組曲「ドラゴンクエスト」〜序曲,海図を広げて(IV),おおぞらをとぶ(III),そして伝説へ(III)
14)(アンコール)すぎやまこういち(すぎやまこういち編曲)/交響組曲「ドラゴンクエスト」〜武器商人トルネコ
15)(アンコール)すぎやまこういち(すぎやまこういち編曲)/交響組曲「ドラゴンクエスト」〜回想
16)(アンコール)すぎやまこういち(すぎやまこういち編曲)/亜麻色の髪の乙女
●演奏
すぎやまこういち(企画・構成・お話)指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(1-2,4-16)
オーケストラ・アンサンブル金沢メンバーによる弦楽四重奏(3)
サイモン・ブレンディス(ヴァイオリン独奏*12)
サイモン・ブレンディス(コンサート・マスター)
Review by管理人hs 七尾の住人さんの感想
2002年最後のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演は,すぎやまこういちさんの企画・構成・作曲・編曲・指揮・お話...という何から何まですぎやまこういちさんによる演奏会でした。ビラに書いてあったタイトルも「すぎやまこういちがやって来た!」ということで,「すぎやまさんのすべて」を楽しむための演奏会となりました(足りないとしたら,「帰ってきたウルトラマン」のテーマ辺り(個人的な意見ですが)?)。

演奏会は,前半はすぎやまさんのアレンジによるポール・マッカートニー・ヒット曲集,後半はすぎやまこういちヒット曲集という2部構成でした。後半は,すぎやまさん作曲の歌謡曲とゲーム音楽という2種類にさらに分けることができます。結局,次の3種類の音楽を楽しんだことになります。(1)素材は別の人が作り,編曲がすぎやまさん,(2)素材も編曲もすぎやまさん,(3)素材も編曲もすぎやまさんで,もともとオーケストラを意識して作った曲。

すぎやまさん自身相当なグルメのようで,今回のトークの中でも,編曲の仕事を料理に例えていましたが,この日のプログラム自体が音楽のフルコースとなっていました。今回はすぎやまさんのトークを交えて進められたのですが,ほとんどの曲で「この曲はこういうイメージでアレンジしました」という解説が付きました。シェフ自ら料理法をお客様に説明するような雰囲気がありました。

すぎやまさんのトークは,語り口がとても明確で,折り目正しいものでした。話が長いと思わせる瞬間は皆無で,全く退屈しませんでした(”突っ込まれる”部分もあったようですが)。編曲の仕事には職人芸的な巧さが要求されると思うのですが,トークと指揮の方にも同様の巧さを感じました。

この日のステージ上には,赤とクリーム色の花が飾られ,パイプオルガンにも赤いスポットライトが当てられていました。クリスマス・シーズンに相応しい華やかさが見た目にも漂っていました。

前半はビートルズの名曲をすぎやまさんがアレンジしたものが演奏されました。”ビートルズ”ではなく”ポール・マッカートニー”名曲集となっているのがすぎやまさんのこだわりだと思います。今年の秋にポール・マッカートニーが来日し,ビートルズ時代の曲を沢山歌っていったようですが,その辺を意識しての選曲なのかもしれません(このホームページでの記載は七尾の住人さんの書かれたとおり”レノン&マッカートニー作曲”にしておこうと思います)。

まず最初に,「イエスタディ」が弦楽合奏のみで演奏されました。メロディの美しさをストレートに感じさせてくれるオーソドックスなアレンジでした。その後の曲については,すぎやまさんによって編曲の意図についての解説が付きました。歌詞の付いている曲をインストゥルメンタル曲にアレンジする場合,どうしてもBGMのようになってしまいますが,解説を付けることで,そうなるのを防いでいました。聞いているだけでも楽しめたのですが,聞き所がより明確になったと思いました。

「ミッシェル」は,ファゴットとオーボエの艶のある音に続いて,弦楽器が登場し,最後はフーガのようになっていました。この曲は「イエスタディ」同様,完全にスタンダード・ナンバーとなっていると感じました。「エリナー・リグビー」は,原曲の味を生かして,弦楽四重奏で演奏されました。コンサート・マスターのブレンディスさん,第2ヴァイオリンの江原さん,ヴィオラの石黒さん,チェロの大澤さんによる四重奏でした(その間,すぎやまさんは舞台袖の椅子に座って聞いていらっしゃいました)。室内楽ならではのキレの良さとスピード感を楽しむことができました。曲の最後の方に出てくるフラジオレットなどを含む高音の繊細さも見事でした。オーケストラの演奏会の中で室内楽を聞くというのも新鮮味があります。この辺の曲の配列の仕方も,よく考えられていると思いました。

「デイ・トリッパー」から後は,デヴィッド・ジョーンズさんのドラムスやブラス・セクションが派手に活躍をします。「デイ・トリッパー」は機関車を意識してアレンジがされていました(ちなみに,この曲は,ある本によるとジョンの曲と書いてあります。ポールが最初の方のヴォーカルを歌っているのですが...)。途中,強烈なアクセントが入り,お客さんをびっくりさせる辺りにはビッグバンド風のユーモアもありました。ヘンリー・マンシーニ風のテイストもあるような感じでした(曲の後,すぎやまさんが小さな声で何かおっしゃっていたのですが,何と言っていたのでしょうか?)。

「フール・オン・ザ・ヒル」は,黄色い陽だまりのイメージでアレンジされていました。序奏部分は,印象派風のさざめくような音の動きがありました。途中からはトランペットの明るい響きが入ってきて,さらに明るい感じになりました。「ロング・アンド・ワインディング・ロード」は弦楽四重奏から大編成へとスケールアップしていく辺りに聞き所がありました。

前半最後の「オブラディ・オブラダ」は,かなり凝ったアレンジでした。大騒ぎする人たちで溢れる広場をイメージしてアレンジをしたとのことで,「イエローサブマリン」のメロディを断片的に使ったり,多種多様なメロディをコラージュ風につなぎ合せた曲となっていました。各楽器が活躍し,華やかに結ばれるので,エンディングに相応しい盛り上がりを作っていました。この日のOEKの編成は,トロンボーン3本,トランペット3本,ホルン4本ということで,ブラスが大変充実していました。その分,この曲では,ブラスの音量が強すぎる(主旋律より対旋律の方が強い)かなという気がしました。

後半は,すぎやまさんの作った曲をすぎやまさん自身がアレンジしたものが演奏されました。すぎやまさんのトークの方は,前半よりも”裏話”的な感じになり,お客さんには大変受けていました。最初は,今年,島谷ひとみさんの歌でリバイバル・ヒットした「亜麻色の髪の乙女」が演奏されました。すぎやまさんの話によると島谷版は「私が作ったものと違う!」部分があるとのことです。島谷さんが「ドーレミミレドシ」と歌っている部分は,本来は「ドーレファミレドシ」が正しいそうです。ちなみにワイドショーでおなじみ(?)になった「町民カラオケ大会」の審査員になりすました「偽ビレッジ・シンガーズ」の人の方は正しいメロディを歌っていたそうです。この辺は,何とも言えず可笑しい話です。曲の方は,非常に叙情的な味が出ていました。マッカートニーの曲同様,「長生きするメロディ」だなと思いました。

「恋のフーガ」は,原曲の前奏に出てくるような”いかにも歌謡曲”という感じが残っていてうれしくなりました。ブラスやティンパニが派手に活躍して,1960年代の雰囲気が蘇るようでした。最後にミュートを付けたトロンボーンがユーモラスな音を出してオチを付ける辺りも受けていました。

「学生街の喫茶店」では,原曲の中間部に出てくるイングリッシュ・ホルン・ソロについての裏話が披露されました。この部分は,レコーディングの時にいつもはサックスを吹いている人がイングリッシュ・ホルンを勝手にアドリブで演奏したものだったそうです(この曲のCDが我が家にあったので聞いてみたのですが,確かに音がひっくりかえっていたりするわけのわからないソロです)。それを紅白歌合戦の演奏時に再現するのにその奏者自身が大変苦労(自分の吹いたレコードから楽譜を作った)したのだそうです。今回のアレンジでも,このイングリッシュ・ホルン・ソロが残されており,「中近東風だか何だかわけのわからない雰囲気」を出していました。この曲は,一貫して続く「ザッ・ザッ・ザッ・ザッ」という規則的なリズムが印象的な曲ですが,この部分は,坂本冬実の「夜桜お七」の最初の方にも似ているなと思いながら聞いていました(私だけ?)。

「花の首飾り」は,ハープの伴奏の上にヴィオリンとヴィオラが入ってきて始まります。全体の叙情的な感じは,「亜麻色の髪の乙女」と共通するものがあります。「君だけに愛を」は,「君だけ〜に〜(ジュリー!)」という掛け声が入る曲です。「やはりジュリーに登場してもらわねば」という意図でスターの登場する協奏曲風にアレンジがされていました。ジュリー役になっていたのがヴァイオリン独奏のブランディスさんです。カデンツァを含む華やかな協奏曲となっていましたが,今回は1階席で聞いたせいか,ヴァイオリンの音が上の方に抜けていくように聞こえました。見事なソロだったのですが,伴奏の音に圧倒されているように聞こえました。

最後のコーナでは,ゲーム音楽の「ドラゴンクエスト」の中から4曲が演奏されました。私自身テレビゲームをほとんどしないので,今回演奏された曲はすべて初めて聞くものでした。すぎやまさんが会場の人に「ドラクエをやったことある人?」と尋ねたところ,結構手を上げている人がいました。この日のお客さんの中には,結構,「ドラクエ」ファンの人も含まれていたようです。ちなみにOEK団員の方にも同じ質問をしていました。こちらの方もパラパラと手が上がっていました。すぎやまさんの話によると「N響を上回っている」とのことです。オーケストラのトータルの人数のことを考えると,OEK団員の方がゲーム好きが多いということになります。

演奏された4曲は最初と最後の曲が華やかなファンファーレで始まる曲でした。最初の曲はまさに開幕を告げるような曲でした。すぎやまさんは競馬場のファンファーレも作っているはずです。その面目躍如たる雰囲気がありました。中間の2曲の方は叙情的な曲でした。「おおぞらをとぶ」の方ではフルートとクラリネットが活躍していました。最後の曲も強烈なファンファーレで始まりましたが,こちらの方は,SF映画のサントラのような感じがありました。

盛大な拍手に応えてアンコールが3曲演奏されました。最初の曲は,この日エキストラで参加していたコントラバス奏者の中博昭さんのために「ドラクエ」の中から「武器商人トルネコ」という曲が演奏されました。中さんが元NHK交響楽団の首席コントラバス奏者だったことは知っていましたが,金沢出身だとは知りませんでした。すぎやまさんとはかなり長いつきあいだそうで,すぎやまさん自身がオーケストラを指揮するようになったきっかけを作ってくれた人なのだそうです。この日の演奏会での再会を記念して,コントラバスソロの入る曲が特別にアンコールで演奏されました。コントラバス2本のソロがかなり長く入る曲というのはかなり珍しいと思います。リロイ・アンダーソン風の気の効いた味のある良い曲でした。

アンコールの2曲目は,やはり「ドラクエ」の中から「回想」という曲が演奏されました。こちらの方は,大澤さんの美しいチェロ独奏が入りました。本当は,演奏会はここでおしまいになる予定だったのですが,拍手がまだまだ続いたので,もう1曲アンコールが演奏されました。本当に予定外だったようで,「亜麻色の髪の乙女」がもう一度演奏されました。

この日のお客さんは,フィルハーモニー及びマイスターシリーズのお客さんとは違う雰囲気でしたが,グループサウンズ,ビートルズからゲーム音楽までということで,幅広い世代の聴衆がそれぞれに親しみを持って楽んでいました。ファンタジー・シリーズの趣旨にピッタリの演奏会だったと言えそうです。(2002/12/23)

Review by七尾の住人さん
2部の開始早々、すぎやま氏が1部でのトークの間違いを指摘されたことを話していましたが、その「こんにちは」と言うところを「こんばんは。」と言ったのは笑って許せる話です。その他に突っ込みたくなるような間違いが、あと3つありました。

そのうち一つは本当に小声で突っ込みを入れてしまったのですが、ビートルズが弦楽四重奏を取り入れたのは、「エリナー・リグビー」が最初ではありません。今日のオープニングである「イエスタデイ」が最初です。「イエスタデイ」はオリジナルアルバムで5枚目、「エリナー・リグビー」は7枚目に入れられたわけですから違うことを堂々とおっしゃっていたんです。まぁ、細かいことを言えば弦楽四重奏しか演奏に入らなかったという意味では「エリナー・リグビー」が最初でしょうけど、取り入れたとなれば「イエスタデイ」となるわけです。(ちなみにあの有名すぎるほどの「イエスタデイ」、本人達の意向が反映される本国イギリスではシングルになってません。)

次に第1部の作曲者の事で、プログラムにも書いてあるんでそれも気になるのですが、ビートルズの曲はたとえポール・マッカートニー単独の作曲であったとしても「ジョン・レノン&ポール・マッカートニー」とクレジットするのが正しいんです。勝手にポールだけにして権利関係は大丈夫なのかなぁと余計な心配をしてますが・・・・・・今日のコンサートには、すぎやま氏のファンはもちろんのこと、ビートルズのファンの人もいたと思うんです。自分はポールの曲をやるというだけでいくことに決めた人間ですから、やっぱりクレジット間違いは、ジョン・レノンがないがしろにされたようで気になるんです(最近このクレジットに関してポール本人にも一騒ぎあったばかりです)。

最後の3つ目は、60年代に活躍して今も心に残っているとしてポールを挙げ、モンキーズやローリング・ストーンズを比較として出していましたが、それもとても大きな誤解です。モンキーズについては関心がないので省きますが、ストーンズは未だに現役で活躍中のグループです。来年の3月にも来日公演が予定されていて、ずっと根強い人気があるんですが・・・たまにどこかで見かける口からベロが出てるマーク、オリジナルはストーンズです。まぁ、名前を挙げただけでどうのこうのとは言いませんでしたが、発言の趣旨からするともう忘れられてしまったように聞こえるので、しっかりと事実を確認して欲しかったというのが感想です。

ということで、すぎやま氏はポピュラー音楽を手がけたことがありながらも、どうもその分野には疎いみたいですね。先程の3つの話は、どれも「えーっ!!!」となるものばかりだったので、ちょっと演奏を聴くどころではなくなりかけたのですが・・・

しかし、管理人さんが言われるように、今日の客層はファンタジーシリーズ以外の客層と違っていましたが、自分の好きなゲーム音楽なりを本物のオーケストラで聴いて、オーケストラに関心を持つ人が増えてくれればと思いました。「ドラゴンクエスト」なんかは、まさに引き込むには(色々な意味もありますが)適した曲だと思いました。

そう言えば、私をオーケストラの世界に引きずり込んだものは、「宇宙戦艦ヤマト」でした。最近は聴かないですが、2作目にはパイプオルガンも使ってましたし、あの音楽はよくできてたと思ってます。今聴けば少し違う印象を持つかもしれませんが・・・(2002/12/23)