オーケストラ・アンサンブル金沢第133回定期公演PH
2003/01/13石川県立音楽堂コンサートホール

1)ブラームス/ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調,op.102
2)シュトラウス.J/ワルツ「ウィーンの森の物語」op.325
3)シュトラウス.J&シュトラウス,ヨゼフ/ピツィカート・ポルカ
4)シュトラウス.J/ポルカ「狩にて」,op.373
5)シュトラウス.J./加速度円舞曲,op.234
6)シュトラウス.ヨゼフ./ポルカ「鍛冶屋」,op.269
7)シュトラウス.J/エジプト行進曲,op.335
8)シュトラウス.J/ポルカ「雷鳴と稲妻」,op.324
9)シュトラウス.J/ワルツ「美しく青きドナウ」,op.314
10)(アンコール)シュトラウス,J./新ピツカート・ポルカ
11)(アンコール)シュトラウス.J.I/ラデツキー行進曲
●演奏
マイケル・ダウス(リーダー&ヴァイオリン)/オーケストラ・アンサンブル金沢
キャサリン・ヒューギル(チェロ*1)
トロイ・グーキンズ(トーク)
Review by管理人hs
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の年明け恒例のニューイヤー・コンサートに出かけてきました。今年は昨年末にワーナー・ミュージック・ジャパンから昨年のニューイヤー・コンサートのライブCDが1枚1000円で発売されたこともあり,いつもにも増して会場のロビーに熱気がありました。飾りつけもとても華やかで,新年初の公演の雰囲気を盛り上げていました。演奏の内容の方もそれに劣らないくらい,楽しいものでした。

この日は,開演前にロビーでOEKの金管アンサンブルによって「スターダスト」「星に願いを」など3曲が演奏されました。トランペット3本,トロンボーン1本,チューバ1本による五重奏で,そのうち,トロンボーンとチューバはエキストラの人でした(”3人目”のトランペットのペインさんは半分団員のようなものですね)。こういう企画は数年前のニューイヤーコンサートの時にもやっていた記憶があるのですが,その時はものすごい豪雪だったことを思い出しました。音楽堂になってからは初めての試みかもしれません。めでたい雰囲気をさらに盛り上げてくれました。

ニューイヤーコンサートの前半は毎年協奏曲です。ダウスさん+αの協奏曲が取り上げられることが多いのですが,今年はブラームスの二重協奏曲が演奏されました。OEKがブラームスの曲を演奏するのは比較的珍しいのですが,今年は3月にも岩城さんが交響曲第4番を取り上げますので,OEKの今年の重点作曲家なのかもしれません。

昨年の11月末ぐらいから,OEKの定期公演では,短い曲を取り上げることが多かったので,30分を越える曲を聞くのは久しぶりということになります。冒頭の充実した響きを聞いたとき,妙に懐かしい気分になったのはそのせいかもしれません。第1楽章は,非常にストレートな演奏でした。重厚という感じはありませんでしたが,迫力は十分ありました。オーケストラ,ソロともに小細工するところがなく,ダイレクトに耳に訴えかけてくる演奏でした。チェロのヒューギルさんは,シドニー交響楽団の首席奏者でダウスさんとは同僚ということになります(ダウスさんはいつの間にかメルボルンからシドニーに移ったようです)。音の鳴り方がちょっと悪いような気がしましたが,ダウスさんやオーケストラとのバランスは良かったと思いました。ダウスさんの方は相変わらず艶やかな音色でした。

第1楽章については,もう少しモヤモヤした感じだとか苦悩する感じが出ている方がブラームスらしいのかもしれませんが,室内オーケストラの演奏としては,このようなシンプルな演奏の方が妥当なのかもしれません。

第2楽章は「至福の時間」でした。2つの独奏楽器のしみじみとした歌とそれを支えるOEKの伴奏のバランスが絶妙で,室内楽の延長のような雰囲気を感じました。3楽章へはほとんど間を置かずに入っていきました。ここでは,ティンパニを中心としたリズム感がとても良いと思いました。曲全体が生き生きと弾んでいるようでした。ソリストの名技性も発揮されていました。特にダウスさんの熱のこもったソロが印象的でした。

全体的に室内オーケストラらしいブラームスだったと思うのですが,これくらいの規模の曲になると,やはり,指揮者がいた方が「強い表現」になるのかな,という気もしました。機会があれば,「指揮者あり」の演奏も聞いてみたいと思いました。

後半は,恒例のシュトラウス・ファミリーのワルツ,ポルカ集でした。案内役もおなじみのトロイ・グーキンズさんでした。これまた恒例の(?)トロイさんのシャンパンの一気飲みがあった後,演奏が始まりました。新発売CDの宣伝,協賛企業の宣伝,今年7月に完成する能登空港の宣伝などに加え,トロイさんの体験を交えた,含蓄のあるお話をされていました。ちょっと聞き取りにくいところもあったのですが,トロイさんの今年のキーワードは「コミュニケーション」だそうです。音楽を演奏する行為とその音楽をライブで聴くという行為は,究極的には「コミュニケーション」ということになると私も思っていましたので,共感できる内容でした。

ダウスさんは,前半は普通の燕尾服だったのですが,後半は白い長いマフラー(?)を首にかけて登場しまました。この服装も毎年恒例です。シュトラウスの喜歌劇「こうもり」のイメージなのかもしれません。

最初に演奏されたのは,シュトラウスのワルツの中でもいちばん規模の大きい「ウィーンの森の物語」でした。序奏部分の室内楽的な部分も良い味が出ていましたが,堂々としたテンポの主部も大変聞き応えがありました。通常,チターで演奏される部分はダウスさんが演奏していました。今回のようにリーダー・ヴァイオリンが中心となって演奏するスタイルの場合,チターよりも,ヴァイオリン・ソロが演奏する方が見た目的にも良いかな,という気がしました。

この後の曲は,曲自体にお客さんを楽しませようという創意工夫が散りばめられた曲ばかりでした。OEKは,ここ数年ずっとこのコンサートを行なっているのですが,年々,お客さんの楽しませ方が巧くなってきているような気がします。今回の演奏も,爆笑という感じではないけれども,つい顔がほころぶような笑いを誘うような洒落た演奏ばかりでした。ユーモアというのは基本的には「間」の良さなのだな,ということがよくわかりました。

ピチカート・ポルカは,全体にとても速いテンポでしたが,ダウスさんは,所々フェイントをかけるようにかなり自由にテンポを動かしていました。その動きに「絶対ついていくぞ」という感じで弦楽器奏者たちが,ピタリと揃えていく様子を見るのはとてもユーモラスでした。ピタリと決まっているからこそ,楽しめるユーモアでした。

「狩にて」もニューイヤー・コンサートの定番です。「速いポルカ」は,最もOEK向きの曲なので,普通に演奏しても楽しめるのですが,今回は,途中で出てくる,大太鼓の一撃に驚きました。見慣れない大柄な外国人のエキストラの方が大太鼓を担当していたのですが,今回の大太鼓の音にはラストのピストルの音以上に迫力がありました。途中で3人のトランペット奏者が立ち上がる”スタンド・プレイ”も楽しめました。

加速度円舞曲にも「間(ま)」の面白さが溢れていました。テンポをどんどん上げていくところが見せ所なのですが,最初の遅い部分のタメの作り方が,みのもんたもびっくり(?)という感じでジリジリとさせてくれました。曲の最後の方のダイナミックな感じも大変聞き応えがありました。

「鍛冶屋のポルカ」の方は反対にどんどんテンポが遅くなっていく面白さがありました。金床を「カン,カン」と叩き続けるのですが,もともと遅いテンポがさらに遅いテンポになり,終結部は止まる寸前のような感じでした。この辺にも何とも言えないユーモアが溢れていました。

エジプト行進曲も遅めのテンポでした。途中,口の空いた人が「ラーラララ」と歌う部分もとても楽しげでした。中にとてもよく通る美声の人がいたようでした。見ていたら管楽器奏者の人まで歌っていたようなのですが,大丈夫だったのでしょうか?

「雷鳴と稲妻」も定番の曲です。ここでも打楽器が大活躍でした。シンバルは,ビシっと短く演奏する部分と派手に打ち鳴らす部分とがきちんと打ち分けられており,「雷鳴にもいろいろあるんだ」というのがよく分りました。ここでも大太鼓の迫力が印象的でした。このリズムに乗っての弦楽器の生きの良い演奏も大変楽しげでした。

最後の「美しく青きドナウ」は,一昨年までと同様,エンディングが短い版でした。「もうちょっと聞いていたい」とも思うのですが...。いずれにしてもこの曲を聞くとニューイヤーコンサートだな,という気分になります。

アンコールには,まず新ピチカート・ポルカが演奏されました。これは,例のCDにも収録されているのですが,OEK版というべきウィットが最後に入っています。快適なテンポでずっとピチカートで演奏されていくのですが,最後の1音だけ弓を使って演奏しています。慌てて弓を持とうとする動作を故意に強調している辺りがとても楽しめる演出です。

団員一同による”Happy new year!"のご挨拶の後,トリには定番のラデツキー行進曲が演奏されました。今回の見せ場は,ダウスさん自身でした。曲が始まって早々に袖に姿を消す,というのは以前にもあったと思うのですが,今年は何と,曲の途中でオルガンのバルコニーのところから白いマフラーを振って再登場されました。その場所で,団員が演奏する様子を指揮(というよりは監督)しながら,手拍子の合図を出していました。高い場所から見下ろして,さぞかし気持ちよかったのではないかと思います。

演奏会の後には,ダウスさんとヒューギルさんのサイン会が行なわれました。そのこともあって,CDの売れ行きはとても良かったようです(ロビーには拡声器まで用意されており,「CDは,あと残りわずかです」とか言っていました)。会場には,団員全員のサイン入った迎春の立て看板があったり,金色と銀色のモールがあちこちにかけてあったり,ステージ上には花が並べてあったり,と何から何まで目出度い雰囲気の演奏会でした。(2003/01/13)