金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第63回定期演奏会
2003/01/18金沢市観光会館
モーツァルト/歌劇「魔笛」序曲,K.620
シューベルト/交響曲第7(8)番ロ短調,D.759「未完成」
ブルックナー/交響曲第6番イ長調
●演奏
本名徹次指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団
Review by管理人hs
金沢大学フィルでは,毎年この時期に定期公演を行なっています。今回は,指揮がオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演にも数回登場したことのある本名徹次さんで,しかも,曲目がブルックナーの交響曲第6番ということで,楽しみにして出かけて来ました。金沢でマーラー,ブルックナーの交響曲が演奏される機会は,近年,徐々に増えてきましたが,まだまだ,東京などに比べると少ないと思います。そういう意味で,金大フィルの演奏する大曲に期待している人というのは意外に多いのではないかと思います。今回の演奏は,その期待に見事応えてくれました。

前半は,モーツァルトとシューベルトでした。こちらの方は,前座のような位置付けかな,と思っていたのですが,そういう感じは全くなく,非常に意欲の溢れる演奏でした。これらの作曲家の作品の演奏については,古楽器風奏法を取り入れた斬新な解釈が普通になってきましたが,この日の演奏からも新鮮さを出そうという意欲を感じました。もちろんプロの演奏ほど鮮烈な感じではありませんが,どの曲も非常に速いテンポで,「アマチュアだから」という妥協を許さないようなピリっとした雰囲気がありました。安全運転ではない,チャレンジングな演奏だったと思います。

この日の配置は,第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが向き合う対向配置だったのも印象的でした(ブルックナーも!)。それに加え,下手からコントラバス,チェロ,ヴィオラという配置になっていたのも独特でした。この配置はOEKの演奏会の時には見たことはありますが,金大フィルがこういう配置を取るのは初めてではないかと思います。この配置を見ただけで,本名氏の意欲を感じました。

「魔笛」序曲は,非常に速いテンポで始まりました。最初の第2ヴァイオリンから始まる追いかけっこのような細かい音の動きには,対向配置のメリットが出ていたと思います。粗が出やすいところですが,くっきりと演奏されていました。中間の管楽器だけのファンファーレの部分も,とても良いバランスで音が揃っていました。ここだけは,テンポを落とし,じっくり聞かせてくれました。コーダの部分は,管楽器を非常に強く吹かせており,割れたような音が非常に強烈に決まっていました。

「未完成」の方も速いテンポでした。冒頭のザワザワとした弦楽器の細かい動きにも表情が付いており,爽やかであるとともに繊細な雰囲気を感じました。チェロの第2主題ももたれる感じはなくさっぱりとしていました。コーダの部分はデクレッシェンドではなく,力まずにすっと終わっていました。

第2楽章も驚くほど速いテンポでした。甘さを廃した演奏でしたが,この楽章ではヴァイオリンの高音の音程がちょっと甘いのが気になりました。中間部の力感のある部分はとても印象的でした。終結部も淡々とした感じで,全体的にロマンティックな「未完成」というのとはちょっと違った新鮮な雰囲気を感じました。

メインのブルックナーの交響曲第6番を生で聞くのは初めてのことでした(今後,生で聞く機会があるかも定かではありません)。ブルックナーと言えば,「重い」という印象があるのですが,この曲,そしてこの演奏は,その先入観を裏切るような颯爽としたものでした。全体で50分ほどしかかかららないのも珍しいと思います。演奏全体から勢いを感じました。そういう意味で,ブルックナーの曲の中では,若い人が演奏するのにいちばん相応しい曲なのではないかと感じました。

第1楽章の冒頭から,キレの良いリズム感を感じました。この曲は,ブルックナーの交響曲の中でも特にリズムが重要な曲だと思いました。しばらくすると,金管が高らかに格好良いテーマを演奏するのですが,こういうのを聞くとブルックナーだな,と感じます。このテーマが再現部ではさらに高揚した感じで戻ってくるのも聞き応えがありました。この辺の若々しくダイナミックな盛り上げ方は,本名さんらしさだと思いました。

第2楽章は,緩徐楽章ということで,ちょっと技術的な弱さを感じました。全体にふやけた感じだったかもしれません。最初とクライマックスには緊張感があったのですが,中盤の楽章ということでちょっと緩んでしまうようなところがあったかもしれません。それでも甘い第2主題などは,とても丁寧に演奏されており,聞き応えがありました。

第3楽章は,非常にメリハリがきいていました。4つの楽章の中で,いちばんまとまりが良かったと思いました。弾むような快適なリズムの上に出てくる,速い動きは鮮やかでした。中間部はホルンの重奏が見事でした。前半の速い動きと良いコントラストを作っていました。ブルックナーの曲のホルンは,大変な重労働だと思うのですが,大きな破綻なく見事な演奏を聞かせてくれたと思います。

第4楽章も爽快でした。金管楽器が開放的に強奏されるのを聞くのは大変気持ちの良いものです。この日の金管楽器は,バランスも良かったと思います。粗野な感じがないのも素晴らしいと思いました。この楽章は,ブルックナーのクライマックスとしては,軽い感じですが,それでも最後の盛り上がりでは,ちょっとテンポを落とし,充実感を作っていました。

この日の演奏は,全体にピリっとしたキレの良さがありました。本名さんの指揮ぶりをとてもよく反映していると感じました。本名さんは,この演奏会では,全く指揮棒を使わずに指揮されていましたが,安全運転的な精度の高さを求めるよりは,妥協のないテンポで音楽の流れを重視しているように思いました。

金沢市観光会館は,石川県立音楽堂に比べると,各楽器の音の溶け合い方が良くないので,粗が出やすいのですが,逆に言うと,各楽器の音が鮮明に聞こえてきます。本名さんのキレの良い指揮ぶりには,このホールの響きは合っていたような気もしました。

オーケストラ全体としては,もう少し低弦の重量感がある方が,ブルックナーらしいのかもしれませんが,その軽やかさが快適さにつながっていたような面もあると思いました。いずれにしても,プロでも滅多に演奏しないような大曲に挑んだ,学生に大きな拍手を贈りたいと思います。 (2003/01/18)