午後6時の音楽会Vo.9:パーカッション・アンサンブルRAN
2003/01/25 石川県立音楽堂交流ホール
1)エーベル/トムトム・フーリー(トムトム3台,ティンパニ)
2)モーツァルト,L./おもちゃの交響曲〜第1楽章(マリンバ三重奏)
3)ゴメス&ライフ/4つのフォークダンス
4)ナカザワ・ミチコ編曲/ディズニー・メドレー(ジッパーディードゥーダ,いつか夢で,スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス,ハイホー,星に願いを)(マリンバ三重奏,ドラム)
5)ライヒ/クラッピング・ミュージック
6)継田和広/幻のトレイン
●演奏
パーカッション・アンサンブルRAN(渡邉昭夫,ひらまつさとこ,山口峰子,谷口圭子,中野美穂子,山田大輔,横山亜希子,中林愛子,久保有美,新蔵一真)
Review by管理人hs
演奏前の会場風景です。ぎっしりお客さんが入っていました。2段に分かれたステージをうまく使っていました。
今月の「午後6時の音楽会」は,オーケストラ・アンサンブル金沢のティンパニ・打楽器奏者渡邉昭夫さんが主宰するパーカッション・アンサンブルRANの演奏会でした。RANというのは,Rhythmic Artists Networkのイニシャルで,石川県を中心に活動している打楽器愛好家のグループです。ビラには,10人の方のお名前が書いてありますが,「モーニング娘。」並みに増殖(?)し続けているようです。

この日の演奏会は,入場無料ということで,会場は超満員でした。特に目についたのは,制服を着た若い人たちです。交流ホールは詰めて座ればどれだけでもお客さんが入るような会場ですが,そういう場所に若い人を中心にギッシリとお客さんが入ったので,通常の演奏会にはない熱気を感じました。

プログラムは,非常に多彩でした。ステージ上に並んだいろいろな打楽器が色々な組み合わせで登場しました。演奏者の方も多彩な組み合わせで,RANの中の小ユニットが次々登場するような感じでした。打楽器だけの演奏会に行くのは初めてのことでしたが,単純な楽器と思っていた打楽器だけで,こういう多彩なプログラムを楽しめるとは思いませんでした。

最初のトムトム・フーリーという曲は,トムトム3人とティンパニによる曲でした。リズムの多彩さとトムトムの強弱の変化が面白い曲でした。

次はマリンバ三重奏によるおもちゃの交響曲でした。三重奏といっても2台のマリンバを3人で演奏していました。軽やかな高音の動きも気持ち良いのですが,低音部のしっかりとした響きもなかなかいいな,と思いました。

4つのフォークダンスという曲には,原始的な感覚と現代的な感覚とが共存していました。”フォークダンス”といってもオクラホマミキサーといった曲が出てくるわけではなく,民族的な舞曲といった意味になると思います。通常のオーケストラの演奏会には出てこないような楽器が次々と出てきました。男性2人のチームと女性2人のチームに分かれ,交互に演奏する形になっていました。

1曲目は,アフリカの曲で,カウベルともう1つ何とかという楽器を女性2人が叩く曲でした。この手で行くと「知らぬ同志が,小皿叩いて...」という感じの曲も作れそうだなと思って聞いていました。2曲目はフラメンコ風で,カスタネットと手・足でリズムを取る曲でした。立ち上がってドタン,バタンやるのを見ていると,「体力が要りそう」「打楽器演奏はスポーツだ」と思いました。3曲目はブラジルの曲でトライアングルとシェーカーによるリズムがとても快適でした。響きを抑えたトライアングルのミュート奏法と「サク,サク」というシェーカーのリズムのブレンドが絶妙でした。4曲目はタンバリンとアンティック・シンバルによる中近東風の音楽でした。アンティック・シンバルというのは,「お猿のオモチャ」が叩いているような小さな小さなシンバルなのですが,それを大人の男性が両手で叩いてるのを見るのもユーモラスでした。

次は,マリンバ三重奏+ドラムスによるディズニー・メドレーでした。この日のプログラミングは,旋律のないリズム中心の曲とマリンバ中心の旋律のある曲とが交互に組み合わされていました。こういう変化の付け方も良かったと思います。ディズニーの曲といっても最近の曲ではなく,すでに古典となった曲ばかりだったので誰もが楽しめたと思います。マリンバの音は,素朴な暖かみがあり,こういう曲を演奏するには最適です。

続く,ライヒの曲は,究極の打楽器演奏という感じでした。2人が手拍子をするだけの曲です。この曲は,ミニマルミュージックと呼ばれるジャンルに属する曲です。最初はユニゾンで演奏しているのですが,そのうち1人が,少しずつリズムをずらしていきます。そのズレの中に不思議な色合いが出てきます。聞いていると陶酔すると共に,息が詰まるような感じになります。こういう曲は1人でCDで聞いていると,結構不気味かもしれませんが,ライブで聞くととてもインパクトがあります。演奏後,お客さんの方も”拍手”で応えるわけですが,その拍手がどこかミニマル風に聞こえたのは,私だけだったでしょうか?

最後の曲は,RANのメンバーが全員登場する「幻のトレイン」という曲でした。メロディもとても分かりやすく,元気が出てくる曲でした。OEKの渡邉さんのドラムスがエンジンとなってぐいぐいと進んで行く感じでした。途中,ラテン系のホイッスルが入ったり,北島三郎の「与作」に出てくる「カー」というような音の出る楽器(名前は知らないのですが)などが出て来たりして,賑やかに締めてくれました。

最後に渡邉さんから一言挨拶があり,おしまいとなったのですが,45分の中に色々なタイプの曲が詰まった大変密度の濃い演奏会になりました。楽器のセッティングを変更する間にもメンバーの方が簡潔に曲目の紹介をしていましたので,とてもスムーズな進行でした。これだけの内容で無料というのは,本当にお得だと思いました。

打楽器には,他の楽器にはないクールさとキレの良さとエネルギーがあります。それでいてユーモアを感じさせてくれます。「たたく」楽器というのは最も古い楽器だと思います。そのため,人間の根源的な本能にいちばんダイレクトに訴える力があると思います。

それにしても,打楽器奏者というのは器用さと体力がないとやっていけない,と思いました。これだけいろいろな打楽器を一度に楽しめるのもRANのようなグループが出来たからだと思います。RANの2月の演奏会にも大いに期待が持てそうです。

PS.この日の演奏は,インターネットで生中継されました(音声のみ)。こういう「新しいもの好き」の姿勢も素晴らしいと思います。パソコンを通じて,どういう感じで聞こえたのでしょうか?(2003/01/26)