ベルギー国立管弦楽団演奏会
2003/01/30 石川県立音楽堂コンサートホール

1)ラウタヴァーラ/ラ・カントゥス・アークティクス(極北の歌),op.61(鳥たちとオーケストラの協奏曲)
2)ベルリオーズ/歌曲集「夏の夜」,op.7
3)(アンコール)ベルリオーズ/歌曲集「夏の夜」〜未知の島
4)チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調,op.64
5)(アンコール)シベリウス/悲しいワルツ
6)(アンコール)ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
●演奏
ミッコ・フランク指揮ベルギー国立管弦楽団
佐藤しのぶ(ソプラノ*2,3)
Review by管理人hs たいこのひろちゃんの感想七尾の住人さんの感想
雪の中,ミッコ・フランク指揮ベルギー国立管弦楽団の演奏会に出かけてきました。この演奏会は毎年この時期の恒例になっている「東芝グランド・コンサート」の一環として行なわれました。例年,金沢公演は石川厚生年金会館で行なわれていたのですが,今年は石川県立音楽堂コンサートホールで行なわれました。やはり,新ホールの方が人気が高いということでしょうか。

「東芝グランド・コンサート」には,メジャーになる直前の「ちょっと聞いてみたいな」という感じの指揮者・オーケストラが登場することが多いのですが,今回もそういう組み合わせでした。ベルギー国立管弦楽団は今回初来日です。ミッコ・フランクさんは,まだ20代前半で指揮者としては例外的な若さでです。何となく一気に横綱になってしまった朝青龍などを思い出してしまいましたが,この両者の組み合わせは,とても新鮮な感じがしました。ソリストとしてソプラノの佐藤しのぶさんが登場し,フランス歌曲を歌うというの注目でした。

チャイコフスキーの交響曲が演奏されることもあり,聞く前から「満足間違いなし」という演奏会だったのですが...この日はお客さんの方にかなり問題がありました。演奏会の中で,どこで拍手するのもお客さんの自由なのですが,この日のお客さんは,「空白の時間」が出てくると何でもかんでも拍手で埋めていました。演奏者にとっては相当辛いものがあったのではないかと思います。私も含め,常連のお客さんの中には「演奏者に申し訳ないな」と思っていた人もかなりいたのではないかと思います。メインのチャイコフスキーの交響曲第5番は相当有名な曲ですが,曲中であれだけ盛大な拍手が入ったところをみると,この曲をはじめて聞くお客さんが相当いたのかもしれません。

最初のラウタヴァーラの曲は,斬新なアイデアを持った曲でした。それでいて聞きやすい曲でした。最初,木管楽器が同じような音型を繰り返して静かに曲が始まります。途中から鳥の声がステージ上のスピーカーから入ってきます。この「鳥の声」は,延々と続き,オーケストラと掛け合いをするように曲は進んで行きます。オーケストラの方は弦楽器が入ってきて,まるで映像を見るかのような気持ちの良い雰囲気に満たされてきます。段々と打楽器などが加わり,さらにスケールアップしてきます。最後はまた静かになって終わります。

曲は全体的に繰り返し音型が目立ったのですが,タイトルに「極北」とあるとおり,ひんやりとした感触がありました。どことなくシベリウスの響きを思わせるところもありました(そういえば,指揮のフランクさんもフィンランド出身です)。オーケストラの響きはそれほど重厚な感じではなかったので,涼しげなムードによくあっていました(ホールの外は「極北」よりももっと寒い天候でしたが)。

2曲目の「夏の夜」は,「夏」という言葉は入っているものの,雰囲気としては「冬」に聞いても違和感のない曲でした。6曲からなる歌曲集で,ひっそりとした雰囲気とメランコリックな気分の溢れる良い曲だったのですが...先に書いたように,1曲ごとに拍手が入ったのは非常に残念でした。2曲目の後では音が消えないのに拍手が鳴ってしまいました。また,4曲目の途中の休符の入るところでは,異様に大きな拍手が入ってしまいました。6曲セットとして聞きたかったのですが,曲の流れが完全に分断されてしまいました。

この曲のオーケストラの編成は,1曲目よりもかなり小さく絞り込まれていました。編成的には室内オーケストラでも十分演奏できるぐらいでしたので,是非,オーケストラ・アンサンブル金沢の定期公演あたりで(途中の拍手なしで)もう一度聞いてみたい曲です。

この曲は,音域的にはメゾ・ソプラノで歌われる方が相応しい曲だと思いますので,佐藤さんのようなソプラノ歌手が歌う場合,低音がちょっと響いてこない感じでした。特に前半の方は,声があまり出ていないように感じました(3階席で聞いたせいもあるかもしれません)。後半に行くほどエンジンがかかってきたようで,第4曲でのゆっくりと呼びかけるような感じのメロディは大変聞き応えがありました。佐藤さんといえば,華やかなオペラ歌手というイメージがあるのですが(この日のステージ上での雰囲気や衣装もとても華やかでした),とてもリリカルな歌声で,フランスの歌曲にも相応しいと思いました。

オーケストラの伴奏の方も,木管楽器の音の動きが明確に聞こえてきて,繊細な感じがよく出ていました。ベルギーとフランスというのはお隣同士ですが,弦楽器の軽やかな感じなどは,かなりフランス風だと思いました。

後半のチャイコフスキーの交響曲5番は,非常に演奏効果の上がる曲なので,生で聞いて悪いと思うことはまずありません。この日の演奏も,フランクさんの統率力が隅々まで行き渡った見事な演奏でした。フランクさんは,小柄な方で,椅子に座って指揮をされます。オペラ以外で椅子に座ったまま指揮をする方というのは,長老指揮者を除くと非常に珍しいことです(朝比奈隆さんなどは「立って指揮ができなくなったら...」と言って最期まで立って指揮をされていましたね)。そのせいか,音楽全体に落ち着きと安定感がありました。クライマックスでは立ち上がって指揮をされていたので,このスタイルはフランクさんの個性といえそうです。

第1楽章冒頭のクラリネットは,じっくりと演奏されていましたが,それほど暗い感じはせず,透明感がありました。主部は,快適なテンポになりましたがとても冷静で落ち着いた雰囲気がありました。個人的には,もう少し情熱的な動きのある演奏の方がしっくり来るのですが,何事にも動じない落ち着いた雰囲気にも別の魅力がありました。

第2楽章は,各部分がきっちりと色分けされており,とても聞き応えがありました。中間部のクライマックスも見事でした。思わず拍手が入っていましたが,間をたっぷり取って慌てたところがないのは,フランクさんの特徴だと思います。冒頭のホルンは,何となくたどたどしい感じに聞こえたのですが,そのせいか歌っているというよりは,語りかけてくるような味のある演奏にも聞こえました。

第3楽章の気持ちの良いワルツが終わった後,第4楽章冒頭の弦楽合奏が出てきます。このレガートの響きがとても柔らかく響いていました。主部のテンポは,遅めで何にも動じないような堅固な雰囲気がありました。フランクさんの指揮には,情に流されるようなところはなく,非常に冷静でした。音楽はよく鳴っているのだけれども,あまり若々しい感じがしないな,と思いながら聞いていたのですが,コーダの部分ではどんどんテンポを上げており,爽やかさが出てきました(いつの間にか立ち上がっていました。)。この辺もうまく計算しているなと思いました。

コーダに入る直前の長目の休符の入る部分では予想どおり拍手が入ってしまいました。この部分は,曲中に拍手が入ってしまう箇所の定番なのですが,これだけ盛大に拍手が入るのも珍しいことです。フランクさんも苦笑いしていたのではないかと思います。この日の演奏は,この部分の休符が結構長く,フランクさんはしばらくの間,かなり派手に手を広げたまま立っていましたので,素直な(?)お客さんの多くが勘違いしたのかもしれません。

フランクさんは,音の強弱や色合いの付け方が非常に明確で,何となく指揮台の上で機械のツマミを上げたり下げたりしているような雰囲気があります。「絶対音感」ならぬ「絶対バランス感」のような才能を持った指揮者のように思えました。悪い意味で言っているわけではないのですが,何回指揮をしても,同じ演奏が出てくるのような,職人的凄さを感じました。そういう意味で,ライブ的な雰囲気をあまり感じませんでした。整った音楽を聞かせながらも,スケールの大きさを感じさせてくれる辺り,すでに大指揮者の雰囲気はあるのですが,あまりにもソツのない指揮ぶりが,逆に物足りない気がしました。ただし今後,年齢を重ねるに連れて,出てくる音楽ももう少し変わってくるのではないかという気もしました。

アンコールには,悲しいワルツとハンガリー舞曲が演奏されました。どちらもテンポの変化の面白さが楽しめる曲でした。シベリウスの方では,弱音へのこだわりも聞き所でした。ブラームスの方は,速い部分でのたたみ掛ける感じが迫力がありました。それでいて,全体として余裕たっぷりの堂々たる演奏になっていました。

今回の演奏会については,ちょっと辛いところもありましたが,「こういう日もあるんだな」という話のタネにはなりました。それと,何よりもミッコ・フランクという指揮者の作る音楽と才能に触れることができたのが大きな収穫でした。(2003/01/31)

Review byたいこのひろちゃん
初めまして、私は打楽器アンサンブルRANのメンバーで最年長のたいこのひろちゃんです。私のイニシャルがhsなのでちょっと管理人さんに親しみを感じます。

管理人さんもおっしゃっているように観客の常識を知らない拍手には全く怒りすら感じました。

ミッコ・フランクには数年前から注目していたので今回は楽しみにしていました。実際聴いてみて、彼は只者ではないと感じました。ベルギー国立管弦楽団は初めて聴きましたが、管理人さんと同じくかなりフランスオケに近いように感じました。決して濁らないアタックや強奏、やわらかい木管などはフランス風ですが、弦楽器に何人かドイツ風の奏法の人が混じっていたのと、管楽器のビブラートが少ないのがベルギー風なんでしょうか?彼の指揮は弦楽器をよく鳴らせた上で、メロディーやソロを浮かび上がらせていました。ときどきはっとするくらいのpp(聞こえないくらい)があってぞくぞくしました。またffにもっていくときの高揚感もぞくぞくしました。久しぶりにスカッとした演奏会でした。あの拍手を除いて!

それから今度の日曜日のコバケン指揮のわが祖国や展覧会の絵を聞きたいけどチケットが無くて当日券に並ぼうと思っています。聴けたらまた感想を書き込みたいと思います。

大変長くてすみません。あと一つ、2月9日にRANの演奏会がありますので、時間があったら聴きに来て下さいね。お待ちしております。(2003/01/31)

Review by七尾の住人さん
客の拍手はもちろんの事、空席が目立ったのも残念でした。最初、3階のバルコニー席や3階席の奥にも人が座っていたので、凄く人が入るのだろうと思っていたら、強い冬型の影響かそれ以上座席が埋まりませんでした。

拍手は招待客なんかが結構いたんでしょうね。普段クラシックを聴かない人がこういう機会に生の演奏に触れるのは非常にいい事なんですが、どんな時に拍手をするかぐらいは知っておいて欲しいですね。チャイコフスキーの5番第4楽章の例の所は、あそこで終わるような音楽ではないですし、仮に終わったとしたら斬新な終わり方ということになるのですが・・・

それよりも私はここ2週間ぐらい風邪が治ってはひきなおしたりで、余り体調が良くない状態での演奏会となりました。

そのせいかもしれませんが、私はみなさんが喜ばれたほど響くものは昨日の演奏には感じませんでした。美しい響きやワルツなどでは楽しさが出ていたものの、まだまだ発展していくような印象を持ちました。もしかしたら、オケの響きが自分の好みに合わなかったのかもしれません。フランスのオケの独特の色彩感は好きなんですが、微妙に自分には合わなかったんでしょうね。

でも、やはり体調の影響が大きいかな?(2003/01/31)