オーケストラ・アンサンブル金沢室内楽シリーズ ヴェンツェル・フックス,ザ・サンライズ・クヮルテット室内楽の夕べ 2003/02/21 石川県立音楽堂コンサートホール モーツァルト/クラリネット五重奏曲イ長調,K.581 ブラームス/クラリネット五重奏曲ロ短調,op.115 (アンコール)ウェーバー/クラリネット五重奏曲〜スケルツォ (アンコール)チャイコフスキー(武満徹編曲)/四季〜秋の歌 ●演奏 ヴェンツェル・フックス(クラリネット),ザ・サンライズ・クワルテット(マイケル・ダウス,坂本久仁雄(ヴァイオリン),石黒靖典(ヴィオラ),大澤明(チェロ))
前回行われた邦楽ホールに比べると,コンサート・ホールの方は収容人数が多いので,この日は3階席は使っていませんでしたが,その分,より柔らかな響きを楽しむことができました。私は「CDをセットでご注文の方をご招待」という券で入場したのですが,今回はS席の中から自由に席を選ぶ形になっていました。いつもと違い1階席に座ってみたのですが,やや左サイドのダウスさんの背中を見るような席だったので,1階にしては音が届きにくいと感じました。後半はいつもの2階席に移ってみました。こちらの方が音がよく届くし,バランスも良いと感じました。その分,ステージはやや遠くなりますが,上から見下ろすので,全体が見渡せます。 前半はモーツァルトのクラリネット五重奏曲が演奏されました。まず弦楽器のひっそりとした非常に軽い音で始まりました。続いて出てくるフックスさんのクラリネットの音はとてもまろやかで,弱音が絶品でした。同じ音型がエコーで出てくるたびに少し音が弱くなって,違ったニュアンスで演奏されます。墨の滲みの中に微妙な色合いが感じられるような美しさがありました。第2主題が出てくる前に,ハッとするような休符が入るのも印象的でした。最後,すっとはかなげに終わるのもセンスが良いと思いました。 第2楽章も,弱音が印象的でした。さらに繊細な弱音で一貫しており,息をのむような素晴らしさでした。ザ・サンライズ・クワルテットもこの弱音の雰囲気にぴったりと合わせていました。第1楽章もそうなのですが,この演奏には,子供たちが寝静まった後の暖かな家庭のような趣きがあると思いました。 3楽章もはしゃぎすぎない,落ち着きのある音楽になっていました。中間部でさらにテンポを落とし,どんどん深い世界に入っていきました。 第4楽章の変奏では各楽器に聞かせ所がありました。石黒さんのヴィオラの美しい音も楽しめたし,ダウスさんのヴァイオリンとフックスさんのクラリネットの速い動きの掛け合いも見事でした。この日の配置は,弦楽四重奏の4人が高音から順に並んだ隣にフックスさんがいましたので,ダウスさんとフックスさんが向き合う形になっていました。これも昨年と同様でした。 終結部付近の非常にじっくりとした雰囲気も聞き応えがありました。この部分が終わった後,さり気なく終わるのも見事でした。この辺の全体設計の巧さは,さすがレコーディングを行ったチームだな,と感じました。 昨年聴いた時は,ちょっと弱音にこだわり過ぎていてエキセントリックかな,とも感じたのですが,今回より柔らかな響きのするコンサート・ホールで聞くと,とても熟成された音楽に聞こえました。 それでも,先に書いたように,フックスさんの音に比べて,ダウスさんの音がちょっと遠く聞こえたので,後半は自由席のメリットを生かして,別の席に移動してみました。慣れているせいか,私には2階席の前の方が全体のバランスがよく聞こえました。弦楽器を1階席で聞く場合は,やはり背中を見るような位置だとよくないようです。ブラームスの方では,そのせいもあって,第1楽章から,よりスケールの大きな雰囲気を感じました。クラリネットの方も,まろやかさに加えて,高音で叫ぶような,それでいて刺激的ではない美しい音を楽しむことができました。ただ,弦楽器はクリアに聞こえた分,ちょっと力が入りすぎているところがあるかな,と感じました。それと,やっぱり私にはブラームスのこの曲の暗さ,地味さはちょっと苦手です。CDをじっくり聞き込んでみようと思っていますが,もう少し年を取って,作曲時のブラームスの年齢に近づくと,味がわかってくるのかもしれません。 この曲の第2楽章は,モーツァルトの第2楽章同様,深い音楽でした。フックスさんのまろやかな音色や美しい弱音は,ブラームスの音楽にも相応しいと思います。途中,かなり動きのある雰囲気に変わります。地味な印象を持っていたのですが,大変聞き応えのある楽章だと思いました。 3楽章は少し気楽な気分になるのですが,それでも晴れ晴れとした感じにならないのはブラームスらしいと思いました。第4楽章は,各変奏ごとに各楽器の見せ場がありました。大澤さんのチェロが特に渋く光っていました。モーツァルトの時同様,ダウスさんとフックスさんの掛け合いも見事でした。この曲では気分が沈んだまま,そのまま第1楽章の雰囲気に戻って終わります。暗い中にどこか懐かしさを感じさせてくれるような温かみのある演奏でした。 アンコールは,2曲演奏されたのです。実は昨年の演奏会でも全く同じ2曲が演奏されました。聞いているうちに,そのことを思い出したのですが,どちらも素晴らしい演奏でした。ウェーバーの曲の方はアンコールに非常に相応しいユーモアのセンスに溢れた曲です。最後に非常に弱い音で演奏した後,フックスさんが客席の方をちらっと見るという趣向も昨年と同様でしたが,思わず聞いている方の顔がほころぶような曲です。是非,全曲を聴いて見たい曲です。 アンコール2曲目は,武満編曲のチャイコフスキーの組曲「四季」の中の1曲でした。武満さんにこんな編曲があるとは,多くの人は知らないと思うのですが,とても良い雰囲気のある曲です。いかにもチャイコフスキーという感じのクラリネットの響きも良いのですが(ヴァイオリン協奏曲の2楽章などを思い出します),ダウスさんと坂本さんの2本のヴァイオリンがユニゾンで出てくるような響きの美しさ印象的でした。
PS.この日は,先日のベルギー国立管弦楽団の演奏会を思い出させるほど,楽章間によく拍手が入りました。招待客が多いとそうなるようです。演奏者の方はちょっと気になったかもしれません。(2003/02/22) |