オーケストラ・アンサンブル金沢第136回定期公演PH
2003/02/27 石川県立音楽堂コンサートホール

1)モーツァルト/交響曲第31番ニ長調,K.297「パリ」
2)シュトラウス,R./クラリネットとファゴットのための二重小協奏曲ヘ長調,AV.147
3)(アンコール)プーランク/クラリネットとファゴットのためのソナタ〜第1楽章
4)メンデルスゾーン/交響曲第3番イ短調,op.56「スコットランド」
5)(アンコール)レスピーギ/リュートのための古代舞曲とアリア第3組曲〜イタリアーナ
●演奏
ジェイムズ・デプリースト指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(1-2,4-5)
ヴェンツェル・フックス(クラリネット*2,3),リヒャルト・ガレール(ファゴット*2,3)
マイケル・ダウス(コンサートマスター)

Review by管理人hs  
今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演は,考えてみると久しぶりにオーソドックスなプログラムの演奏会となりました。昨年の秋から,「歌もの」「合同公演」など楽しい「色物(?)」が続いていたのですが,今回のような編成・プログラムが本来のOEKのスタイルといえそうです。ファンからも団員からも(多分)支持が高いジェイムズ・デプリーストさんが登場したことも大きな期待となりました。

今日は,OEKの団員がステージに入ってくる順番がいつもと違いました。コンサートマスターのマイケル・ダウスさんが最初に入ってきたのですが,たまには気分転換をされているのでしょうか?チューニングの後,いよいよデプリーストさんの登場です。デプリーストさんが杖をついてゆっくり登場すると,会場にオーラが発散されたような雰囲気になります。弦楽器の前方に座っている奏者が手助けをして杖を置き,高めの椅子に座った後,ぱっと両手を広げるとピリっとした空気が走ります。とても体格の良い方ですが,非常にキレの良い動作で第1曲目のモーツァルトのパリ交響曲が始まりました。

デプリーストさんの指揮は慌てず,騒がず,すべてお見通し,という感じの風格のあるものです。出てくる音楽も非常に緻密で,どちらかというとクールな感じがしました。曲の純粋さがよく出ていたと思います。2楽章も淡々としたペースで,甘くなることがありません。座って指揮されているのでそう感じるのかもしれませんが,まさに地に足の着いた音楽という感じです。第3楽章は,出だしの部分の弦楽器の掛け合いの緻密さが見事でした。この曲は,パリの聴衆向けに作られた曲で,3楽章のこの部分が特に受けたらしいのですが,そのことが分るような気がしました。ただし,パリという言葉から受ける,浅薄な印象はなく,もっと落ち着いた高級な曲のように聞こえました。

曲が終わり,団員が引っ込んでも,デプリーストさんはそのまま指揮台のところに留まっていました。出入りに時間を取られたくない,という配慮だと思います。続いて,2曲目のソリストの2人が登場しました。R.シュトラウスの二重小協奏曲という曲はかなりマイナーな曲なのですが,シュトラウスが同じ時期に作曲したオーボエ協奏曲と似た簡潔で古典的な感じのする,愛すべき作品です。まさにOEK向けの曲と言えます。

曲はダウスさんの艶やかなヴァイオリンを含む弦楽五重奏で始まります。そこにフックスさんのクラリネットが加わり,非常に息の長いメロディを演奏します。鳥肌が立つほど,美しく表情豊かなソロでした。特に高音が素晴らしく魅力的でした。ファゴットの方はのんびりと出てきて,受けて立つようなところがありました。

この曲は全体に2つの独奏楽器が対話をするような場面が沢山あり,そこが大きな聞き所になっています。メロディ自体で何かを語っているような音の動きをするところもあります。今回のソリストのお2人の場合,大柄なガレールさんと小柄なフックスさんという組み合わせでしたので,「オール阪神・巨人」(?)という感じでした。「阪神・巨人」は,どちらがボケでどちらがツッコミか分らない位の名コンビですが,今回のソリストの場合,やはりファゴットがボケで,クラリネットがツッコミという感じでした。第2楽章の出だしの部分のハープと弦楽器による繊細なトレモロの美しさも見事でした。カデンツァの部分はまさに対話をしているようでした。第3楽章は,この両者の掛け合いがさらに華やかになります。クラリネットとファゴットという木管楽器の柔らかい響きを聞いていると,何となくメルヘンチックな雰囲気になります。この曲は,隠れた名曲といえるかもしれません。

アンコールでは,このお2人だけで,プーランクの曲を演奏しました。せわしなく動いたり,急に立ち止まったり,とステージ上の2人の体の動きを見ているだけで楽しくなるような曲でした。プーランクという人は,本当にいろいろと小粋な曲を書いています。さらにもう1曲アンコール...ということで弾き始めた曲は...同じ曲でした。一節だけを弾いて,パッと切り上げるあたりの洒落っ気もプーランクにはぴったりでした。このお2人は協奏曲の時は対向配置だったのですが,アンコールの時は同じ譜面台を見て,2人並んで楽しげに吹いていました。2人ともオーストリア出身ということで,息もぴったりという感じでした。

後半は,まさにメインディッシュという感じでスコットランドが演奏されました。デプリーストさんの雰囲気からすると,遅めのテンポかな,と予想していたのですが,全体に速目のテンポでまとめていました。もともと,楽章間にインターバルを置かずに演奏される曲ですが,曲全体に一本しっかりとした筋が通ったような演奏になっていました。ロマン派の曲というよりは,古典的な感じがしました。室内オーケストラに相応しい曲の作り方だと言えそうです。

第1楽章の冒頭の序奏からして,もったいぶった感じは全然ありませんでした。それでいて,寒々とした雰囲気が良く出ていました(話は変わりますが,この日は2月末にしては非常に寒い日でした。この部分を聞きながらホールの外の空気を思い出してしまいました)。主部に入っても甘くロマンティックになるところはありません。激しく盛り上がる部分の厳しさもとても印象的でした。

第2楽章は楽しげなスケルツォ風の楽章なのですが,キビキビとしたリズム感を出しながらも,はじけるような明るさはありませんでした。抑制の効いた,大人の音楽だなと感じました。第3楽章の淡々とした音楽の運びも聞き応えがありました。甘くは無いけれども,しみじみとした情感がさりげなく身体に染み込んでくるようでした。第4楽章へは完全に切れ目なくつながっていました。鮮やかな転換が見事でした。ここでも厳しい雰囲気が続きました。トランペットの鋭く強い響きも要所で効果的に決まっていました。最後の長調に転換する部分は,もっとテンポを落とすのかな,と予想していたのですが,快適なテンポで突き進んで行きました。文字通り小細工のない音楽になっていました(私は,短調から長調に転調するこの部分の音色が好きなのですが,この音色の秘密はヴァイオリンが入っていないところにあるのだと気付きました。生演奏を見てよくわかりました。)。

全体にこれ見よがしのところを廃した,辛口のメンデルスゾーンになっていたと思います。後半で管楽器のミスがちょっとありましたが,長い交響曲をこれだけまとまり良く聞かせることができるのは流石だなと思いました。デプリーストさんに何回も出入りさせるのは申し訳ないと思いつつも,演奏後は,盛大な拍手が続きました。アンコールに,レスピーギの小品がさらりと演奏されてお開きとなりました。

この日は,ライブ録音を行なっていたようでした。指揮台の上あたりに天井からマイクがぶらさがっていました。この演奏会の前日にワーナー・ミュージック・ジャパンからOEK1000シリーズの第1期のCDが発売されましたが,デプリースト指揮OEKのCDが第2期あたりで発売されれば大きな話題となることでしょう。

フックスさんとガレールさんのサイン
デプリーストさんのサイン。やはり大きな方でした。
PS.この日は,演奏会後,独奏者お2人によるサイン会をロビーで行なっていました。フックスさんには数日前にもらったばかりだったのですが,せっかくの機会なのでまたもらってきました。その後,楽屋口に行ってデプリーストさんのサインを頂いてきました。私以外にも数人待っている人がいました。やはり隠れた人気のある方だな,ということがわかりました。

PS.上述のとおり,この日はOEK1000シリーズが発売になったばかりということもあり,会場では大々的に宣伝を行なっていました。「いらっしゃい,いらっしゃい,1000円で販売しております」という呼び込み(?)の声についつい購入してしまった方も多いのではないかと思います。

私の方は,すでに予約済みだったので,演奏会前にチケットボックスで受け取ってきました。5枚組が特製ボックスに入っており,なかなか高級感があります(3月の演奏会のページに写真を載せてみました。)。演奏会の写真をふんだんに使った装丁も素晴らしいし,何よりもレコーディングに参加したメンバー表が付いているところが嬉しいところです(だけど,残念ながらコンサートマスターが誰だったのかわからないですね。これはOEK fanで調べればわかる?)。外来オーケストラの演奏会では1部1000円を越えるようなパンフレットがあったりしますが,そのことを考える随分お得なCDといえそうです。 (2003/02/28)