金沢シンフォニックウィンズ,プロムナード・コンサート
2003/04/03 石川県立音楽堂交流ホール
リード/音楽祭のプレリュード
リード/序曲「春の猟犬」
バーンスタイン/ディヴェルティメント
リード/アルメニアン・ダンスpart1
リード/「ハムレット」への音楽
バーンスタイン/ウェストサイド・ストーリー・セレクション
(アンコール)リード/エル・カミーノ・レアル
(アンコール)リード/第1組曲〜第4曲ギャロップ
●演奏
小泉貴久指揮金沢シンフォニックウィンズ
Review by管理人hs
吹奏楽という分野は,演奏人口が多い割にはマイナーなところがあります。恐らく,どの中学校,高校にも吹奏楽部はありますので,高校野球並みに部員数は多いと思うのですが,その割にプロの吹奏楽の演奏会が行なわれる機会は多くありません。石川県関係の管打楽器演奏家の集まった金沢シンフォニックウィンズ(KSW)という吹奏楽団は,厳密にはプロとは言えないのかもしれませんが,全員が楽器演奏の専門教育を受けた方ということで,実力的にはプロの集団と言えます。そういう意味で大変,貴重な演奏会ということになります。

この日のプログラムは,吹奏楽関係者の間では非常に知名度の高いアルフレッド・リードの作品とバーンスタインの作品が計6曲演奏されました。私自身,初めて聞く曲が多かったのですが,吹奏楽編成用のクラシカルなオリジナル作品ばかりをこれだけ集めたプログラムが組まれることも珍しいことです。KSWの"S"は「シンフォニック」ですが,この楽団のコンセプトは,クラシカルな曲を取り上げて,オーケストラ的なサウンドを目指すとことなのではないかと思いました。吹奏楽という分野に対するこだわりと誇りを感じました。とても志の高い団体だと思います。とはいえ,真面目な雰囲気ばかりではなく,吹奏楽特有の楽しさ(特に後半の盛り上がり)にも溢れていました。今後,石川県内の吹奏楽の活動を大いに盛り上げてくれる団体となることでしょう。

演奏会は,まずリードの作品2曲で始まりました。それぞれ「プレリュード」「序曲」という名前が付いており,両方とも華やかなファンファーレやシンバルの強打で始まります。何となく似た感じの曲で,一度聞いただけではちょっと区別が付かなかったのですが,各楽器のソロよりは楽団全体のハーモニーを挨拶代わりに聞かせてくれたような感じでした。演奏の方は,プログラムの最初だったせいか,どこか落ち着き過ぎているような気がしました。

続くバーンスタインのディヴェルティメントには,楽器のソロが沢山出てきました。ボストン交響楽団の創立100年記念に作曲された曲ということで,いろいろな国の踊りが順番に出てくる楽しい曲でした。曲の構成としては,バレエの2幕辺りに出てくる,「ディヴェルティスマン」のような軽妙な趣きがありました。冒頭からウェストサイド・ストーリーのような響きが出てきて,バーンスタインらしさにも溢れていました。

各曲には,ワルツ,マズルカ,行進曲といった伝統的な形式のタイトルが付いているのですが,実際には結構ひねくれた感じ(?)のリズムで,そのまま踊ったり,行進したりはできない感じでした。7曲目に濃い味付けのブルースが入っているのもアメリカ的です(とても見事なトランペットでした)。最後は「BSOよ永遠なれ」というどこかで聞いたことのあるような名前の行進曲で終わります。これまたどこかで見たことがあるように,ピッコロの独奏が途中で入ったり,最後にはトランペットなどが立ち上がって演奏をしたり,とスーザのあの有名曲を意識した作品となっていました。

後半は,リードのアルメニアン・ダンスで始まりました。この曲のタイトルだけは聞いたことがあったのですが,非常に楽しめる曲でした。華やかなファンファーレの後,いろいろな民族舞曲風の音楽が続きます。特に最後のテンポが速くなる部分はエキゾチックなムードたっぷりでとても楽しめました(エネスコのルーマニア狂詩曲と雰囲気が似ています)。KSWの演奏はエキサイトしすぎることなく,軽やかに楽しく盛り上げてくれました。カラオケ・ボックスではありませんが,こういう曲はタンバリンが入ると一気に盛り上がります。

続く,「ハムレット」への音楽は,この日の演奏会のメインとなる曲でした。アルメニアン・ダンスの軽やかな響きの後で聞くと非常に重厚に響きました。シェイクスピアの悲劇「ハムレット」からインスピレーションを受けて作曲された曲ということで,劇音楽的要素が感じられましたが,その一方,4楽章構成になっていましたので交響曲として聞くこともできそうでした。いずれにしてもブラスバンドならぬウィンド・オーケストラが演奏するのに,相応しい曲でした。第1楽章はここでも堂々と始まりますが(リードの作品は,最初の「ツカミ」が巧い?),続く2,3楽章辺りは交響曲の中間楽章的な雰囲気になります。最後の4楽章は華やかに終わるのではなく,静かに終わります。吹奏楽といえば華麗な印象があるのですが,その守備範囲の広さを感じさせてくれるような大曲でした。この曲の演奏後,指揮者の小泉さんは,全プログラムが終わったように,団員をパートごとに立たせていましたが,とても聞き応えのある演奏になっていました。

最後に演奏されたウェストサイド・ストーリーからの音楽には,すでにアンコール・モードに入ったたような楽しさがありました。曲は,有名なシンフォニック・ダンスではなく,もっとコンパクトにアレンジされたものでした。この曲では,サクソフォーンの響きが特に印象的でした。

この後,さらにアンコールが2曲演奏されました。このアンコールが乗りに乗った演奏で,演奏者の方々も楽しんでいたようでした。最初の曲はアルメニアン・ダンスとちょっと似た感じでしたが,ラテン系の雰囲気がありました。最後に「オレッ」と団員の皆さんが叫んでいました。2曲目の方は抑えても抑えきれないほどの速いテンポの親しみやすい行進曲風の曲でした。

吹奏楽は,ブラスバンドと呼ばれたりしますが,こうやって改まった感じで聞くとその表記が間違いだということがわかります。ブラスだけではなく,木管楽器の作る響きが大変重要だということがわかります。個人的にはクラリネットのアンサンブルとサックスのアンサンブルの作る響きが大好きです。トランペットを中心とした鋭く,明るい響きの後に,木管楽器の軽いけれどもしっかりとした音色が出てくると,曲が非常にまとまって聞こえます。この日の演奏は,その辺が大変魅力的だったと思いました。

この日は当初,榊原栄さんが指揮するはずだったのですが,急病でトランペット奏者の小泉貴久さんが指揮をすることになりました。小泉さんは,こういう演奏会が実現したのは非常に素晴らしいことで全国に広めていきたいとおっしゃっていましたが,私も同感です。定期的に演奏会を重ね,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の姉妹団体のような感じで活躍していって欲しいものです。この団体には,OEKの管打楽器奏者がアドバイザーやエキストラとして参加しています。石川県内の実力と情熱のある音楽家たちをOEKが支えている形となります。こういう組み合せによる音楽活動は石川県の音楽文化の全体的なレベルアップにつながるのではないかと思います。この日は(もうちょっと盛大な拍手が欲しかったですが),若い聴衆が多かったのも特徴的でした。このことは吹奏楽の裾野の広さを感じさせてくれました。

この日,演奏会場の交流ホールはほぼ満席でしたが(このホールは変幻自在なので”満席”というのが何席かわかりませんが),次回はよりシンフォニックな響きのする音楽堂コンサートホールの方で聞いてみたいものです。(2003/04/04)