第2回北陸新人登竜門コンサート:弦楽器部門
2003/04/06 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ハイドン/チェロ協奏曲第1番ハ長調,Hob.VIIb-1
2)ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調,op.26
3)プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番ト短調,op.63
●演奏
福野桂子(チェロ*1),坪倉かなう(ヴァイオリン*2),坂口昌優(ヴァイオリン*3)
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
サイモン・ブレンディス(コンサートマスター)
Review by管理人hs
昨年,「石川県」から「北陸」に名称を変えた4月恒例の新人登竜門コンサートに出かけてきました。最近,この演奏会出身の奏者が石川県立音楽堂の各種演奏会に登場する機会が多いのですが,その活躍を見ていると,この「新人発掘」演奏会が有効に機能していると感じます。

今回は,弦楽器部門で,結果として,石川県出身者が3人選ばれました。出演者のうち坪倉さんと坂口さんはまだ学生で,しばらく前まではジュニア・オーケストラのメンバーだった方だと思います。先日のジュニア・オーケストラの定期演奏会でもコンサート・マスターの中学生(多分)がブラームスの交響曲第1番の第2楽章の独奏を見事に演奏していましたが,このオーケストラ自体が,登竜門コンサートの予備軍のような感じになってきているようです。いずれにしても,この登竜門コンサートは県内で音楽を勉強している人にとって,大きな目標となってきているのは嬉しいことです。

最初に登場したのは,今回の3人の中ではいちばん年長のチェロの福野桂子さんでした。この方のお名前は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のエキストラとして,パンフレットの中で何回か見た覚えがあります。そのせいか,オーケストラとのバランスがとても良いと思いました。ヴァイオリン協奏曲と比べると地味な印象でしたが,安定感は抜群で,安心して聞くことができました。3楽章は,技巧的に非常に難しいのですが,そういう困難さを感じさせませんでした。もう少し,華やかな雰囲気があっても良いかなという気はしましたが,さりげなく巧いというのはもっとすごいことかもしれません。OEKの音色は,非常に明るく朗らかで,過不足のないものでした。今年度,OEKはハイドンを集中的に取り上げる予定ですが,大いに期待できそうです。

続く,坪倉さんは,今回の3人の中では最年少で,まだ高校2年生です。ピンクのドレスでステージに登場した姿には,「演奏会」というよりは「発表会」といった感じの微笑ましい雰囲気があったのですが,その演奏は,非常に堂々としたものでした。冒頭の低音から高音に駆け上がっていく辺りのソロの部分からして,演奏の呼吸が深く,とてもスケールが大きいと思いました。他の2人に比べると,細かいところが粗削りな感じはありましたが,枠にはまらないような伸びやかさと自由さを感じました。何となく,OEKの演奏の方も小娘(失礼)に引っ張られているような気がしました。3月のブラームスを思い出させるような,非常に力強い響きを出していました。この曲は,演奏者の情熱がダイレクトに出てくる曲ですので,頑張って弾いているのを聞いているうちに,目頭が熱くなってきました。初々しいのに堂々とした雰囲気は,未知数の魅力を持っていると思いました。

後半の坂口さんのヴァイオリンを聞くのは,昨年8月のジョイント・コンサート以来です。この方は現在,音楽大学の2年生で,すでに演奏活動も行なっているようです。坪倉さんと比べると,既に完成された音楽家という雰囲気があります。音も非常に練られており,演奏の流れも非常にスムーズだと思いました。このプロコフィエフの曲は,ハイフェッツの演奏が有名ですが,それに比べると(我が家にCDがありました),落ち着いたテンポで演奏していました。第2楽章からは,温かみのある叙情性を感じました。第3楽章は,その分ちょっと重苦しい気がしました。もっと爆発的なエネルギーがあると良いかなとも思いましたが,全体的には,どこに出しても立派に通用するバランスの良い演奏だったと思います。この曲は3年前の登竜門コンサートでも演奏された曲ですが,20世紀のヴァイオリン協奏曲の中では,OEKの編成にいちばん合った曲のような気がします。

というようなわけで,今年の登竜門コンサートは,非常にレベルが高かったような印象を持ちました。すでに評価が決まった演奏家を聞くのも面白いのですが,この演奏会のように,聴き手の方が新人を発掘するような演奏会も楽しいものです。(2003/04/06)