ウェルカム・スプリング・コンサート
2003/04/12 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ブロッセ/フランスと友人たちのために
2)スウェルツ/ペトラルカのソネット第61番
3)スウェルツ/悲歌
4)ヴェルシュレーゲン/3つのフラマン舞曲
5)カペレッティ(ヴェルテン作・演出)/オーケストラのための音楽物語「フランダースの犬」(映像付,世界初演)
●演奏
ルドルフ・ヴェルテン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
ルドヴィート・カンタ(チェロ*1,3),波木井賢(ヴィオラ*2),サイモン・ブレンディス(ヴァイオリン*3),加納律子(オーボエ*4),新井康弘(語り*5),山中由紀(日本語訳*5),黒柳和夫(舞台監督*5)
サイモン・ブレンディス(コンサートマスター)
Review by管理人hs
毎年,4月に行なわれている定期会員ご招待のウェルカム・スプリング・コンサートですが,今年はちょっと趣きを変えていました。昨年まではオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の団員がソリストとして登場する曲が中心だったのですが,今回は指揮者のルドルフ・ヴェルテンさんの作・演出による映像付き「フランダースの犬」がメインとなっていました。この曲については,後で触れることにしますが,ステージは,いつもの演奏会とはかなり違った雰囲気になっていました。パイプオルガンの辺りには,大きなスクリーンがあり,ステージ全体は黒い布で覆われていました。オーケストラの配置もかなり変則的なものでした。

演奏会には「ベルギーからの贈り物」というタイトルがついていましたが,前半,後半ともにベルギーの作曲家の曲またはベルギーにちなんだ曲が演奏されたようです。この日の演奏会には作曲者について書かれたパンフレットがなかったのですが,今回のようなプログラムの場合,ある程度作曲者についての解説やプログラミングの意図についての説明があった方が良かったと思います。

とはいえ,前半に演奏された曲は,すんなり耳に入り込んでくるわかりやすい曲ばかりでした。どの曲にもOEKの奏者がソリストとして加わっていたのも良かったと思います。最初のブロッセの曲は,OEKのフル編成による演奏でした。何となく「利家とまつ」の音楽を思い出してしまうような大河ドラマのサントラ風の音楽でした。じっくりと聞かせてくれたカンタさんのチェロのソロも見事でした。

前半の他の3曲はいずれも弦楽合奏+ソロ楽器という編成でした。スウェルツの曲は2曲演奏されました。この2曲もスルスルと音が耳に入ってくるような気持ちの良い音楽でした。ペトラルカのソネット第61番の方には,波木井賢さんというヴィオラ奏者の独奏が入りました。この方がどういう方か知らないのですが,先日,OEKの奏者のオーディションを行なっていましたので,新しいヴィオラ奏者の方なのかもしれません。詩的なタイトルの付いた曲ですが,常に何かを物語っているような素晴らしいヴィオラでした。

続く,「悲歌」という曲は,「悲しい歌」というよりは,悲しみを慰めてくれるような,まさにヒーリング・ミュージックでした。非常に短い曲でしたが,大きく感情が盛り上がることもなく,弦楽合奏が気持ちよく続きました。

最後の曲は「フラマン舞曲」ということで,ベルギーの民族音楽的な雰囲気がありました。3つの曲から成っていましたが,段々とテンポが速くなるような感じで,前半を楽しく締めてくれました。加納さんのオーボエもとても表情豊かでした。健康的な響きが大変魅力的でした。

前半の曲は,日本人にとっては全くと言ってよいほど知られていない曲ばかりでしたが,すべて気持ちの響きを持った曲ばかりで,全体的の雰囲気のバランスがとても良く取れていました。ヴェルテンさんの選曲のセンスは素晴らしいと思いました。

後半は,メインの「フランダースの犬」でした。この作品がどういう経緯で作られたのかわからなかったのですが(やはり,解説が欲しかったところです),大変良く出来ていました。スクリーンに映画のような映像を映し出しながら,パトラッシュ役の新井康弘さんが語りをするという構成でした。オーケストラは,スクリーンの後ろに並んでいます。スクリーンの下部が簾のようになっており,客席からはうっすらと見えるようになっていました。このオーケストラなのですが,指揮者が客席の方を向くような配置になっていました。つまり,オーケストラの団員がお客さんに背を向けて演奏する形です。こういう配置を見るのは初めてでしたが,違和感は感じませんでした。

ストーリーは,おなじみ...のはずなのですが,考えてみると,この話を読んだのは随分昔のことで,「パトラッシュは犬の名前だったか?子供の名前だったか?」というのが見る前の私の状態でした。まず,序曲のような感じで音楽が鳴り始めたのですが,その音楽が何と「ランララー,ランララー」で始まる懐かしのアニメのテーマ曲でした(「よあけのみち」という曲ですね)。「もしかしたら,映像の方もアニメ?」と一瞬思ったのですが,映像の方は,本格的な映画の映像でした。この映画がどういう経緯で作られたものなのかもよくわからなかったのですが,この演奏会のために作られたものではなく,既存の映像であることは確かだと思います。

舞台上には簡単なセットもあり,パトラッシュ役の新井康弘さん(元ずうとるびです)が犬の衣装を被って藁の中に入っていました(かなり暑かったと思います)。反対側には牛乳を運ぶための台車のセットも置いてありました。こういうセッティングで,新井さんが,非常に沢山の語りをします。最初から最後まで,饒舌と言ってよいほど,ほとんど切れ目なくしゃべり通しでした。これは本当に重労働だったと思いますが,もう少し音楽だけを聞かせる部分があっても良かったと思いました。

それと,映像と語りのギャップを感じました。映像の方は,少々凝った効果を使った大人向けのものだったのですが(出てくる俳優はもちろんすべて外国人です),語りの方は「我輩は猫である」を思い出させるような「犬」が子供の聴衆に語りかけるような内容でした。曲の最後で「淋しいときは,パトラッシュと呼んでみよう」とお客さんに呼びかけていましたが,お客さんの中に子供が沢山居たわけでもないので,この語りはちょっとズレているな,と感じました。この演奏会自体,子供を対象としたものだったらピッタリだったと思います。あれだけ立派な映像と小道具があるので,今回だけで終わらせずに,いろいろな場所で子供向けの演奏会のために使えるのではないかと思いました。

語りの方は,かなり明るい雰囲気だったのですが,映像及び音楽の方は悲しげなムードの漂うものでしたので,「泣けた」という人も多かったと思います。ただし,個人的には,客層に応じて,大人向けにもっとクールな語りでまとめて欲しかった,という気がしました。

OEKの方は黒御簾の裏で生のサントラを演奏していましたが,ほとんどが語りとダブッていましたので,音楽を味わうという感じではありませんでした。コンサートで聞かせることを考えるのならば,やはりもう少し語りを少なくすべきだったと思います。

とはいえ,スクリーンの後ろで生のオーケストラが演奏する,というのも中々面白いと思いました。いろいろな映像と組み合わせてOEKが演奏する,というアイデアは今後いろいろな可能性が期待できそうです。

PS.演奏会の後は団員と定期会員との交流会がありましたが,最初から「ご自由にどうぞ」という感じだったので,ちょっと戸惑いました。私のような引込み思案な人間には,あれこれ仕切ってもらった方がスムーズに会話が出来たかもしれません。とはいえ,OEKの団員の方を含め何人かの方と会話をすることができ,ネット上だけでの交流とは違ったコミュニケーションを取ることができました。
指揮者のヴェルテンさんの挨拶 語りの新井さんの挨拶 この日はOEK特製スパークリング・ワインの試飲コーナーもありました。OEK設立15周年記念の限定生産で,もうすぐ予約受付を始めるそうです。岩城さんの顔写真入りのOEKオリジナルラベル付きのルクセンブルクのワインです。(2003/04/12)