オーケストラ・アンサンブル金沢第140回定期公演PH
2003/04/24 石川県立音楽堂コンサートホール
1)山口恭子/だるまさんがころんだ
2)一ノ瀬トニカ/美しかったすべてを花びらに埋めつくして・・・(1995年度OEK委嘱作品)
3)シューベルト/交響曲第7(8)番ロ短調,D.759「未完成」
4)シューベルト/交響曲第8(9)番ハ長調,D.944「ザ・グレート」
5)(アンコール)シューベルト(アーサー・ラック編曲)/楽興の時第3番
●演奏
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
高木綾子(フルート*2),サイモン・ブレンディス(コンサートマスター)
響敏也,山口恭子,一ノ瀬トニカ(プレトーク)
Review by管理人hs  tomoさんの感想10年ぶりの金沢さんの感想
今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演は,大変盛りだくさんの内容となりました。岩城さんは,いつも現代の作曲家の曲と「クラシックな」作曲家の曲を組み合わせたプログラムを組むのですが,今回は,演奏会1回半分ぐらいの長さになりました(10分と15分の2回の休憩が入りました)。普通の巨匠なら,シューベルト2曲だけでプロブラミングをしそうなものですが,それに加え,現代曲2曲が最初に演奏されていたのは,いかにも岩城さんらしいところです。

この日のプレトークには,今回曲が演奏された山口さん,一ノ瀬さんという2人の作曲家が登場しました。2人とも若い女性です。OEKは,これまで若手作曲家の曲をかなり沢山演奏してきましたが,女性作曲家がだんだん増えてきているような印象があります。今回の2曲もそれぞれに個性的で印象的な作品でした。

最初に演奏された,山口さんの作品は,まず「だるまさんがころんだ」という標題からして目を引きます。ひらがなが10文字も並ぶと,とても目立ちます。曲は,5分ほどの短い曲でしたが,かなり強烈なインパクトを持っていました。わらべ歌風ののどかな曲を想像するとちょっとびっくりするかもしれません。「だるまさんがころんだ」と素早く叫ぶように「ダダダダダダダダダダ」というような音型がいろいろな楽器で強く演奏されます。そのあと「シーン」という感じの弱い音が続きます。このパターンが繰り返されます。公演プログラムには「遅いテンポを持つ速い曲」と書いてありましたが,確かにそういった感じの曲でした。曲が静かに終わるその瞬間に「ヘックション」というクシャミが入ったのはちょっと残念でしたが,曲名が聴き手の想像力をうまく広げてくれるような巧くできた作品だと思いました。

次の一ノ瀬さんの作品は,OEKの1995年度の委嘱作品で,今回は再演になります。OEKが委嘱した作品は,OEKの財産とも言えますが,この曲のように「ウケた作品」はどんどん再演していってもらいたいと思います。私は,この作品の初演も聴いているのですが,とても気持ちの良い響きを持った魅力的な曲だったことをよく覚えています。今回再演されたのは,フルート奏者の高木綾子さんとの共演を想定してのことかもしれません。それだけ,高木さんの雰囲気や音色によくあっていました。

曲はとても静かに始まり,気持ちのよい和音が続きます。映画音楽か何かのような響きがあるのですが,俗っぽくなる一歩手前で留まっていました。ラヴェルの「マ・メールロワ」のように,詩的なストーリー性を感じさせてくれる,素晴らしい作品だと思いました。高木さんのフルートは,クールですっきりとした音色でオーケストラと対話をするように曲は進んで行きます。時に熱っぽくなったり,強い音を出したり,とても表情豊かでした。現代的でスマートな雰囲気のある高木さんには,「美しかったすべてを花びらに埋めつくして」という詩的なタイトルはぴったりでした。曲の中盤は,かなり激しく盛り上がりますが,最後は再度慰めるような優しい雰囲気になります。余韻を持って「シャンシャン」と響く「鈴」の音もとても詩的でした。「現代音楽=難解」と考えている人には物足りないのかもしれませんが,私はこういう新鮮な感覚を持った作品が大好きです。

終結部では,高木さんはフルートをピッコロに持ち替え,そろりそろりと移動を始めます。「ハーメルンの笛吹」といった感じで,歩きながら素朴な音型を繰り返し,ステージを降ります。そのまま会場の外に出ていって,音が消えたところで曲は終わります。曲自体も楽しめるものなのですが,こういう意外性に富んだパフォーマンスを楽しめるのもライブならではです。ここでは客席を明るくしたまま演奏する「OEK方式」が大変よく生きていました。

この日は,例によってレコーディングを行っていました。OEK1000シリーズに入るのかどうかはわかりませんが,この曲のレコーディングを行っていたことは確実です(高木さんが客席を歩くことを意識してか,客席上方からもマイクがぶら下がっていました)。高木綾子さん自身,ジャンルにとらわれないレコーディングを行っていますが,この作品ならば,クラシック音楽以外のファンにも強くアピールできるのではないかと思いました。

演奏会はここで小休憩になりました。その間に楽器の配置の転換があったのですが,後半の配置は,かなり変則的なものでした。前回の岩城さん指揮のブラームス特集ほどではありませんが,先日OEKを指揮した,ルドルフ・ヴェルテンさんの時の配置と似ていました。第1,第2ヴァイオリンが対抗配置で,第1ヴァイオリンの隣にチェロ,ヴィオラの順に並びます。コントラバスは,下手奥のホルンの隣辺りになります。上手奥には,それに対応するかのようにトロンボーンが3本並んでいました。

ここから後は,シューベルトの交響曲2曲です。まず,「未完成」です。冒頭のコントラバスの深い響きは,先に述べた配置のメリットがよく出ていました。その後は比較的起伏が少なく,落ち着いたムードの漂う演奏となっていました。展開部では,十分に盛り上がりを作るのですが,力んだところがなく,さりげなくまとめられていました。この楽章は,甘いメロディやドラマティックな激しさを持っていますが,その辺を強調し過ぎていなかったのもベテラン指揮者ならではだと思いました。第1楽章の最後の音も,デクレッシェンドするのではなく,さっぱりと結ばれていました。

2楽章も同様に落ち着いた演奏でした。特に,木管楽器のしっとりとした響きが大変印象的でした。岩城さんの指揮は淡々としているけれども,さらりと流れて行きません。自然体で演奏して,ワビ・サビを感じさせる境地に至っているのかもしれません。鋭さや過激さはないけれども,そういったものを敢えて避けた,大人の演奏でした。

ここで再度休憩が入り,メイン・プログラムの「ザ・グレート」が演奏されました。私の記憶では,岩城さんがこの曲をOEKの定期公演で演奏するのは初めてのことだと思います。「未完成」の時とは違い,こちらではキビキビとした若々しさを存分に感じさせてくれました。

第1楽章の序奏では,ホルンの音が真っ直ぐに響いてきました。とても率直な音でした。続く弦楽合奏の響きには,室内楽を聞いているようなひそやかな味がありました。テンポアップした主部は,一貫してキビキビとしており,非常にリズミカルでした。オーボエの演奏する第2主題などでは微妙にテンポを動かしたり,トロンボーンが印象的なメロディを演奏する部分では,全体の音量をしぼったり,と単調な感じはしませんでした。少々落ち着きがないくらいでしたが,その分,コーダの堂々とした感じと好対照を成していました。

第2楽章は,反対にぐっと落ち着いたテンポになりました。ここからしばらくは,オーボエの水谷さんの見せ場が続きます(それにしてもオーボエの出番の多い曲ですね)。コントラバスの重い響きに続いて出てくる,心優しく,少し哀愁のある音色がとても印象的でした。この日の岩城さんのテンポは全般にとても速かったので,この楽章だけ別世界に入ったようでした。ただし,天国的で神秘的なムードというよりは,まだ「この世」に留まっていました。個人的には,もう少し陶然としたムードがあると良いかなとも思ったのですが,甘すぎないのが岩城さんらしさなのだと思います。

第3楽章から第4楽章に掛けては,再度,テンポアップし,一気に聞かせてくれました。特に,第4楽章の活気は見事でした。第3楽章も十分に活気はあったのですが,第4楽章が始まると,さらに一段,熱のこもり方がアップしたように感じました。非常に爽快なテンポで一貫し,若々しさと迷いのない爽やかさに溢れていました。コーダでは,その中に自然と威厳が加わっていました。最後の音も,とても気持ち良く,さっぱりと終わっていました。

全体の演奏時間も恐らく45分ぐらいしかなかったのではないかと思います。そういう意味では,「グレート」というよりは「ミディアム」という感じでしたが,OEKの魅力と岩城さんの意図とがうまくかみ合った,大変「グレート」な演奏だったと思います。

ここまでで既に9時を過ぎていたので,今日はアンコールは無しかな,と思っていたのですが,サービス精神の旺盛な岩城さんは,さらに1曲アンコールを用意していました。シューベルトの有名なピアノ小品「楽興の時」第3番をオーケストラ用に編曲したものでした。まさに,ホームミュージックという感じのアットホームな編曲であり演奏でした。岩城指揮OEKは,「カンタービレ」という小品を集めたCDを作っていますが,岩城さんはこういう曲が心から好きなのではないか,という気がします。「カンタービレ2」を作るとすれば,是非,含めてほしい曲です。(2003/04/25)

Review #2by tomoさん
こんにちは、私も昨日の定期を聴きました。本当に「ザ・グレート」は素晴らしかったですね。4楽章も迫力があり盛り上がりますが、2楽章のシューベルトらしい歌のような旋律が好きです。一ノ瀬さんの曲は現代曲でもメロディーがあるので聴きやすかったです。高木綾子さんのフルートは、別な曲も聴いてみたかったです。(2003/04/25)


Review by 10年ぶりの金沢さ

大学時代のみ金沢に住んでいたものです。(卒業した次の年にOEKが発足)

大阪ではOEKは何回か聴いてはいたのですが、どうも演目がベートーベン、モーツァルトばかりでと思って不満があったのですが、シューベルトの「グレート」ということで一念発起して10年ぶりに演奏会のために金沢にきました。

演奏そのものはこれからの再演によってみがかれることを望む2曲の日本人作曲作品(特に一ノ瀬トニカ作品はフルート奏者のレパートリとして広まるのではと期待できる作品),静かなで少しおとなしめな「未完成」,基本的に能天気なほど明るい(悪い意味じゃなですよ)「グレート」。よく響くホールとの関係もあってかフルオーケストラなみの響きがえられていて楽しめました。

OEKは日本人の作品とベートーベン、モーツァルトが中心のようですが個人的にはOEKはもっとそれ以外(イギリス、フランス、アメリカものとか流行ではないかもしれませんが思い切って古楽系とか)の小編成でできるものについては積極的にあつかってほしいものです。

(全くもっての番外の嘆き。駅は変わりましたなー。しかし小立野方面へ行くのに西口にまわされるとは)(2003/04/26)