オーケストラ・アンサンブル金沢第141回定期公演PH 2003/05/09 石川県立音楽堂コンサートホール 1)ベートーヴェン/「コリオラン」序曲,op.62 2)メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調,op.64 3)ベートーヴェン/交響曲第3番変ホ長調,op.55「英雄」 ●演奏 金聖響指揮オーケストラ・アンサンブル金沢 吉田恭子(ヴァイオリン*2),松井直(コンサートマスター) 金聖響(プレトーク)
オーケストラの配置は,このところすっかりお馴染みになったコントラバスが向って左側に来る対向配置でした。さらに,この日はティンパニが中央ではなく,上手奥にありました。コンサートマスターは松井さんで,その隣に坂本さんが座っていましたが,これも意外に珍しい配列かもしれません。 1曲目のコリオラン序曲が始まると,まず,弦楽器のまっすぐな音が耳に入ってきました。新鮮だけれども渋さや重さが感じられたのはやはりティンパニの重みのある音色が関係していると思います。小編成の軽い響きなのに十分な聞き応えがありました。中盤は,それほどドラマティックな感じはしませんでしたが,クライマックスに近づくにつれて緊張感が増して行く設計が見事でした。金聖響さんは,すらりとした長身の方でした。手がとても長く,見ているだけで,豊かな表情が伝わって来るようでした。 続いて,昨年発売されたCDと全く同じ組み合わせによる同じ曲の演奏でした。このCDの録音は昨年の5月でしたから丁度1年前ということになります(ワーナー・ミュージック・ジャパンから発売されたOEKのCDの記念すべき第1作です。)。独奏の吉田恭子さんのヴァイオリンは,ちょっと真面目すぎるような気はしましたが,とても丁寧に演奏されており,よくまとまっていました。第1楽章の最初の方は,音楽の表情がちょっと硬い気はしましたが,次第にメンデルスゾーンならではの心優しいメロディにぴったりの落ち着きのある雰囲気になってきました。特にカデンツァでのたっぷりしたテンポと美しい高音が印象に残りました。 とっても良い音のファゴットに続いて出てくる第2楽章も,こじんまりとした感じでした。楽章後半で最初のメロディが再現してくる部分で,音をぐっと絞って演奏している辺りがいいな,と感じました。3楽章は,テンポ・アップしてフルートとハモル部分がちょっと合わない感じでヒヤリとしましたが(ここはきっと,協奏曲の難所だと思います),全体に落ち着いたムードがありました。後半に出てくる,チェロの対旋律は,非常に滑らかで豪華が感じがしました。独奏の方は,もう少し演奏に華があってもいいかなとも思いましたが,この曲の時のOEKの編成はベートーヴェンよりも小さめでしたのでオーケストラとのバランスはとても良いと思いました(ちなみに,この曲では,渡邉さんは,通常のティンパニを叩いていました)。 後半の「英雄」は,この日いちばんの聞きものでした。このところ(レコーディングが活発になってから特に?)後半に大曲が来るプログラムが多いのですが,初登場の指揮者ということもあって,古楽器風ということを抜きにしても,とても新鮮な演奏になっていました。演奏全体から強いポテンシャルエネルギーを感じました。素晴らしい演奏だった思います。 この曲は何回も聞いている曲なので,聞き所を待ち構えながら聞くような感じになるのですが,その聞き所がすべて新鮮な驚きに満ちていました。特に目立ったのは,「コリオラン」でも出てきたバロック・ティンパニの響きでした。プレトークで聖響さんが語っていたとおり,この日の演奏の最大のポイントでした。この楽器はチューニングが難しいため,楽章間で調性が違う場合,長いインターバルを取る必要があります。オーケストラの団員及びお客さんがティンパニのチューニングが終わるのジッと待つことになります。そういう意味では,ティンパニの渡邉さんがこの曲の主役だったとも言えます。待った甲斐があって(?),その効果は抜群でした。 第1楽章は,非常に軽快なテンポで始まるのですが,要所要所で,バロック・ティンパニ独特のずしりとした迫力のある音が決まっていました。その他,「ヌー」という感じで出てくる弦楽器の響きとか,「ドーミドーソ,ドミソソー」と演奏したような時に「ミ」の音だけ,違った音色に聞こえるようなホルンの奏法も独特でした。遠くでよくわからなかったのですが,バルブを使わずに演奏していたようでした。ティンパニの迫力に合わせるかのように,強烈な響きを出していたトランペットも見事でした。楽章最後の「ドーミドーソ,ドミソソー」は,楽譜どおり途中でトランペットの音が消えてしまう演奏でした。 主題呈示部の繰り返しも行なっていましたが,快適なテンポだったので,全然停滞した感じはしませんでした。対向配置だったせいか,ヴィオラなどの地味目な楽器の細かい刻みの音が明確に聞こえたのも新鮮でした。次々にセリフを受け渡していくような,管楽器の演奏もソリスティックで楽しめました。 というわけで,滑らかな舌触りのヨーグルトの中に食感の違う果物が入っているような(変な例えですが),「おや」という感じがいっぱいあるとても新鮮な演奏でした。 2楽章は,非常に落ち着いたテンポでした。ここでは,水谷さんのオーボエの非常に明快な音が印象に残りました。大きく盛り上がる中間部では,ここでもティンパニの響きが効果的でした。最後の審判か何かを受けるような深刻さを感じました。それでいて全体の音は重苦しくないので,もたれた感じはしませんでした。 第3楽章は,キレの良いビートがとても気持ち良く感じました。中間部でのホルン3重奏は,ここでもナチュラル・ホルン的な音を出していました。第4楽章は,着実な足取りを感じさせるテンポでしたが,その中に秘めた情熱を感じさせてくれました。そのエネルギーが楽章の後半に行くにつれて,表面に出てくるようでした。ティンパニとトランペットの強烈な響きや,ホルンののびのびした響きなど,指揮者もオーケストラも一体となってやりたいことをやっているような気持ち良さを感じました。 演奏の後は大変盛大な拍手が続きました。会心の出来だったと思います。情熱ばかりが前面に出るのではなく,エネルギーがコントロールされているのが素晴らしいと思いました。この日の演奏は,ライブ録音され,CDとして8月に発売されることになりますが(本当に素早いリリースです),恐らく,ライブ的なノリの良さと綿密な研究の成果が合わさった素晴らしい記録になっているのではないかと思います。 ![]()
去年の安永徹さんの時の英雄もよかったですが、今回の英雄も凄かったです。残念ながら安永さんの時の演奏はもう耳にする事ができません。ですが、今回のはCD発売が予定されているので、それがとても嬉しいです。最初はどうしようか迷っていたのですが、英雄の第1楽章を聴いた時に今回のCDを買う事を決心し、第2楽章で交響曲第2番と第7番のCDを買う事も決心しました。もちろん、CDで聴けるからと言っても、今日の演奏が100%の状態で何も抜けることなく聴けるわけではない(私はどうしてもCDの音の限界を感じてしまいます。CDでは楽器の本来の音にマイナスされてる部分を感じてしまいます)ですが、今日の興奮は容易に思い出せると思っています。言葉でどう表現したらいいのか分かりませんが、表現力が豊かでOEKの実力も十分に堪能できた本当にいい演奏でした。 ところで、金聖響さんのプレトークにもあったように、今回は当時の演奏に近づけるということで「ピリオド奏法」となる演奏の仕方で、ティンパニーも昔ながらのバロックティンパニーを使用すると紹介がありましたが、他の楽器も当時の奏法に近づけていたような感じでした。ホルンも吹いていたのは現在の楽器ですが、昔のナチュラルホルンを意識を強く意識させるような演奏だったので、もしかしたらロータリーのレバーをあまり使っていなかったのかもしれません。また、トランペットもいつもと音色が違っていましたので、違う楽器を使っていたのか、あるいは、マウスピースだけを変えていたのかしれません。2階席の割と前の方に座っていたんですが、視力がよくないため細かな所まで分かりませんでした。 もちろん違っていたのは金管と打楽器だけでなく、木管楽器もいつもとは違った音色のように感じましたし、弦も両翼配置になっているなどの違いがありました。この両翼配置の方が第1バイオリンと第2バイオリンの役割がはっきりと分かり、曲の楽しみが増えたような気がします。 最後に、自分の知識のなさからなんですが、「ピリオド奏法」というものがいまいちよく分かりません。今回の英雄の演奏は、ピリオドでない演奏と比べるとはっきりと違いがあるのが分かりますが、さっきのトランペットの例のように具体的にどう細かい所で違うのか分かりません。プレトークなんかでその違いに触れられて、実演もまじえてもらったら嬉しかったです。でも、今日のコンサートが終わったのが9時を過ぎてましたので、時間的に厳しかったのかもしれません。もし、(しばらくとても忙しそうですが)OEKの関係者の方で、今回の英雄はどういうような違いがあったのか教えていただける方がいたらとても嬉しいです。本当に英雄が特に素晴らしかったですよね。 去年の安永徹さんの時の英雄もよかったですが、今回の英雄も凄かったです。残念ながら安永さんの時の演奏はもう耳にする事ができません。ですが、今回のはCD発売が予定されているので、それがとても嬉しいです。最初はどうしようか迷っていたのですが、英雄の第1楽章を聴いた時に今回のCDを買う事を決心し、第2楽章で交響曲第2番と第7番のCDを買う事も決心しました。もちろん、CDで聴けるからと言っても、今日の演奏が100%の状態で何も抜けることなく聴けるわけではない(私はどうしてもCDの音の限界を感じてしまいます。CDでは楽器の本来の音にマイナスされてる部分を感じてしまいます)ですが、今日の興奮は容易に思い出せると思っています。言葉でどう表現したらいいのか分かりませんが、表現力が豊かでOEKの実力も十分に堪能できた本当にいい演奏でした。 ところで、金聖響さんのプレトークにもあったように、今回は当時の演奏に近づけるということで「ピリオド奏法」となる演奏の仕方で、ティンパニーも昔ながらのバロックティンパニーを使用すると紹介がありましたが、他の楽器も当時の奏法に近づけていたような感じでした。ホルンも吹いていたのは現在の楽器ですが、昔のナチュラルホルンを意識を強く意識させるような演奏だったので、もしかしたらロータリーのレバーをあまり使っていなかったのかもしれません。また、トランペットもいつもと音色が違っていましたので、違う楽器を使っていたのか、あるいは、マウスピースだけを変えていたのかしれません。2階席の割と前の方に座っていたんですが、視力がよくないため細かな所まで分かりませんでした。 もちろん違っていたのは金管と打楽器だけでなく、木管楽器もいつもとは違った音色のように感じましたし、弦も両翼配置になっているなどの違いがありました。この両翼配置の方が第1バイオリンと第2バイオリンの役割がはっきりと分かり、曲の楽しみが増えたような気がします。 最後に、自分の知識のなさからなんですが、「ピリオド奏法」というものがいまいちよく分かりません。今回の英雄の演奏は、ピリオドでない演奏と比べるとはっきりと違いがあるのが分かりますが、さっきのトランペットの例のように具体的にどう細かい所で違うのか分かりません。プレトークなんかでその違いに触れられて、実演もまじえてもらったら嬉しかったです。でも、今日のコンサートが終わったのが9時を過ぎてましたので、時間的に厳しかったのかもしれません。もし、(しばらくとても忙しそうですが)OEKの関係者の方で、今回の英雄はどういうような違いがあったのか教えていただける方がいたらとても嬉しいです。(2003/05/10)
ベートーヴェンの交響曲第3番はかなり印象的でした。 基本的には若々しい溌剌とした演奏で、それだけでもかなり好感が持てました。しかし、どうやらそれだけではない不思議な吸引力があったような気がします。楽器や演奏法にもさまざまな工夫がありましたが、その貪欲さも結果としての音に結実していたのでしょうね。 昨日は、家に帰ってからも、暫く上気したままでした。(2003/05/10)
安永徹さんの時、ラトル/ウィーンpoの時と、音楽堂では「英雄」を聴く機会が多いですが、こちらのサイトでも紹介されている金聖響さんのホームページを事前に読んでいたので、期待して音楽堂に向かったのですが(残念ながら、プレトークは聞けませんでした)、予想以上に白熱した演奏でしたね。 一口に言うと、バロック・ティンパニを交えた現代楽器による古楽器的演奏が繰り広げられた訳ですが、一般論では語れないような金聖響とOEKによる独自の個性的な響きや解釈も聴かれて、いろんな意味で緊張感に満ちたスリリングな演奏でした。 「コリオラン序曲」では、ユニークな弦の響きが大変印象的でした。 「古楽器的演奏」「ピリオド奏法」とは言っても、部分的にはモダン奏法の音色のようにも聴こえる箇所があり、決してノンビブラート奏法の一本槍ではなく、だがアーティキュレーションやボウイングには相当のこだわりをみせるというような、独自の表現の模索が窺われました。 正直言うと、まだまだ結晶度が不足しているかなと最初しばらくは感じながら、 しかし「英雄」第1楽章再現部あたりになると、かなり全体の響きや表現もまとまってきたように聴こえ、劇的な演奏が集中力を持って展開されたように感じられました。 やはりバロック・ティンパニの迫力が効いていましたね。ホルンもゲシュトプフト奏法というのでしょうか(?)、随所に興味深い音色を鳴らしていました。 第3楽章のスケルツォ主部は、ラトル/ウィーンpoの時の あざといまでのピアニッシモと爆発的なフォルテの対比が記憶に新しいのですが、 金聖響/OEKでは、あれほどは極端でなく、しかし充分に音のドラマを感じさせる演奏になっていました。トリオのホルンも見事でした。 第4楽章は、ラトル/ウィーンpoと同じように、変奏曲の主題後半に現れる3連符をかなり強調した解釈でした。これはとても面白く効果的だと思うのですが、ベーレーンライター版に指示があるのでしょうか?ともあれ、最後のコーダまで緊張感に満ちた演奏を体験させてくれた金聖響/OEKに喝采を送りたいと思います。 私も単なる音楽好きのリスナーで、楽器の専門的なことは分からないのですが、 「ピリオド奏法」と言っても、金聖響さんのホームページのESSAYにあるように、 ラトル/ベルリンpoでさえ、「試行錯誤をして練習も演奏会もプロセスの一部として音楽を模索している」ということらしいので、私達としては金沢に居ながらにして、そのような現代的な問題意識に基づいたスリリングな音楽生成の場に立ち会えたということにまず喜びを感じるべきかもしれません。 金聖響/OEKによる次の演奏会が楽しみです。 (2003/05/12)
これは金沢定期と同じプログラムだったんですね。 すでに皆さんのレポートにあるように、特にベートーヴェンの第3番での18世紀的なアーティキュレーションの採用がシゲキ的(去年のボッセ/新日本フィルと同じ方向性を持った演奏でした)。第1楽章の終わり付近でのトランペットの「主題行方不明」は、奏法の問題というよりもオリジナルに忠実か否かの問題なのでしょうが(最近、ようやく「行方不明」にも慣れました)。 普段のOEKに比べると、アンサンブルの乱れが ちと目立ったようにも思えましたが、今回の「挑戦」は まずまず成功だったのではないでしょうか。 ちなみに、金聖響/OEKのベートーヴェン録音、2、3、7番がリリース予定ということは、この方向性の演奏によるOEKの新たなベートーヴェン全集に発展するかも??? そうだとしたら、とても楽しみです。 それにしても、ベートーヴェンの第7番については、岩城盤2種類(浜離宮朝日ホールライブ、1000円シリーズ)と金聖響盤、計3種類を楽しめることになるんですね。 OEKのCDが これだけリリースされるとは想像もしていませんでした。(2003/05/12) |