五嶋みどりヴァイオリン・リサイタル
2003/06/23 石川県立音楽堂コンサートホール」
メンデルスゾーン /ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調
シューマン/ヴァイオリンソナタ第1番 イ短調,op.105
ルトスワフスキー/スビト
ヤナーチェク /ヴァイオリン・ソナタ
ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調,op.100
チャイコフスキー /ワルツ・スケルツォハ長調,op.34
(アンコール)エイミー・ビーチ/ロマンス
(アンコール)サラサーテ/サパティアード
●演奏
五嶋みどり(ヴァイオリン),ピーター・ヴィノグレート(ピアノ)

※演奏曲目情報は富山の川崎さん提供
Review by七尾の住人さん
英語の教科書にも載ったり、演奏中に2度も弦が切れるなどのエピソードの持ち主という話題豊富な人なので、ぜひ一度直に聴いてみて、どんな音楽を奏でてくれるのかとても楽しみにしていました。まして、去年かアートホールでのコンサートの抽選にはずれただけあって、なおさらその思いが強かったわけです。

やっぱり素晴らしい演奏でした。バイオリンという楽器で音楽を奏でているわけですが、楽器を媒体にしているということを忘れさせて直接音に触れているような素晴らしい演奏でした。どれも素晴らしかったのですが、昨日の自分にはアンコールの「ロマネスク」やソナタの第2楽章のテンポがゆったりするような音楽が、とても形容しがたく心に染み込むような印象を抱きました。

そして、リサイタル後サイン会が行われたました。しかし予告なしだったのでどっと人が押し寄せ、五嶋さんは大勢の人に囲まれる形でずっと立ってのサイン会となりました。どれだけの数の人が集まっていたか分かりませんが、全ての人にサインや時には写真撮影に応じるなど気さくな人柄が印象的でした。 (2003/06/25)

Review by川崎さん(富山市在住)
メンデルスゾーンの「ヘ長調のソナタ」。想像していたモノより快速。ユッタリとした穏やかさやシットリとした潤いはナシ。曲想の効果的なギアチェンジの繰り返し、巧みさに思わずニッコリ。でも、急がされての性急さ、小走り駆け足、シミジミ感慨に耽る余裕もナシ。ハチドリやスズメの様な高音の悲鳴に近いツンザキ、カッコウやウグイスの耳を欹てるウタは聞こえない。必要なしとの判断なのか、肉声は隠れたまま上滑りのよう。このリサイタルのため予習したミンツさんのCDを聴いてフィットするものを感じて期待していた。ココロに準備していた大きなスペースを十分に埋めてもらえなかった気がする。

シューマンの「ソナタ1番」。1楽章はメランコリックでロマンチック。衷心からの吐露、訴え。塞ぎのムシ、情熱ゆえのオモミ。心晴れぬ重々しさ鬱陶しさ、灰色の雲。最後のシメでは私の予想を超える一ひねり。素適な一刀両断、思わずニンマリ。2楽章はくすんだキモチ。ピアノとのかけあい。キモチをワザと素直に表現しない。ジラシ、大声で泣いた後のヒックヒック、微かにエッセンス。3楽章は悲しみあふれて。このヴァイオリニストの不思議さ。感情の表現、泣いているイメージがオーバーラップ。思いを込めれば込めるほど悲痛な叫びが聞こえそう。隠し味が悲観的な見方のためなのか。泣きが入った「みどり節」。

ルトスワフスキーの「スピド」。スピ−ドの緩急と音の表情のカラフルさ、いろいろな楽しみ。神経をツンツンに尖らせて、音楽に立ち向うヴァイオリニスト。アタマの明晰さと腕っプシと気力充実。喜怒哀楽やロマンチックとかのメンタル感情は排除。原色のあざやかさと美しさ、乾いた明るさシャキシャキ感。音の多様性、音楽の広がり。ノン・ウエット仕立て。演奏家、難しい音楽をクリアできた喜び。快感、爽快感、達成感。聴き手側、初めての音楽への戸惑い。サア来い、開き直り。ノーガードで立ち向い、ありのまま受け入れるだけ。精一杯の集中力、残念だが演奏家に比べれば微々たり。

ヤナーチェックの「ソナタ」。1楽章、昨年聴いた演奏家のシマノフスキーを思い出す。尋常でない凄まじいスゴミ。髪を振り乱してののめり込み。粘着性ベッタリ、念力の踏ん張り。オドロオドロシイ魔女を彷彿。2楽章は妖精か天使。素適な可愛らしさ、とろけそうなミズミズシサ。穏やかな幻想の雰囲気。いずれもソノモノに成り切り、表現できるキャラの拡がり、切り札の増加。3楽章と4楽章、特徴あるヴァイオリンのドラスティックな終止。演奏会前半のザワザワ感の消失。心地よい緊張感、間(ま)の静寂。聴衆全員が真剣に耳を傾け音楽に没頭、最良の時間。

ブラームスの「ソナタ2番」。枯れた痩身のオジイサン、私のイメージに近い。1楽章、メロディーへの溶け込み、演奏家の耳元で鳴る楽器。懐かしいヴァイオリン原点の音、習い始めの様な少しシンプルなヴィブラート。2楽章、思っていることをストレートに口に出さぬ。言いたいけど口を噤む、かといって無言でなくボソボソと要点だけ呟く。効果的口ごもり。力のこもった油絵でなく水墨画チックな貼り絵。点線による描写、その流れ。3楽章、屈折した曲想、イントネーション、付け加え。それぞれの楽章のイメージ付け、一種独特な音楽空間、これも「みどり節」の範疇。

チャイコフスキーの「ワルツ・スケルツォ」とアンコール2曲。考える音楽でなく感ずる音楽。明るさ、イキイキ、楽しんでの音楽。イマジネーションと美意識勝負。ロマンチック、ドラマチック、華麗で優雅。ホッとする素適な時間。今日のプログラム、前半はロマンチックな作品―ロマン派―近現代で、後半はその逆。聴き手への配慮なのかな。1曲目が終った後、20分の休憩の場内アナウンス。総ての楽章に拍手があって3曲が終了したとの勘違いか。すぐに訂正のコール。シューマンの曲での入れ込みのスゴサ。観客の緩んだ緊張のネジを巻かんとして懸命の演奏家。例の弦が切れたエピソードを連想するのは考え過ぎか。(2003/06/29)