La Musica 2nd concert
2003/07/08 金沢市アートホール

1)コーニッシュ/ああ,ロビン,やさしいロビン
2)ラッスス/多くの場合,不幸と困窮の時に
3)ラッスス/うたえ主に
4)バード/高らかに歌え
5)セルトン/La la la今は勇気がないから
6)マントヴァーノ/Lirum bililirum
7)作者不詳/狩にいくぞ
8)バーバー/クーリン
9)オルバン/めでたし,まことの
10)プーランク/クリスマスのための4つのモテット〜何をお前たちは見たのか,羊飼いたちよ?
11)ウドヴァルディ/魅惑
12)ヘンデル/詩篇曲「主は言われた(Dixit Dominus)」,HWV.232
●演奏
ラヂッチ・エヴァ(1-11),大谷研二(12)指揮La Musica
栗山文(アルト*12),ラヂッチ・エヴァ(ソプラノ*12)
オーケストラ・アンサンブル金沢のメンバー(坂本久仁雄,原三千代(ヴァイオリン),石黒靖典,内山隆達(ヴィオラ),大澤明(チェロ),今野淳(コントラバス),平井み帆(オルガン))(12)
Review by管理人hs
昨年の同じ時期に第1回目のコンサートを開いたLa Musicaのセカンド・コンサートに出かけてきました。この合唱団は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)合唱団の前指揮者,大谷研二さんとラヂッチ・エヴァさんの指導の下,バロック時代以前の合唱曲を中心に演奏する総勢20人の少数精鋭のヴォーカル・グループです。

このグループのプログラムの特徴は,前半ア・カペラの曲を歌い,後半では室内楽の伴奏付きのやや規模の大きな合唱曲を歌うことです。会場の金沢市アートホールは超満員になりましたが,お客さんがこういう分野の音楽を求めているのことがよく分りました。その期待に応える熱気のある歌を聞くことができました。指揮の大谷研二さんによる楽しい解説も(OEK合唱団の時以来)すっかりおなじみになりました。私自身もそうですが,大谷さんの指揮とトークにも,多くの固定ファンがいるのではないかと思います。

プログラムは前半はア・カペラ・ステージでした。まず,指揮のエヴァさんだけがステージに登場しました。どうするのかな?と思って見ていると誰もいないちょっと照明を落としたステージに向って指揮を始めました。団員が歌いながら,ステージに登場するという趣向でした。何となく日本のわらべ歌のような雰囲気のあるシンプルな感じの歌で,このパフォーマンスによく合っていると思いました。

その後,ルネッサンス時代の曲が続きました。マドリガルとかモテットと言った曲については,日頃聞く機会が少ないので,ただ聞いているだけでは違いはよく分らなかいのですが,曲の間に解説が入ったので「言われてみれば雰囲気が違うな」という感じで納得できました。次のバードの曲では,ステージいっぱいに広がるように並び方を変えて,曲のスケール感を伝えようとしたり,飽きずに聞くことができました。

La Musicaの歌は,声部のバランスがよく,歌声に温かみがあります。ア・カペラの曲だと,特に低音部の充実した響きが気持ちよく感じられました。エヴァさんの指揮は,演奏後の立ち居振る舞いのすべてが優雅で,演奏の方からも,そういう落ち着きや安定感が感じられました。

その後は,楽しい雰囲気を持つ,世俗的な曲が3曲歌われました。セルトンの曲では,「噂話」を隣の人とするような仕種が何回も出てきて楽しませてくれました。曲のイメージとピッタリでした。こういうちょっとした振り付けも,きちんと計算されており,とても洒落ていました。「Lirum bililirum」という曲は,弦楽器の音を模した楽しい曲です。ここでも低音の充実した響きが楽しめました。「狩にいくぞ」という曲では,エヴァさんの指揮にピッタリと付けて,自由自在に歌っていました。聞いていても気持ちが良かったのですが,歌っている方はもっと気持ちが良かったのではないかな,と思ったりしました。

前半の後半は,20世紀の合唱曲が取り上げられました。ア・カペラの場合,いろいろな時代の曲が混ざっていても違和感を感じないのが特徴です。人間の声という根源的な「楽器」だけを使っているからだと思いますが,特にラテン語で歌われる曲は,ルネサンス時代の曲との相性が良いと思いました。特にプーランクの曲は,宗教的な気分と現代的な気分とが合わさっていて,いい曲だなと思いました。是非,「4つのモテット」全曲を聞いてみたいものです。前半最後に歌われた「誘惑」も微妙な音の動きがとても魅力的な曲でした。エヴァさんは,ハンガリー出身の方ですが,知られざる佳品をどんどん紹介してほしいものです。

後半は,OEKの弦楽器奏者5人とオルガンの平井さんが加わって,ヘンデルの「主は仰せられる」という合唱曲が歌われました。この曲の前に,大谷さんによる,曲とヘンデルについての説明がありました。この曲は当時イタリアで勉強をしていたヘンデルの情熱とイタリア的な気分に溢れた隠れた名曲とのことでした。今回の演奏は,「多分,金沢初演だろう」とのことでした。

大谷さんは,「この曲は大変難しい曲ですが,今日の演奏は名演になります」と宣言されていました。結果はその通りでした。曲全体に貫かれている暗い情熱が聴き手の方に強く伝わってきました。1曲目からしてキビキビとした音の動きが印象的でした。その他の曲でもそうでしたが,第1ヴァイオリンの速い音の動きが頻繁に出てくる曲で,坂本さんのヴァイオリンの華やかさが,合唱と並んで大きな聞き所となっていました。2曲目は通奏低音の上にアルトのソロが出てきます。とても落ち着いた雰囲気があり,ほっと一息つけました。

次の曲では,エヴァさんの見事なソプラノのソロを聞くことができました。声量も大変豊かだったのですが,それだけではない,もっと根源的なエネルギーの大きさのようなものを感じました。昨年も思ったのですが,ただ綺麗なだけではない,陰影を持った本当に素晴らしい声だと思いました。このソロは,全曲の中で大きなアクセントになっていました。

その後は,また動きのある雰囲気になります。6曲目(?)の後半でスタッカートで歌いながらどんどん熱気が高まっていく辺りは大変聞き応えがありました。各声部が順番に出てくるのですが,それぞれが大変しっかりと歌っていたので,華やかさと充実感を感じました。

静かで平穏な感じの7曲目に続いて,終曲に入っていきます。歌詞を見ると「グローリア」と書いてあったのですが,曲の方は短調なのが面白いところです。キビキビと歌われていくうちに,暗い情熱が高まり,それが内面から出てくる光のような感じで立ち上がってくるのが素晴らしい点です。この曲全体に渡り,緊張感があったのですが,この終曲では,オーケストラと合唱が一体となった熱気が最高潮に達し,特に聞き応えがありました。

演奏後は盛大な拍手が続き,花束の贈呈などがありました。エヴァさん,大谷さん,坂本さんに花束が渡されたのですが,ステージ上には一仕事をやり終えた後の,充実した空気とほっとしたムードが漂っていました。プログラムの構成も演奏の方も申し分なく,会場の雰囲気も大変に良い,素晴らしいコンサートでした。

PS.この日は会場が超満員になったうえに狭いステージ上に30人近くの人数が乗っていましたので,会場の残響は,かなり短めでした。もう少し広い,残響の多いホールだと弦楽器の音などにもう少し艶が出てきたかなという気もしました。(2003/07/09)