朝日親子サマーコンサート
2003/07/20 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ヘンデル/水上の音楽〜第3曲,第6曲「エール」,第8曲「ブーレ」,第9曲「ホーンパイプ」,第12曲「アラ・ホーンパイプ」
2)新実徳英(倉知竜也編曲)/ぼくは雲雀
3)サティ/ジムノペティ第1番
4)マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
5)アイルランド民謡/ロンドンデリーの歌
6)メンデルスゾーン/劇音楽「真夏の夜の夢」〜序曲,スケルツォ,ノクターン,結婚行進曲
7)(アンコール)メンデルスゾーン/劇音楽「真夏の夜の夢」〜道化師たちの踊り
●演奏
本名徹次指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲール・ヤング)
奥村愛(ヴァイオリン3-5),OEKエンジェルコーラス(合唱指揮:篠原陽子,清水史津)(2)
塚本くみ子(司会)
Review by管理人hs
石川県内の小中学校の子供たちは夏休みに入ったばかりですが,そういう子供たちを対象とした恒例の「朝日親子コンサート」が行なわれました。まだ,石川県は梅雨明けしておらず,この日もいつ降り始めるかわからないような天候でしたが,その天候と裏腹の爽やかな空気に満ちた演奏会でした。

我が家では,当初,町内のバーベキュー大会に行く予定だったのですが(係が当たっているので),雨になるのを警戒して早々に中心となってしまいましたので,急遽予定を変更し,親戚の子供も合わせて,子供4人,大人3人という大人数で聞きに行くことになりました。こういうのも楽しげでたまには良いものです。

前半最初は,ヘンデルの水上の音楽からの抜粋でした。演奏されていた曲は,ハーティ版という組曲の形で演奏される曲が集められていたようでした。この日のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の弦楽器の配置は,コントラバスが下手奥に来て,第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが対向する形でした。定期公演では,時々見かける形ですが,親子向けのコンサートでこういう配置がされることは珍しいことかもしれません。

演奏の方もビブラートを控え目にして,古楽器奏法的なものを感じさせるものでした。どの曲もスピード感に溢れ,キレの良さを感じました。2曲目のエールは,揺れ動くような美しい流れをもった曲ですが(ヘンデルの曲の中では,バッハのG線上のアリアに匹敵する曲かもしれません),ノンビブラートで,スーッと流れて行く雰囲気は大変涼しげでした。外の蒸し暑さを忘れさせてくれました。最後の「アラ・ホーンパイプ」で,初めてトランペットが入ります。その効果もあって,全曲を締める華やかさが出ていました。

2曲目には,OEKエンジェル・コーラスが登場しました。今回歌った曲は,新美徳英さんの「ぼくは雲雀」という合唱曲集でした。この曲は,元々はオーケストラ伴奏ではないのですが,昨年のサマーコンサートで取り上げられた「風のとおりみち」に続き,倉知竜也さんによってオーケストレションがされました。ピアノ伴奏で聞くよりは,もっとスケールが大きく,夢が広がっていくような楽しさを子供たちに伝えることができたのではないかと思います。

この日は,作曲者の新美徳英さん自身が会場に来られており,演奏前に,この曲について一言説明をされました。新美さんには「白いうた,青いうた」という「誰でも歌えるレパートリー」となることを目指した谷川雁作詞による53曲からなる合唱曲集があるのですが,今回歌われた7曲はその中から選ばれたものです。その中に「ぼくは雲雀」という曲が含まれているので,全体のタイトルも「ぼくは雲雀」としたようです。

ここで選ばれた7曲は,次のとおりです。
自転車でにげる/ふたりで/あしたうまれる/ちいさな法螺/ぼくは雲雀/わらべが丘/ライオンとお茶を
各曲はどの曲も大変わかりやすく明るく素直な雰囲気を持っていました。曲想にも変化があったので全く退屈せずに聞くことができました。7曲という構成も大変まとまりが良いと思いました。演奏時間も丁度良いと思いました。

今回の倉知さんによるオーケストラ伴奏用のアレンジは,本当に鮮やかなものでした。どこまでが原曲の指示なのかはよくわからないのですが,いくつかの打楽器が楽しげに活躍します。最初の「自転車でにげる」では,自転車の「チャリン」という効果音が入っていました。追いかけっこをするような楽しげな曲でした。手拍子が入る曲も数曲ありました。特に面白かったのは,「ぼくは雲雀」の手拍子でした。合唱が左右2つに分れ,結構テンポの速い手拍子を掛け合うのですが,非常に聞き手をわくわく(ハラハラ?)させるものでした。オーケストラ伴奏付のリズミカルな合唱曲ということで,何となくオルフの「カルミナ・ブラーナ」の中に混じっていても違和感がないような曲だと思いました。

その他,トランペットの雰囲気がジャズのようなテイストを持った「ちいさな法螺」とか,高学年の合唱のみによる静かな雰囲気のある「わらべが丘」なども印象に残りました。それぞれの曲がそれぞれに盛り上がりを持っていたのですが,最後の「ライオンとお茶を」は特に大きな盛り上がりを持っていました。ラテン系のリズムが延々と繰り返され,段々と迫力を増していく構成が見事でした。オーケストラ編曲ならではの迫力がありました。

というわけで,曲の楽しさがオーケストレーションによりさらに魅力を増していたような印象を持ちました。エンジェル・コーラスの低学年の可愛らしい声が聞こえてくると,まさに「誰もが楽しめる曲集」だな,と感じました。児童合唱用の曲をオーケストラ伴奏用に編曲する路線は,2年連続だったのですが,この路線は続けていって欲しいものです。

エンジェル・コーラスは,大変立派に歌っていたのですが,やはりオーケストラの後ろに並んでいたせいもあり,私の席からは言葉がよく聞こえませんでした(結構早口の曲が多かったですね)。この辺は,オーケストラ伴奏付き合唱曲の難しさなのかもしれません。曲のムードはとてもよく感じられたので,プログラムに歌詞カードが付いていればさらに楽しめたかな,という気もしました。

後半には若手ヴァイオリニストの奥村愛さんが登場しました。演奏会の前日,OEKと新譜用のレコーディングを行なったそうですが,今回演奏された曲は,どれも心を癒してくれるような曲ばかりでした。曲間のインタビューでの受け答えを聞いてもそう感じたのですが,穏やかな中に芯の強さのようなものを感じさせてくれる,素晴らしい演奏でした。演奏全体から感じられる落ち着いた品の良さも魅力でした。

どの曲も,独奏ヴァイオリンのリリックな歌に焦点が当てられており,オペラ・アリアを聞くような豊かな雰囲気がありました。カヴァレリア・ルスティカーナでは,通常オーケストラの管楽器が演奏する部分をヴァイオリンが演奏していたようで,弦楽合奏+独奏ヴァイオリンという形に編曲されていました。そこに中間部ではパイプオルガンの音が加わってきます。これも大変効果的で,曲の精彩がぐっと増していました。今回のレコーディングの中にも多分,この曲が含まれていると思いますので,CDになったら是非もう一度聞いてみたいと思います。ロンドンデリーの歌も弦楽合奏+独奏ヴァイオリンという形でした。この曲の中間部では情熱的な弦楽合奏が続くところがあり,これもまた聞き応えがありました。

演奏会の最後は,「真夏の夜の夢」の抜粋が演奏されました。小さい子供には少々長い曲だったのかもしれませんが,大変聞き応えのある演奏になっていました。全体的に,甘いファンタジーの雰囲気よりは,ピシっと引き締まった力強さを感じました。序曲では,チューバが活躍していました。トロンボーンなしで,チューバだけが加わる曲ですが,その辺にこの曲の持つ「軽いけれども重い」というちょっと不思議なイメージの秘密があるのかなと思いました。スケルツォは管楽器がアクロバティックな動きを見せてくれます。一瞬ヒヤッとするような場面があったような気がしましたが,全体的にはとても鮮やかな演奏でした。

ノクターンでは,金星さんのホルンの音がロマンティックな森の雰囲気を伝えてくれました。最後の結婚行進曲では,満を持していたかのようにトランペット3本とトロンボーンが加わり,華やかな気分に変わりました。それでも全体的には落ち着いた雰囲気があり,堂々とした風格を感じました。シンバルの音なども,力強いけれども全然うるさくなく,この曲の持つ通俗的な印象をそぎ落としていたように思えました。

アンコールでも同じく「真夏の夜の夢」の中の「道化師たちの踊り」が演奏されました。ファミリー・コンサートのアンコールでは,プログラムとは関係なく通俗的な曲が演奏されることが多いのですが,メインプログラムのイメージを壊さない曲を選んでいたのは,とても良いことだたと思いました。中には「もう少し有名な曲を演奏してくれた方が...」と思った人がいたかもしれませんが,私と一緒に聞いていた甥などは,帰るときには,このアンコール曲の出だし部分を口ずさんでいましたので(実は「真夏の夜の夢」序曲の中の,ダイナミックな感じのある第3主題のメロディと同じなのですが),このアンコールの狙いはピタリとはまったと言えそうです。

というようなわけで,OEKの定期会員の人が聞いても充実感を味わうことが出来るような,なかなか本格的な演奏会だったと思いました。

PS.アンコールの曲名については,指揮者の本名さんが「ホウカンの踊り」とおっしゃっていたのですが,司会者が最後にもう一度紹介した時は「オウカン(=王冠?)の踊り」となっていました。我が家のCDで調べてみたところこの曲は「道化師の踊り」となっていました。本名さんは「ホウカン=幇間(たいこもち)」とおっしゃられていたのだと思いますが,あまり一般的な言葉ではないので,すり変わってしまったようです。日本語というのは難しいものですね。

PS.演奏会後,奥村さんのサイン会を行なっていましたので,子供と一緒にサインをもらってきました。子供の名前入りのサインを書いてもらいましたので,我が家の子供も大喜びでした。
(2003/07/21)