オーケストラ・アンサンブル金沢第145回定期公演PH
2003/07/25 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ブリテン/シンプル・シンフォニー,op.4
2)ハイドン/チェロ協奏曲第1番ハ長調,Hob.VIIb-1
3)(アンコール)カサド/無伴奏チェロ組曲〜第3曲
4)シューベルト/イタリア風序曲第1番ニ長調,D.590
5)シューベルト/交響曲第2番変ロ長調,D.125
6)(アンコール)シューベルト/劇音楽「ロザムンデ」間奏曲第3番
●演奏
広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(1-2,4-6)
趙静(チェロ*3,4)
サイモン・ブランディス(コンサートマスター)
広上淳一,武田明倫(プレトーク)

Review by管理人hs  takaさんの感想
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2002〜2003年のシーズンの最後の定期公演には,OEK初登場となる広上淳一さんが登場しました。広上さんは,思っていたよりも小柄な方でしたが,その分,体全体からオーケストラやお客さんを自分の世界に引き込んでしまうようなエネルギーを発散していました。OEKの編成に合った曲だけを並べた一見地味なプログラミングにも関わらず「音楽って本当に楽しいものですね」と某映画評論家のように言いたくなるような元気の出る演奏会になりました。

今回は,プレトークにも広上さんが登場しました。音楽評論家の武田明倫さんとの対談形式で進められたのですが,本番直前にも関わらずふだん着で登場されたのには驚きました。そのことからも分るように,迷いを全然感じさせないような,自分のペースをしっかり持った方だと思いました。

最初の曲は,弦楽合奏だけによるシンプル・シンフォニーでした。この曲は,何回か生で聞いたことはあるのですが,定期公演で演奏される機会は少ない曲です。広上さんが小走りで登場し,指揮棒なしで指揮を始めると,意外に渋い感じの音が出てきました。軽い曲という感じではなく,強いアタックを持った迫力を感じました。広上さんは,各曲の始まる直前「ウン,ウン,ウン」という感じで気合を入れながら(結構唸り声も聞こえました),予備的に拍を示していました。小澤征爾さんの指揮ぶりにも似ているような気もしましたが,やはり,全体的には広上さん独自の無手勝流(?)の指揮と言えるのかもしれません。柔らかい雰囲気になった時の気分の変化も指揮ぶりを見ているだけで楽しめましたが,出てくる音の方も非常にはっきりとした表情の変化を持っていたのが素晴らしいと思いました。

2楽章のピツィカートは,「ヒタ,ヒタ,ヒタ」という感じの非常にデリケートな雰囲気で始まり,途中でダイナミックに盛り上がります。テンポもとても速くOEKの名人芸を楽しむことができました。第3楽章は,バーバーの弦楽のためのアダージョなどを思い出してしまうような,重い雰囲気を持っていました。濃い味のカンタービレが,ここでも曲が進むにつれてドラマティックに盛り上がって行きました。第4楽章も強い響きと熱気を持っていました。

広上さんは,時々,特定の楽器の方に向けてグッと指(というかゲンコツ)を指し出すような仕種を見せていましたが,それにあわせて楽器の音が強調されていました。広上さんのエネルギーに乗せられて,OEKもとても元気のある音を出していました。

2曲目のハイドンの協奏曲は,ヨーヨー・マをはじめとして,いろいろなソリストの演奏で聞いてきた曲です。趙静(ちょうちん)さんのチェロは,それに全く劣らない素晴ら演奏でした。まず,とてもよく響く明るく気持ちの良い音色が素晴らしいと思いました。それでいて,ちょっとくすんだような色合いもあり,音楽に陰影がありました。1楽章の明るくて歯切れの良い演奏と,2楽章のちょっとメランコリックな音色の対比が見事でした。広上さんの指揮ぶりは,相変わらずエネルギッシュでしたが,趙さんの爽やかな独奏チェロが入ってくると,オーケストラの方もチェロの方に寄り添うように爽やかな響きに変わったような気がしました。

第2楽章は,明るく素直な中に憂いを含んだ歌が大変印象的でした。カデンツァの後半は,とてもデリケートな演奏で,聴衆が息を呑んで聞いているのがよくわかりました。大変聞き応えがありました。

第3楽章は広上さんの設定した速いテンポの上に,趙さんのチェロが軽々と乗ってきます。この楽章は演奏が難しいことで知られていますが,そのことを全然気付かせてくれないくらい見事な技巧でした。バリバリと弾いているようなところがなく,常に軽さを持っていました。それでいて,きちんと音が鳴っており,華やかな迫力もありました。一気に弾き終わったあと,爽やかな風が吹き抜けていったようで,会場からは盛大な拍手が起きました。

この拍手に応え,無伴奏チェロのアンコール曲が演奏されました。ちょっとラテン系の味を持った響きが,ホールの隅々にまで染み渡りました。この方は,まだ学校で勉強中ということでしたが,すでに完成された演奏家だと思いました(ステージマナーには初々しいところがありましたが)。中国系のチェリストにはヨーヨー・マ,ジャン・ワンなど素晴らしい奏者がいますが,趙さんも,彼らに続く期待のチェリストとして知られるようになるのではないかと思います(ちなみに8月の石川ミュージック・アカデミーの演奏会では,ジャン・ワンさんが同じハイドンのチェロ協奏曲を演奏することになっています)。

後半はシューベルトの曲2曲が続きました。広上さんの指揮ぶりは,ブリテンの時のテンションの高さとはちょっと違った雰囲気がありました。後半では指揮棒を持って指揮をしていました。イタリア風序曲の冒頭の序奏の部分ではOEKならではの透明感のある響きを楽しめました。続く穏やかな部分は,本当に穏やかなムードが出ていました。広上さんの楽しげな踊り(?)と合わせて上機嫌の音楽になっていました。

最後の交響曲も楽しい演奏でしたが,それに加え,迫力のある響きも楽しめました。モーツァルトの交響曲第39番のような序奏は比較的さらりと演奏されていましたが,続く主部は,とても活気のある音楽になっていました。シンコペーションのリズムが頻繁に出てきましたが,それを執拗に強調していました。ところどころティンパニや金管の鋭いアクセントも出てきて,次第に立派に盛り上がってきました。

第2楽章はハイドンの交響曲の第2楽章のような変奏曲でした。こころなしか「驚愕」の主題とちょっと似たメロディも出てきたような気がしました。前半は各楽器が順番にソロで出てきて比較的シンプルに進んで行きます。序曲の時同様に,管楽器の音の受け渡しにとってものんびりとしたムードがあり,穏やかな気分にひたることができました。それが曲想が短調に変化した途端,突如表情が一変しました。赤ちゃんが急に泣いたり笑ったりするような無邪気さのあるとても魅力的な演奏でした。

キリっと引き締まった暗い表情のある第3楽章に続いて,何とも楽しい第4楽章フィナーレになります。細かい音が続く楽章ですが,全体にじっくりとテンポを落としており,湧き出てくる明るい気分をかみ締めているような楽しさがありました。広上さんは,小柄な方なので,指揮をする場合,両手を上の方に上げることが多くなっていました。ガッツポーズのようになったり,左右に揺らして阿波踊り(?)のような感じになったりと非常に個性的でした。1楽章同様,力強いリズムが繰り返されているうちに音楽はどんどん,エネルギーを増し,会場全体を幸せな気分に包んでくれました。
↑終演後お2人に頂いたサイン。両者とも縦書きの漢字でした。


アンコールでは,おなじみの「ロザムンデ」間奏曲第3番が演奏されました。遠藤さんのクラリネットと加納さんのオーボエのソロを楽しんだ後,ちょっと間をおいて最初の旋律が再現してきます。この間の入れ方も絶妙だったが,続いて出てきたとてもデリケートな弱音には鳥肌が立ちました。死ぬ前に聞くならこういう浮世離れしたような音楽を聞いてみたいものだと,妙なことを考えながら聞いていました。

金沢ではまだ梅雨が明けませんが,会場内だけは,すっかり梅雨明けをしたようでした。
(2003/07/26)

Review by takaさん
ブリテンのシンプル・シンフォニーでは冒頭の音から"イングランド風"でしたね。あのメロディーも、このメロディーもこの曲だったの?と恥ずかしながら新たな発見でした。
ハイドンのチェロ協奏曲ではOEKも趙さんもとても明るい音に聞こえました。
確かに第三楽章は圧巻でしたね。また、私はアンコールのカサドが気に入り、予定外でしたが、二日後の27日の芸文協・音楽堂コンサートに無伴奏チェロ組曲全曲を聴きに行きました。詳細については後ほど書き込むつもりです。
シューベルトの序曲も、明るく若々しい感じがとてもよく伝わってきました。この辺から広上さんの本領発揮なのでしょうか。踊る指揮者の熱演は最後まで健在でしたね。
久しぶりのコンサートだったせいもありますが、楽しい気分で家路につきました。