オーケストラ・アンサンブル金沢アニバーサリー・コンサート
ポップスコンサート
2003/08/03 石川県立音楽堂コンサートホール
1)渡辺俊幸/ファンファーレ・フォー・ザ・セレブレーション(世界初演)
2)ウィリアムズ/映画「E.T.」〜フライングテーマ
3)ウィリアムズ/映画「スターウォーズ」〜メインタイトル
4)ウィリアムズ/映画「シンドラーのリスト」〜テーマ
5)ウィリアムズ/映画「ハリーポッターと賢者の石」〜ヘドウィックのテーマ,ハリーの不思議な世界
6)渡辺俊幸/NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜颯流
7)渡辺俊幸/NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜永久の愛(アリア・バージョン)
8)渡辺俊幸編曲/ディズニー・ファンタジー・オーヴァーチュア
9)メンケン(渡辺俊幸編曲)/映画「美女と野獣」〜美女と野獣
10)バーンスタイン/ミュージカル「ウェストサイド物語」〜マリア
11)バーンスタイン/ミュージカル「ウェストサイド物語」〜トゥナイト
12)ロジャース(渡辺俊幸編曲)/ミュージカル「王様と私」〜シャル・ウィ・ダンス?
13)ロイド=ウェバー(渡辺俊幸編曲)/ミュージカル「キャッツ」〜メモリー
14)ブロズキー(渡辺俊幸編曲)/ビー・マイ・ラブ
15)ハムリッシュ(渡辺俊幸編曲)/ミュージカル「コーラスライン」〜ホワット・アイ・ディッド・フォー・ラブ,ワン
16)(アンコール)ロウ(榊原栄編曲)/ミュージカル「マイ・フェア・レディ」〜運がよけりゃ
17)(アンコール)ロウ(渡辺俊幸編曲)/ミュージカル「マイ・フェア・レディ」〜踊り明かそう
●演奏
渡辺俊幸(2-3,6-17);水木ひろし(1,4-5)指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(特別編成)
メラニー・ホリディ(ソプラノ*7,9,11,13,15,17),セバスティアン・レンツラー(テノール*7,11,14)
サイモン・ブレンディス(ヴァイオリン*4,コンサートマスター)

Review by 管理人hs
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)ができて,今年で15年目になります。これを記念した2日連続のアニバーサリー・コンサートが北國新聞社主催で行われました。今回の演奏会では,編成を80名に増強しているのがいちばんのセールスポイントです。1日目はポップス・コンサートでした。ポストン交響楽団がポップスを演奏する時にボストンポップスと名前を変えるように,OEKも大編成でポップスを演奏する時は,「OEKポップス」として演奏することになりそうです。そのOEKポップスの指揮者が渡辺俊幸さんです。昨年のNHK大河ドラマ「利家とまつ」の音楽で出来たOEKとの縁は,両者にとっても良いものだったと言えます。今回の演奏会の後,CD録音も予定されていますが,この日の演奏会は,渡辺さんがOEKの顔の一人になった「アニバーサリー」とも言えます。

最初の曲は,そういういろいろな祝賀の意味を込めたファンファーレでした。渡辺さんが作曲し,水木ひろしさんが指揮をされました。曲はジョン・ウィリアムズ風「威風堂々」といった感じで,華やかな部分と落ち着いた中間部が対照的な雰囲気を持つ曲でした。チューバやトロンボーンの入る,大編成用の曲ですので,OEKポップス用のテーマ曲といえるかもしれません。

演奏後,水木さんが,客席に向って手を挙げると,襟に銀色の刺繍がついた「ちょっと派手」な上着を着た渡辺さんがステージ上に上がってきました。この後は,渡辺さんが中心に指揮をされました。

まず,渡辺さんの作・編曲の師匠筋に当たるジョン・ウィリアムズの作品が演奏されました。「E.T.」のテーマでは,臨時の大編成とはいえ非常に透明感のある弦の響きを楽しむことができました。「スターウォーズ」のメインタイトルでは,音が突き抜けて聞こえて来るようなトランペットの響きが印象に残りました。今回,管・打楽器にはオーストラリア出身の奏者が,弦楽器にはリトアニア出身の奏者が数名加わっていましたが,それぞれ,メルボルン交響楽団とクレメラータ・バルティカの皆さんだったようです。トランペットには,おなじみのジェフリー・ペインさんも加わっていました。さすがにいつも聞き慣れている小回りのきくOEKの響きと比べると,重苦しい感じでしたが,最後のフォルティシモの豪快な鳴らしっぷりには大編成のメリットがよく出ていました。いずれも映画のサントラ盤そのもののスコアを使っていたのも良かったと思います。この辺も大編成ならではです。

続いて,水木さんが登場し,「シンドラーのリスト」と「パリーポッター」の中の曲が演奏されました。こちらも同じジョン・ウィリアムズ作曲なのですが,どちらも大編成のパワーで聞かせる曲とは一味違います。「シンドラーのリスト」は,以前,アビゲール・ヤングさんのソロでも聞いたことがありますが,今回のサイモン・ブレンディスさんのソロも見事でした。細身の美しい音が,聞き手の心にやさしく刺さってくるような演奏でした。水谷さんのイングリッシュホルンとも絡み合いもとても繊細で,どこか日本の曲を聞いているような懐かしさを感じました。「ハリーポッター」の方は,映画を見ていないので初めて聞く曲でした。チェレスタの音を聞くと「くるみ割り人形」のようなファンタジーの雰囲気になります。

前半最後は,再び渡辺さんの指揮になりました。「せっかくなので」という岩城さんの言葉に続き,プログラムには予定されていなかったのですが,作曲者自身の指揮で「利家とまつ」のテーマ曲が演奏されました。すっかりお馴染みの曲ですが,今回は,デヴィット・ジョーンズさんのドラムスが加わっていましたので,後半の動きのある部分は,ポップス的なリズムに近くなっていたと思いました。今回は,ホルンが4,5人いましたので,その力強い音も印象的でした。この曲は,OEKポップスが,例えば,演奏旅行などをするとしたら,そのアンコール・ピースの定番になりそうな曲ですね。

続いて「利家のまつ」の愛のテーマである,「永久の愛」がソプラノとテノールの二重唱で歌われました。オリジナル版では,独奏ヴァイオリンが主旋律を演奏しますが,この「アリア版」では,その旋律をソプラノとテノールが歌います。ただし,主旋律を声楽パートに移しただけではなく,曲全体が作りなおされていました。イタリア語の歌詞もついており,見事にイタリア・オペラのアリアに変身していました。ここで初めて,この日のもう一人の主役であるメラニー・ホリデーさんが登場しました。透き通るような声という感じではありませんでしたが,大変立派な歌いぶりで,前半最後を締めてくれました。

後半は,このホリデーさんを中心としたファンタジー定期公演のようなステージになりました。もう一人,セバスティアン・レンツラーさんというテノールも登場したのですが...後半に行くに連れて,陰が薄くなってしまいました。

後半はミュージカルの曲を中心に演奏されました。オーケストラで序曲的に曲を演奏した後,それに関連する歌が歌われるという流れになっていました。最初は,ディズニー・メドレーによる序曲でした。渡辺さんのアレンジは,大変分かりやすく正統的で,曲のイメージを壊すことがないのが素晴らしい点です。ボストン・ポップスは,アーサー・フィードラーやジョン・ウィリアムズの指揮でミュージカルの曲を華やかに演奏していましたが,渡辺さんのアレンジを聞いて,OEKポップスへの期待が大きくなりました。

ホリデーさんが登場し,まず「美女と野獣」が歌われました。ホリデーさんは,アメリカ生まれですので,ハリウッドの音楽との相性も非常に良いと思いました。歌い崩すことなく,じっくりと愛の歌を聞かせてくれました。私は3階の上の方の席だったのですが,声も大変良く聞こえました(ステージ上にスピーカーがあったのでPAを使っていたのかもしれません。使われていたとしても非常に自然な感じだったと思います)。

「ウェストサイド物語」では,レンツラーさんによって「マリア」が,デュエットで「トゥナイト」が歌われました。声のバランス的には,ホリデーさんとよく合っていると思いましたが,レンツラーさんの方はちょっと淡白な感じでした。

その後も,ダイナミックなオーケストラの響きと,聞かせどころを心得た,堂々としたホリデーさんの歌を聞くことができましたが,いちばんの見所・聞きどころは,最後の「コーラスライン」以後でした。この日のホリデーさんの衣装はここまでは,銀色のドレスだったのですが,「コーラスライン」の1曲目が終わるとパッと袖に引っ込み,「ワン」の序奏(ピアノによるおなじみの序奏)が始まると,「シルクハット+燕尾服+黒い編みタイツ」という「いかにも」という姿に着替えて再登場しました。かつて小柳ルミ子が紅白歌合戦でよくやっていたような早替わりみたいだ,などと変なことを思いながら聞いていました。ホリデーさんは,ステージを左右に動き,足を高く上げてのパフォーマンスもあり,客席は大きく盛り上がりました。私も含めてですが,急にオペラグラスでステージを眺める人が増えたようでした。

ホリデーさんのサービスはまだまだ続きます。アンコールとしてまず,オーケストラだけで「マイフェアレディ」の中の「運がよけりゃ」が演奏されました(この演奏はお客さんの手拍子入りでしたが本当にノリの良い演奏でした。短く切り上げられるのもアンコールとしては最適です)。次は,きっとあの曲だろうと思っていたら,やはり,「踊り明かそう」でした。そして,ここでまた衣装替えがありました。今度の衣装は,あっと驚くような鮮やかなピンクのドレスでした。普通,クラシックの歌手は,足が全部隠れるぐらいのロングドレスを着ますが,ホリデーさんは,膝丈ぐらいまでのスカートでしたので,とても若々しく見えました(いや,実際もお若いのですが)。お客さんもホリデーさんの元気にすっかり乗せられたようでした。ホリデーさんは,昨年末のカウントダウンコンサートにも出演されていますが,今回の登場と合わせて,金沢での人気をさらに高めたと思います。来年のニューイヤーコンサートにも出演されますので,まさに「お祭り女」といったところです。そういう意味で,今回のアニバーサリーには大変ふさわしいゲストでした。

PS.この日は,「オーケストラ・アンサンブル金沢15年のあゆみ」という冊子が会場で配られていました。過去の海外公演の記録,初演曲の記録など貴重なデータも載っています。
PS.岩城さんの声の調子は,ご自分でも語られていたとおり,かなり悪そうでした。指揮ぶりはいつもどおりで安心したのですが,しばらくトークの方はあまり無理されない方が良いかな,と感じました。
PS.今回の特別編成OEKのメンバーには,かつて在籍していた奏者も大勢含まれていました。特に,ヴァイオリンのボカチュさんとコントラバスのプラッツさんが懐かしく感じました。舞台裏では,同窓会的な雰囲気だったのかもしれません。 (2003/08/03)