打楽器アンサンブル・シュペッツィ第1回演奏会
2003/08/08 石川県立音楽堂交流ホール
ゴーガー/ゲインズボロー
レオナード/サーカス
小長谷宗一/手拍子のための音楽
ブロドマン/グリーティング・トゥ・ハーマン
コリア(松下真也編曲)/チルドレンズ・ソングズ〜No.7,No.14,No.5,No.18
ファース/アンコール・イン・ジャズ
(アンコール)レント/ラグタイム・ドラマー
●演奏
打楽器アンサンブル・シュッペッツィ(加藤恭子,中村はるみ,松下真也,渡辺壮),渡邉昭夫
Review by 管理人hs
台風がやってくる直前の不気味な天候の中,石川県立音楽堂交流ホールで行われた打楽器アンサンブル・シュペッツィの演奏会に出かけてきました。このアンサンブルは東京在住のフリーランス打楽器奏者たちによって昨年結成されました。その1回目の演奏会が今回の演奏会でした。「東京在住なのに,なぜ金沢で?」というのが素朴な疑問なのですが,シュペッツィのメンバーはオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の打楽器のエキストラとして金沢に来られる機会も多いので,金沢は「第2の故郷」なのかもしれません。このアンサンブルのメンバーは本来7名なのですが,今回の演奏会にはそのうちの4人だけが参加していました。その代わり,賛助出演としてOEKの渡邉さんが加わっていました。

実は演奏会の開演時間を30分間違えてしまい,最初の曲の途中から聞くことになってしまいました。私が到着したのはゲインズボローの第2楽章の時だったのですが,扉の向こうから小さく聞こえてくる幻想的な音もなかなか良いものだと思いました。楽章間にさっとホール内に入ったのですが,そのとたんダイレクトな音が聞こえてきました。何となくラヴェルのラ・ヴァルスのような展開です。やっぱり打楽器とビールは,生がいちばんです。

最初に演奏されたゲインズボローは打楽器奏者の間では大変有名な曲らしく,5人の奏者による充実した響きを持った曲でした(最後の楽章だけの印象ですが)。今回の演奏会は,曲間のセッティング変更の時間を利用して,リーダーの渡辺壮さんによる曲目解説を交えて進められました。このゲインズボローという曲は,アマチュアのコンクールなどにもよく出てくるのですが,プロの奏者にとっても大変難しい曲らしく,「難しいものは先に済ませて,後は楽しもう」という意図で最初に置いたとのことです。いつか全曲を聞いてみたいものです。作曲者のゴーガーは,ボストン交響楽団の打楽器奏者とのことです。

次のレナードのサーカスという曲は6曲からなる組曲で,サン=サーンスの「動物の謝肉祭」のような構成でした。今回は,1曲ごとに渡辺さんの解説が付いていました。そのことによって,具体的なイメージを持つことができました。各曲でサーカスのいろいろな見世物を描いていますが,マリンバなどの音階を出せる楽器を使っていませんでしたので,かなりクールかつワイルドな味がありました。小太鼓のロールには,いかにもサーカスらしい雰囲気があるなと思いました。ちなみに,6曲のそれぞれのタイトルは次のとおりです。「序奏」「空中ブランコ」「ライオン使い」「人間大砲」「猿の檻」「フィナーレ」。この曲の作曲者のレナードは,ピッツバーグ交響楽団の打楽器奏者とのことです。

ここで休憩が入った後,後半のステージになりました。後半最初は,楽器を使わずに演奏する「手拍子のための音楽」でした。「手拍子」とはいえ,かなり足拍子も使っていました。しかも,OEKの渡邉さんのアイデアで立って演奏していましたので(渡邉さん自身は参加していませんでしたが),「運動不足解消に最適」という感じでした。手拍子のみの曲は,過去にも何回か聞いたことはありますが,心地よい繰り返しを聞いているうちに,陶酔的な気分に引き込まれてしまうようなところがあります。立って足拍子を入れるとフラメンコのような雰囲気にもなり,見ていて格好良いなと思いました。

次のブロドマンの曲はもともとは6つのトムトムのための曲なのですが,今回はボンゴ,コンガ,大太鼓を加えての演奏になっていました。コロコロという感じの乾燥した響きが心地よい曲でした。

続いて,チック・コリアの「チルドレンズ・ソング」をメンバーの松下さんが編曲したものが演奏されました。実際は20曲ぐらいある曲集のようですが,その中から4曲が演奏されました。4曲とも性格が違っていたので,ちょっとした組曲のようなまとまりの良さがありました。ヴィブラフォン,マリンバ,グロッケンシュピールなどが入り,とても親しみやすい雰囲気がありました。

演奏会の最後は,ヴィック・ファースのアンコール・イン・ジャズという曲で締められました(タイトルに「アンコール」と入っていますが,この曲自体はアンコールではなく,「別にアンコールは用意してあります」と予告がありました。)。このヴィック・ファースという人はボストン交響楽団のティンパニ奏者でサイトウ・キネン・オーケストラなどでも活躍しているエヴァレット・ファースのもう一つの名前です(”ヴィック・ファース”というのは打楽器のスティックの有名ブランド名でもあるそうです)。リーダーの渡辺さんがドラムを演奏し,ヴィブラフォン,マリンバ,ティンパニなどの各奏者が順番にソロを取ったり,掛け合いをしたり,バトルになったり,楽しい見せ場が次々と続く曲でした。照明の色合いにも変化がつけられ,とても華やかでした。

この日は,満席という感じではなかったのですが,打楽器アンサンブルを楽しもうという感じのお客さんが沢山いたようで,演奏後も暖かい拍手が続きました。最後に予告どおりアンコールが演奏されました。ラグタイム・ドラマーという気軽に聞ける楽しい曲でした。渡辺さんの話によると「OEKの渡邉さんがマリンバを演奏するのは,月食並みに珍しい」とのことでした。

打楽器アンサンブルのプログラムはいつも変化に富んでいて楽しいのですが,今回も多彩なプログラムを楽しむことができました。実は,私は,祭りなどのイベントで延々と和太鼓の音が続くのを聞くのは好きではありません。うるさいだけで退屈するのですが,今回のようにプロの打楽器奏者がいろいろな打楽器を駆使して作り出す多彩な響きは,全く飽きることがありません。

シュペッツィのメンバーは,OEKの演奏会にエキストラで登場することがよくありますので,これからステージ上で「再発見」するのが楽しみになってきました。

PS.途中のメンバー紹介の中で,リーダーの渡辺壮さんが先日,フジテレビ系の「トリビアの泉」に出演した時の裏話も出ていました(「ヴァイオリン奏者とシンバル奏者のギャラは同じ」というネタでした)。「この暑いのに...ちょっとご迷惑」という感じの偶然の取材だったようです。だけど,客席の方では,「あー,あの人か」という感じで結構感心している人がいました。(2003/08/09)