チャリティ・ジョイントコンサート
石川県ジュニアオーケストラ,エンジェルコーラス,オーケストラ・アンサンブル金沢
2003/08/31 金沢市観光会館

1)南安雄(榊原栄編曲)/うたはともだち
2)中田喜直(鈴木隆太編曲)/夏の思い出
3)チャーチル(榊原栄編曲)/ハイホーマーチ
4)ムソルグスキー(ジュリアン・ユー編曲)/組曲「展覧会の絵」
5)モーツァルト/協奏交響曲変ホ長調,K.364〜第2,3楽章
6)スッペ/喜歌劇「軽騎兵」序曲
7)エルガー/行進曲「威風堂々」第1番ニ長調
8)(アンコール)スパークス(榊原栄編曲)/グリーン・グリーン
●演奏
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(4-8);石川県ジュニア・オーケストラ(1-3,6-8)
オーケストラ・アンサンブル金沢エンジェル・コーラス(指導:篠原陽子,清水史津)(1-3,8)
坪倉かなう(ヴァイオリン*5),ヤン・ペラント(ヴィオラ*5)
アビゲイル・ヤング(コンサートミストレス)
Review by 管理人hs
毎年,8月下旬にはオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)関連の団体が勢揃いするジョイント・コンサートが行われます。今年は子供たちの夏休みの最後の日に行われました。今年の夏休みは天候の悪い日が多く,この日もそのことを象徴するような雨になってしまったのですが,演奏会の方はそれとは正反対の楽しい内容となりました。岩城さんがジョイント・コンサートに登場するのは久しぶりのことですが,変わったアレンジの「展覧会の絵」が入るなど,岩城さんらしさを感じさせるジョイント・コンサートでした。今回は,この”ジョイント”という言葉の前に”チャリティ”という言葉も付いていました。イラクやアフガンの戦争被災者など世界中の恵まれない人々のための慈善演奏会となりました。この辺の行動力も岩城さんらしいところです。

まず,演奏会は石川県ジュニアオーケストラとOEKエンジェルコーラスのジョイントで始まりました。岩城さんがエンジェル・コーラスを指揮したのは昨年9月の定期公演に続いてのことですが,ジュニア・オーケストラを指揮するのは初めてのことだと思います。演奏会の最初に歌われた「うたはともだち」という曲は,かなり以前にNHKで放送されていた同名の番組のテーマ曲だったと思います。非常に懐かしく感じました。とても明るくわかりやすい曲ですが,途中で「誰も信じたくない時なんか,ひとりぼっちの夜なんか,涙がなぜか出る時なんか...」という辺りで少ししんみりするのも印象的です。その後,テンポをぐっと落として,再度テンポが速くなるのも昔のとおりです(確か最後の方でその日の出演者が手拍子で入って来るという構成だったと思います)。歌もオーケストラもとても元気で,演奏会の最初に相応しい雰囲気がありました。

「夏の思い出」では合唱団の人数を少なくし,慈しむようなテンポで歌われていました。「ハイホーマーチ」では再度明るい雰囲気に戻り,爽やかにまとめられていました。岩城さんは,ずっと以前(水木ひろし時代?)にNHKの番組用に児童合唱の指揮をされていたこともあるようですが,100人ぐらいの子供に囲まれたおじいちゃんといった感じで,とても微笑ましい構図になっていました。

この日の演奏会は,いろいろな編成の曲が続き,ステージ転換が多かったのでその間を利用して出演者へのインタビューが行われました。最初に登場したのは,石川県ジュニア・オーケストラのコンサート・マスターの浅野君でした。OEK事務局の岩崎さんの質問に正直に(?)答えており,会場は大ウケでした。「Q:コンサートマスターの仕事は?」「A:...よく知りません」,「Q:このヴァイオリンをギドン・クレーメルさんが弾いたんだって?」「A:高く売れます」という具合で,とても楽しい受け答えとなりました。

続いて,OEKのみで「展覧会の絵」が演奏されました。この編成が相当変わっていました。通常の40人編成ではなく,各パート1名に絞り込まれた「ほとんど室内楽」という編成になっていました。この編曲で演奏されるのは今回が最初なのかどうかはわからないのですが,ラヴェル編曲以外の編曲,しかも20名以下で演奏されるというのはとても珍しいことです。

このジュリアン・ユーさんの編曲は,室内楽編成ということを意識した大変独創的なものでした。次のような特徴があったと思います。(1)一つのメロディを複数の楽器に分けて点描的に演奏する部分が目立った(ウェーベルン風ムソルグスキー?)。(2)管楽器の特殊奏法,(3)派手に盛り上がるのを避けていた,(4)打楽器,チェレスタ,ハープなどの音色を生かしていた。1パート1人でしたので,全員がソリストのような扱いになっていたと思います。

ラヴェル編曲の「展覧会の絵」といえば,何といっても冒頭のトランペットソロが有名ですが,この部分が一体どの楽器で演奏されるのだろうか,という点も注目でした。この編曲では,何とヴィオラで演奏していました。トランペットはいちばん派手な楽器,ヴィオラはいちばん地味な楽器ということで,正反対の楽器選択でした。プロムナードというのは,「展覧会場を歩く」という意味なので,そういう点からするとヴィオラの落ち着きのある響きの方が相応しいのかもしれません。プロムナードが何回か出てくるたびにヴィオラのソロを中心とした地味目の響きを使っていました。

その後に続くのが上述(1)のとおり点描風の音でした。(4)のとおり,多彩な音色で演奏されるので,とてもデリケートな味が出ていました。その他の曲では,ラヴェル編曲の楽器をイメージさせながらも微妙に違った味を出していました。古城でのサキソフォーン・ソロはイングリッシュホルン(多分),ひなどりの踊りはピッコロ,ブイドロはファゴットという具合でした。

「二人のユダヤ人」では,コントラバスとティンパニとピアノが出てくるのですが,これはラヴェル編曲とかなり違った印象を受けました。現代音楽っぽくクールで無気味な味がありました。上述(2)で書いたように,かなり変わった楽器奏法も使っており,ヒューと風が吹きぬけていくような感じのところもありました。トロンボーンなどがマウスピースをつけずに息だけを出していたように見えました。

最後の「キエフの大門」ですが,これも意表を突いて弦楽四重奏風の静かな響きで始まりました。上述(3)のとおり,大きく盛り上がるのを避けていました。終結部なども鐘を叩いてこれから盛り上がるぞ,という気分になった後,急に音量が弱くなり,その余韻を聞かせるようにして静かに終わっていました。

全体にとてもセンスが良く,楽しめる編曲でしたので,シチェドリン編曲の「カルメン」のように,OEK独自のレパートリーとして定着していくかもしれません。

後半の最初は,OEKと若手演奏家が共演するステージとなりました。ソリストとして登場したのは,以前石川県ジュニア・オーケストラに在籍していたことがあり今年の北陸新人登竜門コンサートに出演したヴァイオリンの坪倉かなうさんと元OEKヴィオラ奏者だったウラディーミル・ブカチュさんの息子さんであるヴィオラのヤン・ペラントさんでした。お二人ともOEKにゆかりのある奏者ということで,OEK団員の方も親しみを感じていたのではないかと思います。

プログラムには,モーツァルト:協奏交響曲〜第2,3楽章と書いてあったのですが,実際には1楽章の終結部から演奏されていました。やはり,いきなり暗い感じで曲が始まるのはあまり面白くない,ということだったのでしょうか?楽章の途中から演奏されるというのは珍しいことだと思います。

演奏の方は,残念ながら,まだ技術的な面で問題点が残っていると感じました。かなりヒヤリとする部分がありました。坪倉さんの方は,とても堂々とした演奏で,大変のびのびと演奏していたのですが,その分,大味なところがあると感じました。ペラントさんの方は音量的に坪倉さんの音よりも弱く,奥の方に引っ込んでいるような印象を持ちました。体格的には,190cmぐらいある長身のペラントさんと大変小柄な坪倉さんというアンバランスな組み合わせだったのですが,演奏の方は反対に坪倉さんの方が圧倒していたように見えました。

演奏後,このお二人に対するインタビューがありました。坪倉さんは,演奏同様大変堂々とした受け答えをしていました。これだけの舞台度胸というのは練習して身につけられるものではないと思います。この方の大きな才能の一つと言っても良いでしょう。ペラントさんの方は,かつて金沢に住んでいたこともあり,日本語で話されていました。以前は小立野小学校に通っていたとのことです。10年間でこれだけ立派に成長し,かっての同級生たちも驚いているのではないかと思います。

最後のステージは,OEKとジュニア・オーケストラの合同演奏となりました。この演奏が大変立派なものでした。「軽騎兵」序曲は,ジュニアのトランペットがズラリと並んでいただけあって,冒頭から聞き応えたっぷりでした。途中の弦楽器だけで演奏される部分もきっちり揃っており見事でした。全体に堂々としたテンポで地に足が着いた演奏になっていました。

「威風堂々」も文字どおり「堂々」とした演奏でした。中間部の有名な旋律の落ち着いた味も良かったのですが,テンポが速すぎず,着実に歩みを進めるような最後の部分も素晴らしいものでした。7月のファンタジー公演でもこの曲を聴いたのですが,ジュニアと合同で演奏した今回の演奏の方が感動的に響いていたと感じました。聞いているうちに,何とも言いようのない幸福感が心を打ちまいした。恐らく,岩城さんも今回の演奏には大満足だったのではないかと思います。

アンコールでは,エンジェル・コーラスが再度登場し,3つの団体の合同で「グリーン・グリーン」を演奏して締められました。盛りだくさんのプログラムの割りには時間的にもそれほど長くなく,大変気持ち良くまとまった奏会だったと思いました。

PS.ジュリアン・ユー編曲の「展覧会の絵」は11月9日のしらかわホール公演,11月10日の浜離宮朝日ホール公演でも演奏されるようです(考えてみると浜離宮シリーズに相応しい編成だったかもしれません)。この日の北国新聞の記事の中でOEKが9月前半にCD録音を行うようなことが書いてありましたが,もしかしたらこの曲が録音されるのかもしれません。

PS2.この演奏会は,てっきり石川県立音楽堂で行われるものかと思い,金沢駅前に出かけてみたのですが,ホールの前に行ってみて,ポスターがないことに気付き,慌てて金沢市観光会館までタクシーで移動しました。演奏時間を間違えたことはあるのですが,会場を間違えたのは初めてのことかもしれません。車だと意外に近い距離だったので無事開演に間に合ったのは良かったのですが...その分,チャリティ募金の金額が少なくなってしまいました(すみません。募金しようと思っていたお札がタクシー代金になってしまいました)。それでも全体で20万円以上は集まったようです。(2003/09/01)