オーケストラ・アンサンブル金沢第146回定期公演PH
2003/09/10石川県立音楽堂コンサートホール

1)ワーグナー/歌劇「タンホイザー」序曲
2)サン=サーンス/序奏とロンド・カプリチオーソ
3)ウェーバー/クラリネットと管弦楽のためのコンチェルティーノ変ホ長調,op.26
4)外山雄三/管弦楽のためのディヴェルティメント
5)チャイコフスキー/スラヴ行進曲,op.31
6)外山雄三/管弦楽のためのラプソディ
7)(アンコール)黛敏郎/スポーツ行進曲
8)(アンコール)古関裕而/スポーツ・ショー行進曲
●演奏
岩城宏之(3-5,8);外山雄三(1-2,6-7)指揮
仙台フィルハーモニー管弦楽団(1-2,5-8);オーケストラ・アンサンブル金沢(3-8)
マイケル・ダウス(ヴァイオリン*2),日比野裕幸(クラリネット*3)
西江辰郎(コンサートマスター*1-2,6-8),マイケル・ダウス(コンサート・マスター*3-5)
外山雄三(プレトーク)
Review by管理人hs  広太家さんの感想takaさんの感想
 七尾の住人さんの感想かきもとさんの感想
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2003〜2004年のシーズンは,仙台フィルとの合同公演で始まりました。OEKの定期では合同公演はさほど珍しくはないのですが,指揮者が2人登場する定期公演は久しぶりかもしれません(8月のアニバーサリーコンサートのような演奏会は除きますが)。今回は,岩城宏之さん外山雄三さんというベテラン指揮者2人が登場されました。プレトークは外山さんが担当されましたが,そのお話によると,お2人が1つの演奏会を分担して指揮されるのは,1956年のNHK交響楽団デビュー公演以来とのことです。何と47年ぶりの出来事です(ちなみに9月13日にも再度お2人は同じ演奏会を分担指揮さます。今度は3日ぶりということでやけに短い間隔になります)。

今回のプログラムはほとんど岩城さんが考えたとのことです。毎回,合同演奏会の時は2人が半分ずつ分ける形になるのですが,今回は特にその辺の分担が徹底していました。次のような構成になります。
  • 外山−仙台フィル
  • 外山−仙台フィル+OEK団員のソロ
  • 岩城−OEK+仙台フィル団員のソロ
  • 岩城−OEK
  • 岩城−OEK+仙台フィル(OEKがトップ奏者担当)
  • 外山−仙台フィル+OEK(仙台フィルがトップ奏者)
後で書きますが,アンコールの曲まで半分半分でした。その他,今回作曲家でもある外山さんが登場するとあって,外山さんの作品が2曲入っていたのも特徴的でした。

まず,最初に外山さんと仙台フィルによる演奏でワーグナーが演奏されました。OEK単独では,まず聞くことのできない曲です。仙台フィルは,フル編成オーケストラと言っても,それほど人数が多い感じではなく,今年2月に登場した大阪センチュリー交響楽団よりも一回り大きいぐらいの編成でした。そのせいか,音の感じが比較的軽い印象を持ちました。外山さんは,テンポを大きく揺れ動かすことなく,じっくりとしたテンポで演奏していましたので,かなり地味な演奏に聞こえました。華やかに盛り上がる感じの演奏ではなかったので,オープニングの曲としてはちょっと元気がないかな,という気がしました。最初の曲ということで堅さがあったのかもしれません。

続いては,おなじみ,マイケル・ダウスさんがいつもどおりの笑顔でソリストとして登場しました。ダウスさんの姿を最近意外に見ていない気がしましたので,懐かしく感じました(そういえば,この演奏会の丁度1年前はギドン・クレーメルさんの代役を立派に果たしていたのですね)。堂々とした雰囲気は相変わらずで,演奏からも安定感が感じられました。ダウスさんの演奏は,精緻過ぎる神経質なところがなく,音楽の勢いに乗って美しい音が自然に伝わって来るような感じです。何もしなくても,演奏にどこか華やいだ雰囲気があります。まさにOEKの顔と言えます。

その後,オーケストラの入れ換えがあり,OEKのメンバーが入ってきました。仙台フィルとは人数差が30ぐらいはあるので,空席がたくさん出来てしまいます。その中にOEKが入って来ると,少々寂しい感じにはなるのですが,3曲目での登場ということで,OEKファンとしては,ダウスさん同様,「待ってました」と声を掛けたくなるところでした。

今度は,仙台フィルのクラリネット奏者の日比野さんの独奏でウェーバーの小協奏曲が演奏されました。コンパクトにまとまったとても良い曲でした。日比野さんの演奏は,曲のイメージに相応しく,はしゃぎ過ぎない大人の雰囲気を持った演奏でした。速い部分でもおっとりとした感じがあり,良い味が出ていました。岩城さんの指揮にもドイツ音楽にふさわしいがっちりとした雰囲気がありました。

後半は,いよいよ合同演奏になるのですが,その前にOEK単独で外山さんのディヴェルティメントが演奏されました。恐らく,今回,外山さんが指揮者として登場するので,そのことに敬意を表して組み入れた曲だと思います。これが大変立派な演奏でした。この曲をいちばんよく演奏しているコンビが岩城指揮OEKだと思いますが,その自信がみなぎる演奏でした。今回の岩城さんのプログラミングの狙いとしては「金沢対仙台」という野球やサッカーの試合のような「競演」を聞かせようという意図があったのではないかと思います。その試合でOEKの十八番をぶつけて,外山さんと仙台フィルを刺激してやろう,という選曲だったのではないかと思います。

この曲はCD録音も行っているせいか,あいまいなところが全然残っていない演奏でした。第1楽章の大らかさも素晴らしかったのですが,第2楽章の管楽器を中心としたソロも見事でした。日本的情緒が自然に漂っていました。特に凄かったのは,弱音で演奏する部分でした。弱音にもこれだけダイナミックレンジがあるのだ,とppのグラデーションを堪能しました。第3楽章はがっちりとしたリズムを基本に強い生命力を感じさせてくれる演奏でした。オケーリーさんのティンパニのキレの良い音の刻みメンバーが,何とも言えないグルーブ感を作っていました。音量的にも仙台フィルに負けないぐらいの迫力が出ていたのではないかと思います。

というわけで,今回の仙台フィルとOEKの単独対決では,OEKの方が良かったかなという気がしました。ホームグランドで演奏する有利さもあるかもしれませんね。演奏後には外山さんが登場し,岩城さんと握手をされていました。作曲者の前では下手な演奏はできない,という気持ちがあったかもしれませんが,外山さんもこの演奏には満足されたと思います。

続いて,本日のメイン・イベントである合同演奏のステージになりました。まず,OEKのメンバーが首席奏者となる配置で100名を越える奏者が座席に付きました。大阪フィルとの合同演奏の時の方が人数的には多かったかもしれませんが,それでも最後列の弦楽器奏者などは壁際ギリギリのところに座っていました。再度,岩城さんが登場し,スラヴ行進曲の演奏が始まりました。この演奏もまた,素晴らしい演奏でした。

オーケストラは管楽器の人数が倍になっただけあって,大変力強い演奏でした。テンポは,やや速目で,常に前のめりに前進するような推進力を感じました。特にトランペットの切れ込むような迫力が印象的でした。前の曲とは違って,こちらの曲ではffの方向へのダイナミックレンジの広さを堪能できました。重量感があるのに重苦しくなく,キレの良さを感じさせるあたり,岩城さんのオーケストラ・コントロールの確かさを感じました。岩城さんは,数年前に体調を崩され心配したのですが,この日の演奏などを聞いていると作り出す音楽は本当に若々しいなと感じました。先月の「悲愴」といい,充実した演奏が続いています。全然枯れたところがなく,オーケストラを鳴らし切っているのが素晴らしいと思います。

トリの曲は,外山さんの自作自演となりました。まず,合同演奏会恒例の「座席替え」がありました。この曲では,仙台フィルの方が首席奏者となりました。違うオーケストラ同志が隣り合う風景というのは,「誰が隣に来るのだろう」という何となく昔懐かしいフォークダンス的な雰囲気(?)がありそうな気がします。

合同演奏会ではすっかりおなじみのラプソディですが,今回の演奏は一味違いました。岩城さん指揮のラプソディはもっと直線的にグイグイ進んでいくのですが,外山さん自身の指揮の演奏は,かなり冷静な演奏でした。テンポは非常に遅く(作曲者が正しいとすれば,岩城さんの方が速過ぎる?),細部までじっくり聞かせてくれました。特に最後の怒涛の「八木節」に入る直前に非常に大きなタメを作った後,拍子木が入る辺りは,大相撲でも始まるような感じでした。オーケストラの響きもスラヴ行進曲に比べると抑制されているように感じました。この辺はもう少し豪快にオーケストラの響きを解放して,お祭り騒ぎにして欲しいかなとも思いました。

今回の演奏で面白かったのは,打楽器奏者の皆さんがとても楽しそうに演奏していたことです。特にOEKのオケーリーさんと仙台フィルのティンパニ奏者の方が,顔を見合いながら楽しそうにリズムを合わせていたのがとても可愛らしかったですね。それと最初の方に出てくるヨサコイ・ソーランに使うような楽器(名前が出てこないのですが)は,トロンボーン奏者とホルン奏者が演奏していました。いつも以上(?)に真剣な顔で演奏されていたようでした。お客さんの方は,曲のいちばん最初に出てくる鐘の音に(心の中で)「おお」という感じで反応していました。この鐘というのは,まさにお寺の本堂においてあるような大きな鐘で,今にもお経が始まるような感じでした。さすが石川県は真宗王国だと思いました。

今回の演奏会は一種のお祭ということで,プログラムが進むにつれて,リラックスして楽しむことができました。当然アンコール曲も演奏されました。先にも書いたとおり外山さん,岩城さん各1曲ずつでした。そのアンコール曲ですが,恐らくオーケストラの定期公演のアンコールとして演奏されるのは史上初めての曲かもしれません。

外山さん指揮でまず演奏されたのは,黛敏郎作曲による日本テレビ系のスポーツ番組用の行進曲でした。この曲が黛さん作曲だという点に驚く人が多いかもしれませんが,まさにその点が選曲の狙いだと思います。最近この曲を聞く機会は減りましたが,恐らく中年以上の人ならば必ず耳にしたことのある曲だと思います。黛さんの曲の中ではいちばん有名な曲かもしれません。かつてプロレス中継のテーマなどによく使っていましたね。曲の方は,スーザのマーチに近い雰囲気があります。

その後,タッチ交替して岩城さん指揮で演奏された曲は,古関裕而作曲によるNHKのスポーツ番組のテーマでした。こちらの曲は現在もアレンジされた形で使われていると思います。「おじさん2人で何を考えているのだか...」という茶目っ気のある選曲にすっかり嬉しくなりました。この曲の途中で,会場から自然発生的に手拍子が起こりましたが,半分お約束である「ラデツキー行進曲」以外で手拍子が起こることは本当に珍しいことだと思います。このアンコールをお客さん皆が喜んだ証拠だと思います。

アンコールの2曲がスポーツ絡みの曲だったことからも,今回の演奏会では,金沢対仙台のオーケストラ合戦のような雰囲気を出そうとしていたような印象を持ちました。これは金沢と仙台という「似たもの同志」の都市だからこそ出てくるアイデアなのではないかと思います。というわけで,これからも繰り返し,オーケストラ合戦をしてみたい相手だな,と感じました。

OEKの定期演奏会はファンタジー公演ができてから「もう何でもあり」という感じですが,今日の演奏会も,いろいろと工夫の凝らされた大変楽しめるものでした。この「なんでもあり」というのが,今後のオーケストラの演奏会のキーワードなっていくのかもしれませんね。

PS.この日,ロビーで音楽ジャーナリストの富永壮彦さんの姿を見かけました(長い髭が印象的な方です)。富永さんは仙台フィルとOEKを非常に高く評価されているのですが,今日のアンコールでの手拍子を聞いて,さらに評価を高くされたのではないかと思います。

PS.岩城さんと外山さんが前に共演した1956年の公演について調べてみました。これは,1956年9月14日,16日日比谷公会堂で行われたNHK交響楽団の特別公演のことだと思います。時期的にもまさに今と同じ初秋です。外山さんがベートーヴェンの「運命」を岩城さんがチャイコフスキーの「悲愴」を指揮されています。

PS.この日は,北陸朝日放送のテレビ・カメラが入っていました。恐らく,石川県では近いうちに放送されるのではないかと思います。マイクもかなりの本数が入っていました。 (2003/09/12)



Review by広太家さん
昨日のアンコールでは条件反射のようにお尻むずむず、行進したくなりました。我々の世代は大方知っている国民的?行進曲なのに、改まって演奏されると一体どんなスタンスで聴けばよいのだろうか、すぐには反応できなかったのですが、三階席でいち早く手拍子してたのは外国人のカップルで、受けてました。あまり聴かれたことのない方?の方が自然に反応してたりして。面白い選曲でした。

折込ビラにあった楽友会のオケ鑑賞ツアーは、小松長生氏の十八番「悲愴」をハーモニーホール福井で聴くという、しゃれた企画ですね。しかも、永平寺拝観とそば食べ放題が付くというから、楽しめて料金もお得なツアーですね。(2003/09/12)



Review by takaさん
本当に楽しく、聞いてて良かったと思える演奏会でした。

アンコールまではお二人ともお互いに良い意味での緊張関係にあったように感じました。
それだけに意表をつくアンコールの時には、聴いている方も思わず緊張の糸が解けて笑い声まで漏れましたね。何か二人で「やったね」とにんまりしていたのではないでしょうか。

ここまで日本人にこだわる岩城さんの姿勢には何か頷けるものがあるような気がします。(2003/09/12)



Review by七尾の住人さん
ずっと忙しく帰ってからあまり時間もなく、疲れてすぐ寝てしまうような毎日が続いてますので、なかなか投稿できずにいました。

そんな忙しい毎日で疲れた心を癒してくれたのが、この演奏会でした。

特に後半が素晴らしく、OEK単独の外山雄三氏の「管弦楽のためのディヴェルティメント」では、OEKの表現の豊かさと深さに改めて驚愕し、次の「スラブ行進曲」と「管弦楽のためのラプソディ」では合同演奏と大編成の醍醐味を十分味わう事ができました。

アンコールの2曲は本当に意外で、しかしとても楽しく顔がほころんだまま帰路につきました。大きな元気をあたえてくれた演奏で、とても嬉しかったです。(2003/09/14)



Review byかきもとさん
ずいぶん長い間ご無沙汰しましたが、この間リードオンリーでしたが、OEK fanはいつも楽しく拝見しております。そしてもちろんOEKの演奏会は、少なくともPhコースについては欠かさず聴いてきました。長いこと投稿はしませんでしたが、今話題の金聖響さんの刺激的な『英雄』やクレーメルさんの演奏会のことなど、このHPにアクセスすると、ついこの間のことのように思い出すことができて、いつもありがたく思っています。

さて、今シーズンの開幕第1回の演奏会は、既に皆さんが投稿しておられるように
外山、岩城の両巨匠による素晴らしく充実したコンサートでした。
演奏された曲の中では,岩城さんが指揮された曲がどれも印象に残りました。特に後半で演奏されたディヴェルティメントとスラヴ行進曲はどちらも超名演だったと思います。外山さんの自作自演によるラプソディも大変貴重な演奏でした。
私も全く同感です。おそらく岩城さん/OEKは外山さんの『ディヴェルティメント』を今までに何度も取り上げてきたことと思いますが、それにしても全てがジャストフィット、つまり40年近くも前に、既に外山さんはこのコンビを想定して作曲されたのではないかという錯覚を覚えるほどの決まり方でした。例によって会心の演奏ができたときに岩城さんがみせる、満足そうなくしゃくしゃの笑顔も決まっていました。スラブ行進曲では、岩城自らブラボーと叫んでおられたように思います。

既に半世紀にもわたって日本のクラシック音楽界を支えてきた両輪ともいうべき、岩城さんと外山さんが、ステージ上で互いにいたわり合い、労をねぎらい合い、名演奏を讃え合う姿も見ていて感激しました。
アンコールの2曲ですが...これは恐らく定期公演のアンコールとしては史上初かもしれません。黛敏郎作曲による日本テレビ系のスポーツ番組用の行進曲と古関裕而作曲によるNHKのスポーツ番組用行進曲の共演でした。
本当に楽しめるアンコールでしたね。私のそばで聴いていた女性のお客さんが、真っ先に手拍子を始めていたようでしたが、こういう楽しい雰囲気は、すぐに全体に伝わっていくものですね。外山さん、岩城さんの余裕のある指揮ぶりで、大編成のオーケストラによって演奏されるのを聴くと、聞き慣れたスポーツ番組のテーマ曲も、いつもにまして名曲に思われるのでした。(2003/09/15)