第4回現代日本オーケストラ名曲の夕べ
2003/09/13  石川県立音楽堂コンサートホール

1)武満徹/夢の時(ドリームタイム)
2)夏田昌和/アストレーション:ジェラール・グリゼイの追憶に
3)湯浅譲二/ピアノ・コンチェルティーノ
4)尾高尚忠/ピアノと管弦楽のための狂詩曲
5)石井眞木/響層:打楽器群とオーケストラのための,Op.14
●演奏
岩城宏之(1,5);外山雄三(2-4)指揮オールジャパン・シンフォニーオーケストラ(コンサートマスター:マイケル・ダウス*1-3,西江辰郎*4-5)
木村かをり(ピアノ*3,5)
外山雄三,岩城宏之,夏田昌和,湯浅譲二(トーク)
Review by管理人hs  七尾の住人さんの感想
9月10日に行われたオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演は仙台フィルハーモニー管弦楽団との合同演奏会でしたが,今回行われた第4回現代日本オーケストラ名曲の夕べは,定期公演の時同様,岩城宏之さんと外山雄三さんの指揮だったこともあり,その第2ラウンドのような感じの演奏会になりました。今回演奏したオールジャパン・シンフォニー・オーケストラは,(社)日本オーケストラ連盟に加盟している全国のプロ・オーケストラのメンバーによって特別に編成された臨時のオーケストラなのですが,プログラムに付いていたメンバー表を見ると,OEKと仙台フィルのメンバーが過半数を占めているようでした。恐らく,先日の合同演奏会とセットで企画された演奏会だったのでしょう。

第1ラウンドの合同公演の方は,外山さんの「ラプソディ」とその後,意表を突いて演奏された2曲のアンコールでぐっと盛り上がったお祭り的な内容でした。今回の演奏会は,それに比べると,かなりシリアスな内容になるのでは?と予想したのですが,合同演奏会同様にリラックスして聞くことができました。もちろん,行進曲に合わせて手拍子をするような雰囲気ではありませんでしたが,作曲者自身と岩城さん,外山さんとの掛け合いトークがふんだんに盛り込まれていたせいか,好奇心を持って現代音楽の数々を聞くことができました。いわゆる「現代音楽」というのは,聞こうとするまでの敷居は高いのですが,聞き始めると意外に(?)退屈することはありません(現代音楽も古典音楽も退屈する率はそれほど変わらないと思います)。現代音楽の演奏会については,聞く前にいかに好奇心を持たせるかが第1のポイントになるような気がします。

今回演奏されたのは5人の作曲家による5曲でした。作曲された年代は尾高さんの曲が1947年と1曲だけ古かったのですが,それ以外の曲は,石井(1969),武満(1981),湯浅(1994),夏田(2001)と大体10年ごとに並びます。この辺の時代的な多様性も,なかなか面白いと思いました。

最初に演奏されたのは,武満さんの「夢の時」でした。岩城さんの話によると,この曲は「夢の時」と訳さないで「ドリーム・タイム」のままにして欲しいとのことです(実は,こういう英語はなく,オーストラリアの原住民アボリジニの片言的な英語をタイトルにしたものとのことです)。武満さんの作品は後期に行くほど,美しさを増して行きますが,その先駆となるような中期の作品です。岩城さんは初演者だけあって,この曲の持つ純粋で詩的なムードを自然に引き出していました。弦楽器の音の不思議な美しさとか,打楽器,ハープ,チェレスタといった楽器の合わさったキラキラした夢のような音色がホール全体に広がる雰囲気は,CDなどでは味わえないものです。時々出てくるチューバやコントラバスのグーっという感じの低音も魅力的でした。フルートの音がすっと音楽堂の空気の中に消えて行くようなエンディングも素晴らしいと思いました。

続く3曲は,外山さんの指揮でした。この日の演奏会のタイトルには「名曲」という言葉が入っていましたので,演奏された曲も大家の曲が中心だったのですが,2曲目に演奏された夏田さんの曲だけは,一般的な知名度という点では例外でした。ただし,この曲は本当に面白い曲でした。外山さんが「石井さん,武満さん,湯浅さんは尾高賞を取っている(尾高さん自身はもちろん取っていませんが)。夏田さんも将来有力候補になるだろう」とおっしゃっていましたが,このことを見込んでの抜擢だったのかもしれません。

夏田さんの曲は,1回聞いただけでも,かなり曲の構造がはっきり分かりました。基本的には同じ音型を繰り返すようなパターンが中心になっていました。最初の方では,同じ音が「ワンワンワンワン...」という感じで耳鳴りのように執拗に繰り返されるのですが,いろいろな楽器で演奏されるので全く退屈することはありませんでした。そのうちに打楽器の物凄い強打が連続する部分になります。映画「ジョーズ」と「サイコ」の音楽が混ざったような恐怖感が漂っていました。この部分のテンポが段々と遅くなり,弦楽器が延々と音を伸ばす上にいろいろな楽器がいろいろなグリッサンドを演奏する部分になります。この辺ではユーモラスな感じもありました。最後は,カーンという感じで木片を叩いたような音で終わります。メロディは全然出てこないような曲でしたが,とても新鮮な感覚に溢れていました。外山さん指揮のオーケストラは,この曲の魅力を鮮やかに表現していました。

前半最後は,OEKが委嘱して作曲された湯浅さんのピアノ・コンチェルティーノでした。もともとは室内オーケストラのための作品なのですが,今回は弦楽器の人数を増強して演奏していました。前の曲が非常に斬新な曲だったので,その分,この曲はとても「まとも」(?)な曲に聞えました。途中,前衛的な雰囲気の部分も出てくるのですが,全体にこじんまりとまとまったところがあり,そこが魅力となっています。木村かをりさんのピアノ・ソロで始まり,最後もピアノ・ソロで終わるのですが,そのクリアで小粋な音の魅力も作品の雰囲気によく合っていました。この曲は,岩城指揮OEK+木村かをりでかなりの回数を演奏されて来ましたが,今回,外山さん指揮で再演されたことは,基本的なレパートリーとして定着していくための第1歩になったかもしれません。

後半の1曲目も木村かをりさんのピアノ独奏による協奏曲的作品でした。尾高さんの作品は1947年に作曲されただけあって,他の曲に比べるとかなり素朴な印象を持ちました。「現代音楽」というよりは,後期ロマン派の曲のような雰囲気がありました(この辺の曲になるとそろそろ「現代音楽」とは呼べないような気もしますが)。今回演奏された曲の中ではいちばん親しみやすい曲だったと思います。

曲はピアノのシンプルなメロディで始まります。プログラムにはラフマニノフ風と書いてありましたが,どこか日本風の雰囲気もあり,「明るい農村」という感じの爽やかさを感じました。途中,カデンツァが入った後ゆっくりとした部分になります。この部分でも和風の味を感じました。最後は再び,快活な雰囲気に戻りますので,全体として「急−緩−急」の古典的なまとまりの良さがありました。曲の雰囲気としては,サン=サーンスのピアノ協奏曲の中にありそうな感じだと思いました(サン=サーンスのピアノ協奏曲には「エジプト風」というのがありますが,その手で行くと「日本風」となりそうです)。ピアノの入る狂詩曲ということで,「ラプソディ・イン・ブルー」ならぬ,「ラプソディ・イン・"ジャパニーズ"」という感じもありました。木村かをりさんのピアノは相変わらず洗練した雰囲気があり,この曲が必要以上に泥臭くなるのを防いでいました。NAXOSレーベルでは日本の曲を再発見するようなレコーディングをシリーズで行っていますが,この曲などは,是非再評価して欲しい曲だと思いました。

この日の最後の曲は,今年亡くなられた石井真木さんの代表作「響層」でした。この曲には「打楽器群とオーケストラのための」というサブタイトルが付いているとおり,打楽器が大活躍する曲でした。ソリストであることを強調するためか,6人の打楽器奏者だけは,黒い上着を来ておらず,Tシャツ,Yシャツだけで演奏していました。100人ほどの黒装束軍団の中に白装束6人の姿が浮き上がっていました。

この曲は1969年に作られた曲ですが,その時代を反映してか,かなり前衛的でサイケデリックな雰囲気がありました。ザ・ビートルズの「サージェント・ペパーズ...」というアルバムの中に「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」という曲がありますが,この曲の最後の和音が出てくる直前の盛り上がりのような感覚を思い出しました。昨年,岩城さんはNHK交響楽団と武満さんの「テクスチュアズ」を演奏しましたが,この曲と何となく似た空気を感じました。

曲は,打楽器群の「かそけき」響きで始まります。6人の打楽器奏者は,お互いにかなり離れた場所に配置していましたので,5.1chサラウンドという感じでかなり広がりを持って聞えました。その後,オーケストラの不協和音で大きく盛り上がっていきます。途中,オーボエが雅楽のような感じで強い音を出す部分も印象的でした。6人の打楽器奏者全員がマラカスを振ったり(そこら中からシャカシャカ...と聞えて来る異様さが印象的),視覚的にも楽しめました。最後の方では,オケーリーさんのワイルドだけれどもとても格好良いティンパニの連打が入って来たりして,不思議な熱気に包まれて盛り上がっていきます。客観的に言うと「うるさい系」の曲なのですが(嫌いの人も居たと思います),不協和音に包まれているのが次第に快感に変わっていくようなところがあります。これは演奏会場で曲に浸らないと味わえない感覚かもしれません。最後は,この不協和音でグーーツとクライマックスを作った後,急に静かになり,ピッコロの音で終わります。

この曲は,とんでもなくスケールの大きい曲だったと思います。恐らく,CDにはその全貌が納まり切らない曲だと思います。編成の面で,そう頻繁に演奏できる曲ではありませんので,生演奏の機会に触れることができたのは,大変ラッキーなことだったと思います。

今回の演奏会は,OEK定期会員は「ご招待」でした。拍手の反応はとても良かったのですが,これは金沢のお客さんが難解と言われる「現代音楽」でも楽しんで聞くことが出来たことを意味していると思います。岩城さんはOEK定期公演で,執拗に日本人作曲家を中心とした現代音楽をプログラムに組み込んできましたが,そのお陰で,金沢では現代音楽に対するアレルギーのようなものは本当に少なくなってきました。そのことが会場の雰囲気からも感じられた演奏会でした。

PS.尾高さんの曲に関するトークの中で,外山さんが尾高さんの交響曲第1番は大変良い曲だ,とおっしゃられていました。OEKの編成でできるものなら,是非聞いてみたいものです。 (2003/09/14)


Review by七尾の住人さん

なんだか8月と9月が逆になったような天気ですね。昨日の「オールジャパンオーケストラ」の時は、フェーン現象で外は凄く暑かったみたいですが、この私は音楽堂の中でお手伝いをしてたので冷房の中で快適に過ごしていました。

「オールジャパンオーケストラ」は現代曲ばかりなのに客の入りが予想以上に入ってたので、びっくり。私は現代曲は音の変化がとても面白く、本当に好きなので毎回プログラムに1曲入っててもいいくらいだと思っていますが、全曲現代曲のプログラムであれだけお客が入るとは思ってもいませんでした。本当に岩城宏之さんのおかげでしょうね。

また、指揮がよく見える所に座ったのですが、岩城さんの棒(最後の曲は棒なしでしたが)がよく見え、多彩な表情にびっくりしました。いつもは背中しか見ていないので、細かい棒や腕の動きが分からなかったんですが、なるほどオケに命をあたえるという指揮者の仕事に妙に納得したものです。もう1人の外山さんの棒はピアノが入ったので見えなくなり、よく分からなかったのが残念でした。(2003/09/14)