男声合唱団金沢メンネルコール第27回定期演奏会
2003/09/21 石川県立音楽堂コンサートホール
第1ステージ バーバーショップの世界II
1)When it's darkness on the delta
2)マッカートニー/When I'm sixty-four
3)ロジャース(ハマースタインII世作詞)/ミュージカル「回転木馬」〜You'll never walk alone
4)Coney Island baby
5)カーン(ハマースタインII世作詞)/ミュージカル「ショウボート」〜Old man river
6)Swing down chariot
第2ステージ
7)多田武彦(伊藤整作詩)/男声合唱組曲「雪明りの路」
第3ステージ アラカルトステージ「海のうたを集めて」
8)南弘明(堀口大学訳詞)/男声合唱組曲「月下の一群」第1集〜海よ
9)多田武彦(草野心平作詩)/男声合唱組曲「北斗の海」〜窓
10)シベリウス/波濤の荒れ狂い(Brusande rusar en vag)
11)高田三郎(高野喜久雄作詩)/合唱組曲「水のいのち」〜海
12)アルヴェーン/海の夜明け(Gryning vid havet)
13)後藤桃水(多田武彦編曲,法師浜桜白詩)/八戸小唄
14)北村協一編曲/Rolling home
15)ロバート・ショウ編曲/Blow the man down
16)Norman Luboff編曲/A-Roving
17)北海道民謡(清水修編曲)/そうらん節
18)(アンコール)I've got six pence
19)(アンコール)When it's darkness on the delta
●演奏
広瀬康夫(1-6,8-19);中川達也(7)指揮
男声合唱団金沢メンネルコール(1-7);男声合唱団JMC金沢(8-19)
大野由加(ピアノ*8,11,16)

Review by管理人hs
男声合唱団金沢メンネルコールの定期演奏会に出かけて来ました。この合唱団は県内唯一の本格的な男声合唱団で今回が27回目の定期演奏会でした。1976年に結成されていますので,文字通り毎年1回ずつ”定期的に”行ってきたことになります。今回は,県内の音楽関係者にとっては「いちばんの晴れ舞台」である石川県立音楽堂コンサートホールで行われました。アマチュア団体が単独でこのホールを使う機会は意外に少ないことだと思います。

今回の演奏会は3部構成になっていました。最初は,この団体が昨年から取り組んでいるバーバー・ショップのステージでした(昨年がパート1だったので,今回は「II」という番号が付いているようです)。バーバー・ショップというのは,アメリカでよく歌われている親しみやすい男声合唱のスタイルです。男声合唱は,通常トップ・テナー,セカンド・テナー,バリトン,バスの4部からなっているようですが,バーバー・ショップの曲も,この4部を担当する4人組で,楽しげに歌われます。今回は6曲が歌われました。

最初の曲は,演奏会の幕開けの曲ということで,4人組ずつ歌いながらステージの袖から入ってきました。そのうち客席の方からも団員が入って来ましたので,ホール中が楽しげな歌で満たされることになりました。団員の皆さんは,それぞれ「吊りズボン+派手目の蝶ネクタイ」をしていました(話によると100円ショップで購入したものもあったそうです)。それにも増して派手だったのは,指揮者の広瀬さんと進行役の方(お名前を聞き逃してしまったのですが,年季の入った素晴らしい進行でした)のチョッキでした。バーバーショップは,合唱団全員で歌ったり,その中から4人組がステージの前方に出てきて四重唱で歌ったりとかなり自由な雰囲気があります。ちょっとした動作も付いていますので,吊りズボンに蝶ネクタイというスタイルがとても良く似合います。曲の途中では手でリズムを取り,曲の最後では指揮者と団員が一緒になって両手をぐっと上げて雰囲気を盛り上げて終わります。指揮者の広瀬さんは,日本のバーバーショップの第1人者ということで,団員だけでなくお客さんも大いに乗せてくれました。

歌われた曲は,ミュージカル・ナンバーありビートルズ・ナンバーあり。基本的に何でもバーバーショップになるようです。"When I'm sixty four"では,新婚の団員夫妻がステージ中央に登場し,歌詞の内容を小道具とジェスチャーで表現するというサービスで楽しませてくれました。ビートルズのこの曲は,わざとレトロっぽく作ったような曲なので,バーバーショップの楽しげなスタイルにぴったりでした。"Old man river"はとても有名な曲ですが,合唱曲として歌うと黒人霊歌のように響きます。途中,”ハー”とため息が入っていたのにも,何とも言えぬユーモアがありました。"Coney Island baby"では,古いラジオから音楽が流れてくる様子をイメージしてユーモラスな発声法で歌っていました。このステージ最後の"Swing down chariot"は有名な黒人霊歌"Swing low sweet chariot"をアレンジした曲ですが,途中でテンポアップする辺りがとても格好良いと思いました。歌詞に合わせて,歌いながらどんどん頭の位置が低くなっていくのも面白い演出でした。本当に皆さん芸達者です。

その他,バーバーショップとはどういう歌なのかを,会場のお客さんに実際に歌って体験してもらおう,というコーナーもありました。いきなり歌うのはやはり難しかったのですが,「メンネル」「カナザワ」といった単純な音の動きが,重なり合ってハモったとたんに格好良く聞えるのは大変面白く感じました。

このステージでは,各曲ごとにフォーメーションを変化させ,細かい動作を付けていましたが。どれもピッタリ決まっていましたが,やはり,これは歌の方がピッタリ決まっているから動作も格好よく決まるのだと思います。とても楽しいステージでした。

第2部では,指揮者が中川達也さんに変わり,多田武彦作曲の男声合唱組曲「雪明りの路」が歌われました。第1部とは違い,とてもしっとりとしたムードに変わりました。この曲は6つの曲から成っているのですが,それぞれ曲想に変化があり,飽きることがありませんでした。男声合唱というのは,響きとしてはとても深いのですが,ピアノ伴奏無しの曲の場合,人間の身体以外に楽器がありませんので,会場の空気だけが振動しているような軽やかさを感じます。音楽堂コンサートホールのようなある程度の広さを持った空間だと,その深さと軽さがうまく合わさってとても気持ち良く響きます。

この曲は,伊藤整の「雪」に関する詩に曲をつけているだけあって,同じ雪国である石川県民にとっても親しみの持てる内容でした。抒情的な曲も美しかったのですが,第2曲「梅ちゃん」のブラック・ユーモア的な感じとか,第5曲「夜まわり」の無気味な味わいも楽しめました。

第3部では,指揮者が再度広瀬康夫さんに戻り,金沢メンネルコールの団員を含む,男声合唱団JMC金沢という団体のステージとなりました。この男声合唱団JMC金沢は,数年前,期間限定で結成された「男声合唱団JAMCA石川」という団体が母体となっています。この「...JAMCA...」という合唱団は「日本男声合唱協会創立30周年記念演奏会in金沢」に向けて,県内の男声合唱愛好者が集まったできた団体だったのですが,そのまま解散するのも惜しい,ということで男声合唱団JMCとして活動を続けています。というわけでこのステージでは,合唱団員が50人ほどに増強されていました。大野由加さんのピアノも加わっていましたので,前半よりは力強さを感じさせるステージとなりました(ピアノの入った曲は意外に少なかったのですが)。

このステージは「海」にまつわる合唱曲のアラカルトでした。最初に歌われた南弘明作曲の「海よ」という曲は,ピアノ伴奏が加わったこともあり,とても充実した響きを持っていました。どこかベートーヴェンの曲を思わせるような立派さがありました。合唱団創設27年目ということで,中年男声の渋い魅力(?)のようなものを感じました。続く多田武彦作曲の「窓」という曲は,詩の中に出てくる「波はよせ」という言葉が,文字通り「波」のように繰り返されてるのが,とても気持ちの良く感じました。この多田さんの作品を聞くのは初めてだったのですが,第2ステージで聞いた曲もこの曲もとても良い曲でしたので,他にもいろいろ聞いてみたいと思いました。

その他,このステージではシベリウスとアルヴェーンの曲など外国の作品もいくつか歌われました。どちらもスケール感のある曲でした。特にアルヴェーンの曲は大変力強い響きで,「さすが北欧の海は厳しい」と思いました。イギリスの「シーシャンティ」と呼ばれる労働歌も3曲歌われました。こういうレパートリーはやはり男声合唱ならではです。

八戸小唄,そうらん節と日本民謡をアレンジした曲も歌われました。さすがに芸術的な香りの漂うアレンジがされていました。個人的には,コンサートホールで聞くとすれば,素朴な民謡そのもよりは,今回のようにクラシックの作曲家によってアレンジされた民謡(外山雄三さんの「ラプソディ」などもそうですね)を聞く方が好きです。特に八戸小唄の方は,とっても雰囲気のある掛け声も入っており,民謡の良さと合唱曲としての面白さが両方出ていました。

アンコールでは,楽しげなシーシャンティの曲に続いて,第1曲で歌われた曲がもう一度歌われました。第1曲に呼応するように歌いながら退場するスタイルもとてもよく決まっていました。今回の演奏会では,団員の皆さんのステージ上での動きがとてもスマートでした。歌だけでなく,動作についても相当厳しい練習をされてきたのではないかと思いました。

この日は,空席が全く無くなるほどたくさんのお客さんが入りました。そして,皆さんきっと,男声合唱の魅力を楽しむことができたと思います。メンネルコールの安心感のある歌声の魅力はもちろんとして,演奏会全体に渡り,司会をされた方のトークが冴えていたのも楽しめた理由です。そのトークを含め,団員の皆さんが,本当に楽しんで今回のステージを作り上げていたことがよくわかるような演奏会でした。しかも,ただ一生懸命歌うというだけではなく,至る所でお客さんを楽しませようとする工夫がされていたのが素晴らしい点です。この「工夫」と音楽堂を満席にできる「組織力」というのは,石川県の音楽界全体を盛り上げるエネルギーにも成りうるのではないか,とOEKファンとしては大きなことを考えてしまいました。(2003/09/22)