石川フィルハーモニー交響楽団第20回定期演奏会
創立30周年記念特別公演
2003/10/05 石川県立音楽堂コンサートホール

マーラー/交響曲第2番ハ短調「復活」
●演奏
本多敏良指揮石川フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:林克洋)
駒井ゆり子(ソプラノ),牧野真由美(アルト)
石川県合唱協会・県民合唱団(合唱指揮:大村松雄)
Review by 管理人hs
2003ビエンナーレいしかわのパンフレット
石川県では,2年に一度「ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭」というイベントを行っています。石川県芸術文化協会に属する各種団体が集中的にイベントを行う一種の文化祭のようなものです。そのうち,石川県音楽文化協会が主催したのがマーラーの交響曲第2番「復活」の演奏会した。

今回の演奏は石川フィルハーモニー交響楽団でした。この団体は,石川県を代表するアマチュアオーケストラで今年が創立30周年になります。今回の定期演奏会は20回目ということで,いろいろな記念が重なった演奏会となりました。石川県音楽文化協会は,毎年年末に第九と荘厳ミサの公演を行っていますが,今回はその県民合唱団がそのまま最終楽章に登場しました。県内のアマチュアだけでマーラーの「復活」を演奏したというのは,素晴らしいことだと思います(恐らく金沢初演だと思います。)。石川県の音楽史に残る記念碑的な演奏会になりました。

この大曲は,演奏するだけでも大変だと思うのですが,演奏の内容も素晴らしいもので,マーラーの交響曲の魅力を堪能できました。細かく見れば,いろいろ問題点はあったのかもしれませんが,特に最終楽章での演奏者が一つにまとまったような高揚感は,厳しい練習の賜物だとと思います。

この日はオーケストラだけでも120〜130人ぐらいの人がステージに乗っていた上,ステージ後方には70人ほどの合唱団もいましたので,ステージ自体が増設されていました。音楽堂のステージが客席の方に向かって増設されるというのは見た覚えはないのですが,オーケストラ・アンサンブル金沢以外でも大編成の団体が利用する機会が意外に多いので,今後もこういう形で使われることが出てくるのかもしれません。

このマーラーの「復活」ですが,私自身,生で聞くのは初めてのことです。一体,どういう響きが出てくるのか,聞く前から期待して聞きました。そして,その期待どおりのスケール感のある響きを楽しめました。特に打楽器や金管楽器の音からは生でないと味わえない,ホールの空気を震わせるような迫力を感じました。

第1楽章は,弦楽器の鮮烈な響きで始まり,「おっ」と思いました。後に続く低弦も引き締まった雰囲気がありました。その後も自然なテンポ感ですすみ,とてもよくまとまっていたと思いました。この日の演奏は,全曲に渡り恣意的な感じがなく,とても正統的な演奏だったと思います。ただし,第1楽章については,後半の楽章の印象が強烈だったせいか,ちょっと印象が薄くなったところもあります。

楽譜では第1楽章の後,5分間の休みということになっていますが,さすがに5分も休むわけはなく,指揮の本多さんが指揮台から降りて,長目にインターバルを取るという感じでした。

第2楽章は前楽章とは対照的な脱力感が魅力的でした。弦楽器は精妙な部分での音程はちょっと悪いかなという気はしたのですが,軽い音がとても心地良く感じました。途中,すっと出てくるフルートの音もとても爽やかでした。フルートのパートは全曲を通じてとても素晴らしかったと思いました。

第3楽章では打楽器群を生で聞く楽しみを味わえました。CDだと何の音かよくわからなかったものが,大太鼓の胴体を小さなホウキのようなもので叩いていたのだ,と分かったりあれこれ発見がありました。トランペットも見事でした。トランペットは,その後の楽章でも大活躍でしたが,全曲に渡りコントロールがよく聞いた音を聞かせてくれました。この楽章の最後の方もかなり盛り上がるのですが,これは第5楽章を先取りしている感じだな,というのも実感できました。

第4楽章はいきなりアルト独唱で始まります。全曲の中のターニング・ポイントのような楽章ですが,声が入っただけで,これまでの空気が変わったような面白さがありました。ここまででかなり時間がたっており,歌手としては厳しい条件だったと思うのですが,牧野さんの声は,とてもバランスの良い,すばらしい声だった思います。その後に出てくるトランペットの控え目の音のバランスも良かったと思いました。全体にとても落ち着いたテンポで,宗教的な気分を感じました。

第5楽章は,全曲中いちばん聞き応えがありました。まず,最初の低弦の速い動きの後,打楽器が大爆発するようなところがとても格好良く決まっていました。この日の演奏は,こういう格好良いところがすべて見事に決まっていたと思いました。その後も,とても念の入ったの演奏でした。この楽章は30分以上ありますが,それをいくつかの部分に分けて,きちんと演奏していたようでした(楽譜を見たことがないのでよくわからないのですが)。

まず,舞台裏からホルンの音などが聞えてきます。この部分はとてもたっぷりと演奏していました。この曲は,金管楽器や打楽器が舞台裏で演奏するところがかなりありますので,演奏中に出たり入ったりしている人がいました。そういうのを見るのは演奏会ならではの楽しみです。それにしても金管楽器と打楽器には沢山の奏者が居ました。全員が表(?)に出てくると,トランペット,ホルン,打楽器などはそれぞれ10人ずつぐらいいたのではないかと思います。ホルンは,演奏も見事だったのですが,一斉にベルアップするのも見ていて格好良いなと思いました。

途中,次々と波が押し寄せてくるように盛り上がるのですが,その間を繋ぐ室内楽的な雰囲気の部分もCDなどで聞くよりはずっと楽しめました。途中の盛り上がりでは,打楽器群が一斉にクレッシェンドしていき,その後にトロンボーンが迫力のある音を聞かせる部分が素晴らしいと思いました。実に堂々とした雰囲気がありました。

楽章の最後の方になって,やっと合唱が入ってきます(曲が始まって1時間以上経っていると思います)。その後は,「あの世」に行ってしまったような雰囲気になります。合唱の方は,”出”の部分が不安定でしたが,暖かみのある聖歌を聞くような味がありました。ソプラノ独唱の駒井さんの声には,合唱の中からふっと浮き上がってくるような爽快感があり,アルトの牧野さんとのバランスも良いと思いました。

その後は,金管楽器群が勢揃いし,それに合唱が加わり,全員揃ってのクライマックスになります。新聞などで話題になっていたスペインの教会の鐘を再現したカリオンは...残念ながら,あまり音がよく聞えませんでした。金管楽器の迫力は最後まで衰えることはなく,演奏された方々は本当にタフだなと思いました。

マーラーの曲は自宅のステレオなどではなかなか全曲聞き通せないのですが,生で聞くと本当に楽しめます。1時間30分近く休憩なし,というのは慣れない人には大変かもしれませんが,そういう時間に浸ることによって,日常生活から切り離された世界に入ることができるとも言えます。今回の演奏からそのことが実感できたのは,何といっても演奏自体が素晴らしかったからです。創立30周年を迎えた,石川フィルに対する期待がますます大きくなった演奏会でした。(2003/10/05)