オーケストラ・アンサンブル金沢第150回定期公演M
2003/11/04 石川県立音楽堂コンサートホール

1)フンメル/トランペット協奏曲ホ長調
2)ラヴェル/組曲「クープランの墓」
3)ヴォーン=ウィリアムズ/タリスの主題による幻想曲
4)ハイドン/トランペット協奏曲変ホ長調
5)(アンコール)ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
●演奏
ジャン・レイサム=ケーニック指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(マイケル・ダウス(コンサート・マスター))
ジェフリー・ペイン(トランペット*1,4)
ジャン・レイサム=ケーニック(プレトーク)
Review by管理人hs
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演も今回で150回になりました。石川県立音楽堂に本拠地を移した後,ファンタジーシリーズができ,自主公演の回数もどんどん増えてきているようです。

今回の指揮者は,OEKの定期公演に登場するのが2回目となるジャン・レイサム=ケーニックさんでした。レイサム=ケーニックさんが登場するのは,音楽堂が完成する直前の2001年7月の定期公演以来のことですので,音楽堂に登場するのは初めてということになります。今回の演奏会ですが,当初登場するはずだったオルガンのユルゲン・ヴォルフさんが急病のため出演できなくなり,プログラムが変更になりました。この変更は,本当に直前のことだったらしく,プログラムに訂正の紙は入っていませんでした(会場内の掲示と事務局の方のアナウンスで変更が知らされました)。通常,パイプオルガンの入らない演奏会の場合,ステージ上の反響板はかなり下まで降りているのですが,今回は降りていませんでした。このことからも急な変更だったことがわかります。

曲目はヘンデルのオルガン協奏曲からハイドンのトランペット協奏曲に変更されました。オーケストラの方々及びソリストのジェフリー・ペインさんもさぞかし大変だったことと思います。プログラムの演奏順も大幅に変更になりました。当初は,ラヴェルのクープランの墓がトリだったのですが,フンメルとハイドンのトランペット協奏曲の間にラヴェルとヴォーン=ウィリアムズが挟まれる形に変更になっていました。私自身は,協奏曲が最後に来るプログラムは好きではないのですが,今回の場合,2つのトランペット協奏曲をできるだけ離して演奏するためにも仕方のないことだったようです。当初,会場に掲示されていた訂正では,ヴォーン=ウィリアムズ→フンメル(休憩)ハイドン→ラヴェル,という順だったのですが,その後,さらに変更されました。休憩を挟んでいるとはいえ,トランペット協奏曲を続けるのは,奏者にとってかなり負担が大きなことなのかもしれません。

というわけで,最初にフンメルのトランペット協奏曲が演奏されました。この演奏ですが,少々ノリの悪い演奏に感じました。オーケストラの音色が非常にこもった感じに聞え,抑制されているように聞えました。ペインさんのトランペットは,輝かしい感じはするのですが,どこかかしこまって聞こえました。節度のある古典的な感じはしたのですが,もっとのびのびとした雰囲気があるといいな,と思いました。2楽章はやや速目,3楽章はやや遅目のテンポ設定で,何となく落ち着きも悪い気もしました。3楽章の最後の方はかなり華やかに吹いていましたが,その分,この部分がやや唐突に感じてしまいました。

続いての「クープランの墓」は当初,トリに来るはずだった曲だけあって,各曲ごとに変化に富んだ曲想を楽しむことができました。この曲では特にオーボエの水谷さんが大活躍でした。主要なメロディの口火を切るのは常にオーボエという感じでした。第1曲プレリュードの速いパッセージの軽やかさも素晴らしかったのですが,第3曲メヌエットでの典雅ではかなげな雰囲気などは,この楽器にぴったりだと思いました。弦楽器の音色は,非常にメロウな感じで,控え目に感じましたが,その分,くっきりとした管楽器群との音の対比がよく出ていたと思いました。管楽器全体としての音の受渡しもスムーズで,1つの楽器だけが突出するようなところがありませんでした。4曲目のリゴードンだけは,一転してパリっとした感じの響きとなり,前半最後をさり気なく華やかに結んでいました。この曲でも中間部のオーボエがとても良いムードを出していました。

後半の最初は,ヴォーン=ウィリアムズのタリスの主題による幻想曲でした。OEKがこの曲を定期公演で演奏するのは初めてのことだとと思いますが(多分),とても良い曲でした。耽美的な味わいと宗教的な味わいの合わさった,独特のムードのある曲で,個人的には,この日のプログラムの中でいちばん聞き応えがあったと思いました。

この曲ではオーケストラの配置も独特でした。OEKが武満さんの地平線のドーリアの演奏をするのを以前聞いたことがあるのですが,その配置と似ていると思いました。弦楽オーケストラを2つに分け,一方をステージ奥の高い場所に並べていました。この「2つのオーケストラ」が対話をしたり,エコーを付けたりといった感じで進んでいきます。それに加え,弦楽四重奏的な部分も出てきて,小編成にも関わらず,響きがかなり厚く感じられました。レイサム=ケーニックさんはイングランド出身ということですが,やはりヴォーン=ウィリアムズの音楽へのこだわりが強いのだと思います。静かなに始まった曲が次第に熱を帯びて行く辺りの盛り上がりも大変聞き応えがありました。

演奏会の最後は,急遽演奏されることになったハイドンのトランペット協奏曲でした。正直なところトリの曲としては,少々物足りない気はしたのですが(フンメルと似たタイプの曲なのでデジャヴを感じてしまいました),演奏の方は,小細工するようなところがなく,大変気持ちの良いものでした。ペインさんの音もオーケストラの音も,フンメルの時よりもパリっとした感じに聞えました。

というわけで,急遽,演奏曲数の増えたペインさんとオーケストラに対する拍手が続きました。アンコール曲は,恐らく,クープランの墓の後に演奏されることを想定していたと思うのですが,亡き王女のためのパヴァーヌが演奏されました。この日のプログラムは時間的にやや短めでしたので,アンコールが入って丁度良いぐらいだったかもしれません。

この演奏が,大変素晴らしいものでした。まず,冒頭の聞き所であるホルンのソロが見事でした。金星さんのホルンは,「これぞフランス」という感じの高貴で軽くて明るい音でした。高音でぐっと上って行く辺りの苦しげな感じも魅力的でした(演奏される方は大変だと思いますが)。全体のテンポはとても遅いのですが,弦楽器の音に透明感があるので,全然もたれるところがありませんでした。後半,一息付いた後,さらにテンポが遅くなるのですが,この辺のアンニュイな感じも絶品でした。前回の定期公演に続いて,このところなかなか聞き応えのあるアンコールが続いているようです。

今回のプログラムは交響曲なしで,しかも曲目が変更になってしまったので,ちょっと焦点がはっきりしない感じはあったのですが,特に耽美的な感じのする曲では,レイサム=ケーニックさんの個性がよく出ていたのではないかと思いました。ヴォーン=ウィリアムズの演奏を聞いて,OEKの演奏するイギリス音楽に対する期待も涌いた演奏会でした。(2003/11/05)