ハイドン・フェスティバルin金沢
第2夜室内楽集I

2003/11/13 石川県立音楽堂邦楽ホール
1)ハイドン/弦楽四重奏曲変ロ長調,Hob.III-78「日の出」
2)シューベルト/弦楽四重奏曲第13番イ短調,D.804「ロザムンデ」
3)ハイドン/弦楽四重奏ニ短調,Hob.III-76「五度」
4)(アンコール)ハイドン/弦楽四重奏曲,Hob.III-77「皇帝」〜第3楽章
●演奏
ハイドン・アカデミー管弦楽団メンバー*1,3,4(マリア・バーダー・クビツェック,クリスティアーネ・ブルックマン・ヒラー(ヴァイオリン),フローリアン・バルトゥセック(ヴィオラ),ペーター・トレッフリンガー(チェロ))
オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー*2(アビゲイル・ヤング,江原千絵(ヴァイオリン),ギューズー・マテ(ヴィオラ),ルドヴィート・カンタ(チェロ))
Review by 管理人hs
音楽堂入口に出ていた看板です。
2003ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭のメイン・イベントである「ハイドン・フェスティバルin金沢」が11月12日から16日にかけて行われました。このイベントではハイドンの曲を中心とした5日連続の演奏会を中心に,展覧会,レクチャーなどが石川県立音楽堂で行われました。

交響曲集2回,室内楽集2回の後,最後の日に天地創造が演奏されるのですが,私はその中の3回に出かけました。一見地味な存在であるハイドンですが,どの曲にも工夫がこらされ,退屈することがありませんでした。

この日出掛けて来た「室内楽集I」は,ハイドン・アカデミー管弦楽団のメンバーによるハイドンの弦楽四重奏曲2曲とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のメンバーによるシューベルトの弦楽四重奏曲の競演となりました。ハイドンについての音楽祭なのに,別の作曲家の曲が毎回含まれるのは,「看板に偽りあり」という感じでしたが,その分,ハイドンの個性を際立たせていた面もあります。

まず,ハイドン・アカデミー管弦楽団のメンバーによってハイドンの弦楽四重奏曲「日の出」が演奏されました。古楽器風の雰囲気を持った演奏で,曲の出だしを聞いただけで,会場の空気が変わったような印象を持ちました。ノンビブラートの軽い音が非常に快く響いていました。テンポは全体に速めで,キリッとした雰囲気がありました。その一方,大変たっぷりとした間を取っていたのも印象的でした。

ノンビブラート風の響きは第2楽章の幽玄の世界にもぴったりでした。3楽章もとても速いテンポで,勢いがありました。反対に第4楽章はとても穏やかで楽しげな演奏になっていました。

音の厚みはあまり感じられなかったので,ダイナミックさは不足していたと思いますが,とても現代的なセンスの良さのある演奏だと思いました。邦楽ホールはデッドな響きのホールなので,ちょっとギスギスした感じに響くところがありましたが,とても良い雰囲気を持っていました。

15分間の休憩の後,今度はOEKのメンバーによってシューベルトのロザムンデが演奏されました。OEKの弦楽四重奏といえばサンライズ・クワルテットがおなじみですが,今回は,アビゲイル・ヤングさんを中心としたメンバーでした。音の厚みという点では,OEKの方があると思いました。

ロザムンデ四重奏曲は,微妙に揺れ動く心理を描いているような雰囲気があります。特に後半の楽章でその魅力を感じました。全体としてヤングさんの表現力豊かなヴァイオリンがアンサンブルを引っ張っていたと思うのですが,第3楽章などではカンタさんのチェロが存在感を示していて,大変深みのあるアンサンブルになっていました。楽章を追うごとにアンサンブルが熟成されてきたように感じました。音楽評論家の岩井宏之さんは,プログラムの中で「ロザムンデにはやや冗長なところがある」と書かれていましたが,私などは,その冗長さに魅力を感じます。前に進まずに同じところにずっと留まっていようとする,ウジウジとした感じが結構好きです。最終楽章の,「あまり終わりたくないな」という感じののんびりとした雰囲気がとてもいいな,と感じました。

再度,10分の休憩が入った後,再度,ハイドン・アカデミーのメンバーによる演奏になりました。最後に演奏された「五度」は,切迫感のある短調の曲で,ハイドンの弦楽四重奏曲の中でも1,2を争う傑作と言われています。今回の演奏も素晴らしい演奏でした。「日の出」同様,第1楽章の出だしの部分のキリっとした雰囲気にまず引き付けられました。ハイドン時代の弦楽四重奏曲は,第1ヴァイオリンの果たす役割が非常に大きいのですが,今回のマリア・バーダー・クビツェックさんのヴァイオリンは,間の入れ方のセンスがとても良いと思いました(鮮やかな原色を散りばめたような衣装のセンスも良いと思いました)。第4楽章で音をキュッと上げるように演奏するのも粋でした。その他にも通常CDで聞くのとは,細かい音符の弾き方などが微妙に違っている部分もあったように感じました。ハイドンの曲を演奏し続けて来た「専門家」としての落ち着きと初めて演奏するような新鮮さを同時に感じさせてくれるような演奏思います。

秋が深まってきた時期にじっくりと室内楽を聞くのはとても良いものです。弦楽四重奏曲というジャンルは特に落ち着いた大人の雰囲気があります。今回,2つの団体による演奏を聴き比べてみて,そのことを強く実感しました。

PS.とはいえ,今回の演奏会では,楽章間ごとにお客さんがやけにゾロゾロと入ってきて,集中力が削がれるようなところがありました(どうも交通が渋滞していたようで開演時間に間に合わなかった人が多かったようです。演奏中でない分,まだ良かったのですが)。また,邦楽ホールの床は,コンサートホールと違い,ボコボコと足音がするのも,結構気になってしまいました。演奏中,何の音かわかりませんが,しばらく高い音が小さく鳴っていたのも気になりました。それと,今回はS席とA席(自由席)の区別がよく分かりませんでした。私はA席だったのですが,全席自由かと思い,うっかり空いていたS席に座りそうになってしまいました。邦楽ホールの方はやはり,クラシック音楽向けではないのかな,という気がしました。(2003/11/16)