ベルリン・フィルハーモニー木管八重奏団日本公演2003
2003/12/18 石川県立音楽堂コンサートホール
クロンマー/パルティータヘ長調op.57
モーツァルト(ヴェント編曲)/歌劇「後宮からの誘拐」(木管合奏版)(抜粋)
ジェイコブ/管楽八重奏のためのディヴェルティメント変ホ長調
ベートーヴェン/八重奏曲変ホ長調op.103
大谷裕子編曲/管楽八重奏のためのクリスマス曲集(あら野のはてに,そりすべり,ウィンター・ワンダー・ランド,ひいらぎかざろう,サンタが街にやってくる,ジングルベル)
(アンコール)モーツァルト(ヴェント編曲)/歌劇「後宮からの誘拐」(木管合奏版)〜バッカス万歳
●演奏
アルブレヒト・マイヤー,ドミニク・ヴォレンウェーバー(オーボエ),ヴェンツェル・フックス,マンフレート・プライス(クラリネット),シュテファン・シュヴァイゲルト,ヘニング・トローク(ファゴット),ラデク・バボラク,シュテファン・デ・レヴァル・イエルジエルスキ(ホルン)
Review by 管理人hs  
↑チケット・ボックス前の巨大サンタクロース

11月末にはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の弦楽アンサンブルとフルートのエマニュエル・パユさんの演奏会が石川県立音楽堂で行われましたが,今回は同じベルリン・フィルのメンバーによる木管八重奏(ホルンも含んでいますが)の演奏会に出かけてきました。ダブっているメンバーはいませんので,1ヶ月の間にベルリン・フィルのメンバー中20人ほどが金沢にやってきたことになります。

今回の木管八重奏団が固定メンバーかどうかわからないのですが,同じオーケストラの木管楽器の1列目と2列目の人たちがすっぽり抜けて出てきたようなイメージになります。オーボエ,クラリネット,ファゴット,ホルンが各2名ずつという木管八重奏は,18世紀から19世紀初頭のモーツァルト,ベートヴェンの時代に「ハルモニームジーク」という名前で大変人気の高かったスタイルです。今回は,その時代の曲にクリスマスにちなんだ曲を組み合わせた構成となっていました。比較的地味目な作品が多かったのですが,この「ハルモニームジーク」の伝統を感じさせてくれるような楽しい演奏会となりました。

最初にクロンマーというベートーヴェンと同時代に活躍した作曲家のパルティータが演奏されました。この日は,ステージ下手からオーボエ,ファゴット,ホルン,クラリネットの順に並んでおり,オーボエとクラリネットが対向配置の第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリンとなった弦楽四重奏のような親密さを感じました。曲の方も4楽章構成の曲ということで,古典的なまとまりの良さを感じました。2楽章のメヌエットはテンポの速いスケルツォ風だったり,3楽章のアダージョが深々とした葬送行進曲風だったり,とベートーヴェン的を思わせる雰囲気もありました。

ベルリン・フィル木管八重奏団の演奏は,各楽器の音がとてもしっかり演奏されている一方で,力みが全くないので,音に常に余裕がありました。テンポの方にも慌てたところは全くありませんでした。表情は豊かなのですが,大げさに盛り上げようというよりは,豊かな気分を自然に感じさせてくれる演奏でした。アンサンブルが一体となって一つの有機体のように感じさせてくれるのが素晴らしい点です。木管アンサンブルの場合,全体に柔らかな雰囲気があるのですが,例えば,バボラクさんのホルンの音などが時折入って来ると,ビシッと締った感じになるのも印象的でした。その他では,コンサートマスターのように活躍していたアルブレヒト・マイヤーさんのオーボエも印象的でした。細身の引き締まった音が魅力的でした。

次の「後宮からの誘拐」からの抜粋は,ヴェント編曲によるものでした。序曲はヴェンツェル・フックスさんのクラリネットの弱音で開始しました。フックスさんは,オーケストラ・アンサンブル金沢との共演でもおなじみですが,相変わらず美しい弱音と多彩な表情が印象的でした。序曲の後,たっぷりとした間があり,短い曲が続きました。オリジナルの歌劇は,オリエント風の打楽器が沢山入る曲ですが,管楽合奏版になるとその味が薄められ,かなりスマートな雰囲気になっていました。その点がやや単調な気もしましたが,軽妙な音の動きが一貫しており,リラックスして聞くことができました。

後半は,ジェイコブの曲で始まりました。この曲は,20世紀に作られた曲ということで,前半の曲よりはシャープさがありました。それでもとげとげしい感じにならないのはこの編成の魅力だと思います。クールさと暖かさを同時に感じさせてくれる演奏でした。曲は,三楽章構成のまとまった曲でした。特に印象的だったのは,同じ音型をいろんな楽器で演奏していく第2楽章でした。バボラクさんのホルンで始まった後,次々といろいろな楽器に引き継がれて行くのですが,どの楽器も名手が演奏していることもあり,役者が交代に出てくるような楽しさがありました。第3楽章でもホルンのソリスティックな演奏が楽しめました。バボラクさんの無理なく自然に出て来る音は,大変新鮮でした。

ベートーヴェンの八重奏曲は,作品番号自体は100番を超えているのですが,実際はかなり若い時に作られた作品とのことです。それでも,どこかベートーヴェンらしさを感じさせてくれる良い曲でした。「腐っても鯛」ならぬ「若くてもベートーヴェン」という感じでした。最初に演奏された,クロンマーの曲と似た構成で,最初から最後まで充実感のある曲であり演奏でした。スケルツォ的な雰囲気のあるメヌエットというのもクロンマーの曲と同様でした。各楽器がソリスティックに活躍するフィナーレでは,ベルリン・フィルのメンバーならではの華やかさがありました。曲全体を通じて,アンサンブルが一体となって有機的な生き物のように感じられる瞬間もあれば,各奏者が雄弁なソリストになる瞬間もあり,多彩な魅力を感じました。メジャー・オーケストラのメンバーによるアンサンブルならではの魅力が出ていました。

プログラムの最後は,当初はベートーヴェンだったのですが,順番が逆になり,クリスマス曲集がトリになりました。この変更は正解でした。ベートーヴェンの曲が非常に充実していましたので,最後の曲が自然にアンコール的な位置付けとなりました。聞く方にも演奏する方にも「お待ちかね」という感じのリラックスした雰囲気が漂っていました。「ハルモニームジーク」というジャンル自体,気楽に音楽を楽しめるジャンルなので,最後にリラックスして終わる今回の曲順は良かったと思いました。

このクリスマス曲集は,大谷裕子さんという方が編曲したもので,曲が途切れずにつながったメドレーとなっていました。その言葉どおり大変滑らかな演奏でした。おなじみのメロディが息の長いレガートでつながって次々と出てくるのを聞くのは,夢を見るようでした。とてもよく出来た編曲でした。時間的には,もう少し聞いていたいなと思わせるほどでしたが,コース料理を上品に締めくくってくれる,おいしいデザートという意味では,丁度良い長さでした。演奏全体に控え目なウィットがあり,上質なエンターテインメントとなっていました。

マイヤーさんの曲名紹介に続いて,アンコールが1曲演奏されました。プログラム中で演奏された「後宮からの誘拐」の中の1曲でしたが,その時よりもさらにウィットたっぷりの演奏でした。途中,テンポを落として,ファゴットがため息をつくような感じのユーモアを出していたのが印象的でした。まさに楽器による演技という感じで,ファゴットという楽器のキャラクターにぴったりでした。

この演奏会は,石川県吹奏楽連盟が後援だったこともあり,若い人の姿が目立ちました。演奏会前にレッスンがあったようです。終演時にベルリン・フィルのメンバーが客席に向かって手を振ると,会場の若い人たちが一斉に手を振り返す,という楽しい光景も見られました。演奏された曲もそうでしたが,会場全体にもアットホームな雰囲気がありました。ベルリン・フィルのメンバーというとちょっと近寄りがたいムードを感じるのですが,そういう先入観を破ってくれる演奏会だったと思います。

11月末から石川県立音楽堂には,10人のトランペット奏者による演奏会,パユさん,ナカリャコフさん,今回のバボラクさん,フックスさん,マイヤーさん...と有名な管楽器奏者が続々と演奏会を行いました。管楽器ファンには堪えられない1ヶ月だったのではないでしょうか? (2003/12/20)

■今回は,サイン会はなかったのですが,終演後の楽屋口にはかなり沢山のお客さんが待ち構えており,ちょっとしたサイン会になっていました。
↑フックスさんのサインはプログラムの表紙に頂きました。 ↑バボラクさんには,"Baborak with friends"というCDのジャケット上に頂きました。

←上からドミニク・ヴォレンウェーバー(オーボエ),マンフレート・プライス(クラリネット),シュテファン・シュヴァイゲルト(ファゴット),シュテファン・デ・レヴァル・イエジエルスキ(ホルン)の皆さんのサインです。

アルブレヒト・マイヤーさんとヘニング・トロークさんからはもらい損ないました。