クリスマス・メサイア公演 2003/12/23 石川県立音楽堂コンサートホール 1)榊原栄編曲/クリスマス・ソング・メドレー(諸人こぞりて,もみの木,赤鼻のトナカイ,ホワイト・クリスマス,サンタが街にやってくる,天には栄え,ジングルベル) 2)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(7-9,18-21,24-25,27-28,34-39,49-51曲は省略) 3)(アンコール)きよしこの夜 ●演奏 ジャン=ルイ・フォレスティエ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス) OEKエンジェル・コーラス,北陸学院高等学校聖歌隊(1,3),北陸聖歌合唱団(合唱指揮:朝倉喜裕)(2) 朝倉あづさ(ソプラノ*2),池田香織(メゾ・ソプラノ*2),辻裕之(テノール*2),谷友博(バリトン*2)
今回のメサイアは抜粋版で演奏されていました。ただし,抜粋といっても主要な曲はすべて入っており,半数以上の曲を演奏していましたので,メサイアの全体像を楽しむには十分でした。昨年,一昨年のメサイアも完全全曲版ではありませんでしたので,曲数に関しては,それほど大きな違いはないような印象を持ちました。 今回は,メサイアに先だって,クリスマス・ソング・メドレーが演奏されました。どの曲もテンポが速く,パリっとした明るさとノリの良さがありました。ホワイト・クリスマス以外は日本語で歌っており,誰にでも楽しめる演奏になっていました。OEKエンジェル・コーラスの方は,白いシャツに赤いリボン,チェックのスカート,北陸学院の女子高生の方は白いスモック(なんと呼ぶのか知りませんが)という衣装で,クリスマスの雰囲気を盛り上げていました。 その後,休憩が入った後,メインの「メサイア」になりました。今回の指揮は,ジャン=ルイ・フォレスティエさんでした。フォレスティエさんは身長が高く,手がとても長いので,指揮を見ているだけでスケールの大きな気分になります。指揮棒なしで指揮をされていましたが,曲を暖かく包み込むようなしなやかな雰囲気がありました。テンポは全般に遅目でした。最近の古楽器による演奏では,もさらりとした速目のテンポで演奏されることが多いのですが,この日の演奏は,序曲からして大変たっぷりとした濃い味がありました。それでももたれた感じはせず,いつもながらのOEKの透明感のある響きを楽しむことができました。個人的には,これぐらいのテンポの方が好みです。 まず,テノール独唱が登場しました。辻裕久さんの声はとても軽く,清潔感がありました。宗教的な作品に相応しいと思いました。その後に出てくる,バリトンの谷友博さんの声は大変立派で,堂々とした迫力がありました。それでいて,粗っぽい感じにはならず,とてもよく整った歌でした。 合唱団もとても充実していました。例年どおり,女声の数に比べて男声の人数がかなり少なかったのですが,ここいちばんでのフォルテの力強さは素晴らしいと思いました。12曲目に出てくる「ワンダフル」という言葉をはじめとして,各曲のキーワードが「これだ!」という感じで際立っていました。 その後の田園交響曲も大変美しい演奏でした。ここでは,OEKの爽やかな弦と春日朋子さんの演奏するパイプオルガンの素朴な音とがとてもよくマッチしていました。 続いて,キリスト誕生の場面になります。ここでは,金沢のメサイアではおなじみの朝倉あづささんのソプラノの可愛らしい声を堪能できました。私にとっては,「「メサイア」のソプラノ=朝倉さん」という等式が出来つつあります。安定感と品位のある歌声は,クリスマスの物語の場面には本当に相応しいと思います。 その後に続く合唱曲で(この日は第1部の最後は省略していたので,この曲で第1部がおしまいになっていました),トランペットが初めて登場します。このトランペットの登場の仕方に演出がありました。曲が始まる直前に,パイプオルガンのステージにOEKの2人のトランペット奏者がひっそりと入ってきました。曲が始まると,天井から華やかな音が聞こえ,歌詞どおり「いと高きところには栄光」という雰囲気がよく出ていました。 その後,休憩になったのですが...聞いていたお客さんの方は,例年のメサイア公演のパターンを覚えていて,ここで拍手が起きませんでした。私も例年通り第2部にそのまま入っていくのかな,と思っていたのですが,フォレスティエさんがそろそろと指揮台を降りたので,慌てて拍手をしました。この辺については,プログラムに休憩の箇所を書いておいて欲しかったところです。華やかな曲で締められていたので,演奏者の方にもっと盛大な拍手を送ってあげたかったなと思いました。 休憩の後の第2部と第3部は続けて演奏されました。暗い合唱曲に続いて,メゾソプラノ独唱による長く悲しいアリアが出てきます。これが本当に素晴らしい歌でした。今回,登場した池田香織さんは,瑞々しさと深みと艶のある素晴らしい声の持ち主で,このアリアの魅力を十分に伝えてくれました。大げさな身振りはないのに,曲の表情がダイレクトに伝わってきました。まだ若い方のようなので,これからの活躍がとても楽しみです。 というわけで,今回登場した独唱者はいずれも粒揃いという感じで,皆さん素晴らしかったと思いました。4人ともそれほど派手な感じはしませんでしたが,真摯さと新鮮さを感じさせてくれる歌で,オラトリオのような曲には相応しいと思いました。 その他,バリトンの独唱の第40番のアリアでのオーケストラの低弦の激しさが印象に残りました。フォレスティエさんは,オペラの指揮をよくされている方ですが,かなりドラマティックな音楽を作っていたと思います。ハレルヤ・コーラスも,ゆったりと始まり,後半で大きな盛り上がりを作っていました。男声コーラスが力強く"King of kings"と入って来るのを聞くと,非常に大きなエネルギーを得たように感じました。少ない人数だと,かえって「頑張っているな」という実感を得ることができました。 第3部では,まず最初の第45曲のソプラノのアリアが見事でした。ハレルヤ・コーラスの華やかな雰囲気と対照的な静かな気分がとても印象的でした。 第47曲では,トランペットとバリトンの聞かせ所になります。トランペットの明るく祝典的な響きは素晴らしかったのですが,曲の後半の方では何となく,音が途切れそうな感じでちょっとヒヤリとしました。バロック時代のトランペットには,とても高い音が多く,奏者の方は大変なんだろうな,と思いました。 第52曲には,コンサート・マスターのサイモン・ブレンディスさんのヴァイオリン・ソロが出てきました。相変わらずのスリムで美しい響きを聞きながら,そういえば,2年前も同じブレンディスさんのヴァイオリンを聞いたな,ということを思い出しました。 全曲の最後の,アーメン・コーラスも大変堂々としていました。スケール感たっぷりに盛り上がり,最後の最後では,4人のソリストも立ち上がり,合唱団と一緒になって歌っていました。 今年は演奏された曲数は例年よりもやや少なめだったのですが,長い時間続けて音楽を聞くことに慣れていない人にとっては,これぐらいの曲数の方が丁度よかったのではないかと思いました。私自身,フォレスティエさんの作る流れの良い劇的な指揮で,「メサイア」のエッセンスを堪能できました。 最後にアンコールで「きよしこの夜」が歌われました。この曲は,毎年歌われているのですが,今回は,三拍子というよりは,6/8拍子という感じの速いテンポで歌っていました。「メサイア」の中の田園舞曲風でとても新鮮に感じました。このアンコールでは,最初のステージに登場したOEKエンジェル・コーラスと北陸学院高等学校聖歌隊も再度登場し,ステージの前面は合唱団でいっぱいになりました。北陸聖歌合唱団の演奏会は,毎年,とてもアットホームな感じで締めくくられるのですが,今年は,例年以上に暖かい雰囲気に包まれたエンディングだったと思いました。(2003/12/24) |
||
OEKの「メサイア」公演を2年ぶりに聴いてきました。さすがに先日の「荘厳ミサ曲」とは違い、聴きなれているOEKのすっきりとした響きのよい安堵感に浸りながら、バロック風の穏やかで敬虔な宗教音楽をじっくりと堪能してきました。 最初はOEKエンジェルコーラス&北陸学院高校聖歌隊によるXmasソング・メドレーが演奏されました。速いテンポの旋律にのって、伸びやかで落ち着いた歌声を聴かせてくれました。これから聴く壮大な宗教音楽の前に、心地よい潤いを耳に与えてもらいましたが、こういったOEKとの微笑ましい共演は会場全体を和ませるのに一役買ったと思います。 休憩後、いよいよ「メサイア」が始まり、第1部「序曲(1)」では弦楽器を主体としたオーケストラが対位法的にバロックの典雅な調べを奏でていきます。続いてテノールの辻さんが柔らかで伸びやかな高音を聴かせてくれました。そして「コーラス(4)」で合唱が初めて歌いだし、美しいポリフォニーから深遠で壮大な雰囲気を作り上げ、一気に会場全体を包み込みました。 「コーラス(12)」では、しっとりとした感じでキリストの誕生を歌いだし、後半は弦の美しく流麗な音色にのって「Wonderful, Counsellor…(驚くべき指導者…)」という歌詞が喜びにあふれた力強い歌声で会場に響き渡りました。 歌はここで一休みし、「田園交響曲(13)」でオーケストラが穏やかな旋律を奏した後、弦楽四重奏のシンプルな響きの中でソプラノの朝倉さんが澄み切った歌声を聴かせ、最後に「コーラス(17)」でオーケストラと合唱のハーモニーによる大きな盛り上がりをみせ、弦楽四重奏で第1部が静かに締められました。ここでは休憩の案内がプログラムに特に記載されていなかったため、拍手がないまま終わってしまいました。 2度目の休憩をはさみ、今度は第2部から最後の第3部まで一気に演奏されました。第2部「アリア(23)」ではメゾ・ソプラノの池田さんが情感のこもった歌声で深い悲しみを漂わせていました。「アリア(40)」では小刻みな弦のパッセージによる強弱の変化が素晴らしく、バリトンの谷さんがよく通る美声を聴かせ、「コーラス(41)」では各パートが不規則に歌いだすのですが、合唱の 響きが一つにまとまり、何ともいえない神秘的な雰囲気を出していました。 いよいよ第2部のクライマックス「コーラス(44)」の有名なコーラス「ハレルヤ」が高らかに響き渡り、「King of Kings(王の王)」、「Lord of Lords(主の主)」という歌詞を繰り返す場面では女声の高音がどんどん上がっていくのは天国的に素晴らしく、また男声の響きがどっしりしていて、最後に全合唱で盛り上がりました。ここでは、聴衆が立ち上がって聴くのが習慣なのですが、立ち上がる人はまばらで少なかったし、私も後ろの人に配慮して立ちづらかったです。 第3部「アリア(48)」ではトランペット独奏が軽快な旋律で高らかな音色を奏で、バリトンの力強い張りのある美声と共に喜びに満ちた穏やかな響きで永遠の生命を表現し、後半になるとチェンバロが活躍する通奏低音にのって谷さんがしみじみと歌いました。 最後の「コーラス(53)」では、全合唱が力強い歌声と上昇音階で壮大なクライマックスを盛り上げ、女声と男声の対位法的な追いかけのフーガ形式で歌われた「アーメン」は大きな感動をもたらし、最後に至るまでの感動的な味わいが甦った素晴らしい演奏が終わると、会場は大きな拍手の渦に包まれました。 アンコールでは先ほどのエンジェルコーラス&北陸学院聖歌隊も壇上に迎えられたところで合唱団と共に「きよしこの夜」を歌い、クリスマス気分に再度引き戻されましたが、最後ぐらいはテンポをゆるめた歌声でじっくりと聴いてみたかったです。 今回はくまさんの曲目解説を参考に演奏を楽しませていただきました。読み応え十分のしっかりとした面白みのある解説で、聖書の引用やキリストのエピソードを元に作られた曲だということを勉強させていただきました。そういう背景を知って聴くと、歌詞の内容と曲の情景描写から音楽だけでなくストーリーの展開による盛り上がりを楽しむことができ、聴いていてとても味わい深かったです。くまさん、ありがとうございました。 P.S. 今年のコンサート鑑賞はこの「メサイア」公演が最後になりますが、中でもOEKの演奏はよく聴きに行きました。特に3月のブラームス特集が今年NO.1の演奏で、あの時の味わい深い音楽は忘れられないし、岩城さんとも念願の初対面を果たして「ぜひまたブラームスやってください。」とお願いしました。また初めて聴いたバレエ音楽「白鳥の湖」やコバケンのスメタナ「わが祖国」、そしてチェボタリョーワさんのチャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲などなど列挙しきれないものも含めて、とても印象に残る素晴らしい演奏だったです。OEKの皆様、今年もいろいろな音楽の感動を届けてくださりありがとうございました。 P.S. 余談ですが、「メサイア」は2年前音楽堂で初めてOEKを聴いたときの曲で、その時は当日券で前半の途中から聴いたのですが、知り合いの客演奏者に最初で最後の花束を楽屋裏まで届けに行き、直接渡せなかったという苦い思い出のコンサートでした。翌日花束を受け取ったお礼のメールをいただき、OEKの雰囲気がわかるエピソードを教えてもらったことで、ようやくOEKに興味を持ち始め定期会員となった次第であります。(2003/12/26) |