オーケストラ・アンサンブル金沢第153回定期公演PH
2004/01/08 石川県立音楽堂コンサートホール

1)シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」序曲
2)シュトラウス,J.II/ワルツ「春の声」op.410
3)シュトラウス,J.II/ポルカ「クラップフェンの森で」op.336
4)レハール/喜歌劇「メリーウィドゥ」〜ヴィリアの歌
5)ランナー/ワルツ「シェーンブルンの人々」op.200
6)シュトラウス,J.II/ポルカ「狩」op.373
7)シュトラウス,J.II/アンネン・ポルカ
8)シュトラウス,J.II/ワルツ「芸術家の生涯」op.316
9)シュトルツ/プラーター公園にまた花が咲きop.247
10)ランナー/ポルカ「お気に入り」op.201
11)シュトラウス,J.II/ワルツ「美しく青きドナウ」op.314
12)カールマン/喜歌劇「チャールダッシュ伯爵夫人」〜ハイア,ハイア,山こそわが故郷
13)(アンコール)シュトラウス,J.II/常動曲
14)(アンコール)ジーツィンスキー/ウィーン,我が夢の街
15)(アンコール)レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」から「グリゼットの歌」〜オッフェンバック/喜歌劇「天国と地獄」から「カンカン」
16)(アンコール)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲
●演奏
マイケル・ダウス(リーダー&ヴァイオリン)オーケストラ・アンサンンブル金沢
メラニー・ホリディ(ソプラノ*2,4,7,9,12,14,15),トロイ・グーキンズ(司会)
Review by 管理人hs  takaさんの感想広太家さんの感想 

音楽堂入口の「コンサート・インフォメーション」。思わず立ち止まって読みたくなります
私にとっての「コンサート初め」は,毎年,マイケル・ダウスさんの引き振りによるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤ・コンサートです。例年,前半はマイケル・ダウスさんを含んだ協奏曲,後半はシュトラウス・ファミリーの曲を中心としたウィンナ・ワルツ&ポルカという構成だったのですが,今年は,ソプラノのメラニー・ホリディさんをゲストに迎え,前半後半ともにウィーンの音楽だけで構成されていました。そういう点で,大変ニューイヤー・コンサートらしい演奏会になりました。OEKのニューイヤー・コンサートは,いつもリラックスした暖かな雰囲気に溢れ,毎年大変人気があるのですが,今年のニューイヤー・コンサートは,特に盛り上がりました。

そのいちばんの理由は,サービス精神の塊のようなメラニー・ホリディさんの歌と踊り(というよりもステージ・マナーのすべて)でしたが,それに加えて,この日の石川県立音楽堂には,OEKの団員とスタッフが一体となって盛り上げようという雰囲気がそこら中に溢れていました。

音楽堂入口の正月飾りの数々。雪だるまも健在
団員の皆さんのサイン入りタテ看板。今回の演奏旅行中,ずっと持ち歩くのでしょうか?ラポールというサインも入っていました。
門松と正月飾りが置かれた入口を抜けて会場に入ると,おなじみのホールのスタッフの方々が素晴らしい着物姿でお出迎えしてくれました。ホールの入口付近には,「謹賀新年」のタテ看があり(OEKとスタッフ全員のサインが書いてあるのも良かったです),喫茶コンチェルト付近では,OEKの金管奏者を中心としておめでたい感じの室内楽曲を演奏していました。これだけ,サービス精神の溢れる演出というのは金沢ならではかもしれません。

演奏の方も,例年にも増してリラックスした明るさに溢れていました。プログラム自体は,毎年大差はないのですが,「型にはまった粋(いき)」のようなものが年々強くなってきているようです。「こうもり」で始まりラデツキー行進曲で終わるというのは,ニューイヤー・コンサートの一つの「型」なのですが,ダウスさんの作る音楽には,それを微妙に崩しながら演奏自体を楽しんでいるようなところがあると思いました。基本的にキリっとしてさっぱりとした演奏なのですが,指揮者という「ボス抜き」であるために,気心の知れた仲間たちがコンタクトを取りあって一緒に音楽を作っているような楽しさがあり,音楽の中から自然な微笑みが生まれていました。

この演奏会は,毎年,第1ヴァイオリンのトロイ・グーキンズさんの司会で進められます。トロイさんがステージに登場し,シャンパンを一気飲みするのもお決まりのパフォーマンスです(常連のお客さんならこれを期待?)。ちょっとたどたどしいけれども,心温まるようなトロイさんのトークもまた,OEKのニューイヤー・コンサートに欠かせない重要な要素です。トロイさんは,ホリディさんの通訳も担当していたのですが,ホリディさんが「ペラペラペラ」としゃべった後,訳さずに「そうですね」と言っていたのも何か微笑ましい感じでした。ホリディさんの英語は結構分かりやすい感じだったので,「そうですね」と言われると,本当に分かったような気になってしまいました。

最初の曲は,おなじみの「こうもり」序曲でした。冒頭のキレのよい音も見事でしたが,中間部での木管楽器のしみじみとした表情も印象的でした。柳浦さんのファゴットのしみじみとした歌はいつ聞いても渋いなぁと思います。ダウスさんは,通常指揮者が立っている位置で,各奏者とコンタクトを取るように,比較的大きな動作で演奏していましたが,その動き自体が楽しいパフォーマンスとなっていました。指揮者がいる方が演奏の精度が高くなると思うですが,ダウスさんの引き振りにはどこか草書の書を見るような味があると思いました。

次の「春の声」では,お待ちかねのメラニー・ホリデーさんが登場しました。ホリデーさんの衣装は,ショッキング・ピンクという言葉どおりの鮮やかなピンクで,華やかなステージをさらに華やかにしていました。OEK女性奏者の落ち着いたワイン色の衣装と好対照でした。ホリディさんは,この日,何と3種類の衣装で歌いましたが,その色合いの変化も見事に計算されていました。最初の”いきなりののピンク”を見て,闘牛士に向う牛のように,お客さんの血は騒いだのではないかと思います。

ただし,歌の方はイマイチでした。たっぷりとしたイントロに続いて,コロラトゥーラで歌い始めたのですが,高音が苦しげで,全体にざらついた声でした。この曲は,とても有名な曲ですが,実は非常に難しい曲なのではないかと思いました。

「クラップフェンの森で」は,カッコウ笛を吹いていたパーカッション奏者とダウスさんとのやり取りが大変楽しい演奏でした。ダウスさんは自然なユーモアのセンスを持っており,ちょっとしたパフォーマンスのすべてが上品な笑いにつながっていました。途中,テンポをぐっと落として間を取る辺りもユーモラスでした。今回のダウスさんは,ホリディさんに触発されたのか,いつもにも増してサービスが多かったと思いました。

再度,ホリディさんが登場し,「ヴィリアの歌」を歌いました。こちらも高音は少々苦しそうでしたが,オペレッタの女王らしい歌心と落ち着きがありました。ダウスさんのヴァイオリンが絶妙の繊細さでオブリガートを付けていましたが,さっぱりとした甘味があり,オペレッタらしい魅力を出していました。

ランナーの「シェーンブルンの人々」は,ヨハン・シュトラウスのワルツに比べると,より控え目で,素朴な感じがあると思いました。ポルカ「狩」も,ニューイヤー・コンサートの定番です。疾走するようなテンポ感が大変気持ちの良い演奏でした。この曲にもいろいろなパフォーマンスが盛り込まれていました。途中,ジェフリー・ペインさんを含む3人のトランペット奏者が「突撃!」という感じでたち上がり,最後の最後で,パーカッション奏者(先程,カッコウ笛を吹いていた人です)がパン!パン!とピストルを連発して終わりました(打つ前に耳栓をしていたのが面白かったですね)。

前半最後は,息子の方のヨハン・シュトラウスの「アンネン・ポルカ」でした。ただし,いつも聞くオーケストラ版ではなく,歌入りのものでした。この曲では,オペレッタ歌手としてのホリディさんの魅力が全開でした。音楽が始まると,ステージ袖からホリディさんが千鳥足で登場しました(夜会でワインを飲み過ぎた後といった感じの黒い衣装に着替えていました)。ぶつぶつと早口で歌ったり,笑ったりしながらの「酔っ払い」の演技は,まるでオペレッタの一部を見るようでした。やはり,ホリディさんは,こういう演技と一体となったような曲がいちばん巧いと思いました。

後半は,ニューイヤー・コンサートらしく,終盤に行くほど大きく盛り上がっていきました。しっとりとした感じのある「芸術家の生涯」で始まった後,「プラーター公園...」が歌われました。この曲は指揮者としても有名だったローベルト・シュトルツの作品ですが,この辺りの曲になるとミュージカル・ナンバーと雰囲気が近いと思いました。オーケストラのキラキラとした生彩のある響きも美しかったのですが,ホリディさんの暖かい歌にも良いムードがありました。途中,日本語で歌詞を歌っていたようでした。”小唄”という感じの軽い曲をしっとりと聞かせてくれるのはベテラン歌手ならではです。

次のランナーのポルカは,比較的珍しい曲だと思いますが,アンネン・ポルカをさらに可愛らしくしたような楽しめる作品でした。その後,ニューイヤー・コンサートの定番の「美しく青きドナウ」が演奏されました。この曲はプログラムの「トリ」というのが普通なのですが,今回はホリディさんに敬意を表してか「トリ」の一つ前となっていました。

演奏は,例年どおりコーダをカットした版での演奏でした。この版は,通常版に比べると少々物足りない面はあるのですが,キリっと結ばれるのはOEKらしいともいえます。序奏部分での弦のトレモロの後,金星さんの堂々としたホルンが出て来ます。その後,カンタさんの歌に溢れたチェロが出て来て...と室内楽的な雰囲気が楽しめました。奏者の顔を覚えてくると,オーケストラをソリストの集団のようにして楽しめるようになります。このことが同じオーケストラを聞き続ける楽しみの一つだと思います。ニューイヤー・コンサートではダウスさんの他にも,ティンパニのオケーリーさんの,トランペットのペインさんといった”役者”が毎回揃います。こうやって見ると,やはり外国人奏者の方に役者が多そうです。

ゆったりとした序奏の後,曲が中間部に入って来ると爽快に流れ始めます。ダウスさんは,他の曲では,オーケストラの方を向きながら(お客さんに背を向けながら)引き振りをしていたのですが,この曲では,お客さんの方を向きながら演奏する場面がありました。まさに”シュトラウス・スタイル”での演奏ということで,聞く方の気分も盛り上がりました。

ニューイヤーコンサートはキリン・ビール協賛ということでロビーにキリンのポスターが沢山ありました。お隣はCD新譜「浪漫紀行」のポスターです。
演奏会後,着物の女性と写真を撮る光景も...。皆さん結構,デジカメを持ち歩いているようです。
プログラム上の「トリ」としては,ホリディさんのソロを交えて喜歌劇「チャールダッシュ公爵夫人」の中の文字通り”チャールダッシュ風”の曲が演奏されました。オペレッタの中にはエキゾチックな味を持った曲が含まれることが多いのですが,この曲もなかなか楽しめる曲でした。特に遠藤さんのクラリネットの濃い味が印象的でした。この日は打楽器奏者やトロンボーンが増強されていたのですが,低音のリズムが心地良く響きいていました。ホリディさんは,今度は鮮やかな緑のドレスに着替えていました。ここでも素晴らしいダンスを見せてくれました。

開演前,入口でお出迎えをしてくれた女性スタッフ3人からダウスさんホリディさんコンサートマスターの松井さんに花束が贈呈されると,会場はさらに盛り上がり,アンコールが4曲も演奏されました。最初の常動曲は,エンドレスに演奏できる曲で,曲をどう結ぶかが指揮者の見せ所になります。ダウスさんは,曲の最後でソロソロと舞台の袖から抜け出そうとしたのですが,「ズンチャ,ズンチャ...」という音の動きが止まらないので,再度ステージ中央に戻って来ておしまいというパフォーマンスを見せてくれました。ダウスさんがステージから離れるにつれて,音が小さくなり,また戻ってくると音が大きくなる辺りは,コメディアンの演技を見るようでした。

続いてはホリディさんのアンコールとなりました。こちらの方はウィーンの歌の定番である「ウィーン,我が夢の街」でした。庶民的で親しみやすく,懐かしさにあふれた曲でした。この後,新年のご挨拶がありました。毎年,ダウスさんが,さらりと"Happy New Year!"と言っていたのですが,今年はホリディさんが加わってのご挨拶となりました。

続いてもう1曲ホリディさんのアンコールがあったのですが,この曲が,この日のメイン・イベントともいうべき見せ場となりました。音楽堂の入口に貼ってあった掲示では,オッフェンバックの「天国と地獄」の中のカンカンと書いてあったのですが,その前にレハールの「メリーウィドウ」の中の「グリゼットの歌」が演奏されていました。この曲は「メリーウィドウ」の中のカンカンの場で歌い踊られる曲です。ホリディさんは,スカートを持ち上げ,リズムに合わせて足をすっと高く伸ばしていましたが,その伸ばし方(2段階に分けて伸ばしていました)が本当に上品で美しく,ほれぼれとするほどでした。その後,メドレーでオッフェンバックの有名なカンカンに変わり,テンポがさらにアップします。当然,会場からは手拍子が起こりました。曲の最後では,何と側転をし,その後,開脚180度でベタっと床に座っておしまい,という流れでした。

こういうパフォーマンスは,ホリディさんのお手のものなのかもしれませんが,それにしても柔軟な身体でした。ホリディさんはそれほど若くはないはずですが(失礼!),身体の動きには衰えが無く,ステージ全体からしなやかさが伝わって来ました。このパフォーマンスに驚き,喜んだお客さんからの拍手が盛大に続きました。

ホリディさんにサインをいただきました。レハールのオペレッタの曲を歌った1枚です。
ちなみにこの「グリゼットの歌」ですが,数年前,金沢市観光会館で見たブダペスト・オペレッタ劇場の素晴らしい舞台を思い出しました。この時には,拍手をすれば何度でも連続側転を見せてくれる驚異の歌手がいましたが,その時の盛り上がりを思い出しました。

ニューイヤーコンサートの最後は,お決まりのラデツキー行進曲でした。今回もダウスさんは,途中でステージから去り,オルガン・ステージからの高みの見物をしながら,手拍子の指揮をとっていました。

というわけで,最初から最後まで楽しいパフォーマンスの連続するとても明るい演奏会となりました。毎年恒例の演奏会ということで,「おなじみ」の安心感と「今年は何かな」という期待感とが交錯する楽しさがありました。一体となって盛り上げてくれたOEK団員と音楽堂のスタッフとに心から感謝をしたくなるような演奏会でした。

PS.サービス精神に溢れた演奏会の後には,ホリディさんのサイン会が行われました。私も,ホリディさんのCDを1枚購入して長い列に並んで来ました。

PS.今年から公演パンフレットは月ごとにまとめられるようになったようです。演奏会の感想のページなどが増え,読み応えがあったのですが,次回の演奏会の時も同じものが配られるとすれば,その時はあまり読むところがないな,と思ったりもしました。(2004/01/10)


Review by takaさん  

hsさん、昨日は楽しかったですね。
私はいつもより早めに音楽堂に着き、晴れ着姿の美女のお出迎えを受けました。
さらに幸運なことに、二階のロビーではペインさんやダウスさん達の演奏する、二つのトランペットのための協奏曲ハ長調(ヴィバルディ、RV537)を聴くこともできました。
ずいぶんとサービスのいい計らいですね。

管の数がいつもより多いのにも拘わらず、弦とのバランスが良く取れていて感心しました。ステージはお馴染みの曲で、楽しく聴かせてもらいました。
全体的に客席の反応がいま一つ足りないような感じもしましたが、あのアンコールで一気に盛り上がりましたね。
実際、私はメラニーさんの美しい脚線美には少々ドキドキしました。
最後には水戸黄門の印籠のように出てくるラデッキー行進曲に手拍子で参加し、今年も楽しく過ごさせてもらいました。
詳細は私のHPにupしてありますので、お時間と興味のある方はどうぞ。
[→:takaさんのホームページ] (2004/01/09)


Review by 広太家さん  

音楽堂に入るとすぐに2階ロビーから演奏が聞こえてきて、晴れ着姿のスタッフから新年のご挨拶をいただくに至っては、否が応でも演奏会への期待が高まるというもの。エスカレーターに乗っている時間ももどかしい程、心は会場に飛んでいました。ニューイヤー・コンサートはやはり格別な雰囲気があるのでしょう。

おしゃれして、二人で行きたいコンサートのひとつです。

メラニーさんのステージも後半、会場がどんどん盛り上がりましたね。私はメリー・ウィドゥ大好きなので、メラニーさん扮するヴァランシェンヌのカンカンが、まさかここで見られるとは思いもよらず、興奮、いえ、収穫でした。

ここ数年は、フォルクスオーパーやブダペストのニューイヤー・コンサート金沢公演に行っていましたが、OEKのは、気負わず自然体で聴けて、一番居心地がいいですね。なにしろ、ダウスさんやペインさん、団員、事務局スタッフが随所に演出を仕掛け、もてなそうとしてくれるので、これで居心地のよくないファンはいなのでは。ウィーンの空気を想いつつも、金沢の音楽堂の空気がやはり居心地良くて、幸せを感ずる。それはそれでいいのかな (2004/01/10)