金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第64回定期演奏会
2004/01/17 金沢市観光会館

1)メンデルスゾーン:序曲「静かな海と楽しい航海」op.27
2)ビゼー:劇音楽「アルルの女」第2組曲
3)シベリウス:交響曲第2番ニ長調op.43
4)(アンコール)グリーグ/抒情小曲集第9集〜第5曲「ゆりかごの歌」(弦楽合奏版)
●演奏
黒岩英臣指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団
Review by 管理人hs  みやっちさんの感想

国立大学のセンター試験の頃には,毎年,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会が行われます。今年の定期演奏会には,ベテラン指揮者の黒岩秀臣さんが登場しました。私自身,金大フィルの演奏は20回ぐらいは聞いているのですが,黒岩さんのような経験豊富な方が登場するのは初めてのことではないかと思います。

この日のプログラムは,メンデルスゾーン,ビゼー,シベリウスという組み合わせでした。何といっても後半のシベリウスの交響曲第2番の盛り上がりが素晴らしかったのですが,その他の2曲も充実していました。黒岩さんの作る音楽は常に安心感がありました。若い団員たちは黒岩さんの指揮を信頼し,それぞれの実力を出し切っていたのではないかと思いました。

最初のメンデルスゾーンの序曲は,演奏される機会はそれほど多くありませんが,とても良い曲です。静かでゆっくりした部分と活気のある部分の2つの部分からできていますが,最初のゆっくりした部分にはとても落ち着いた味があり,「静かな海」を大船に乗って渡っているような趣きがありました。後半の活気のある明るい部分も管楽器群のまろやかでまとまりのある響きが良かったですが,こちらの方も「穏やかな航海」という感じで前半との対比が少なく,少々おとなしいかなという気がしました。最後のティンパニの連打も印象的でしたが,後半に登場した先輩(?)の迫力のある音を聞いた後だとちょっと物足りない気もしました。最後に出てくるトランペットのファンファーレも新鮮でしたが,どこか唐突な感じがしました。

次の「アルルの女」組曲第2番は,よりスケールが大きくなっていました。最初の「パストラール」の冒頭部分からハッとするような明るさのある充実した弦の響きが聞えてきました。中間部のプロヴァンス風の軽やかな動きも印象的でした。特にピッコロの鮮やかな音が見事でした。

続く「間奏曲」では,サクソフォーンが主役として登場します。この日は,石川県新人登竜門コンサートにも出演したことのある筒井裕朗さんがエキストラで参加していました。筒井さんは,金沢大学教育学部を卒業された方ですので,古巣に戻ったような形になります(見た感じでは,そのまま「現役学生」といっても通用しそう?)。オーケストラの中のサクソフォーンということで,全体のバランスを崩すことはありませんでしたが,甘い響きが要所でスッと浮き上がってくるようなところがあり,とても良いスパイスとなっていました。

組曲中,いちばん有名な「メヌエット」のフルート独奏も見事でした。ハープのエキストラの稗島律子さんの伴奏に乗って,とても落ち着いて冴え冴えとした音が響きました。言うことなしの素晴らしい演奏でした。中間部で他の楽器が加わってくる色彩感も見事でした。筒井さんのサックスとの絡みも美しく響いていました。

最後のファランドールは,確固とした歩みの感じられる演奏でした。最後のアッチェレランドの部分が取って付けたようになったり,制御不能の暴走になったりする演奏もありますが,今回の演奏には,情熱と強さを感じさせながらも,決してハメを外し過ぎない安定感がありました。さすがキャリアの豊かな黒岩さんの作る音楽だ,と思いました。

後半は,シベリウスの交響曲第2番でした。この曲は昨年6月に金沢交響楽団の定期演奏会で聞いたばかりですが,今回の演奏は,より引き締まって,メリハリのきいた演奏になっていました。第1楽章冒頭の弦楽合奏の部分から比較的速目のテンポではじまり,曲全体としてもたれるところがありませんでした。管楽器の音色はソロになるとちょっとデリケートさが不足するかな,と思いましたが,合奏になった時のバランスなどはとても良かったと思いました。弦楽器の方も部分的に不安定な部分はありましたが,第1楽章途中のユニゾンで強靭な歌が出てくる辺りはとてもよく揃っており,聞き映えがしました。

第2楽章は,冒頭のティンパニ〜コントラバスに続く辺りの不気味さがとてもよく出ていました。特にティンパニは全曲に渡って力強さと表情の豊かさがあり,本当に見事な演奏でした。この楽章は,明暗のコントラスが聞き所となりますが,この辺は,もう少し天上的な響きがあると良いなと思いました。

第3楽章は軽快でスピード感のあるスケルツォが大変気持ち良く響いていました。そのまま続く第4楽章は,全曲中いちばんの聞きどころでした。黒岩さんの指揮は大変明確で,細部の音がとてもよく聞えてきました。全体にとても堅固なクライマックスを築いていました。最後の方は,ぐっと溜めを作って,スケール感を出していましたが,わざとらしいところは全然ありませんでした。

楽器の中で特に印象的だったのがオーケストラ最後列の金管楽器,ティンパニの皆さんでした。ティンパニと低弦が土台を作る上に,トランペット,トロンボーン,チューバなどがファンファーレを演奏するのですが,本当に爽快でした。音のバランスもとても良く,熱心な練習が成果として表れていたと思いました。粗っぽくなるところがなく,最後の最後にいちばん大きな音量が来るような見事な計算もあったと思いました。最後の音には余韻を残すような感動的な味わいもありました。演奏が終わった後,オーケストラ全体が放心状態になったような雰囲気を感じましたが,それだけ集中力のあるフィナーレだったと思いました。

アンコールには,弦楽合奏のための可愛らしい小品が演奏されました。アンコールとして通俗的な曲を持ってこなかった辺りに,黒岩さんのセンスの良さを感じました。さすがにちょっと音程が悪くなる部分がありましたが,とても気の効いた曲だでした。

大学オーケストラの指揮者には,若い指揮者が登場することが多いですが,今日の演奏を聞く限りでは,ベテラン指揮者と若いオーケストラの組み合わせというのも良いものだと思いました。そういう意味では,2月後半に行われる,金沢近辺の大学のオーケストラの有志が集まって岩城さんの指揮でハイドンの交響曲を演奏するという企画にも大いに期待できそうです。(2004/01/18)


Review by みやっちさん

今年初めてのコンサートで3年連続となる金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会を聴いてきました。

最初のメンデルスゾーン:「静かな海と楽しい航海」はどんな曲かな?と楽しみにしていましたが、タイトル通り広い海原のイメージが浮かんでくる音楽表現の豊かなとてもいい曲でした。冒頭部の弦楽器によるゆったりとした旋律がお涙ものの陶酔感を漂わせ、ヴァイオリンのかなりゆっくりとしたボーイングから生まれる美しく穏やかな響きが聴いたこともない繊細な音色でとても印象的でした。コントラファゴットも加わった木管楽器は独特な響きでエキゾティックな雰囲気を奏でていました。

続いてビゼー:「アルルの女」第二組曲では第1楽章中間部のフルートとピッコロの掛け合いがきびきびとした明るい響きで見事だったし、第2楽章の弦のどっしりとした響きとサクソフォーンの奏でる幻想的な音色が良かったです。そして圧巻は第3楽章ハープの伴奏によるフルートのソロでとても美しい旋律を素晴らしく歌い上げていました。第4楽章では「3人の王の行進」と「ファランドール舞曲」が繰り返される2つのメロディーの合奏もよく溶け合っていて高揚感のある盛大なフィナーレで前半を締めてくれました。

後半はメインプロのシベリウス:交響曲第2番で、シベリウスの曲自体2年前金大フィルが演奏したシベリウス第1番以来で久々に北欧の音楽を味わいました。第1楽章冒頭部の木管の味わいある響きを中心に、引き締まった弦と壮大な金管が雰囲気を作り上げ、第2楽章ではコントラバスのピチカートやファゴットのうめくような低音が暗い静けさを漂わせる中、チェロが主体となった響きやティンパニのピアニッシモが良かったです。第3楽章の厳しい冬の寒さからやがて春の訪れを感じさせる最終楽章では木管の早いパッセージでも息の合ったフレーズ、金管の情感をこめたどっしりしたサウンド、弦の壮麗で豊かな響きが見事でした。

コンサートミストレスの体全体を使った演奏から雰囲気のある音楽が伝わり楽団全体に勢いを与えていて、指揮の黒岩さんは重々しく雄大な曲の持つ堂々とした豊かな音色を引き出していました。特に木管パートは聴きどころが多く、とても充実していて一番目立っていました。

アンコールはどこかで聞き覚えのある弦楽合奏のみの演奏で静かに締められました。力強いクリアーな響きでアマとは思えない金大生の質の高い演奏には毎年驚かされますし、OEKの扱わないレパートリーを見事にカバーしてくれるので、お得なうれしさがあります。今年は選曲も良かったし、今までで一番いい輝きに満ちた素晴らしい演奏でした。(2004/01/19)