新山恵理パイプオルガン・コンサート
2004/01/20 石川県立音楽堂コンサートホール
1)クレランボー/第ニ旋法による組曲
2)ヘンデル/ヴァイオリン・ソナタ第4番ニ長調,HWV.371
3)クライスラー/プニャーニの形式による前奏曲とアレグロ
4)ブトリー/アルカン(アルレキン)の衣装(古代風の舞踏組曲)
5)ヴィエルヌ/幻想小曲集第2組曲op.53〜月の光
6)フランク/英雄的作品
●演奏
新山恵理(オルガン*1-3,5-6),江原千絵(ヴァイオリン*2-3)
クァルテット・バーバラ*4(原田智子,江原千絵(ヴァイオリン),古宮山由里(ヴィオラ),福野桂子(チェロ))

Review by 管理人hs  takaさんの感想

金沢の1月〜2月は天候の悪い日が続きますが,一旦音楽堂に入ってしまえば,別世界です。今回は,石川県立音楽堂の毎月の恒例となっているパイプオルガンの演奏会に出かけてきました。今日の演奏会は,一見地味なプログラムでしたが,大変センスの良い選曲でした。弦楽器とパイプオルガンの取り合わせもとても良く,気持ちの良い時間を過ごすことができました。

プログラムは,新山恵理さんのオルガン独奏の間にオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の女性弦楽器奏者による室内楽の演奏が入る,という構成でした。今回は,「OEK定期会員ご招待」ということで,いつもの指定席以外で聞くことになりました。1階ならばどこでも良いということでしたので,これまで座ったことのない1階右前方という座席で聞いて見ました。座ってみて感じたことは,「オルガンを聞く時は,2,3階の方が良いかな」ということでした。私の座った場所からだと,オルガンステージを見上げる形になる上に,バルコニーの手すりや譜面台の陰に演奏者が入ってしまい,顔の表情などを見ることができませんでした。ただし,音の方はとてもよく聞こえました(パイプオルガンの場合,音量が大きいので,場所による差は少ない気もしますが)。

最初の曲は,クレランボーという作曲家のオルガン独奏による組曲でした。初めて聞く曲でしたが,各曲ごとにオルガンの音を変えており(音の混ぜ方,パイプの指定などが曲名として指定されている曲のようです),気軽に楽しむことができました。前半は,パンフルートっぽい音が入ったり,比較的おとなしい曲が多かったのですが,最後の曲になると,突如,バリバリ...という感じの大音量になりました。音色だけではなく音量のバリエーションも楽しむことができました。

次の2曲は,OEKの第2ヴァイオリン首席奏者の江原千絵さんと新山さんとのデュオでした。ヘンデルのヴァイオリン・ソナタも初めて聞く曲でしたが,とても良い曲だと思いました。曲は,緩−急−緩−急という構成でした。最初の「緩」の楽章では,ヴィブラートを控えめにして,スーッと伸びていくような江原さんの細身の音と音量を控えめにしたパイプオルガンの音とがピタリと融合して,とても気持ちの良い響きを作っていました。江原さんもオルガンのバルコニーで演奏していましたので,天上から音が降ってくるようでした。次の「急」の楽章は対照的に速い動きとなります。12月に聞いた「メサイア」の中の曲とちょっと似た雰囲気もあるな,と感じました。続く「緩」の楽章は,第1楽章とは違って,新山さんは低音のペダルも使っていましたので重厚な落ち着きがありました。最後の「急」の楽章では,再度明るさと軽やかさが出ていました。江原さんの音は,ヴィブラートを抑えていたせいか,ちょっと音程が悪く感じる部分もありましたが,バロック音楽に相応しい雰囲気を持った演奏だと思いました。

前半最後のクライスラーの曲も聞き応えがありました。クライスラーのヴァイオリン小品をパイプオルガンの伴奏で演奏すること自体大変珍しいことですが,この「プニャーニの形式による前奏曲とアレグロ」という曲に関しては,全く違和感を感じませんでした。この曲は,プニャーニというバロック時代の作曲家の形式を意識して作られた,「偽バロック音楽」ということで,パイプオルガンの伴奏がピタリとはまっていました。特に前半のゆったりとした前奏の部分は,オルガンの重い響きがよく合っていました。曲自体,クライスラーの曲の中でももっとも弾き応え,聞き応えのある重い曲なのではないかと思いました。速い音の動きが出てくる後半ではさすがに「ちょっと小回りが効かないかな」という気もしましたが,滅多に聞けない編成での演奏を楽しむことができました。江原さんの演奏は,後半のバリバリと弾くところが少々苦しげな感じでしたが,ヘンデルの演奏の時同様,引き締まったヴァイオリンの音が新山さんの節度のあるパイプ・オルガンの響きととてもよく合っていました。

後半は,バルコニーと同じ高さのところから見る方が楽かなと思い,2階席の左サイドに移動してみました。こちらの方はバルコニーと同じ高さでしたので,オルガン・ステージは大変よく見えました。

後半最初の曲は,クァルテット・バーバラ(OEKの原田さん,江原さん,古宮山さんと,OEKに頻繁に客演しているチェロの福野さんによる弦楽四重奏団です)による室内楽でした。2階左サイドから見ると,通常のステージの下手の方は,かなり隠れてしまうのですが,弦楽四重奏の編成ならば,何とか全員を見下ろすことができました。

ここで演奏された,ブトリーの曲は比較的珍しい曲ですが,私自身はOEKの定期公演で演奏されるのを聞いたことがあります。ブトリーはパリ・ギャルド吹奏楽団の指揮者ですので吹奏楽の専門家のように思われていますが,今回演奏された曲は,管楽器が全く入らない弦楽器のみの曲だということろが面白いところです。以前聞いた時も,聞きやすい曲だと思った記憶があったのですが,今回の弦楽四重奏版は,前回聞いた弦楽合奏版よりも楽しめるものだったような気がしました。元々軽やかな曲がさらに軽やかに演奏されていたと思いました。

曲は,ストラヴィンスキーの「プルチネッラ」などと似た新古典主義的な雰囲気がありました。先に演奏されたクライスラーの曲同様,現代の感覚を通してバロック音楽を再現したような曲です。形としては,バロック時代の組曲の形を取っており,メヌエット,セレナーデといった短い曲が次々と出てきます。どの曲にも親しみやすいメロディを持ち,洒落た感覚がありました。

楽器の配置は,第1ヴァイオリンの原田さんと第2ヴァイオリンの江原さんが向き合い,その間にチェロの福野さん,ヴィオラの古宮山の順に並ぶ形でした。全体に原田さんが曲全体を引っ張っているようで,生き生きとした表情に満ちていました。この曲は,繰り返し聞いてみたい曲だと思いました。

このクァルテット・バーバラというのは,今回の演奏のためだけのグループ名なのかどうかは分かりませんが,男性だけのザ・サンライズ・クワルテットに対抗する”OEKの中のアンサンブル”として今後も活躍して欲しいものです。若い女性4人による4色の衣装は華やかにステージ上で映えていました(ところで,この”バーバラ”というのは何でしょうか?江原さんの”エバラ”と語呂を合わせているのでしょうか?)。

この後は,再度,新山さんのパイプオルガン演奏のステージになりました。「月の光」と曲はとても静かな雰囲気を持った曲でした。ホールの照明の中でキラリと光るパイプオルガンは,「月の光」の雰囲気にぴったりでした。サン=サーンスの交響曲第3番の緩徐楽章と似たムードがあり,ずっと浸っていたいような素晴らしい曲でした。身体全体がパイプオルガンの響きに包み込まれるのは音楽堂でのライブならではの楽しみです。

演奏会の最後は,フランクの英雄的小品でした。小品という名のとおり,それほど長い曲ではありませんでしたが,最後の曲だけあって多彩な表情を持つ曲でした。曲は行進曲調で始まり,途中,可愛らしい雰囲気になります。新山さんは音の強弱をとてもデリケートに表現していました。パイプ・オルガンといえば,重厚というイメージが強いのですが,華やかさを感じさせながらも,比較的さらりと演奏していました。要所ではパイプオルガン独特の重低音も楽しめましたが,透明感のある,陶酔的な響きが基調になっており,スマートで洗練された気分を楽しむことができました。フランクのこの曲は,3月に行われるジャン=フィリップ・メルケールさんのパイプオルガン・コンサートでも演奏されます。聞き比べをしてみるのも面白いのではないかと思います。

この日は,アンコールはなく,数回のカーテン・コールの後,さらりと終演になりました。これでもか,これでもかと曲を並べるのではなく,統一感のある曲をセンス良く並べたようなプログラムでした。弦楽四重奏やヴァイオリンの曲との取り合せも良く,消化の良い美味しい食事を食べたような後味の良さのある演奏会でした。

PS.この日は仕事が長引き,ホールに到着したのが19:00ちょうどになりました。いつもの駅西時計駐車場ではなく音楽堂地下駐車場を利用しました。この駐車場ですが,毎回演奏会の終演後は,自動料金支払機は使わずに,駐車場整理担当の気のいい(?)おじさんたちが大活躍しているようです。結局,機械を使うよりも人間が処理した方が速いということのようですね。駅西時計駐車場に比べると,価格が少々高いのですが,歩く距離が短いので,冬場はこちらの方が便利だと思います。料金の方も800円固定料金のようなので,演奏会前にちょっと速目に留めておくとちょっとお得かもしれません。(2004/01/21)



Review by takaさん

第二旋法による組曲はとても面白い曲でしたね。オルガンの音のサンプル帳を見ているようでした。
ヘンデルのソナタ第四番はうっとりと聴かせてもらいました。
プニャーニのスタイルによる前奏曲とアレグロは幻想的でロマンチックな雰囲気を醸していましたが、やはりかなり技巧的で、江原さんの髪を振り乱さんばかりの熱演が光りました。
クァルテット・バーバラの演奏では序曲とセレナーデがなかなか良かったのではないかと思いました。
視覚的な効果を感じさせてくれた「月の光」や短い曲であるにも拘わらず、風格と存在感を感じさせるフランクの「英雄的作品」も実に楽しめました。
オルガンっていいですね。
OEKからのお年玉はなかなか結構なものでした。(2004/01/24)